対象 遅川たけし


 今度の復讐対象がいる家は...けっこう広めの一戸建て。さっきまでいた清掃会社から5キロ程離れたところにある住宅街の中にある家だ。

 標的…老害クズ野郎の遅川たけしは、この大層良さげなところで悠々と老後生活をしていると...。息子夫婦とその子どもらと一緒に楽しく余生をすごしている、と...。

 「ヤニカスの老害のくせに......ふざけてやがる...!ぶち殺す...!!!」

 そこから先、俺はもう衝動のままに動いていた。玄関ドアを解錠して家に侵入。廊下の途中でばったり遭遇した男を雑に殺す。
 そして声がする方へ進んで、リビングらしきところへ入る。
 そこでくつろいでいた標的…遅川を見つけると、俺は悪魔めいた笑みを浮かべて挨拶をするのだった。


 「ハァロ~~遅川たけし。
 俺に陰湿な嫌がらせをした元凶のくせに……俺の人生を狂わせたクズが、何家族と悠々自適な生活に浸っんだ?良い身分だなおいっっ!!!」

 バキィ!「うごぁ!?」

 20年経ってさらに老けていたとはいえ、顔はあの時とほぼ同じだった。その面を目にした瞬間、俺は一瞬で頭に血が上った。
 怒りに任せて出会い頭に遅川のクソッタレな顔面を思い切り殴った!振り下ろしの一撃で、遅川はそのまま床に陥没した。
 当然これで終わりにしない。陥没した床から遅川と掘り起こして、暴力の限りを尽くす。死なないよう途中治療しながら存分に殴り・蹴りのコンボを繰り返した。100コンボ決まったところで、全身を壁際に貼りつけてやった。

 「おい...おいっ!!いったい何のつもりだ...!?宗助っ!この男をどうにか......」
 「お、宗助君って......こいつのこと?」

 遅川が叫んだ男の名を聞いた俺は、全身ズタズタに斬り裂かれた宗助君とやらを引き寄せて、ここにいる奴ら全員に見せびらかしてやった。全員の期待通りのリアクションを見てから今度は遅川以外残りの家族を空中で縛り上げる。

 「お、お前は何なんだぁ!?いったい何が目的で宗助を...みんなをこんな目に!?」
 「もう説明するのめんどい。お前の汚い禿げ頭に触れたくねーし。自力で思い出してみろよ。ヒントは清掃会社と二十年以上前。以上」
 「は...?わ、わけ分からんこと言うなぁ!!解け、俺とみんなをさっさとほど――」

 「じゃかあしいわクソ老害がぁ!!!お前を今から地獄に落とすというのに誰が解放なんかするかよクズが!!!」

 
 ズパン!!「―――――」

 「み、美香子さんんんんっ!!」
 「お母さん...!?いやああああ...!!」

 遅川の、立場を弁えずの発言に怒りを覚えた俺は、八つ当たり気味に息子夫婦の嫁らしき女を斬った。苦しませる気はないからすぐ息の根を止めた。例の如く、標的の家族にまで地獄を見せる気は別に無い。時間かかって面倒だ。
 
 「さって~そうやって俺を苛つかせるようであれば、残りのガキ二人もすぐ殺すぞ?自分がどういう立場にあるか考えて発言しろよクソヤニカス老害」

 冷たい目で冷たくそう告げるとようやく遅川は黙る。その目には怒りと恐怖が見て取れる。これじゃあ足りないか...絶望させるには。

 「わ......分かった。余計なことは言わないようにする。お前の話も聞くから、孫二人には何もしないでくれ...!俺の大切な、大切な...!」

 未だ両親の名を呼びながら泣き叫んでいる男女のガキ二人に目を向けながらそう懇願する遅川を鼻で笑ってやってから、勝手に話を進めることに。


 「お前の都合とかどうでもいいから。だってそうやろ?お前の勝手で幼稚な我が儘で俺は理不尽に会社から排除されたんやからなァ。この期に及んでお前のクソな都合なんかが通ると思うな。ここでは俺が絶対でルールや!」
 「そ、その俺が悪いとか何とか...って、お前は誰なんや!?俺がお前をそこまでさせるだけの、何の恨みを買わせたんや...?」
 「ハァ、さっきヒント上げたのにまだ何も知らない奴ぶるわけ?年取り過ぎて低脳になったのかクソジジイが。じゃあ三つ目のヒントや。俺は杉山友聖。年齢は一応まだ24才。訳あって当時の年とほぼ同じや」
 「杉山...?杉山、すぎや......まさか。俊哉君のとこにいた...!?」
 「おお、まだ耄碌してないとはいえ二十年以上前のこと思い出せたか。やるやん。じゃあ、お前が俺に何をしやがったのかは...まぁ言わなくても分かるよな?俺をよくも排除してくれたな...!!」
 「ひぃ!?ち、違う!あれはお前が悪いだけのはずだ!俺は何も...」

 ドガン!「がっ...!」

 「もういいよ。自分は本気で悪くねーって思ってるんだろ?反省の余地無し。よってお前には地獄を味わわせる。さてまずは...」

 これ以上の議論は無駄と判断して話を切り上げて、未だ縛られて泣いたままでいるガキ二人に目を向ける。

 「俺の人生を狂わせたんだ。当然お前にも同じ目に遭わせないと不平等やろ?お前の大切で大切なお孫どもの命を奪ったら、お前はどんなリアクションを見せてくれるんやろなぁ?」
 「は、あぁ!?止せ止せ止せぇ!止めろって言っただろ!?手を出すなって言っただろ!?二人を巻き込まないでくれぇ!!」
 「お前こそ何度も言わせるなや。お前の都合とか知るかってんだ。これは罰だ...。お前が俺に嫌がらせをして、受動喫煙もさせて、挙句俺を排除した罪に対するな...。お前が犯してきたことは、俺にとってはこれだけのことをするに値する罪だと捉えてるんや。もう諦めろや老害」
 
 今度こそ話は終わりだと吐き捨ててガキどもに向き直る。まだ何か喚いている遅川を指さしながら、二人に教えてやった...。

 「君らのジジイはな、俺に...人前で喫煙するなと注意したことが気に障り、それ以降俺を...俺だけを仕事してた人らの輪から除け者にして、無視したり嫌がらせをするようになったんや。要は、俺は君らのジジイから“虐め”を受けてたんや...」
 「い、じ...め?」
 「ああその通りや。俺はな、あいつが悪いことしてたから注意しただけやのに、それを根に持って会社の奴らを唆して俺を虐めたんや。学校とかでもあったんとちゃうか?誰かが虐められてるところ。ドラマとかでもあった虐めのシーンのアレや。俺はあれらと同じことを、あのジジイからされたんや。君らのジジイはそういう性根が腐った最低ゴミカス老害なんや!」

 「「............」」
 
 俺の話を聞いた二人は呆然と遅川の顔を見やる。奴は俺の声が聞こえてたのか、顔を青くさせている。

 「だからな。あのジジイがああやって磔にされてるのも、君らの両親が殺されたのも、君らが縛られてるのも...全部あのジジイが招いたことなんや!全部、あのジジイのせい!全部奴が悪いからこうなったんや!!あーあ、可哀想になぁ!
 君らのおじいちゃんはなぁ、俺みたいな立場が低かった人間を平気で精神障害にまで追い込むような、性根が腐りきった悪人やったんよ!!家族以外の人間に対してはどうなったって構わないと思ってる非道な人間やったんやっ!!」

 「う......あ...」
 「そ、んな...」

 二人は俺の言葉を聞いて絶望していた。そしてそんな顔をした二人を見てる遅川もまた、絶望の表情を作り出していた。良い様だ!