対象 里山浩基


 「村田の奴、もう約束の時間過ぎとるやんか...電話にも出んし...。何やっとんねん」
 

 里山浩基《さとやまこうき》は駅前でスマホ画面を眺めながら、約束の時間になっても現れない旧友への愚痴を零しはじめる。元々村田は待ち合わせの時間にはルーズな方で、待ち合わせはいつも彼が後から来ることになっている。
 久しぶりに二人で飲みに行こうとのことで、里山は一足先に待ち合わせ場所に来たのだが、待ち人の村田は未だ来ずである。

 「時間にルーズなんは相変わらずやなぁ。けど電話すら寄越さんのはおかしいな...いつも遅れるって連絡は来るはずやのに」

 あと10分経って何も連絡が来なければ、今日は中止にしようと決めつつスマホゲームで暇を潰すこと5分経ったところで、

 「...?あれ?誰もおらへんな...?」

 スマホを閉じて改札を確認してみると駅内の異変...自分以外の人間が誰一人としていない事態に気が付いた。ついさっきまで人の声がしていたはずが、今は風の音しか聞こえなくなってる。改札から人が出てくることさえないのは明らかに異常だ。
 不穏な気配を察した里山はここから立ち去ろうとしたが...


 「あ...?な、何で行き止まりが!?」

 見えない壁が何かが里山の進行を妨げているような現象が発生して、駅から出られなくなってしまっている。増々異常な事態に半ばパニックに陥っていると、自分以外の人の声が耳に入ってきた。


 「お前がさっきから待ってる奴は、もう来ねーぞ。俺がぶち殺したからなぁ」
 「...!?」

 若い男の声......だがその声は以前どこかで聞いたような気がする。戸惑っている里山をよそに、さっきの声の主が姿を現した......血まみれの鋸を手にした状態で...。




 検索魔術で里山の動向を確認したところ、奴は今日、村田と飲みに行く約束をしていた。
 日中のうちに田原と村田、そして坂本を殺しているうちに、里山と村田がこの駅で会う時間が迫ってきていたので、急いでこの駅まで移動した。
 今回も誰にも見られることなく復讐がしたいということで、人払い結界を張り、駅構内にいる無関係の奴らを排除した。
 さらにこの駅に電車が停車しないようにもしておいた。
 これで存分に復讐ができる...!


 「お、おいアンタ......この異常現象を起こした奴か!?俺の待ち人をどうこう言ってなぁ?それに......その凶器に見える鋸はな、何や...!?」
 「いっぺんに質問すんなや。まず一つ目の答え...駅に誰も人がおらへんかったりここから出られなくなってるのは俺の魔術の仕業や」
 「......は?」
 「二つ目...待ち人である村田和也は、俺に復讐されて無惨に死んだ。」
 「ちょ、おい......」
 「三つ目...この鋸はお前らの同期バイトだった坂本歩の奴をぶち殺した時に使った物や。ついさっきアイツを殺してきたから、まだ血が乾いてないんだよねー」
 「待てやおい...!!」
 

 軽い口調でペラペラと疑問に答えてやったのに、何か怒り口調で呼びかけてきたので、不愉快そうな顔を向けて何だよと問う。

 「アンタ...村田を殺したって言ったのか!?だから...さっきから連絡が...!」
 「あー電話かけてたのか。アイツは今から1時間近く前には殺したからな、連絡出来なかったのは当然だな」
 「何、言ってやがる...!人を殺しておいて、よくそんなヘラヘラしていられるな!?俺の旧友を殺しやがって...!!」
 
 俺の態度が気に障った様子で俺に怒りの言葉をぶつけてきたのに対し、俺も憤怒を湛えた表情で言葉を吐いた。

 「お前こそ、過去に俺を貶めておいてよくキレていられるなぁ、え?俺を理不尽な目に遭わせたから今のこの状況になってんだろーがよ。逆ギレしてんじゃねーぞ、ゴミカス野郎がっ!」

 俺の剣幕と声量に少し怯んだ様子でいたが、気を持ち直して反論する。その顔には怒りに加えて困惑の情も見られた。

 「俺が......アンタに何かした言うんか!?というよりもその声、さっきから覚えがあるぞ...!誰なんやアンタは!?」
 「へー俺の声に覚えあるんかー......俺は杉山友聖。20年以上前、お前らに貶められたことに対する復讐をしに来まし、たっ!!」

 ザシュウ!!「―――ぇ、ああああああ...!?」

 返事の終わりと同時に、俺は里山の真横に瞬時に移動して、手に持っている鋸を振るった。里山の右腕が深く抉られた!
 その直後、里山が激痛のあまりに悲鳴を上げてへたり込んだ。ちょうど蹴りやすい位置に奴の顔があったから、その顔面に爪先蹴りを入れて吹き飛ばしてもやった。
 倒れたままでいる里山の前に立って見下す。里山は半泣きになりながら俺から逃げようとするが、容赦無く追撃をかける。

 ズババン!「――うぎゃああああ!!」

 脚の腱を深く斬って逃げ足を潰した。もう逃げることは出来ない...!

 「ひぃああ...!止せ、止せぇ!!俺がアンタを貶めたって何やねんっ!?人違いしてんじゃねーのか!俺は何もやらかしてへんわクソがぁ!!」
 「あぁ?この期に及んでまだ白を切ってるのか、本当に憶えてねーのか...どっちでもええけどとりあえずお前の記憶を引っ張り出してやるよ...ほら」
 
 いつものように頭に手を当てて標的の記憶を引っ張り出してやる。途端に里山は顔色を変えて俺を凝視する。


 「そうか......思い出したぞ!SGフィルダー(=佐〇急便)でのバイトでいたあのいっこ上の先輩...杉山、か...!あの時、俺がお前を貶めた...だからアンタは、ここに...!」
 「そういうこと~。ハァ、それにしても相変わらず俺を呼び捨てか。先輩に対する態度じゃねーよなぁ、お前らどいつもこいつもは...」
 「...ハッ、アンタに払う敬意なんかねーよ...!あの時も、先輩のくせに仕事の要領が悪い、そのくせ周りの従業員らとロクに会話・コミュニケーションを取ろうとせずボッチでいやがる......そんな奴はあの場には要らないと、俺たちは判断したんや!アンタみたいな人間がいると空気が悪くなる!アンタ自身に問題があるからああいう目に遭ったんやっ!!」

 「......まーた俺が悪いって、そう言いたいのか」

 「あ、ああそうやっ!杉山、アンタは存在そのものがその場の空気を悪くするような人間やったんや!アンタがもうちょっと人と上手く付き合える性格であったらあんなことにならんかったんや!俺らが流した噂もあながち間違ってへんかったはずやぁ!」
 「だから?俺を排除しようと、上司らに上手く取りなして味方につけて、上手いこと俺を敵扱いさせたってわけかよ......つくづくお前らは、俺を理不尽に消さなきゃ気が済まねーのか...?」

 「し、知るかそんなの!とにかく全部アンタの性格が問題やったんや!それなのにアンタはこの期に及んで逆上して、俺の友達をたくさん殺しやがって......ふざけんのも大概にしろやああああ!!」


 終いには里山は怒りに任せて好き放題言ってくる。結局こいつは、正当な注意をした俺が悪者、あからさまな悪意を持って俺を害してきたコイツラが正しい……といった、意味不明な主張をしかしてねーな。

 ...要するに、反省の余地は皆無。ただただ胸糞悪い気分にさせられただけだ。



 「――よって、惨殺刑」