転生して帰って来た俺は 異世界で得た力を使って復讐する(全年齢)


 気がつくと、俺の目の前には無機質な空間があり、そこに金髪の妙齢の女性が一人いた。何だか神々しく感じられるその女性は大女神《おおめがみ》と名乗り、これから俺は異世界に転生すると説明された。そこの世界には魔王の脅威にさらされていて、いずれ俺は魔王軍と戦うことになるだろうと予言した。
 転生先の世界は、魔王軍がいる世界以外へは行けないとのことで、仕方なくそのハズレ枠の異世界に転生することを承諾した。転生する際にこれまでの知識・知恵・経験を引き継ぐこと、戦闘における特別な才能と能力を授けられて、俺は生まれ変わった。俺の想いがそうさせたのかどうかは知らないが。

 転生した俺はは3才児のガキとして生まれ変わり、森をうろついていたら保護されて近くの村が運営している孤児院に引き取られて、そこで二度目の人生を歩み始めた。容姿は、前世の幼少期の自分と同じだった。黒髪黒目の黄色肌の...幸薄い雰囲気を醸し出している、純日本人男児だ。
 俺は早速自身の能力を確認するべく行動に移った。武術と魔術の両方に秀でているというバリバリの戦闘系の才能に恵まれていると分かった俺は、そこからずっと己の戦闘技術を磨き続けた。

 10歳から原則では冒険者稼業が認められているこの異世界のルールに従い、その年になった俺は早速冒険者になって、村近辺に出現する魔物を討伐したり、ギルドが出す依頼をこなしたりして過ごした。

 そこから5年後、俺に勇者の素質があることが発覚され、それを知った孤児院の人間や村人が、噂を流して喧伝しやがった。俺は望んではなかったのに。やがて噂を聞きつけた国王が、半ば強制に俺を王国に連れて、いきなり魔王軍と魔王の討伐に力を貸せと命令してきた。
 その時の国王の命令口調が、前世のブラック企業のクソ上司を彷彿とさせてとても嫌な気分になった。断ることを許さないという圧力が大臣たちや兵士たちからもかかってきて、更には可憐な王女様からもお願いされた俺は、渋々命令に従って王国の魔王討伐軍に入隊した。
 そこから勇者としての異世界生活が始まったわけだが......ここでも俺に対する扱いはクソッタレなものだった。

 「勇者の素質があると聞いて呆れる。あの程度の魔物を容易に討伐できないのか?あまり失望させてくれるなよ」

 討伐任務から帰ってくる度にネチネチと偉そうな口を常に叩いてくる大臣ども。俺はチート主人公なんかじゃない。最初からハイレベルの魔物なんか倒せるわけないのに、いつも強い兵士たちと比較して俺にそんなことを言ってくる。前世の嫌味ばかり言ってくるパワハラ上司みたいに。



 「勇者のお前の為に沢山出資しているんだ!私たちの為にもっと魔王軍を討伐してもらわないと困るよ君!」
 「そもそも下賤な身分が勇者だというのがおかしいのだ!しかも大して強くもい、せいぜい王国の兵士10人分程度の実力しかない。おまけに体も貧相で幸薄い顔をしている。これだから平民は...!」

 出資しているからといって俺が身を粉にして魔族討伐するのは当たり前だとか、身分などを理由に俺を貶す言動を浴びせてくる貴族ども。だから俺は素質があるだけで、チート無双できるスペックなんてないってんだろが。しかも外見と身分も馬鹿にしてきやがる。これも前世と同じ、外見を貶してくるクソ同僚みたいで最悪だった。



 「こんなガキが勇者だと?どうせイカサマか何かで討伐軍に入れてもらえたクソガキだろうが!弱そうな形のくせに調子こいてんじゃねーぞ!」
 「お前なんかが魔王軍の猛者と戦っただぁ?ホラを吹くのも大概にしろぉ!」

  これまた外見でしか判断ができない性格クソ野郎の冒険者ども。ギルドに入る度にイカサマ野郎だの偽勇者だのと罵ってきてたくさん悪口を浴びせられた。こっちが何か言ったら逆ギレしてきて暴力振るってくるクソ野郎もいた。安アパートのあの隣のクズ野郎と同じ人間ばかりだ。



 ほんっっっと、異世界でもロクな人間しかいない。前世とほとんど変わらない、クズどもばっかりだ。勇者だからといって過度の期待をしてきて、平民だから貴族や王族の言うことを聞くのは当たり前だみたいなことを言ってくる。ブラック企業となんの変わりもない最低の日々だった。前世のとある小説での造語で...異世界は良い世界...などとあったが、ふざけたことほざいてんじゃねーぞバカルテットが。


 だけど......



 「友聖、討伐任務ご苦労様です。今回はいつもよりレベルが高い魔物と戦ったと聞いたわ。ケガは...平気?」


 唯一、俺のことを気にかけてくれて労いの言葉をかけてくれる人もいた。
 王女のリリナ様。艶やかな青い髪を肩にかかるくらいまで伸ばして、笑うと可愛い少女を思わせるこの彼女だけが、戦いから戻ってくる俺に優しい声をかけてくれた。年が近いこともあって、親しい同級生のように接してくれて、俺の唯一の味方だった。
 
 「友聖はどんどん強くなってるよ。勇者っていわれるだけあって成長が早いのかな。でも、無理はしないでね?無事に帰ってくれるのが良いから...」
 「ありがとう......リリナ様」

 人の心を潤してくれるようなその綺麗な声に俺は癒された。リリナ様の支えがあったお陰で、なんとか腐らずに勇者としての責務を負って、魔王軍と戦った。次第にチートレベルに強くもなっていき、魔王軍をたくさん討伐できるようになった。

 成果をたくさん上げても、俺に対する国王や大臣、貴族どもの見る目は変わらずで、王国...いや、世界の為に粉骨砕身の精神で魔王軍と戦っているのに俺を戦いの道具としか見ていない。自分らの為に汗と血と心を流して削るのは当然だと言いそうな態度の野郎ばかりだ。
 討伐隊の兵どもやギルド登録の冒険者どもも、実力をつけた俺に対して直接的な干渉はしてこなくなったものの、陰で嫌味や嫉妬の類の醜い言葉を遠くから浴びせられるようになった。さらには王国の民や村の人間までもが、俺に対して嫌味を言うようになった。さっさと魔王を倒せだの何だのと、こっちはいつも全力で戦っているのに...そもそも元はこの世界の人間じゃないっていうのにだ。
 そういう目や言葉が向けられる度に、前世でのクソッタレな出来事が掘り返されて胸糞な気分になった。何でこんな奴らの為に頑張らなければならないのか?嫌味や侮蔑の目や言葉しか浴びせてこないクズどもを守らなければならないというのか、マジで心が病みそうになった。

 けれどリリナ様だけは、そんな俺を支えてくれた。前世で肉親以外...他人で俺に優しくしてくれた人は一人もいなかったので彼女には本当に助けられた。少し、恋慕の情を抱いた自覚もあった。が、身分を重視する旧時代の人間が蔓延るこの異世界では、俺のこの儚い恋心は成就しないだろうと思い込み、早々に彼女との恋は諦めた。あくまで、親しい友人止まりで良いと割り切った。それだけでも、嬉しく思えたから。
 
 そして、勇者として戦うことが決まってから約2年後、ついに俺は死闘の末に魔王を討伐して、魔王軍の殲滅を成し遂げた。
 五体ズタズタにされながらも、魔王との一対一《サシ》勝負を制して辛勝、魔王城を陥落させた。最終決戦前の俺は、武術と魔術、さらには剣術を、右に出る奴はいないくらいに極めたチート勇者と化していた。どうやら俺は大器晩成型のチート主人公だったらしい。
 ともあれ大女神の予言通り魔王と戦うことになり、最終的には魔王を倒して俺は異世界の人間たちの平和を守ることに成功したのであった。

 「ぐ......勇者よ、我を討った褒美に一つ助言をしてやろう。
 お前は後悔することになる...。お前が守った者たちに価値など微塵もなかったと、やがて気付くだろう...。見限るなら今のうちだ。人間は醜い...。
 では、さらばだ勇者―――」

 魔王が死に際に何か言っていたが、特に聞く耳を持たなかった。
 とにかくこれで少しは俺を見る目が変わるだろう。蔑んできた俺への態度の改正、そして今回の魔王討伐に対する褒賞・地位の確立等等......もう俺を蔑視することは無いはずだ。俺に嫌味を垂れることは無くなるはずだ。

 (みんな......俺のことを大事にしようと、思うはずだ!地位を得られれば、リリナ様と正式に付き合うことも...!)

 魔王を討伐した直後の俺は、王国やギルド、村のみんな全員が俺に対する態度を改めると、唯一心の支えとしていたあの人と真正面から接することができると。


 ――そう思っていた......。



 現実は、またも俺を裏切りって――
 俺を失望させて――
 俺の心を、壊しにきた――


 「此度の活躍、大儀であった。では.........お前を軍から除隊させる。村へ帰るなり好きにすると良い。こちらからの用件は以上だ、早くこの場から去れ」

 「..................は?」


 満身創痍の体でどうにか帰って来た俺に対する国王は、俺だけには他の兵士たちよりも少ない褒賞・報酬金しか与えず、地位あるいは名誉も何も与えず......冷たくそう言って俺を追放したのだ...。
 他の大臣や貴族どもも、同じく冷たく見下した目で俺を見るだけ...いや、侮蔑も含んだ目を向けるだけだった。

 こいつらはなおも、俺をただの道具としか見ていなかった。勇者とは名ばかりの、王国の奴隷同然の人間扱いだった。
 納得がいかず国王たちに直訴しても...皆、口を揃えて―

 「薄汚い平民がどれだけ貢献しようと知ったことか」
 「身分相応の褒賞しか与えない。位が低いお前にはそれくらいの報酬で十分だ...これは覆らない」
 「そもそもお前のような幸薄い顔と身なりをした男が勇者など無理があるのだ!何故お前のような卑しい平民が勇者の素質を持っているのだ...!」
 「魔王がいなくなった以上、勇者の役目は終わった。ここは用済みのお前がいて良い場所ではない!もう関わることは無い、早く去れ!!」


 ―俺の容姿・身分を理由に拒絶して追放して、否定した...。

 「なんで...何で...!平民だから?貧相な面だから?そんな理由だけで俺は、ただの都合の良い奴隷扱いかよ?元はあんたらが半ば強制に戦わせたんだろうが...!」

 国王も大臣も貴族も皆、俺をただの道具としかみていなかった...。どれだけ懸命に尽くしても、底辺扱いは改めることはしなかった。一度も、“杉山友聖”を見ることをしなかった...。

 そして俺に対する仕打ちは、これだけじゃなかった。


 「元勇者様ぁ?魔王を討伐したあんたと組めば、最難関クエストも余裕ってわけだぁ!俺らと付き合えよ!まぁ報酬は俺らがほとんどもらうがな?ぎゃはははは!!」
 「お前みたいな幸薄いガキは、今度は俺らの飯代稼ぎに貢献しろってんだ、元勇者様がぁ!」

 ギルドへ行けば俺をこき使おうと近づいてまたも俺の見た目や身分を馬鹿にするクソ冒険者ども...


 「王国からこれだけしかくれなかったの!?ちっ、お前を利用して大儲けしようとしてたのに、これっぽっちの金しか入らないのかよ。おい元勇者、今後もこの孤児院に投資し続けろよ!?孤児のお前を面倒見た恩をお前は一生返し続けるんだよ!!」

 俺を都合の良いATMとしか見ていない孤児院の連中...


 俺を待っていたのはちっとも優しくない世界だった。
 そして何よりも俺を深く傷つけたのが―


 「友聖、魔王を討伐してくれてありがとう縁があれば......また会いましょう」
 「そ、そんな!リリナ様!どうして...!?」
 「どうしてって...軍から追放されて王国との関係が無くなった以上、あなたと関わる機会は今後ほぼ無くなるわけじゃない?冒険者稼業なり孤児院への貢献なり、今後も頑張ってね......さようなら―」
 「な.........なん、で......あんた、まで...!」


 唯一俺を見てくれていたはずだった...これからも親しくしてくれると思っていた彼女までもが、俺を冷たく突き放したことだった......。


 「何だよこれ......転生しても俺は、こんな扱いなのか?は、はは...俺だからか?杉山友聖という存在だから、誰も優しくしてくれない、道具扱いの人間で、蔑まれることしか許されないのか俺は!?何なんだよ......?
 俺は!何の為に存在しているんだよ!!!」

 誰もいない森で一人、慟哭して叫ぶ。当然誰も応えてくれない。
 前世では不遇な人生に不満たらたらのまま死んで、この異世界に転生されて。必死に頑張って、強大な敵を倒してきて......これからやっと、少しはマシになっていくはずと思って期待していたのに。なんで...何でこんなに理不尽なんだ? 
 多くの人の為にあれだけ懸命に尽くしたんだ、それならどんなに苦労しても、悲しい事があっても、最後はさ、幸せになれるのでは?俺は報われるべきじゃないのかよ?

 (お前は後悔することになる...。お前が守った者たちに価値など微塵もなかったと、やがて気付くだろう...)

 今になって魔王の最後の言葉を思い出す。そして今ならその言葉の意味が良く分かる。魔王は見抜いていたのか。俺がここまで不遇な扱いをされていたということを。



 .....わかっていた。予感していた。
 前世で味方がいなくなったあの日から転生後の今日までの日々で、吐き気がするくらい分かっていたさ。俺にはその時は来ないってことが。俺にとって世の中はそんなに甘く設定されていないって予感していた。
 どうしようもない理不尽があって、抗いようもない絶望しか辿れないこと...そういうレールしか進むことが許されない、そういう設定づけられていること。そういう人間としてつくられたのだから当然の扱いなんだって。
 それが偶々、俺...杉山友聖だったということ、それだけの話だったんだ。
 俺は――決して幸せになれない人間として設定づけられたに過ぎないのだ。
 虐められ続けたのも、ハブられたのも蔑まれたのも道具扱いされたのも用済みだと追放されたのも......親しいと思ってた人にさえも冷たくされたのも、起こるべくして起こったことだったんだ。
 転生しても同じ......変えることができない、レールから降りることもできない、変更・抗い不可能の運命だったんだ―。


 「そう、か......俺は、どう頑張っても...足掻いても......幸せになれない。誰も、優しくしてくれない......俺を、見てくれない......!」

 そうなるように仕向けられているから。見えない悪意か何かによって俺は常に報われない、損をする。
 虐められて辱しめられてハブられて奪われて押し付けられて蔑まされてこき使われて差別されて道具扱いされて縁を切られて捨てられて追放されて裏切られて無視されて利用されて冷たくあしらわれて否定されて―
 幸せが 許されない―

 「は、ははは......あははは、は...」

 いつしか前世の死ぬ寸前と同じ、乾いた笑い声を漏らして、涙を流していた。
 杉山友聖は幸せになれない。杉山友聖には誰も優しくしてくれない。杉山友聖の味方は一人もいない。
 そういう人間としてつくられた存在だから...。何やっても覆らない、変えられない定義だから。
 もう、何やっても無駄なのだ。


 ――――ブツ、ン...


 切れた...そして消えた...。大切な何かを繋いでいた糸が...良心が。何もかもが消えて無くなった、そんな音が聞こえた気がした、そんな気がした...。  

 「そうか、俺には味方がいない。俺は幸せになんかなれない。誰も俺を見てくれない。
 どの世界でも、杉山友聖に優しくはしてくれない...!」


 壊れた...


 「そうだ...ああそうだったんだ。そんなわけないって、耐えて生きてきたんだけど......その結論は間違ってなかったんだ。それが全てだったんだ。ずっと、自分のネガティブ思考を抑え込んでいたのが、馬鹿みたいだ...」


 壊れたと同時に生まれ出てきたのは、どす黒い感情で...


 「優しくしてくれないなら、否定するというのなら、貶すばかりだっていうのなら、こんな世界―」


 でも、それが今の俺にはすごく心地好くて―


 「こ、ん、な......せ、かい...!!」


 そいつだけは、俺を肯定してくれてる。だから―



 「壊す潰す汚す滅ぼす消す奪う殺す!!」



 ―どっぷりと、浸かってやる。
 もう、知るか。何もかもどうでもいいし、何もかもが憎い。
 目に見えるもの全てが敵で、目障りで、邪魔で、壊すべき、消すべきで!


 「全部、ぶっ壊す!全員殺す!このクソ異世界も、あのクソ現実も!俺が!!全部滅ぼす!!」


 この日から杉山友聖という元無職の引きこもり兼元勇者だった男は、新しい人格をつくった。

 冷酷残虐非道、何もかもを殺し壊して滅ぼす、殺戮を好む復讐者として。


 ――杉山友聖の 二度目の人生はここから始まる...!
 

 全てに憎悪し、何もかも殺して壊して滅ぼそうと決心したあの日から3日後――
 全てをぶち壊してぶっ潰す為の準備を終えた俺は、手始めに孤児院ごと村を潰してやった。


 「な、何をする!?ガキのお前を育てた恩を仇で返す気か――」
 「――孤児を引き取って飯を食わせて寝る場所を提供するなんて誰でもできることだろうが。勇者だと分かった途端、俺を都合の良いATMとしてしか見ていないお前らなんかに、恩もクソもあるかよ。俺を見てくれないなら、死ね」

 「ま、待て―――ぎゃああああああああああああああ!!!」

 俺を王国に売り出した全ての原因であった、孤児院の責任者を、院の人間ごと孤児院を魔術で焼き滅ぼした。
 情けなどかける価値など、こんなクソ異世界にはもう無いのだから。

 「いやあああああああ”あ”あ”!!」
 「あづいいいいいいいい”い”い”い”!!」
 「なんで!?どおしでえええええええええ!!?」

 どうして?知るか、こっちが聞きたいよ。こんなにも優しくしてくれない理由は何なのか。まぁ今となってはもうどうでもいいが。

 村を潰した。次は、俺を外見で馬鹿にして蔑んできて、実力を示して活躍が知れ渡った途端に手のひら返しの態度を取って媚びり出したり、挙句俺を利用しようとしたクソ冒険者どもだ。
 いや......あんな人格性格が腐ったゴミばかりの人間どもを冒険者として生かしているのを認めているギルド自体がダメだ。よし、ギルドごと全て破壊する!


 王国の近くに建っているギルドに入ると、特に俺のヘイトを溜めたゴミクズ冒険者どもが運良く全員いたので、有無を言わさずに処刑を始めた。わずか数秒でギルド内が凄惨な殺害現場と化した。

 「ゆ、勇者がこんなことして許されると思ってんのか!?この犯罪者ぁ!!」
 「“元”勇者だ...お前らが言ったことだろ?それに今さら何言ってんだよ、10才のガキだったあの頃からずっと俺を馬鹿にして時には暴力も振るってきた糞野郎が...。俺が何しに来たか、ケダモノ以下の知能しか無いお前でも分かるはずだぞ?
 今までの恨み全部晴らしにきた......ぶち殺すことでなぁ」

 「ひぃ!?わ、悪かった...!全部俺の悪ふざけだ!も、もう二度と馬鹿にしないから!カモにしようだなんて絶対にしないから!落ち着いて剣を引いて――
 「喋るな、たくさん苦しんでから死ね」――ぁぁぁあああああああ”あ”あ”あ”あ”ァ...!!!」

 いちばん俺を貶して乱暴もしてくれやがった中年のクズ冒険者をできるだけ苦しめてから殺した。急所を外しさえすれば人はそう容易に死にはしない。わざと致命傷負わせないように注意して、甚振ってから殺した。
 顔を不細工に歪ませて血と涙を流して赦しを乞うてくる様は、キモ過ぎて笑えなかった、むしろ怒りが増長されたから徹底的に甚振ってやった。

 連中の処刑の途中で他の冒険者どもが何度か襲い掛かってくるが無駄無駄。全員を動けなくしてやる。魔王軍の幹部ですら倒せなかったこいつらが束になってかかろうが、今の俺にとって虫けら同然だ。討伐隊の中でいちばん多くの修羅場をくぐってきた俺の成長は、それは凄まじかった。この世界でレベルが3桁に達した人間は、歴代含めて俺が三人目。残りの二人はもうこの世にいない。

 つまりこの異世界で俺に敵う奴は、誰もいない!


 「そーいうのを知っておきながら、俺にあんな態度ばかり取りやがって!挙句用済みの道具扱い!ほっっっっっんと、みんな馬鹿だよなぁ!?世界最強の俺をブチ切れさせちゃってさぁ!俺が聖人君子か何かと思ってたわけぇ!?俺は人形でもロボットでも無い!ちゃんと感情がついてる人間なんだよおおおおおおおおおおおおお!!!」

 「ひっひいぃ...!!助け...!!」
 「に、逃げ......あれ?何で、何で外に出られないんだ!?」

 はっはっはー逃がすわけないじゃん。扉の裏側と窓には雑魚程度の炎魔術でも解かせない氷を張っておいたから、完全にここは密室部屋でーす!誰も逃がしません、一人残さず処刑だクソども!!

 「ゆ、勇者様!無礼ばかりやらかして本当にすみませんでした!!金輪際あなたを侮辱することは致しません!!どうか...どうかご慈悲をぉ!!」
 土下座して無様に赦しを乞う筋肉質体型の男の頭を踏んづけて圧力をかける。

 「お前さぁ、今そうやって俺に謝ってるのは、俺がクソ強い人間だからだろ?俺があの時のまだ弱いガキだったら、そうやって真剣に謝ったりしないんだろどうせ!今俺が非力化したらまた乱暴して汚く罵って俺を利用しようとする。どうせ心の底から反省してなくて、ごめんなさいなんて毛程も思ってねーんだろ!?この嘘つき野郎!!」
 「アガッ!そ...そんなこと思ってません!ほ、本当に反省してます!こ、これからはどんな人に対しても罵ったり乱暴したりはしません!絶対に誓います!」

 「あー!あー!!聞こえない聞こえない!!嘘つきの言葉なんて聞こえませーん!惨たらしく死ね!!」
 「こ...この鬼畜があああああああ―」


 うるさいのでサクッと殺した。言うだけなら簡単だよな。心から言える奴なんて、いるわけないだろ。この異世界は尚更な!

 さて、残りのゴミもさっさと処分するか。


 「「「「「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ...!!!」」」」」

 何十人もの冒険者やギルド運営者ども全員処刑して、最後は建物に火をつけて全て灰にしてやった。目映る人間全てが汚らわしい。目障りだ。跡形も無く消していく。

 冒険者どもを処刑した次は...いよいよ王国内に入る、貴族ども大臣ども、そして王族ども全員ぶち殺してやる...!

 ギルド内での惨劇は、魔術で防音と人払いをかけておいたので外にいる人間たちには誰も気付かれない。これから殺されるあいつらは、俺の存在に気付くことはない。全員が突然俺に惨たらしく殺されるんだ...!

 まず門番を焼き消して、門をくぐると同時に色んな魔術を滅茶苦茶に放って無差別に殺しまくった。
 突然の出来事に皆が悲鳴を上げてパニックを起こして逃げ惑う。唯一の出入り口である門にはバリアーを張っておき、またも逃げられないようにした。王国にいる人間全員は、俺に殺される為にいるんだ...!

 火・風・氷・岩・錬金物...あらゆる属性の魔術攻撃を駆使してみんなを消していく。一方的に蹂躙していくのは、実に心地良い気分だ。しばらく進むとようやくお目当ての殺すべき害虫ども......貴族の人間どもと遭遇した。

 「おい、元勇者!!これはどういうつもりだ!?街中で魔術を乱発するなど、気が狂ったかぁ!!」

 醜い体型のクソ貴族が数人、うるさい声で俺に怒鳴り散らしてくる。未だに自分が偉くて、俺より位が上の人間だと思い込んでいるらしい。権力だけ見れば確かにそうだけどな...

 「俺は何で、こんな汚い豚どもの平穏までをも守ってしまったのか......俺をただの道具としか見ていないこんな奴らなんか、俺にとって何の価値も無いただのゴミ豚だと言うのに...!!」

 そして――


 「「「ひぎゃあああああああああああ!!?」」」


 再び殺戮を行い、死体の山を築き上げていく。醜い面で泣いていようが、権威を主張してこようが、金をちらつかせて命乞いをしてこようが、関係無い。
 全員ぶっ殺してやった!

 そしてそのまま、俺をいちばん見下して俺を最も失望させて殺意を抱かせてくれた奴らがたくさんいるところへ入っていく...。

 王宮内に入ろうとしたら、兵士たちに囲まれて剣や弓矢を向けられる。派手に暴れていたから流石にバレていたようで、既に事情を把握している様子の兵士たちは全員俺を魔王軍を見る目で睨んでいる。その中にはかつて共に戦ってきた討伐隊の兵もいた。
 こいつらも......俺を見ようとしなかったただのゴミだ。かつて共闘してきた者だろうともはや何の情も無い。ただそこにいるから...ぶち殺すだけだ。

 「―――」
 「――――」
 「―――――」

 息をするように兵士どもの命を消していく。魔王を倒した頃には、討伐隊の中で俺に敵う奴はいなかった。ギルド同様に圧倒的な力の差がある俺は、傷を負うことも無い。


 「勇者ぁ!お前はどうして...!?」
 「何で仲間を殺すんだぁ!?狂人め!!」
 「君はそんな人間じゃないはずだ...!!」
 「正気に戻れぇ勇者!!」
 「これ以上仲間を殺すな!!止まれ!!」


 同い年の兵が、おじさん兵が、少し年上の副隊長が、いつも隣で戦っていた女兵が、孫が生まれたとか言っていた隊長が...俺を止めようと、言葉を投げかけてくる。
 全て無視、無視無視無視無視...耳を貸す事無く、斬って燃やして殴って消し飛ばして潰して、彼らの命を奪っていった。


 「仲間...?心からそう思っていないクセによく言えたね?結局は都合の良い道具としか見ていなかったくせに。俺がいちばん貢献したのにお前らばかりが褒賞たくさんもらっちゃってさぁ!家庭が裕福な坊ちゃんお嬢ちゃんオジサンたちはそうやって優遇されてるけど、俺はそうじゃない!みんなみんな俺をハブって除け者にして美味い汁すすってさぁ!!」

 
 絶望や恐怖、怒りなどが混ざった目を向けるかつての同胞どもを、怒りと嫉妬と怨嗟の念がこめられた言葉をぶつける。
 しばらく経つと、俺に立ち向かってくる兵士が現れなくなった。どうやらみんないなくなってしまったらしい。だったら次だ。

 無理矢理討伐隊に引き入れて魔王軍と戦えとか命令して、そのくせ偉そうに見下して、道具扱いして、こっちは命懸けて頑張って働いているのに、労いの言葉さえかけずでいてそれどころか蔑みの言葉しかかけない。
 そんな腐った人格をした、ゴミ溜めを、処分しに行こう。

 大臣、使用人..みんな殺していった。特に大臣どもは、この期に及んで俺を口汚く罵るものだから、誰よりも惨い殺しをした。

 「下賤な者が、こんなことが許され――」
 「この犯罪者が――」
 「やっぱりお前など勇者にふさわしくなか――」

 「俺がこうなったのは全部お前らのせいだ。死ね」

 罵声も命乞いも全てどうでもいい。ただこのどす黒い感情のままに、俺が今いちばんしたいことを叶える為に動く。

 そして――



 「な......んて、ことを...!!」


 次は......俺をいちばん最悪な形でどん底に突き落としてくれた王女、リリナ様だ。

 「友聖、自分が何をしたのか―」
 「もちろん自覚してるし理解している。でもさぁ、俺をこんな風に変えてしまったのは、リリナ様たちじゃないか。お前たちが選んだことじゃないか。
 優しくしておいて......結局はお前もあいつら汚い豚どもと同じ、俺のことはただの道具としか見ていなくて、魔王を倒して平和が確立したと知った途端に用済みだって冷たく突き放してさよならかよ」
 
 「な、何を...!?」

 「まだ惚けるんだ、さすがだな!?数年間、表面は優しい顔を向けてきて、役目が終わった瞬間あんな風に冷たくしてくれて!まんまと騙されたよ!お前も、心の中では俺のこと平民だからと蔑んで、幸薄い貧相な男だと見下していたんだろ!?」

 「そんなこと思ってない!私は―「もうお前の嘘しか無い言葉なんて聞きたくねー」
 ――ぁ......!!」

 風魔術で空気を操り、リリナ様の周囲の酸素を無くして呼吸を奪ってやる。もう彼女の耳障りな声を聞かないで済む。あとは、その命を奪うだけだ...。

 「異世界でお利口さんでいたのが間違いだったんだ。こんな世界でそういう性格をしていても結局は損をする。初めからこうしていれば良かったんだ......お前らから学ばせてもらったよ。
 じゃあな...今まで嘘でも俺を励まして労ってくれて嬉しかったよ......そうやって人を騙してどん底に突き落とすという最低な詐術を教えてくれてどうもありがとうな!!!
 さようなら......リリナ様」


 ドシュ......「ぁ......あ」


 お別れの言葉をかけ終わると同時に、リリナ様の腹に剣を突き刺して終わらせた。窒息死か失血死かなんてどうでもいい。ゆっくりと苦しんでもらえるよう心臓は外した。嘘つきには当然の報いだ...!



 そしてその後も俺は殺戮を行い、残虐の限りを尽くして―――王国を滅ぼした。
 残っていた貴族や国民どもを、老若男女関係無く殺して、殺し尽くした。

 俺を最初に捨ててくれた国王は、特に酷い目に遭わせた。娘であるリリナ様を殺してやったと言い、お前のせいで死んだんだと何度も言いまくって心を壊してやった後、イエスキリストのように十字架で磔にして手足を杭で刺して固定させてからそのまま国中引きずり回しを行って、最後は火炙り刑に処して殺した。
 国王の苦悶に満ちた声は、俺のこの怒りを少しは鎮火させてくれた。


 「まだだ。俺に優しくしてくれないこんな世界は要らない......全部、滅ぼしてやる...!」



 王国だけでは飽き足らなかった俺は、さらに三日三晩にわたって世界中を蹂躙して回り、このクソッタレな異世界を滅亡させた...!

 「は、はははははは...。へはははははははははははぁ!!!そうだ、俺以外の人間なんて要らない!どうせ見ようともしない優しい世界にならないのなら、全部滅ぼしてしまえば良い!!みんな死ねば良かったんだぁ!!
 ひゃあはははははははは...!!」



 俺以外の人間を絶滅させてからしばらく、声が枯れるまで嗤い続けた。こんなに心の底から笑ったのは、前世から含めて何十年振りだっただろうか。 
 他人を不幸と絶望のどん底に突き落とすことが、こんなにも愉しくて快感なことだなんて、初めて知った。


 「そうだ......《《あいつら》》も、ここにいた奴らと同じ目に遭わせたら、いったいどれだけ愉しめるのだろうか...」

 どうでもいい赤の他人でもこれだけ笑えたんだ、もしあいつら――前世で俺を虐めてハブって鬱になるまで追い込んでくれた、憎くて殺したくてしかたないあのクズどもをもああやって甚振って残虐の限りを尽くせるなら、復讐できるなら。

 俺はどれだけ救われるのだろう...。前世では果たせなかったあいつらへの復讐が、この力があれば簡単にできるはずだ!
 しかし、ここは異世界。前世のあの現実とはそもそも世界が...次元が全く異なっている。果たして元のあの現実世界に干渉など――


 「......いや。やるんだ。俺は今や何でも出来るようになった万能チート人間。普通の人間だったらできないことでも、俺ならできるはずだ。

 別の世界へ干渉する魔術を、俺が創るんだ!!」


 それは言わば次元魔術。ワープホールか何かを、こことあの世界とで繋げる。誰も実現したことが無いであろう幻の魔術を、俺が創り出してやる...!


 全ては 俺の復讐の為に!!!


 転生してから初めて、明確な目標ができた俺は、王国へ連行される前...冒険者を始めたばかりの時振りに、生き生きと行動した。誰かに強制されてやるのと自分の意思でやることがこんなにも違うなんて!忘れていた、この久しい感覚。
 何年経っても、俺は飽きることなく研究と開発の毎日を過ごした。

 その間も、前世でつけられた傷は癒えることはなく、その傷をつけたあいつらへの復讐心も消えないままでいた...!

 異世界を滅ぼしてから約7年後、ついに俺の夢が実現する時がきた。
 次元を超えて別の世界に干渉する究極魔術を、ついに完成させられた。今俺の目の前には、中で巨大な渦が巻いているワープホールがある。そこへ飛び込めば、俺はあのクソッタレな元の世界へ帰れるのだ。

 ワープのテストは既に成功済だ。昨日試しに錬金術で造ったドローンカメラをワープホールに投げ込んで、ワープ先の光景をカメラ越しで確認したところ、間違いなく俺が知っている日本だった。時間の流れはどうやらこの異世界とシンクロしていたようで、俺が転生してから約20年......向こうも同じ年月が経っていた。
 少なくとも、俺が死んでから20年は経過していると分かった。まぁ仕方ない、随分長く過ごしてしまったからな。あいつらが事故か何かで死んでいない限りは、20年後の姿をしたあいつらが、元の世界にいるというわけだ。
 
 「ワープ出来るようにはなれた...。あとは、向こうで復讐する為の必要な魔術とスキルを習得するだけだ...!」

 この7年間は主にワープ魔術の研究・開発に時間を費やしていたから、新しい魔術とスキルの習得が間に合っていない。だから今から残りの未習得のやつ全てを手に入れる...!
 さらに1週間後、必要魔術とスキルを全て会得した俺は、今度こそ準備を整えた。

 まずは錬金術。これは魔王軍と戦っている途中で会得した。この世界では主に武器の錬成に使っていたが、元の世界では主に金だ。あの世界は金が全てだ。一度死んだ俺だから言えることだ。
 金が無ければ、夢も家も水も食べ物も薬も快楽も健康も、人としての尊厳も何も手に入らない。あの世界はそういうところなのだ。金が無い奴は負け組に成り下がる......どんな奴でもな。
 で...あとは復讐で使える凶器を造ることくらいか。ワープした後でじゃんじゃんつくろう。

 次は精神魔術。あの世界......特に日本の治安はそれなりに良くされている。そんなところで異世界と同じ凶行をしてしまえば、あっという間に注目される。復讐はゆっくりじっくりしたいと思ってるから邪魔が入るのは遠慮したいところだ。だから周囲の人間たちの脳を操って、俺のどんな行いも気にならなくなるとか暗示をかけて邪魔をさせないようにするのだ。あとは、記憶を操作...出来事を忘れさせるとか、だな。

 “バレなければ犯罪じゃない” 誰にも気づかれず、憶えられることなく、忘れさせてしまえば、気兼ねなく復讐できるはずだ。というわけで精神魔術も必須魔術。

 スキルは、消音・気配察知(遮断)などなど...治安国の日本で必要になるであろうスキルを、魔物とかを倒して会得した。スキル取得がいちばん苦労した気がする。
  
 他にも、瞬間移動・検索魔術・治療魔術・空間魔術・擬態......本や修行、討伐で全て会得した。

 鏡で自分の姿を見てみる。偶然にも、元の世界で最後に見た時の自分と同じ見た目をしていた。24歳だったあの時の俺と...同じだ。
 違いがあるとすれば、高級そうなローブを纏っていること、そのローブの下には鍛え抜かれた肉体が備わっていること。何よりも違いが見られたのは、顔つきだった。造形は前世と変わっていないが、コンプレックスだったあの幸薄さが取れていて、ギラギラとした双眸、生き生きとした艶肌が、そこにあった。野望に燃えた男の顔が、鏡に映っていた。うん......悪くない。
 今の自分の方が、好きになれる!

 確認も終えた俺は、持てるだけの金を懐にしまって、再びあの魔術を発動する。

 
 「しかしあれだな......行動を起こすまでの計画立てとか準備活動とかのあの時間って、凄く楽しかったな!あの時間は俺にとて貴重なものだった」

 旅行をする時、本番よりも行き先を決めたり宿を探したりして準備する時の方が楽しいって思ったりするタイプのそれだな。今までの時間もまさにそれと同じだった。
 でも、やっぱり本番がいちばん楽しいに違いない、これから始める復讐の時が、最高な気分にさせてくれるに違いない!!


 「よし......これをくぐれば、俺は帰れるんだ。あのクソッタレな現実に...!

 みんな全員 悲惨な目に遭わせて 殺せるんだ...!」


 ニタァ...と俺は満面の笑みを浮かべながら、ゆっくりと――


 「バイバイ、クソ異世界。ここで学んだこと、得た物はたくさんあった。ありがとう......もう用済みだから―」


 渦の中に飛び込んで―
 ワープホールが消えると同時に、懐にあるボタンを押して―


 「―もう、完全に滅んで良いよ。さようなら」


 世界の至る所に仕掛けておいた大規模崩壊魔術を起動させて―

 何もかも...異世界という存在を完全に消滅させた―。



 (帰ろう。そして始めよう!二度目の人生は、復讐と殺戮と娯楽の日々を送ろう!
 何もかも、蹂躙して奪って踏みにじって、壊して潰して殺す...!)


 ――待ってろ クソ現実!!!
 

 長いプロローグは終わり、ここからがいよいよ本章となる。
 杉山友聖の 血と暴力と死に塗れた復讐の人生はこれからが本番だ――。
 





















 時は遡って......7年前。全てに失望して見限って、そして復讐に走った少年が世界を滅ぼしたあの始まりの日。

 彼女は、自身の血だまりの中で必死に声を振り絞って、遠ざかっていく少年の背を追うように見つめていた...。


 「ち...がうの...。そんなつもりじゃ......なかったの...。友聖.........ごめん、なさい......」


 やっとの思いで吐き出したその言葉は、少年の耳に届くことはなかった...。
 
 




プロローグ 完

主人公経歴

一度目の人生
5才くらいに親が離婚して母の方で暮らす。姉が一人。
小学生時代はクラスでは中心にいたカースト上位にいた。
中学・高校では理不尽な虐めを受ける。
大学受験に失敗、浪人する気にはなれず就活を始める。
労働環境最悪のブラック会社にしか入れず、計3回転職した。
3社ともハブられて理不尽な扱いを受け、最後の勤め先で精神を病み無職になる。
途中家族と揉めて、勘当、完全孤独となる。
無職になって1年後、餓死する。


二度目
3才児となって転生、森のどこかに転移される。村人に拾われて孤児院に入る。
10才には冒険者業を始める。
15才で勇者としての素質が露見して王国に連行される。そこで魔王軍の討伐隊に入隊させられる。
17才 魔王を討伐。全てに失望し、世界中の人間を根絶やしにする。
24才 日本へワープする魔術を完成させて、日本へ転移する。
同時に異世界を破壊した。




ステータス
武術:Sランク(ランクは最低Ⅾ・C・B・A・最高Sまである)
剣術:Sランク
魔術:Sランク(全ての魔術を扱える)

魔術種類:属性攻撃(火・水・風・光・闇・無属性) 錬金術 催眠術(記憶操作・精神支配・幻術) 検索 転移 治療 空間 

スキル
瞬間移動 擬態 消音 気配感知 気配遮断 透視 認識阻害 模写 筋力操作 魔力操作 等価交換   




*異世界での生活の影響で、関西弁が若干抜けているもよう。



*次回から第一部・復讐編です。ここからはほぼ回想と復讐回と残酷な描写しかありません。

 ワープホールをくぐって、着いた先は......


 「――空き部屋......?」

 何の飾りはもちろん、寝具さえ無いという殺風景な部屋だった。
 部屋をぐるりと見回したところ、間取りは6~7畳の1Kの無人部屋のようだ。ホコリがそんなに無いということは、最近業者が清掃しに来たっぽいな。

 「......つーか、ここ......見覚えがあるぞ!?」
 
 この床といい、壁といい、間取りといい、外から見える景色といい...まさかここは...!


 「俺が、この現実で死んだ場所......俺が住んでたあの安アパートだ...!」


 何だか、出来過ぎた偶然だな。碌に座標を決めないでワープしたら、生前の最後にいた場所だったなんて。
 
 「...セーブポイントからリスタート、ってやつか?まぁ、別に良いか。ひとまずは、ここを拠点とするか」

 とはいえ、ここの物件を取り扱っている仲介役の賃貸会社なり保証会社なりのところに何も言わずにここを使うのはご法度だ。正式な手順でここを押さえようにも、保証人とか本人確認書類云々やらが必要になって手続きが煩わしい。それ以前に俺って死んでることになってるはずだし。よって正攻法もダメ。


 「そこで、異世界で得た力の出番...ってな」


 “記憶操作”!対象:俺が位置する地域全体 内容:“ここの部屋は既に使われていることになってる”


 誰が使っているか...なんて気にしない。この部屋が、空き部屋じゃなくなったということを認知されれば良いだけ。これで、賃貸会社とかはもちろん、たった今から隣や上の階も下の階の住人にもこの部屋に人がいるということを認知させた。
 ......待てよ?

 「右隣の部屋の主って、今は誰だ?」

 右隣の部屋主...。俺が死んだ当時のあそこの部屋主は、騒音等で俺を苛つかせた糞隣人だったはずだ。忌々しいことにそいつの名前は今も覚えている。

 「瀬藤欽也《せどうきんや》......あれから引っ越ししていないのなら、あの部屋には今もあの糞ゴミ野郎がいるよな。
 よし......“透視”」

 スキルで壁の向こうがどうなっているのかを覗いた。が......
 
 「留守か。まぁ今は昼時みたいだしな。仕事してるなら不在は当然か」

 壁時計や携帯電話が無いから時間が分からない。まずは......生活に必要なアイテム全てを、調達しますか。

 思い立ったらすぐに行動。時間は有限だ。準備を終えて部屋から出た俺は外の景色を目にしてすぐに感嘆した。


 「いろいろ、変わったなぁ。二十数年、そんぐらい経ってたら変わりもするか」


 車道や歩道すら生前と変わって見える。少し歩いていくと二十数年後の変化はより顕著に見られた。コンビニが消えてたり、本屋やレストランができていたり、昔のものが消えて新しいものが入れ替わるように消滅・出現していた。後日、寄ってみよう。今は、もっと優先すべき用事があり過ぎるから。
 
 それから俺は、部屋に必要な家具、衣服、寝具、そして携帯電話を始めとする機械類を買いに飛び回った。“瞬間移動”で移動速度は新幹線以上。どこでも一瞬で辿り着ける。あっという間に必要な買い物を終えた。

 携帯電話も、今回はSIMカード無しのスマホを買うに止めた。誰かと連絡を取り合うことなんて今は完全に無いし、SNSさえあれば遊べたり情報が得られるしな。スマホとWi-Fiルーターを買ってインターネットを開通して、パソコンやiPadも使えるようにしてとりあえず娯楽は楽しめるようにした。

 衣服はどれも簡素な物。これからの人生でオシャレなんかしても意味無いしな。ベッド・布団類、洋服タンス、食器、家電製品......転々と店を回って購入しては自宅に瞬時にお届けした。家電製品を運んで帰ると言っても、催眠で誰一人とて俺を不審がらないように設定しておいたので滞りは無し。

 何往復かして、夕方になる頃には大体必要な物を購入した。お金?生前の俺だったら買えない物ばかりだったが、今は全く問題無い。それどころか手元にはまだまだたくさん財が残っている!

 買い物に行く前、異世界の金を、魔術でこの世界の紙幣に全て等価交換したところ、数億円分もの日本紙幣へ成り変わった!部屋中万札だらけになったあの光景は、マジで夢気分だった。前世の自分からしたら信じられないだろうなぁ。まさかリアルにお札シャワーができる日がくるなんて。
 しかも錬金術で硬貨もじゃんじゃん造ることもできるから、一生お金に困ることが無い。もっとも今あるお札だけでも、ニート生活あと80年続けてもお釣りができる程の量があるからもう金は造らなくて良いけどな。
 まぁ金はいくらあっても困らないしな、絶対に。大金動かすのは目先にある「やりたいこと」全てを済ませてからにしよう。最後は...食い物だな。せっかくの帰還祝いに、贅沢して百貨店で買い物するか。何か...凄く高いやついっぱい買おう!

 そして一食分で5000円くらいもの買い物を済ませて(前世では一日の食費500円以内だった)、ご機嫌な気分で帰路に着く。
 と、歩道を歩く道中――


 「――あ?あいつ......」

  
 俺と反対方向から歩いてくる中年の男が―

 歩きタバコ吹かしているではないか...!


 「......あ~~~嫌なこと思い出させるね......マジで」


 ここで復讐する人間リスト(後で作ろう)の中には、ヘビースモーカーの仕事先輩がいた。
 そいつは、俺に嫌味と同時にタバコの煙も吹きかけてくる糞ヤニカスだ。俺に対して受動喫煙の考慮など微塵もしない...そもそも分煙すらしようともしない糞会社だったが。
 とにかく、何度も間近で副流煙を吸わされ目に入ったせいで、俺は目がおかしくなったりなど体を悪くしてしまった。体を壊したのはそれだけが原因ではないと思うが、あの度重なる受動喫煙は確実に俺の健康を損ねさせた...!
 事実、副流煙には喫煙者が吸う煙以上の有害物質が含まれている。そんな煙を何度も間近でくらえば、癌や白内障、運動機能障害などが発症するというものだ。
 体を壊された遠因として、俺はタバコと、喫煙マナーを守らないヤニカスを憎悪するようになった。歩きタバコや喫煙所外で喫煙しやがるヤニカスなど、全員死ねば良いと思い続けたまではある。

 だから......今もああやって向かいから何食わぬ面をして歩きタバコ吹かしてやがるクソ野郎には、心底ムカついている。それも――

 「――よし。最初は、あいつにしよう。この力の試運転もかねて」

 人目など気にせず、即行動(=殺害)に移るくらいにな!!

 俺の殺気に気付くことすら出来ていない呑気な、喫煙モラルなど微塵も持ち合わせていないあの中年男が近づく。
 そして――


 「――喫煙は、喫煙所でしろよ クソが 死ね」


 ―――グチャア......!!「.........へ?ぇぇぇえええええええええ”え”え”え”!!?」


 すれ違う刹那、巻きタバコを持つ手ごと、中年男の肩から腰にかけて風の塊をぶつけて、それらの部分を抉った!

 「ごぷ...!な、にが......!?」
 「何がじゃねーよここでタバコ吸うなっつーんだよそれくらいガキでも分かるだろ?つーかお前ら大人がそんなだから路上喫煙とか平気で横行する馬鹿どもが増えるんだろがふざけんじゃねーぞ詫びとしてここで無様に死ねクズが」


 ドゴッと良い音を立てて、中年男の側頭部を蹴り飛ばして道路に吹っ飛ばす。その際に首がへし折れ、首が変な方向に曲がった状態のまま中年男は車に轢かれた。直後、クラクション音と悲鳴がけたたましく響いた。

 「うるっさいな...異世界ではあんな絵面は日常的だってのに。まぁ平和ボケしてるこのご時世じゃあ仕方ないわな。というより目立つのはマズい...からっとー」

 “今の惨状を誰も気にならない。今死んだ男のことなど どうでもよくなる 全て
忘れる” (パンッ!)

 ――――――――

 魔術を発動して両手を叩いた直後、俺の周囲の世界は、俺の都合良いように塗り変えられた―。

 さっきまで道路に転がった頭部を見て騒いでいた連中は、突然それが見えていないかのように、何も無かったかのように数秒前と同じ「日常」に戻っていった。 

 「初めてやってみたけど、凄い効果だな。本当に全員、今起きたことがなかったかこととして振舞って......いや、忘れてしまっているから、本当に認知もしていないんだ。俺だけが、今の殺害を認知している。殺したという行為を実感できている...」

 ここに帰ってきてから......もっと言えば前世含めてこの世界で初めての殺人だった。だけど殺す直前、何の躊躇いもなかった。抵抗など一切発生しなかった。人の命を作業ゲーのようにサラッと消してやった俺は......


 「うん、良いゴミ掃除をした気分だ!清々しい、良いことをした!」


 良い笑顔で、今の殺人への余韻に浸っていた。その後、俺と俺の行動を認知しないように、また魔術(認識阻害)をかけてから頭部の無いゴミを燃やして消した。キモい死骸なんて見てて気が滅入るだけだ。
 はい、焼却完了。じゃあこの高揚感が消えないうちにさっさと帰って美味いディナーといこうか!

対象 瀬藤欽也







 ドンドンドン!

 
 「あの、隣の者なんだけど、さっきかお宅から音が響いてうるさいんですよね。このアパートって壁薄いし、というかそれ以前に騒音レベルで大声出して騒ぐのはどうかと思......」
 「――うるせぇんだよ!だったら耳栓でもすれば良いだろがぁ!邪魔してくんなクソガキがぁ!」
 「だから耳栓とかそういう問題じゃなくてぇ―」

 ビシャァ!

 「黙れってんだクソガキィ!」
 「っ...!お、まえなぁ...!」
 「あ!?ガキが俺に向かってお前だぁ!?お前親にどういう教育受けてきたわけ?目上には敬語使えよ!さっきからタメ語使いやがって、ああ!?」
 「お前に敬語使う価値は無い!隣人への配慮無しにうるさい声で騒ぎやがって!マナーを守れって言ってんだよ!いい年してそんなことすら出来ないのかお前は!!」
 「あ”あ”!?」


 ――その後、殴り合いになろうかといったところで、他の住人たちに止められて通報されて、俺まで悪人扱いされるハメになった。確かに外で大声出してしまった俺にも非はあったのかもしれないが、元はと言えばいつもうるさい声で騒いでいたあのクソ隣人が悪いはずだろうが。
 俺が大声出したのは今回が初めてだというのに、瀬藤と同列に扱われて、あいつの日頃の悪行はお咎め無し、両者ともただの注意に終わった。

 それ以降も、右隣からはまたも大声が響いてくる。全く声量を抑える気はない。逆に俺が掃除とかで音出したら、壁殴って罵声浴びせてくる始末だ。それでまた隣人トラブルが起きて、また俺まで悪者にされる。

 何でだ?何なんだ?ここでも俺は誰にも味方されない。悪者であるはずのアイツが裁かれない。普通慰謝料とか取れるところだろうが。俺がそういう話に持ちかけたらなんか俺まで訴える的な流れに持っていきやがってどいつもこいつも。
 アイツだけじゃない、ここの住人全員もクソだ。死ねば良い...!
 瀬藤欽也――お前にはいつか相応しい罰を受けてもらう...!
 




 一瞬で帰宅して、家具を良い感じに設置してから、祝帰還のディナータイムを堪能したところで、スマホの時計を確認する。
 時刻は20時。ブラック企業とかじゃく寄り道することがなければ、世の社会人の大半がこの時間には帰宅しているはずだ。早速“透視”で壁の向こうを確認するとそこには......

 「中年っぽいオッサンがいる、が......あいつは、あァ面影があるな。あのクソッタレのゴミクズ野郎のなァ...!」

 二十年以上経って大分老けたみたいたが、あの面は、ムカつくことに忘れはしない......クソ隣人の瀬藤欽也だ。
 髭があって髪が薄くなってデブくなってはいるが、面を見ればアイツだって気付いた。念の為に“検索魔術”で対象人物の素性を明らかにしてみた。
 間違い無く本人だ。俺が、絶対に殺そうと決めてた奴だ...!
 嬉しいねぇ...今もそこに住んでいてくれて。捜す手間が省けて何よりだ!


 「この現代世界での最初の復讐は、お前にしてやるよ。喜んで...目一杯苦しんで死ね」


 早速右隣のドアの前に行き、錬成で合鍵を即作製、解錠。そして突入!同時に空間を完全に防音化とどんな衝撃でも耐えられる結界を展開。そして―

 「“筋力操作”および“魔力操作” 対象は自身へ」

 己に筋力と魔術の強さを操作してわざと弱体化させた。何故なら異世界で強くなった俺が、あの力のままで現代世界の生物を殴ったり魔術を浴びせたら、木端微塵は確実だ。そんなんじゃあ一瞬で復讐タイムが終わってしまう。それじゃあ面白くないだろう?
 だからここは敢えて己を凄く弱めるのだ。せいぜい素手で体の部位を引き千切れる程度くらいには弱めよう...。

 というわけで、突然自分以外の人間が部屋に入ってきたことに酷く驚いているその間抜け面に...!


 「おっっっっっらああああああああ!!」

 ベキィ...!!「――づあ”あ”あ”あ”あ”あ”!!?」


 腰が入った左ストレートをぶち込んで、ベランダ付近まで吹き飛ばした。勢いよく吹っ飛んで壁に激突したが、窓はビクともしていない。音はここでは大きく響いているが、この部屋以外には何も聞こえていない。震動の一つも起きはしない。誰もここでの騒ぎは認知できないようにしている。
 つまりここは、防音防振動で密閉された処刑場だ!

 「いっ...いでぇ!何なんだ、いだい”...!誰だテメェは!?俺の部屋に上がり込んで、何やってくれてんだ、ええ!?」

 数秒した後に瀬藤はようやく起き上がって、俺に罵声を浴びせてきた。おお!壊れてない。丁度いいくらいまでの弱体化に成功したようだ。あれなら何発も拳を入れても壊れはしないよな?ククク、よろしい...!それよりもアイツまだ俺のこと気付いていないようだから、自己紹介から入るか。

 「おっ久~瀬藤君?俺だよ俺。杉山だよ。二十数年前、お前の隣で住んでた男だよ。覚えてるー?俺とお前、何度かお前のうるさい声のことで揉めたよな?」
 「ああ?二十年?..................そういや、それくらい前の年で、あの部屋で死んでたってことがあったな。まさか、あの!?孤独死したとか何とかって言われた...!」
 「おお、それそれ。合ってるよそれで。この隣部屋で~お前がまたうるさく騒いでた時にー俺は力尽きて死んでましたーってね。まぁ色々あって帰って来られたけど」
 「は?テメェふざけてんのか?二十年以上前に死んだ奴が、今になってまた出てきただ!?何かの悪戯で不法侵入してきたクソガキだろうが!!よくもいきなり殴りやがってェ!!殺す!!」


 そう吠えた瀬藤が、俺に突進してきて、拳を振るってきた。なんとまぁ、腰が入ってない、遅過ぎるパンチだこと!ナニコレ?いくら素人とは言えここまで弱く映るものなのか?ゴブリンよりも弱い、超雑魚じゃん。戦闘力3しか無いんじゃないのかコイツ。欠伸が出るほどに余裕なので...


 「おらぁ!(ブン!)」
 パシッ、ベキゴキ...「......ぎゃああああああああ!!?」


 飛んできた拳を右手で止めると、そのまま力いっぱいに瀬藤の左手を握り潰してやった。手を開くと奴の左指全てがあり得ない方へ曲がり、血がたくさん出ていた。そのまま終わらせてあげる程に優しくない俺は、瀬藤の髪を掴んで、床に思い切り叩きつけた。
 ドゴンともの凄い衝突音と鼻の骨か何かが潰れる音がした。なお叩きつけた際に、掴んでいた髪が千切れてばっちぃので捨てた。ホント気持ち悪い。

 「あ、ぐあ...!」
 「なぁ、俺が何の理由も無しにこうして部屋に入ってお前を殴って叩きつけたりなんかすると思うか?思い出せよ...あの時お前が、203号室に住んでた杉山友聖に何をしたのかを。お前の罪をさぁ!」
 「ぐがっ!し、らねぇよそんなこと!テメーのことなんか知らねーし、俺をこんな目に遭わせやがって...!警察だ!テメーを今すぐに警察に...」
 「はぁ、シラを切ってるのかホントに忘れてるというボケやらかしてんのか。口で説明すんの面倒くさいから魔術使うわ。ほらよ」


 
 そう言って瀬藤の禿げた頭に手を翳して、記憶操作魔術で俺の記憶を流れ込ませる。そして、瀬藤本人に自分が俺に何をやってきたのか、俺はどういう過程でここに立っているのかの記憶を全て流し込んだ。これで少しは昔のことは思い出せたか?



 数秒後……


 「あ...あァ!?そうか、俺の声がうるさいとか意味分からんいちゃもんをつけてきたクソガキ…!というか、異世界転生だ?何をふざけ...」
 「まだ信じない気か?まぁいいや。お前に理解させる必要は別に無いし。ただ俺が満足すれば良いだけだし...!」

 まだ俺が杉山友聖だと認めないようだが関係無い。ただこいつをぶち殺せればそれで良い。
 まだ何か喚いている瀬藤の頭を掴んで天井にぶつける。落ちてきたところを胸倉掴んで拾い上げる。

 「かっはァ...!ハッ、仮にテメェがあのクソガキだったとしても、あのトラブルはどう考えても俺に非はねーんだよ。無駄に騒いで問題にしたテメェが悪いだけだろうが!人の大声くらいで難癖つけてんじゃねーって話しだ!」
 「......」
 「それにしても、あのクソガキが部屋で飢えて死んだって後で聞いた時はお笑いだったぜ!まさかあのご時世でそんな死に方をする奴がいたなんてな!というより死ぬ少し前からそいつは無職の引きこもりだったみたいだなぁ?ハッ、負け組に相応しい死に方だ!くだらない理由で人に文句を言いに来るような奴はさぞ社会でうまくいかず逃げてきた負け犬のクズだからそうなったんだろうなぁ!ざまぁないクソガキだったなぁ!はははははははははぁ!!」
 「......」
 「なぁおい。何か言ったらどうなんだ?テメェがあの社会の負け組クズだってんなら、死ぬ前どう思ってたのかを。どんな気持ちだったのかをよぉ。なぁおい、何か言えよ!!クソガ――」


 「あーもう、うっさい!」
 ブチィ...!「へ、え...?あ、あぎゃああああああ”あ”あ!!?」

 
 聞くに堪えないこのゴミクズのお喋りを黙らせるべく、右腕を素手で捻じり切ってやった。色んな筋繊維と関節と骨がいっぺんに折れる音がして、ズタズタな断面を残して右腕がぼとりと落ちた。その数秒後、目の前にいるこのゴミクズは情けなく絶叫した。

 「黙って聞いてれば、俺に非はなかっただの俺が負け組だのとかどうとか。え、何?何途中から俺の悪口ほざいてるわけ?今はそういう話してねーだろ?何クソ下らない質問投げかけてるわけ?今は俺が話の手綱を握ってるわけなんだけど?勝手に話題変えようとしてんじゃねーよ。今この時間は、お前が俺を馬鹿にする時間じゃねーんだよ。
 俺が、ただただ、お前をたくさん苦しめてから殺す...そういう復讐の時間なの。分かったかこのゴミクズが!!」

 「う、腕があああああ!!は?何でどうやって!?今素手でぇ!?いだい!痛い痛いいだいい、たいいいいいいいいいッ!!」
 「聞けよゴミクズが。勝手に喋っておきながら、俺の話は無視かよ、なぁ?」

 グシャッ!「い”あ”あ”あ”あ”あ”あ”脚が!左脚がぁ!!!」
 
 今度は左脚を踏み砕いた。脛が砕ける音は中々変わっていた。面白い。面白いので反対側も同じように踏み砕いた。そしたらまたうるさく叫ぶので顎を蹴り砕いた。
 
 「あ”っ!かばぁ...!」

 「もう一度言うぞ?俺は何の因縁が無い相手にこんなことはしない。こういうことをする原因は、必ずそいつ自身にあるんだ。なぁ思い出したか?お前が俺に何をしたのかを。思い出してるよな?日常的に、特に女か誰かを連れ込んだ時はマジでうるさくしやがって。就寝時までうるさくしたことあったよな?こっちはそれについて文句言ったわけ。そしたら逆ギレされて、挙句俺までお前と同列で悪者認定されたってわけ。全部お前のせいで、お前がうるさくしたのがきっかけで!俺は凄くすごぉく嫌な気持ちにさせられたわけ!
 なぁ、それが何だ?俺が悪いだけ?難癖つけただ?マジで何言ってんの?頭湧いてるのか、あ”?」
 
 「がっ!ごへっ!ぶがぁ!ひぎぃ...!」

 今度は俺が怒りと殺意が乗ったお喋りを披露していく。途中から顔面に拳を入れてやった。瀬藤の顔面がみるみる醜く腫れあがっていく。もう血と涙でぐしゃぐしゃになったこのクソ隣人の首を掴んで、そのまま何度も壁にぶつけまくった。
 壁にぶつける度に、肋骨が折れて内臓が損傷していき、血反吐を吐いている様はマジでキモかった。

 「ぎゃあああああああ!!じ、事実だろがぎゃあ”あ”あ”あ”!!これは、ただの逆恨みだぁ!!こんなことしてもただ犯罪をおかしぎゃああああああああ!!!だ、から...もう止め......」

 「うん、お前がどう評価しようがどうでもいいから。お前は昔、俺を嫌な気持ちにさせた。とてもとても、不愉快にさせた。俺の日常の風紀を乱した。前世でのお前の罪はそんなところだ。さらに今日、お前は俺を侮辱した。これも名誉毀損罪。十分動機が揃ったな?だから復讐する。お前を残酷に殺すことが、お前への罰だ。これよりお前...瀬藤欣也の処刑を行う!お前にこの国の法律が適用されない。今この場この時間の中では、俺に全てが委ねられる!」

 錬成で造った大きな釘を四肢にそれぞれ雑にぶっ刺して空中に浮かせる。両手足から血を大量に出しながら、瀬藤は今さらながらに謝罪をしてきた。

 「わ、悪かった!昔、俺がうるさくはしゃいでた俺が間違ってた!ゴメン、ごめんなさい!あのことは謝る!そうだ、俺はここを出て行く!あんたは今あの部屋にいるんだろ?俺はここから出て行く。そしたら丸く治まるはずだ!頼む!もう赦してくれ!俺だけが悪かった!だから!なぁもういいだろ?これだけ謝ったんだし、あれからもう二十年以上経ったんだ!これだけ時間が経てば溜飲が下がったはずだろ?だから、もう赦してくれよおおおおおおおおおお!!!
 これを解いてくれえええええええええええ!!!」

 あれだけ俺が悪い、自分に非は無かったなどとほざいておいて、腕一本無くなって両脚砕かれて顔面何度も殴られたくらいで真逆のことを言いやがる...。

 「で?簡単に言葉を覆すそのクソみたいな言葉に、中身なんてあるのか?遺言はそれで良いようだから、これから本格的な処罰を行います!」

 「て、テメェエエエエエエエ!!この悪魔がああああああ!!!」
 「もう口を開くな。息が臭いんだよ」
 
 舌を焼き溶かして言葉を発せなくした後、俺は目にも止まらぬ速さで両腕を動かして、瀬藤の全身を滅多打ちした。体力は無尽蔵にあるので、10分間ずっと殴り続けた。
 全身に痣ができたところで、次は魔術による裁きだ。


 「 “目一杯苦しめ” 」

 テキトーに短縮詠唱した闇魔術を発動して、体内に細胞を破壊するウイルスを発生させた。闇属性の魔術は、人を幻術にかけたり、体力をごっそり奪う属性攻撃だったり、光属性を滅ぼすなど色々あるが、特に人を苦しめるという要素が、俺は気に入っている。
 今回は病原菌を発生させる闇魔術を使用した。あらゆる病気を発症させるウイルスを相手の体内に発生させて病死させるという、一種の拷問・処刑魔術だな。なんとも、復讐にぴったりな魔術ではないか!素晴らしい!見ろよ、あのクソ隣人の様を!
 体が次々と壊死していって、内臓が炎症を起こして破壊されて、なんか黒っぽい血を吐き出してて、それはそれは中々グロくて、でも無様で!


 「ぶっははははははははは!キモっ!今のお前、マジでキモく映ってるぞ?痛い?ねぇ苦しい?楽にはさせねーぞぉ。二十年以上積もったこの憎悪は簡単に終わらせねーから」
 「――!!―――!!!」

 「は?なんて?まぁいいや。そういやさっき、二十年以上も経ったなら溜飲が下がってもういいや、って思えるはずだとか何とかほざいてたな?

 んなわけないだろ?俺は根に持つタイプなんだよ。たかが二十数年で溜飲が下がるわけねーだろうがよ馬鹿かよ死ねよクソゴミ隣人が」
 
 「......!!」
 
 少し顔を近づけてガンを飛ばしながら、低い声でそう言った俺を見て、瀬藤は恐怖からかブルブルと震えて真っ青な面で涙を流した。50にもなるいい年したオッサンが、恐怖でそう泣いてんじゃねーよ情けないなぁ。

 「よし...おいもっと苦しめよ、瀬藤欽也。これは...お前らにとっては下らない復讐動機なのかもしれない。けどな、そんなこと俺には知ったこっちゃねぇ!!
 お前がしたことは、俺にとってはここまでする程の罪があったんだってことを、その体が完全に滅んで、死ぬまでしっかり教えてやる...!」



 そしてこの後...数十分間苦しめた後、脳にウイルスを侵食させてしっかり破壊した。
 これで瀬藤欽也を完全に壊して.........殺した!!


 まずは一人、復讐達成...!