「此度の活躍、大儀であった。では.........お前を軍から除隊させる。村へ帰るなり好きにすると良い。こちらからの用件は以上だ、早くこの場から去れ」
「..................は?」
満身創痍の体でどうにか帰って来た俺に対する国王は、俺だけには他の兵士たちよりも少ない褒賞・報酬金しか与えず、地位あるいは名誉も何も与えず......冷たくそう言って俺を追放したのだ...。
他の大臣や貴族どもも、同じく冷たく見下した目で俺を見るだけ...いや、侮蔑も含んだ目を向けるだけだった。
こいつらはなおも、俺をただの道具としか見ていなかった。勇者とは名ばかりの、王国の奴隷同然の人間扱いだった。
納得がいかず国王たちに直訴しても...皆、口を揃えて―
「薄汚い平民がどれだけ貢献しようと知ったことか」
「身分相応の褒賞しか与えない。位が低いお前にはそれくらいの報酬で十分だ...これは覆らない」
「そもそもお前のような幸薄い顔と身なりをした男が勇者など無理があるのだ!何故お前のような卑しい平民が勇者の素質を持っているのだ...!」
「魔王がいなくなった以上、勇者の役目は終わった。ここは用済みのお前がいて良い場所ではない!もう関わることは無い、早く去れ!!」
―俺の容姿・身分を理由に拒絶して追放して、否定した...。
「なんで...何で...!平民だから?貧相な面だから?そんな理由だけで俺は、ただの都合の良い奴隷扱いかよ?元はあんたらが半ば強制に戦わせたんだろうが...!」
国王も大臣も貴族も皆、俺をただの道具としかみていなかった...。どれだけ懸命に尽くしても、底辺扱いは改めることはしなかった。一度も、“杉山友聖”を見ることをしなかった...。
そして俺に対する仕打ちは、これだけじゃなかった。
「元勇者様ぁ?魔王を討伐したあんたと組めば、最難関クエストも余裕ってわけだぁ!俺らと付き合えよ!まぁ報酬は俺らがほとんどもらうがな?ぎゃはははは!!」
「お前みたいな幸薄いガキは、今度は俺らの飯代稼ぎに貢献しろってんだ、元勇者様がぁ!」
ギルドへ行けば俺をこき使おうと近づいてまたも俺の見た目や身分を馬鹿にするクソ冒険者ども...
「王国からこれだけしかくれなかったの!?ちっ、お前を利用して大儲けしようとしてたのに、これっぽっちの金しか入らないのかよ。おい元勇者、今後もこの孤児院に投資し続けろよ!?孤児のお前を面倒見た恩をお前は一生返し続けるんだよ!!」
俺を都合の良いATMとしか見ていない孤児院の連中...
俺を待っていたのはちっとも優しくない世界だった。
そして何よりも俺を深く傷つけたのが―
「友聖、魔王を討伐してくれてありがとう縁があれば......また会いましょう」
「そ、そんな!リリナ様!どうして...!?」
「どうしてって...軍から追放されて王国との関係が無くなった以上、あなたと関わる機会は今後ほぼ無くなるわけじゃない?冒険者稼業なり孤児院への貢献なり、今後も頑張ってね......さようなら―」
「な.........なん、で......あんた、まで...!」
唯一俺を見てくれていたはずだった...これからも親しくしてくれると思っていた彼女までもが、俺を冷たく突き放したことだった......。
「何だよこれ......転生しても俺は、こんな扱いなのか?は、はは...俺だからか?杉山友聖という存在だから、誰も優しくしてくれない、道具扱いの人間で、蔑まれることしか許されないのか俺は!?何なんだよ......?
俺は!何の為に存在しているんだよ!!!」
誰もいない森で一人、慟哭して叫ぶ。当然誰も応えてくれない。
前世では不遇な人生に不満たらたらのまま死んで、この異世界に転生されて。必死に頑張って、強大な敵を倒してきて......これからやっと、少しはマシになっていくはずと思って期待していたのに。なんで...何でこんなに理不尽なんだ?
多くの人の為にあれだけ懸命に尽くしたんだ、それならどんなに苦労しても、悲しい事があっても、最後はさ、幸せになれるのでは?俺は報われるべきじゃないのかよ?
(お前は後悔することになる...。お前が守った者たちに価値など微塵もなかったと、やがて気付くだろう...)
今になって魔王の最後の言葉を思い出す。そして今ならその言葉の意味が良く分かる。魔王は見抜いていたのか。俺がここまで不遇な扱いをされていたということを。
.....わかっていた。予感していた。
前世で味方がいなくなったあの日から転生後の今日までの日々で、吐き気がするくらい分かっていたさ。俺にはその時は来ないってことが。俺にとって世の中はそんなに甘く設定されていないって予感していた。
どうしようもない理不尽があって、抗いようもない絶望しか辿れないこと...そういうレールしか進むことが許されない、そういう設定づけられていること。そういう人間としてつくられたのだから当然の扱いなんだって。
それが偶々、俺...杉山友聖だったということ、それだけの話だったんだ。
俺は――決して幸せになれない人間として設定づけられたに過ぎないのだ。
虐められ続けたのも、ハブられたのも蔑まれたのも道具扱いされたのも用済みだと追放されたのも......親しいと思ってた人にさえも冷たくされたのも、起こるべくして起こったことだったんだ。
転生しても同じ......変えることができない、レールから降りることもできない、変更・抗い不可能の運命だったんだ―。
「そう、か......俺は、どう頑張っても...足掻いても......幸せになれない。誰も、優しくしてくれない......俺を、見てくれない......!」
そうなるように仕向けられているから。見えない悪意か何かによって俺は常に報われない、損をする。
虐められて辱しめられてハブられて奪われて押し付けられて蔑まされてこき使われて差別されて道具扱いされて縁を切られて捨てられて追放されて裏切られて無視されて利用されて冷たくあしらわれて否定されて―
幸せが 許されない―
「は、ははは......あははは、は...」
いつしか前世の死ぬ寸前と同じ、乾いた笑い声を漏らして、涙を流していた。
杉山友聖は幸せになれない。杉山友聖には誰も優しくしてくれない。杉山友聖の味方は一人もいない。
そういう人間としてつくられた存在だから...。何やっても覆らない、変えられない定義だから。
もう、何やっても無駄なのだ。
――――ブツ、ン...
切れた...そして消えた...。大切な何かを繋いでいた糸が...良心が。何もかもが消えて無くなった、そんな音が聞こえた気がした、そんな気がした...。
「そうか、俺には味方がいない。俺は幸せになんかなれない。誰も俺を見てくれない。
どの世界でも、杉山友聖に優しくはしてくれない...!」
壊れた...
「そうだ...ああそうだったんだ。そんなわけないって、耐えて生きてきたんだけど......その結論は間違ってなかったんだ。それが全てだったんだ。ずっと、自分のネガティブ思考を抑え込んでいたのが、馬鹿みたいだ...」
壊れたと同時に生まれ出てきたのは、どす黒い感情で...
「優しくしてくれないなら、否定するというのなら、貶すばかりだっていうのなら、こんな世界―」
でも、それが今の俺にはすごく心地好くて―
「こ、ん、な......せ、かい...!!」
そいつだけは、俺を肯定してくれてる。だから―
「壊す潰す汚す滅ぼす消す奪う殺す!!」
―どっぷりと、浸かってやる。
もう、知るか。何もかもどうでもいいし、何もかもが憎い。
目に見えるもの全てが敵で、目障りで、邪魔で、壊すべき、消すべきで!
「全部、ぶっ壊す!全員殺す!このクソ異世界も、あのクソ現実も!俺が!!全部滅ぼす!!」
この日から杉山友聖という元無職の引きこもり兼元勇者だった男は、新しい人格をつくった。
冷酷残虐非道、何もかもを殺し壊して滅ぼす、殺戮を好む復讐者として。
――杉山友聖の 二度目の人生はここから始まる...!