サイド リリナ



 《《それ》》は突然のお告げのようなものだったのか。
 とにかく私の頭の中に語りかけるものがあった。


 “国王たちによる不遇な対応・態度を正しなさい”
 “《《偽る》》のは止めなさい”
 “素直に、今抱いているその気持ちをそのまま伝えなさい”
 “そうすれば 彼の心は救われます きっと―――”



 友聖が魔王を討伐してここへ帰ってくるという報せを聞いて、私は彼の無事に安堵した後、彼を盛大に労ってあげよう思った。

 どうすれば友聖にいちばん喜んでもらえるかを考えた末に、彼の村で感謝と労いを込めたサプライズパーティーを開こうと思いついた。

 ――そんな時のことだった。私の頭の中に語り掛けてくる声がしたのは。
 私そっくりの声で、まるで私の考えなど全てお見通しかのような、そして私のこの考えを諫めるかのようなお告げだった。


 “友聖の心は今も、壊れかけの状態です。これ以上彼を絶望させて、憎悪を抱かせたりしたら…あなたやこの世界は破滅することになります。
 たとえ嘘でも彼を突き放して裏切るようなことをしてしまえば、彼は完全に壊れてしまいます。”

 “ どうか 彼の心を救ってあげて――”


 突然のそのお告げに、私は何故か聞き入ってしまっていた。頭に語り掛けてきたその声に切実さが込められていて、他人事とは思えなかったから。

 確かに、出会った時の友聖はとても放っておけないような状態でだった。あと少しのところで絶望に飲み込まれてしまいそうで、いつもぎりぎりの状態に見えていた。
 年月を重ねることでそれは改善されたのだと思っていたけど。

 それが間違いだとしたら...勘違いだとしたら。嘘でも友聖に冷たく突き放す態度をとってしまったら。

 それが友聖にとって最悪の裏切り・絶望となってしまうのなら……

 「私、は―――」




 
 ――これから催される、魔王軍を討伐した国王軍を称える褒賞式のところへ、私は向かっていた。
 本来は王女である私であっても、関係無い者の立ち入りは禁止されているが、緊急事態だと言って無理矢理通してもらう。

 そして案の定、お父様たちは友聖にだけまたも不遇な扱いをしようとしていた。
 命を懸けて魔王を倒したというのに。今までの魔王軍との戦いでいちばん酷い傷を負ってまで私たちの平和を守って帰ってきてくれた彼に対して!
 あの薄情者たちはまたも...!

 居ても立っても居られず、私は式典に乱入した。


「此度の活躍、大儀であった。では.........お前を軍から除隊させる。村へ帰るなり好きにすると良い。こちらからの用件は以上だ、早くこの場から去れ――」

 「国王様――いえ、お父様!!それはおかしいのでは!?」

 私の乱入に誰もが驚愕している。友聖もビックリした顔をしてる。サプライズは、これで成功ね...なんてね!

 「な...リリナ!?何故ここへ?今は魔王軍討伐を成した兵士たちへの褒賞式の最中である……………」
 「そんなの見れば分かります。それよりも今の、友聖に対しての報酬に異議を唱えます!
 彼は今回の討伐任務であの魔王を討伐したという、莫大な実績を上げてます。なのにロクに恩賞・報酬を与えないというのは、あまりにも不遇が過ぎます!ちゃんと彼の実績に合った、公正な褒美を与えなさいっ!」

 私は国王…お父様に反論させまいと、まくし立てて論破しにかかった。

  「し、しかしだな。この男は勇者とはいえ身分が――」

 この期に及んでまだふざけたことを言おうとしているお父様…いいえ、この男に、私はついに「キレる」――

 「それが何よ!?前からずっと言い続けてきてるけど、お父様も大臣たちもみんな、友聖に対する態度や扱いがおかし過ぎるわ!!彼が魔王を討ってくれたお陰で魔王軍の脅威にもう怯える必要がなくなったのよ!?彼が私たちの平和を守ってくれたのよ!?命を懸けて!!
 なのにあなたたちはいつまでも友聖を見下して蔑んでばかり!自分たちは安全なところでいるばかりのくせに!恥ずかしいと思わないの!?私は恥ずかしいわ!こんな人たちが国の要人としているのだから!!
 今すぐ友聖に対する報酬を正しなさい!!たとえ国王でも許さないから!!」

 この日私は今まで生きてきた中でいちばん怒ったんじゃないかって思う。顔が怒りで熱く真っ赤になっている自覚もある。
 誰も私に反論してこなくなった。みんな友聖に対して日頃から不遇な扱いをし過ぎていると自覚していたからなのか。

 ここまで言っても改心しないのなら、お父様も大臣たちも全員、王国から追放してやるわ!これ以上彼らには友聖を傷つけさせない!
 友聖は私が守る...!!

 さらにその後、私が呼んでおいた兵士たち…友聖と共に戦った彼らも入ってくる。そしてお父様の前で4人とも頭を下げて、友聖の扱いを正すよう嘆願してくれた。友聖の次に活躍した人たちだった彼らだから、発言力があり。
 彼らの迫力に圧されて断る余地が無いと悟ったお父様は、この場で友聖の公正な褒賞・報酬を発表し直して直ちに贈呈した。

 その後も私は彼らとともに国中を回って、こう告げた。
 友聖が皆の為に命を懸けて魔王を倒したこと、私たちの平和を守ったこと、彼を邪険に扱うのはもう止めてほしい…などを声高に叫んで、国中の友聖に対する評価を覆してみせた。

 今までがおかしかった。国中の皆も何故今まで彼を忌み嫌ってたのか分からなかったらしい。雰囲気に流されてたからか、私の一声で簡単に変わってくれた。友聖が皆から不当に嫌われることはもうなくなるはず。

 これで友聖も少しは救われただろうか。友聖によるお父様たちへの“ケジメ”が終わった後、彼を城の庭園に呼び出して話をする。

 「やっと、落ち着いて話せるね...」

 パーティーのことを言う前に何か別の話をしてから…と考えていると、友聖の方から話をしれくれた。

 「初めてだったんです。
 身内を含む誰かが、俺の為に怒ってくれたことも。
 俺に対する誤解を必死に解いてくれた人たちがいたことも。
 本当に、初めてだった...。
 だからその、何て礼を言ったら良いか...」

 その発言内容は、聞くも不憫に思えるものだった。こんな彼にどうして今まであんな仕打ちを。そんな仕打ちを今までさせてしまっていた私なんかに、礼を言われる資格は無い...。

 「礼なんて要らないわ。むしろ、今まで友聖に辛い思いばかりさせたことを謝らせてほしいわ。
 本当にごめんなさい。もっと早くこういうことをさせていれば...」

 だから彼のお礼に私は謝罪で返した。それきり無言が続く。
 

 (伝えるなら、今しかない...!)


 心の中でよし!と叫んでから、友聖の顔をしっかり見つめながら、私はあのことを言う――

 「それでね友聖。ここからが大事なんだけど......三日後にあなたの為のパーティーを開こうと思ってるの!あなたが育った村で皆で盛大に!
 今までの辛かった日々をが忘れるくらいに最高のパーティーにしてみせるから、楽しみにしててね!」

 「パーティー...俺の、為に......」

 言えた!包み隠さず全部言った!そして友聖は...何だか嬉しそう...!

 「パーティー......凄く楽しみに待ってますね、リリナ様」
 「うんっ!絶対に、満足させてあげるんだからっ」

 庭園で私たちは互いに嬉しそうに笑い合った。
 良かった…っ と、そんな声が聞こえた気がした。
 
 (この行動は間違ってはいなかった。だって友聖すごく喜んでくれてるもの。これで良かったんだ...!友聖、凄く楽しみにしてるって言った。その期待に絶対応えなきゃ!)

 それから二日間、私は友聖が育った村へ行って、一緒に来た兵士たちと村の人たちでパーティーの準備を取り組んだ。
 贅を尽くすの今しかないと思い、国の予算など度外視でパーティーに心血とお金を注いだ。今まで友聖にロクに報酬を与えなかった分、これくらいは当たり前だ。

 「皆も、ありがとうね。友聖の味方になってくれて」

 式の時にも一緒にいた兵士たちに改めて礼を言う。

 「彼には何度も助けられました。彼がいたからこそ私たちはこうして平和な世界で暮らすことが出来ている。これくらいはして当然のこと」

 隊長が穏やかに笑って答える。

 「リリナ様が羨ましいです。友聖君のこと狙ってたんだけど、私が入る隙は無いみたい」

 女の兵士が少し、ふくれ面しながら呟く。この人友聖のこと好いてたんだ...。

 そんな会話をしつつ、着々と準備を進めて、そして三日後に友聖を村に呼んでパーティーを催した。
 皆が友聖に感謝と労いの言葉をかけて楽しく過ごしている。友聖もまんざらでもない様子だ。

 友聖が一人になったタイミングを狙って、ジュースを片手に彼の隣に座る。思い切って彼の肩に頭を乗せてみた。少しビックリしたみたいだけど嫌じゃないみたいだからこのままでいよう。
 それにまだ、友聖に言いたいことがあるし、これで少し緊張をほぐして......よし、言おう...!

 「まだ、ちゃんと言ってなかったからここで言うね...。友聖、

 私たちの平和を守ってくれて ありがとう 」

 お礼を、想いを込めたお礼をしっかり伝える。正直に、思ったままに全部伝えた。
 そして友聖は嬉しそうに、

  「あなたが元気で楽しそうでいるその顔が見れて、良かったです。
 あなたがそう言ってくれたお陰で俺は......生まれて初めて報われたと実感できました。
 こちらこそ、ありがとうございます リリナ様...!」

 私に感謝の気持ちを伝えてくれた。私はそんな友聖の頭をただ撫でてあげる。そうしたいとただ思っていた。そして気付けば―――
 
「 あなたが好きよ 友聖 」

 この熱い気持ちを抑えきれないまま、私は友聖に愛の告白をしていた。顔が真っ赤だ。俯きたいけどぐっとこらえて友聖の顔をしっかりみつめる。
 友聖は少し驚いていたけど、ちゃんと答えを言ってくれた――

 「俺も...リリナ様が好きです 」

 一瞬時が止まった。そう錯覚する程に、その一言が聞けて凄く嬉しかった!
 好きって言ってくれた!相思相愛。初恋が叶うなんて、こんな幸せがあるだろうか!
 嬉しい、嬉し過ぎる。こんな時が来るなんて、夢みたい...!

 「友聖、これからは私と楽しく幸せな日々をすごしましょう。辛く嫌なことがあっても私が癒してあげるから。何があっても私は友聖の味方になるから。
 だからこれからずっと、私の傍にいて下さい」

 想いを全て伝える。友聖は「もちろん喜んで」と返事してくれてさらには私の手を握ってくれた。離さないと言わんばかりに、強く優しく――

 「良かった...!」

 想いを伝えて、相思相愛が叶ったから...だけではないのかもしれない、この感情は...。
 誰かの、心からの安堵が伝わってくるような...でもまるで自分のことのように想えて、私も何だか感動してきて...いつの間にか涙を流していた。そんな私の頭を、友聖が撫でてくれた。さっきのお返しと言わんばかりに。それが心地好くて、しばらくされるがままだった。

 (これからは友聖との時間、大切にしていこう。
 二人で一緒に、幸せになろう!)

 友聖を本当の意味で救うことが出来た、私と彼との幸せな時間は これからもずっと続く―――




アナザーエンド 完