両手首骨折、右腕の骨にヒビ、左肩脱臼、肋骨は骨折半分ヒビ半分、大腿骨損傷、腓骨損傷、体の至るところに裂傷、火傷。そして出血......

 「く...そ.........っ」

 満身創痍《まんしんそうい》で魔力も枯渇していて、体力がほとんど残ってない状態で動くこともままならない。
 完全に追い詰められている。

 その俺をここまで追い詰めやがった敵…リリナは、どういうつもりかさっきから何もしてこない。

 「どしたァ?俺をあの世に連れてくんやないんか...?ごほっ!サタンを俺の中から引き出すのは不可やから俺ごと殺すしかないんやろ?
 何や、ここにきて人を殺すことに抵抗あるんか?こんな殺人鬼にでも、殺すことに躊躇《ためら》いはあるんか...?」

 奴を煽るように質問しながらこっそり治療をかける。魔力が残り僅かな為、せいぜい重傷箇所を軽傷手前までしか治せないレベル。その状態で逆転できる可能性は1%を切る確率だ...。
 それでも可能性がある以上、俺はまだ諦めねーよ。生きている限り俺は出来ること全部やってやる。
 この程度で無様に呻いて命乞いをしたりもしねぇ。そんなことをする暇があったら少しでもこのチート女神を殺す術を模索するべきやろ…!

 「......殺さなきゃって、分かってるんだけど......駄目ね私。やっぱり傷ついたあなたを前に、命を奪うことが......躊躇われるわ...!」
 「俺をこんなにしておいてよくそんなことが言えるなァ?」
 「......憶えてる?王女だった私が、魔王軍との戦いで傷をつけて帰ってきたあなたを治療していたこと」
 

 (こんなに傷ついて......じっとしてて!応急処置程度しかできないけど治療魔術かけるから)
 (っ、いてて...!)


 リリナのその言葉を聞いた直後、脳裏に何故かあの頃の二人のやり取りが過ぎる。同時に頭痛が発生して思わず顔を顰める。


 「本当は友聖をこんなにしたくなかった。殺すことはもちろん、傷つけることすらも厭だった」
 
 何を甘ったれたことを...!

 「でも......今の友聖はもう取り返しがつかないレベルの罪を犯してきている...。未来では多くの、本当に多くの人を殺してしまっている...。1人1人の命を弄び、尊厳を凌辱し、罪の無い人々をたくさん...残酷に殺してきた...!」

 「せやな、俺は確かにたくさん殺した。日本では1億数千万いる人間のうち数千万人は殺した。無慈悲に、残酷になァ。
 その前も俺は異世界で大量の人間…俺に優しくないカスどもを殺して、しまいには世界そのものを破壊して何もかもを消し去ってやった。
 俺は死刑に処すだけじゃ生温いレベルの殺戮をしてきた。ここで死ねば俺は...あるならやけど地獄行きは確定やろなァ。
 けどかまへんよ俺は。俺の復讐が成せればそれでええから。後がどうなろうが知るか。俺を理不尽に虐げた奴らが地獄に落ちる様を見られれば、残酷に殺せればそれでええんやから...!それさえ叶えば俺はどうなったってええわっっ!!」

 「......」

 「それに罪の無いと人々って言ってたけどなァ、それはちゃうぞ?俺は殺す奴はちゃんと選んだ。
 俺に受動喫煙させた・将来そうするあろうヤニカスども。俺の横断を妨げる交通ルールを違反するゴミカスども。俺に騒音を聞かせるゴミクズども。
 俺が殺したのはほとんどそういう奴らや。俺に不快と害悪しか齎《もたら》さんゴミカスどもなんか死んで当然や!!」

 「まさか...そんな理由だけで、あなたはあんなにたくさん人を殺したの...?」
 

 リリナは信じられないといった様子で俺に問う。


 「はぁ?それ以外に何の理由があるんや?俺にとって他の人間の命なんか知るか、羽虫よりも軽いわそんなもん!!」

 「......っ!」

 俺の剣幕と声にリリナは怯む。俺の激情はまだ収まらない。

 「俺がどれだけ理不尽を被ったと思ってるんや?俺から何か罪を犯したわけでもないのにいつも、いつもいつもいつも......あいつらからちょっかいかけてきて反抗したら理不尽に虐げられて排除されて、除け者にして無視して!
 そんな俺が助けを呼んでも求めても、だぁれも応じてはくれへんかった!!この世界でも、あの異世界でもや!!」

 「......!!」

 「家族も学校も警察も何もかも、虐げられて孤立している俺に救いなんてなかった!味方の奴は一人もおらんかった!
 異世界では、王も貴族も冒険者も国民も村も全員俺を都合の良い道具としか扱わず冷遇して、俺が孤児で低い身分出だったことをずっと蔑んで下に見続けた!!魔王を討ったと知るやいなや俺はお払い箱、ロクに報酬を寄越すどころか...誰もが俺を見下すだけで礼も無し!!」

 「友、聖.........っ」

 「しまいには......リリナ。お前もあの異世界のクズどもと同じ、俺を下に見て蔑んでいて俺を魔王軍討伐に都合の良い道具としか見ていた。長年ずっと、出会った最初から...!俺はそれに気付かずお前に気を心を許してしまって!この人ならと思ってしまって!魔王を討ってそしたら一緒に遊ぼうって考えてた俺は!
 お前の冷たい言葉で目が覚めた!気付いた!壊れた!!俺はようやく理解できたんや!!

 この世には《《俺に優しくしてくれる味方なんか誰一人存在してねー》》ってことがや!!!」
 
 「―――――」

 「スクールカースト底辺の俺が反抗したからか!?正当防衛で俺も暴力振るったからか!?皆が黙認してそのままにしている間違ったことを指摘したからか!?
 身分が勇者してたんがそんなに気に入らなかったんか!?それとも他所から転生してきた俺に異物臭を感じての嫌悪か!?単にこの杉山友聖という存在が気に入らないからか!?

 ならええわもう......こんな世の中なんか。全部ぐちゃぐちゃにして潰したるわ...!どいつもこいつも俺に理不尽を強いてばっかの世界なんか!!壊れようが滅ぼうが俺にとってはもうどうでもええわ!!!」
 

 俺の怒涛の本音暴露は、目の前にいるリリナと、恐らく屋上に目を向けている連中にも届いているだろうよ。俺には聞こえるで?俺のこの激情に対するるお前らの耳障りな嘲笑が。どうせお前らは俺のこの憎悪と苦しみを理解しようとせず、ガキがなにか喚いてるって馬鹿にしてやがるんや。

 ええよ別に理解せんで、理解してほしくて言ったわけちゃうし。けどお前らは全員俺が殺す。俺を嗤う奴は全員ぶち殺す!今この場面を目にして聞いている奴らは全員ぶち殺すから!!

 「.........友聖」
 
 怒りの咆哮を終えて治療に集中しているとリリナがしゃがんで俺の顔を真っすぐ見つめる。

 「聞いて......」

 聞く?何を?俺の今の激白に対して侮蔑の言葉でもかけ――





 「違う、違うよ。あの時友聖に見せた冷たい私は嘘だったの。
 本当は全部、あなたにサプライズパーティーで驚かせる為の、《《演技》》だったの!!」




 ―――。
 ――――。
 ―――――。



 「私は友聖にいっぱい感謝していた!友聖の無事な姿を見れて嬉しく思った!友聖の報酬の不遇さにお父様に異議も唱えた!後で友聖に追加の報酬と礼状と名誉を贈るよう約束させた!友聖に演技で冷たく接してさよならしてからの三日間はあなたのパーティーの準備をしていた!
 全部、友聖に喜んでもらう為に、精一杯労って感謝してもてなす為に!」


 こ、の.........女、は...............


 「私は...私と一部の兵士たちは友聖のことを道具だなんて思ってなかったよ!!ちゃんと友聖のこと仲間だって、大切だって思ってた...!」


 この..................元王女、は...............



 「私はあの時!友聖に告白するつもりだった!! “友聖が好き”だって!
 そして今でも、私はあなたが好き!!」


 ―――。
 ――――。
 ―――――。