目にも止まらない速さでリリナの後ろを取って、そのまま剣を突き刺す。奴には俺の動きを捉えていないと、そう高を括っていた。

 しかし結果は、逆に俺がリリナにフェイントをかけられ、無様に地に伏すこととなった。
 奴は小さく上に跳んで俺の真上に移動して、そこから俺の背中ど真ん中に掌底のようなものを叩き込まれてうつ伏せ状に地面に強く...それは強く強ーく叩きつけられた。

 「ひゅ―――ッ」

 肺の中の空気がほぼ全て吐き出され呼吸が止まる。
 後ろをわざと捉えさせて俺に慢心と隙をつくらせて、こうして俺にダウンを取らせた...ってところか。
 地面にダウンしたのは数秒の間で、すぐに上空へ飛んで浮かぶ。ヒビが入った肋骨を癒して体力を回復させる。

 だがそんな十分な余裕を許可する程、相手は易しくない。リリナは光纏った拳を振るってくる。咄嗟に両腕をクロスしてガードする。腕には鎧を錬成してある。常人が殴ればその拳と腕が破壊される硬度をほこる
 が、


 「そ~~~~ぉれっっっ!!」
 
 バキィィ、ゴ...ドォン!!

 しかしリリナの拳は俺の鎧を破壊し、さらに俺の両腕をも破壊して俺を吹っ飛ばしやがった。
 どうにか受け身を取って、両腕を癒しつつ地面からいくつもの大砲を錬成して、リリナを集中砲火する。
 だが先程の流れで学習してる俺はそれでダメージを与えたとは思わずにすぐに次の行動に移る。自身の体に魔力でつくった丸いシールドを展開して防御態勢をとる。このシールドは透明色にできてるから外がしっかり見えるし移動もできる。大剣を持ちながら駆け回りリリナを警戒する。

 煙が晴れる......その直前にその声は聞こえた。

 「勇者の頃と同じ、いえそれよりも少し強くなってる。動きに無駄が無く次を予測してすぐに行動しようとしてる。流石だわ。魔王軍との戦いが終わっても自分を磨き続けてたのね。強い、強いわ...けど――――

 私も凄く強くなる為にいっぱい努力してきたから、負けない!」

 煙の中から、近接武器にもなる魔法杖を振るおうとしているリリナが飛び出してくる。シールドに激突、数秒拮抗してシールドが割れる。それを予測していた俺は溜めをつくっておいた大剣の一撃を奴に叩き込む―――杖と打ち合う!!
 ギギギ...と拮抗して火花が散る。だが地に足をついてる分、踏ん張りが利いている俺に利があったお陰で、リリナを何とか押し返した。
 浮いているから下半身の力があまり発揮されないリリナ相手に、溜めをつくって全身に力を入れられる状況にあった俺がやっとの思いで押し勝った構図だが...。裏を返せばハンデを負った相手に全身全霊でかかってやっと勝ったという、力の差がはっきり分かるという。


 「はぁ、はぁ...っ」
 「.........」

 加えて息を乱している俺に対して、リリナは平常のままで息など乱していない。
 今のやりとりでどっちが上かがはっきり分かっちまった...。


 「これが......あのリリナ王女やと?女神になると、そこまで化けるのかよ......っ」
 「数十年間ずっと鍛錬して戦い続けてきたから。くぐってきた修羅場の数は勇者だった友聖と引けをとってないよ。ううん、きっと友聖を超えてる」
 「大した自信やな...。まぁ俺としては、長年強敵と戦わなかったから、そのブランクもあるんやろうけど...。事実、非戦闘員の王女やったお前とは明らかにかけ離れてる。よほど、えぐい強化をはかったんやろうな......」 
 「この時の為に必死だったから...友聖を想い続けていたからここまで来られた。
 あなたとこうして向き合って話をする為にっ!」
 「話ねぇ?さっきからの攻撃といい、殺し合いの間違いじゃねーの!?」


 即座にガトリング銃を錬成して連射。魔力も込めているから一発で人体を粉々に破壊する威力をもつ。さらに銃にもある程度改造を施している発射速度をマッハ数十にしており1秒で千発は撃てる代物や。まぁ撃つ人間が貧弱やと反動で自爆するけど、撃ち手が俺やからそこは問題無し。
 俺が叫んでからガトリング銃が全弾出し尽くすまで僅か2秒のこと。
 そして肝心の標的は......

 「話合いをしたいというのは本当よ。最終的にはあなたを“この世”から葬るのは事実だけど」

 またも涼しい顔をしたまま、全弾を奴の体に触れるかどうかの距離で止めていた...。あれは斥力...無属性の重力魔術か。
 リリナは弾を徐々に自身から引き離して、額に血管を少し浮かべながら全弾を塵にして消した。またも改造した近代兵器が敗れた。

 だがそれすらも読んでいた俺は、銃の連射と同時に放っておいた粒子サイズの爆弾を、ガトリング弾が塵になって消えたと同時に爆発させた!
 小さいからといって侮ってはいけない。本来あの爆弾は直径1mを超える大型物で、それを粒子に圧縮させている。爆発の威力は見ての通り、人を数百人軽く殺せるものや!


 「っ!げほ......っ」

 今のは効いたようで、両腕両脚に大火傷を負って俺から距離をとる。あの威力の爆発をくらって部位一つ欠損しねーところは流石は女神とやら。まぁここまでしてやっと奴に傷を負わせられた。
 そしてこのチャンスを無駄にする俺ではない。

 「死にやがれ。塵一つ残らず消えて無くなれ」

 膝を着いているリリナに、消滅をもたらす光線を放つ。魔王軍幹部を容易に消し去った実績がある極太いビームが、リリナを跡形無く―――


 “メタトロン”

 ドォ――――――――――ッ

 「く、そぉ.........っ!!」

 ―――消すことは叶わなかった。リリナもまた光線を放って俺のを相殺して消し去った。光に満ちた超濃密の魔力は俺をも消そうとして、俺は瞬間移動で光線をどうにか躱した。


 「“女神の恩恵”」


 奴の体が青く光ると当時に奴が負った大火傷が無くなっていき、四肢も治っていく。やっぱり治療魔術も使えるのか。チャンスやと思ってた今の一撃がまさか破られるとは......っ

 「くそ、が...!あれだけ最良の攻撃をいくつも仕掛けたのに、俺が疲弊しているだけかよ...!お前がそこまで強くなってるとか...っ!これが女神の力なのかよ、クソが!!」

 ぜぇぜぇと息切れしながら悪態をつく俺に対し、リリナは元の艶ある肌を見せて杖を構えている。

 「友聖、あなたはあの頃よりも強くなってるわ。けど...私はその上を行ってる。もう分かったでしょ?このまま抵抗してもあなたがただ苦しむだけ...。お願い、もうそのまま何もしないで私に倒されてちょうだい」

 また投降...というか大人しく死ねと言ってくるリリナを、俺は「くそくらえ」と叫んで特攻する。



 そこからは......奴のワンサイドゲーム。

 徒手戦...骨を折られ内臓損傷。剣戟...全身切り刻まれる。魔術合戦...撃ち負ける。
 どう攻めても全て跳ね返されて打ち伏せられて、殺されかける。
 俺とリリナとの間にはっきりとした力の差がある以上、戦いが長引くはずもなく...俺はついに地に伏すこととなった―――。


 「俺が...力を手にした俺がまさか、こんな一方的にやられるとか......何やねんこのクソ現実......っ」
 「友聖...」


 怒りと悔しさに歯を軋ませている俺を、リリナは俺を悲しむような顔で見下ろしていた。