前原と繋がりがあったヤクザを潰した翌日。
 実家にある私物を俺が建てた新居へ全て移行して、引越作業を完了させる。
 母と姉が実家に帰って来たのは、昨日の夜になってからだった。解放されてから二人はそれぞれ、学校・職場へ行ったんやろうな。感情が無い分何が起ころうがお構いなし、いつもの行動を進めることしかしないようになっている。
 帰った後もいつも通り無言のままだった。解放したことに対して礼の一言も無く、俺の邪魔にならないところへ引っ込んでいった。
 そんな二人をいないものとして扱うことにした俺は、引っ越し作業を進めていく。

 最後に財布や携帯などの小物を全て鞄にまとめて、完了。あとはこのまま新居に移って新生活を始めるだけや...。

 「これで、お前らクソ家族と完全に縁を切れるわ。本来ならこうして絶縁するのに、この時代からあと七年はかかってたからな。
 チートのお陰で、めちゃくちゃ早く独立することが出来て、最高の気分だ」

 けけけと笑いながら、最後に俺が使っていた部屋を除菌する。俺がこの部屋を使った痕跡を完全に絶やして、まるでそこは最初から誰も使ってなかったかのようにしておいた。
 ここには俺の思い出などは塵一つも無くなっている。未練も何も残っていない。

 スッキリした気分で玄関へ行き靴を履いているところで後ろから人の気配がしたから、振り向く。


 「.........」


 クソ母が玄関前に立ち、俺を見つめていた。

 「はぁ?いったいどういうつもりなん?こないだの時といい、キモいねん」
 「.........」


 口汚く罵って詰問しても無言のまま。感じ悪いったらありゃしない。心と感情は確かに消し去った。つまりは何かに興味を持つことも起きないということにもなる。だからこうして何か意図した行動を起こすなど無いはずや。
 何でこうなっているのか訳が分からん。独立する息子の見送りのつもりかよ?

 「クソが、馬鹿馬鹿しい。下らん詮索は要らんわな。早よ出て行こ」

 自分を叱咤するようにそう叫んでこの家を出た。奴の気配は、ドアを閉めてもそのままで、玄関前から立ち去ろうとはしなかった。

 「......今さら何やねんって話や...。俺が苦しんでた時にロクに助けようとせーへんかったくせによ…!さっさと死んじまえ!」


 こうして俺は「杉山」と完全に縁を切った。
 三度目となる人生でも、俺は本当の意味で天涯孤独の身となった――。



 
 新居に移ってからしばらくは自堕落な生活を続けていた。
 高級食品(料理)・ゲーム・アニメ・漫画・風俗等々。欲しいもの全て思うがままに手に入れてばかりの生活だった。
 金の心配は無い。以前と同じく競馬やカジノ、さらには株トレードも始めて当てまくったことで、月に数百万の収入を得ている。

 異世界のチート能力があれば、この世の中の大半の人間のような労働なんかしなくても、遊んで暮らすことができる。

 もちろんただ自堕落生活を送ってばかりの俺じゃない。
 娯楽を満喫している片手間に、二度目の人生と同じように、この国の「粛清」と「改造」も進めて行った!

 俺の前に現れるヤニカスや交通マナーを無視して俺の通行の邪魔をする違反者に、バイクなどの騒音まき散らす害悪などを中心に、殺しまくった。
 2010年って、20年代と比べて喫煙とか交通ルールとかの規制が凄く緩いな。そのせいでまぁいるわいるわ、モラルが欠如してる自己中のゴミクズどもがよぉ…!

 「消えろ……どいつもこいつも消えろォ!!死ね、死ねぇ!!!」

 まずは自分の生活圏だけでも、俺を不快にさせるクズどををこの世から無くす「粛清」を進めていく。今日この日だけで100人以上殺してやった。
 
 やがて直接殺すことに飽きたところで、いったん「粛清」を中断する。


 「来年になると『あいつ』は俺と同じ高校一年生なる。高校生になった『あいつ』じゃないと満足した復讐にはなれへん...。
 同時に今日からしばらくは『粛清』『改造』を控えた方が良いな。この活動の範囲を広げ過ぎてしまうと、『あいつの未来を変えてしまいかねないからな。高校生にすらならない未来もあり得ることになってしまう。
 せやから一旦切り上げや。続きはまだ残っている復讐対象を全員ぶち殺した後や」


 来年には前世の俺が通ってた高校に復讐対象の『あいつ』...上方逸樹《かみかたいつき》と、その他虐め連中が入ることになる。
 「粛清」と「改造」をやり過ぎると上方どもがその高校へ進学しない事態になるかもしれない。
 そのリスクを回避するべく、「粛清」はせいぜい自分の生活圏くらいまでにしておこう。

 復讐対象は上方の他にもまだいる。社会人時代の元先輩と同僚ども。アパートのクソ隣人なんかも...!今ここで派手に動き過ぎると連中の未来が大きく変わってしまうかもしれない。それはなるべく避けておきたい。
 
 「二度目の人生でもやった『日本を理想の国へ改造するプロジェクト』は、残りの復讐対象全員をぶち殺した後にする...と。
 まずは来年に上方どもを。そこからさらに4~5年後に引越センターや清掃会社、宅急便会社それぞれにいる復讐対象どもを。全員ぶち殺してやる。
 俺が殺意を抱いた当時の姿の奴らを殺してこその、俺が望む復讐になるんだ…!」

 そうしてノートに、これまで述べた今後の復讐計画の全容を書きまとめる。終えた後は満足気に頷いた。

 とりあえずは自分の生活圏だけでも理想の地へ変えることに成功した。
 副流煙も無い、横断を邪魔する違反者も無い、騒音出すバイクやカーも無い。
 俺を害するもの、不快にさせるものは、ここには一つも無い!

 「最高や...。何もかもが俺の思うがままや!俺に優しくしてくれへんような、味方にならず敵にしかならへんようなこんな世の中なんか、ぐちゃぐちゃになってしまえばええわ。
 
 「いくら他人が不幸になろうが悲しもうが絶望してようが、全部どうでもいい。この俺さえ幸せであればそれでええ。
 この世界にいる他の人間なんか全部どうでもええわ!!俺の味方をせずただ理不尽を強いるだけのクソッタレな世界なんか、俺の好きなように潰して汚して殺しまくって、改造したるっちゅーねん!!

 「お前らがそうさせたんや!俺ばっかあんな目に遭わせたのが悪いんや!!この状況を形成したんは、お前らクズどもが選んだ結果や!!
 俺を理不尽に虐げて排除することしかない世の中やから、俺がこの手で自分が快適に幸せに生きていける世の中に変えてやってるんや!!」


 誰に向けて誰かに聞かせているわけでもなく、ただ確認するかのように俺は溜まったものを吐き出していた。
 俺にとって優しくないこの世界が憎かった。俺に味方というものを何一つ与えてくれなかった。俺の助けを求めるサインに誰一人まともに応じようとせぇへんかった...!

 せやから俺は全てに牙を向けた。復讐することを決心した。このクソッタレな世界を自分好みの世界に改造してやると決意した。
 その際にどれ程の犠牲も他人の不幸と絶望も厭わない。むしろ指さして嗤ってやるとさえ思うようにもなった。

 俺がこうなったのは全部お前らが悪い。そうに違いない。全部お前らが悪い。全部、全部お前らのせいや......っ!

 ギリと歯を軋ませて怒りのままにコンクリートをある程度破壊してから帰る。それ以降の毎日は、「その日」が訪れるまでずっと自身の欲望に浸り続けた...。




 ――そしてあっという間に年が変わり春を迎える。つまり高校生になる年や!

 俺は受験しなかった為15才にして無職となってしまったけど、問題無い。復讐ができるなら肩書きも職業も何も要らんわ。

 天気は曇り。この曇天は...上方逸樹のクソ野郎どもに不幸と絶望が訪れるサインだと思うと気分が良くなった。
 
 「そう......今日はあの最低ゴミカス上方逸樹どもをぶち殺す日や...。やっと殺せる。あのクソ憎い面を見下しながらどう甚振ってやろうか。楽しみや...ああ楽しみやなァ!!」

 本来俺が入学するはずだった高校の屋上で、俺はその時を待っていた。標的が登校してきたらここへ引きずり出して、最高の復讐タイムを始めよう。
 そしてこの高校も地獄に変えてやる。あの中学と同じ、この高校も俺が虐められてることに、誰もかれもが知らんぷりしていた。教師どもも虐めを問題にしなかった。

 いくら偏差値が低い学校でも、それは無いやろ。赦していいわけがない。教師どもはもちろん、ここの生徒全員もぶち殺さないとな。連帯責任や。
 ああ……今日ここで、大量の血が流れることになるんやろーなァ!!


 「くく、ふふふふふ......っははははははははははははは!!!
 さぁさぁ!あと10分ってところかァ!?
 さァ続きを始めよう!
 復讐を、俺の心を救う為の儀式を!!
 このクソッタレな世の中をぶっ潰す為の――――」



 ―――そこまでよ 友聖


 歪んだ笑みを浮かべながら意気揚々とこれから行うことを叫んでいざ行動開始……と思ったところで、《《その声》》は聞こえた。

 聞こえた...というより、「響いた」が正しい。脳に直接語りかけたような感じ。耳を塞いでも絶対聞こえるようなそんな感じだった。

 そしてその声は...初めて聞くものではなかった。
 まるで......そう、あれだ。人の心を潤すような澄んだ綺麗な声...的な。

 その時俺は弾かれるように空を見た。そこに何かあると何故か思わされたからだ。案の定、空に異変が起きていた......曇っていたはずの空が、明るく光っていたのだ...!

 「あれは.........魔術か何か、か...!?」

 曇天を穿つような光が差し込まれてこの世界を明るく照らしている...そんな光だった。その光の中に、何か人のようなシルエットが見えた。それは徐々に俺のところに近づき、やがて俺と相対するように降りてきた。
 同時にその人のようなものの正体も分かったのだが......


 「は、あぁ......っ!?お前、は...っ!!」

 その姿を見た俺は、ただ驚愕することしかできなかった。有り得ないものを見たリアクションを取るしかなかった。

 俺の前に立っている「そいつ」は、姿はアレ......「女神」を思わせる格好で天使の輪っかを浮かせて羽を生やした少女だ。これだけだったならただの初見女で済んだのだが、問題は彼女の髪と顔だ...!

 《《肩にかかるくらいまで伸ばした艶やかな青い髪》》の、育ちが良い《《王女》》を思わせる少女......というか、王女だった奴、だ...!!


 「友聖。あなたの凶行はここまでよ。あなたは......私が止める!!!」








 リリナ王女。


 異世界で復讐して殺したはずの女が、この世界に現れて俺の前に降臨した―――








*以降 回想