ピンポーン......ドンドンドンッ!


 翌朝、インターホン音とドアを荒々しく叩く音で目が覚めた。
 鳴り止まない二つの不快音に苛立ち、布団から出る。眠っているところにああいう音聞かされるのはマジで不愉快でムカつく。

 それはそうとして、こうして乱暴な訪問をしてきた奴だが、大方の予想はついている。

 洗面してジャージに着替えて(その間もインターホンとドア叩く音は続いた)身なりもそれなりに整えてから玄関のドアを開けると、黒いスーツを着た男が立っていた。

 「おはようございますー杉山...さん?君?まぁええわお前が友聖君でええよな?」

 やっぱりな。先日のヤクザの一員が、俺のところに訪問しやがった。

 「何やねんお前。朝からドンドン叩きやがってよぉ、うるさいねん…!」

 睨みをきかせながらの挨拶に怯むどころか第一声で文句を言う俺の態度に顔をひくつかせながらも話を進めてくる。

 「それはスマンかったなぁ、手荒にして悪かったわ。けどウチの親分に大至急って言われたからそうも言うてられへんのや...。
 お前、人質取られてんのに呼びかけに応じへんかったそうやなぁ?」

 やや凄んだ顔で俺に昨日のことを尋ねる。ハァと呆れた様子で返事する。

 「いやさ、用があるならそっちから来いって話よ。人質取ってようが俺には関係ねーし。それ以前に俺に人質とか意味ねーし」

 ヤクザは俺の今の発言に若干引いていた。

 「......普通家族を人質に取られて来い言われたら来るもんやろ...。お前少し狂っとるな...」
 「別にええやろ?それよりどうするん?俺をここで拉致するんか?大声上げれば即通報されるけど?というかもう通報されかけてるみたいやけど」

 後方へ顎をしゃくって振り向かせる。隣とその隣の住人がこちらを怪し気に見て携帯電話を持っている。あれは通報一歩手前ってところか。
 周りを見たヤクザは小さく舌打ちして、俺に向き直って軽く頭を下げる。

 「......こっちとしてはサツに目つけられるんは御免やからな...。頼むから同行してくれへんか?じゃないとマジでお前の家族がどうなるか分からへんで?」
 「人質は意味ねーって言ってんのに...まぁ良いけど。お前の希望通りにしたるわ。面白そうやし」

 「.........なんなんやコイツは。聞いた話やと見た目は二十歳のガキやったとちゃうんかよ...。どう見ても中坊やんけ」

 小声でぼやきながらも俺を連れて移動し始める。一応周りに催眠術をかけて今の一連のやりとりを忘れさせておいた。

 「ところでお前らはマジのヤクザ?この国にはホンマにそういう組織があるんか?」
 「......ああ俺らはお前が言うとこのヤクザ組織や。お前が先日行ったカジノを運営しているヤクザや。さらにはこの市の偉い奴とも提携していることでも有名や。
 せやから自分......ウチの親分にそんな態度取ってたらただでは済まへんで?」
 「忠告どうも。というかヤクザのくせにけっこう親身やな?さっきの穏便な促しといい、もっと荒く来ると思ってたけど」
 「本物のヤクザがフィクションのそれと同じと思うなや?俺らにとって肩身が狭い時世やからな、あまり人目につくことはせんようにしとるんや。まぁ俺は比較的穏やかやって言われてはいるけどな...」

 などと車中で会話をしながら移動すること約20分後、小さなビルの前で停車して到着やと声をかけられて車から出る。ヤクザの後をついて歩いてビルに入る。フロア紹介の欄でこのヤクザの名前を調べようとしたが全部空欄だった。

 「このビル全部が、ウチらの縄張りや。他の会社は数年前から出て行ったわ」
 
 質問したらそう返ってきた。随分荒っぽいことしてんじゃねーか。
 エレベーターに乗り5のボタンを押す。上昇している最中、俺はヤクザに忠告する。

 「おい、俺をエレベーターから降ろしたらお前はそのまま下へ降りてここから離れろ。場合によってはお前の組織の運営は今日限りになるで」
 「......おいガキ。デカい口叩くのもそこまでにしとけ。お前長生きしたいやろ?なら逆らうべきやない人間には逆らわへんことや。俺もそうして今まで生きてきたし、こんな...裏の仕事をする人間をしとるからな」
 
 またあの凄んだ顔で俺に警告をする。俺はそれを鼻で笑って言い返す。

 「お前さ、とっくに気付いてるんやろ?俺が普通やないってこと。何か...ヤバいものを持ってるって。俺は親切に促してるんやで?巻き込まれないように...。もう二度と子どもに会われへんようになんの、嫌やろ?」
 「お前......いったい何なんや?どういう生き方してたらそんな目をするようになるんや...。お前、もう何人もヤってるな?」
 「さてどうかなー?まぁとりあえず......《《今日はもう帰れ》》」

 最後に催眠術をかけてヤクザをエレベーターに乗せたままにして、自分の家へ帰らせた。あいつは検索したところ俺にとって害にはならない人種だと分かった。ヤクザだからといって確定害悪ではないと言うわけやな。
 むしろ、カタギの中の方がよっぽど害悪だったりする。

 さて、さっきのヤクザは見逃したが、この先にいる連中もあれと同じとは限らない。ムカつく奴らは全員、殺す。

 エレベーターからさほど離れていないドアを雑にノックして開けて中へ入る。俺の無遠慮な入室にヤクザ連中は威嚇の視線を向ける。誰もが武装している。日本刀に短剣など刃物を持った奴ばかりいる。

 「あのー。お前らに呼ばれて来た杉山友聖ですー。朝早くから呼びつけやがっていったい何の用やねん。下らん用やったら殺すぞ?」

 俺の言動に対する怒りとこいつ状況分かってんのかっていう馬鹿を見る視線が向けられる中、大層派手な飾りをつけたオッサンが近づいてきた。顔に強面を思わせる皺が入っていて実年齢より老けてそうな面だ。

 「俺はこの明村興業を仕切ってる後藤言うもんや。杉山友聖、自分のそのナメた口のことは後にしてや......瀬戸の奴はどこ行ったんや?自分と一緒に来たはずやろ?」
 「ああ俺に親身になって色々教えてくれたあのヤクザならさっきエレベーターで別れてきたで?まぁトイレか何かちゃうか?知らんけど」

 皺だらけの顔をさらにしわくちゃにして俺をねめつけて凄むが俺はマイペースのままで動じることはない。他の組員がさっき入って来た扉の前に立ち俺の退路を塞ぐ。穏やかに話をする雰囲気ではなくなってきた。


 「瀬戸の捜索はこの件の後で良いとして...。今日自分をここに呼んだんは、ウチの甥のことや...。
 単刀直入に訊くで―――自分、優に何かしたか?」