俺の通う高校、三乗高校は元々女子校だった。女子の数が減り、同じく男子の数が減って困っていた男子校と合併し、共学の高校になった。それは自分が入学したと同時に行われた事だった。
 つまり、浮き足立ち色めき立つ女の子達と同じく可愛い女子目当てのちょっとやそっと格好良いだけの男の子達に囲まれる事になるのだ。
 「ねぇ、祈織は彼氏作らないの?」
 毎日のようにふわふわした可愛らしい友達から問われるその言葉。真実を言ってしまえば自分は異端者だと明言し肯定するようで、曖昧に微笑んでかわしていた。
 「俺はみんなとは違う」 
 そう呟いて見せてから少しづつ腹が立って来る。誰でもない自分に。こうしてカッコつけて見せてはひとつもかっこよくなんてないしどちらかと言えばみっともない自分に。
 ──────ピロン
 Bluetoothイヤホンから微かに着信音がなる。オレンジ色をしたその音にスマホをうっとおしげに開くと、そこには友人から早く来いとのメッセージが見える。
 何にか酷く苛立って、それから酷く悲しくなってその場にしゃがみこみたくなって。Bluetoothイヤホンからは相も変わらず楽しげな音達が踊っていて、なのに視界には色が無くて。

 ブーーーーッッッ、ブーーーーッッッ

 深緑色の音を立ててスマホが鳴った。嫌だ、どうせ俺とは違う楽しそうな奴らからの着信なんだろ、と頭の中で叫びながらBluetoothイヤホンを耳から奪い去った。
 そのまま耳を塞ぎしゃがみこんで、一体どれほどがたったのだろう。傘はそこに転がってしまって、通りすがる人達は迷惑そうに不思議そうに自分を放置して、冷たい雨に打たれて頭がシンとした時に、ふと雨が止んだ。止んだのに雨の薄水色の音は響いたままなことに気がついて、視線を少しづつ上にあげる。
 くすみピンクのパンプス。足首に銀色のアンクレット。タイトなスカート。キレイめの淡いミントブルーのビーズが光るシャツ。濃い焦げ茶のふわりと巻かれた横髪に淡い色のリップ。
 「やっとこっち見たね」
 その目が優しく微笑んで細まるのを見て、心がほぐれて行く。
 「………陽海(ひなみ)さん……」
 「うん、さっき連絡したんだけどね。ほら、冷えるだろ?……学校行かなかったのかい。まぁ深くは聞かないさ、どこか暖かいとこに行こう?」
 俺がこうも苦しんでいる、その自覚を悪気無く引き出す事となった彼女、陽海さんが柔らかく微笑んだ。