春の雨はあたたかい

【7月25日(月)】
今日は結婚してから初めての給料日。夕食後に圭さんは今後の家計について相談したいという。

「受験勉強中に負担をかけて申し訳ないけど、これからは家計を美香ちゃんに任せたいけど、どうかな。引き受けてくれないか?」

「どういう風に?」

「給料の予算管理をすべて任せる。僕は毎月お小遣いを定額もらう。美香ちゃんも必要な学費やお小遣いを定額にきめる。いままで生活費が足りなくなるごとに渡していたけど、預金通帳とカード、印鑑を渡すから管理してほしい」

「そんなことできません」

「家事を任せて4か月近くになるけど、美香ちゃんは金銭感覚が僕よりもずっとしっかりしているので是非まかせたい」

「大きな出費や赤字が続くならば相談してくれれば良い」

「毎月の月末に報告して相談するということならやっても良いです」

「これが給料明細書で、給料はこの預金口座に毎月25日に振り込まれる。ボーナスも同じ口座。それから、家賃や光熱水費や2人の携帯代はこの口座から自動的に引き落される」

「圭さん思ったよりお給料もらっていますね。圭さん、お小遣いはいくら必要ですか?」

「美香ちゃんが毎日お弁当を作ってくれるので、月2~3万あればいい」

「じゃあ、2万5千円で」

「中間をとったね、いい感覚だ。いままで、独身で気ままに使ってきたので、これからは美香ちゃんのために使わないといけないと思っている。それに美香ちゃんは家計が分かっていると安心して生活と進学ができると思うから」

「私のためって言っても、そんなにゆとりはないと思います。でもしっかりやります」

「それから今まで貯めた貯金があるけど、それは独身時代の稼ぎということでその口座は僕の管理にさせてほしい。いくらあるかは秘密。それと実家の駐車場代の口座も僕の管理にしてほしい。税金や帰省旅費、冠婚葬祭の費用に充てているから。ただ、この口座はオープン」

「もちろんです」

「美香ちゃんのお小遣いはいくらにする?」

「学用品などを入れても1万円もあれば十分かな」

「おしゃれもしてほしいけどそれは僕が別に面倒を見るから、やってみて、また相談しよう」

圭さんは私を信頼してくれている。それに応えなくては、そして奥さんらしくならないと申し訳ない。練習したパソコンで家計簿をつけてやってみよう。

圭さんはこれまで蓄えた自分専用の口座を確保できたので、ほっとしていたけど、それは当たり前。いつもそこから私のために出してくれているのは良く分かっている。ありがたいけど、私のためより圭さんのために使ってほしい。
7月21日(木)から8月31日(水)まで学校は夏休み。圭さんの会社の夏休みは8月8日の週で土日を加えると9日間になる。圭さんから、混雑を避けて6日(土)から10日(水)までの5日間帰省したいと相談された。

夏休みは受験勉強の天王山だけど、私にどうすると聞くので、気分転換したいから、連れていってほしいと頼んだ。それで、圭さんは、折角だから行きは軽井沢で1泊してから金沢に入って、実家で3泊して帰ってくる計画を立ててくれた。私に異存はない。もちろん勉強道具を持参する。

【8月6日(土)】
8月6日(土)、私の作ったお弁当を持って出発。軽井沢で下車。駅に荷物を預けて自転車を借りてサイクリングしながら軽井沢見物。夏の軽井沢は涼しい。気分爽快。植物園でお弁当を食べた。3時に上田に移動して話題の真田城を見物。上田は土地勘があると言って、夕食は信州そばのおいしい店へ連れて行ってくれた。

宿泊は駅前のビジネスホテル。軽井沢のホテルは予約が直前だったため満室でようやく上田にホテルを見つけて予約したとのこと。上田は会社の工場があって、入社時に2か月ほど研修でいたところで、軽井沢や小諸には何度もいったことがあると言っていた。ただ、10年前とは随分変わったと驚いていた。

私は夏休みに入る前から受験の準備をはじめていたけど、学校が休みになると家事をしても勉強時間は十分あった。今日は気分転換になってよかったと圭さんにお礼をいった。

部屋はセミダブルでかなり狭いけど枕が二つ並んでいる。私は狭いベッドでもかまわない。圭さんとくっ付いて寝られるから。そういえば、ベッドははじめて。今日くらいは勉強を忘れても良いでしょうと、しがみ付く。受験勉強が始まってから圭さんは遠慮していたみたい。今日は良いかといって思いっきり可愛がってくれた。その後、二人は爆睡。

【8月7日(日)】
次の日、上田から新幹線で金沢へ。11時には実家についた。この時間でももう結構な暑さになっている。昼ごはんはまた近くのうどん屋さんへ。冷やしうどんがおいしかった。暑いので冷房を入れて、部屋を軽く掃除。私は2階の寝室で4時までお勉強をさせてもらう。圭さんは隣の自分の部屋で片付け。

圭さんのおじいさんが電器関係の仕事をしていたそうで、すべての部屋にクーラーがあった。でも、今の冷暖房兼用タイプではなく、クーラーのみの古いタイプだった。圭さんは省エネと冬のために機会を見て買い替えると言っていた。

4時ごろ日差しが少し和らいだので、二人で歩いて12~3分のスーパーへ食料の買い出しに。この店は野菜、果物、魚、肉類が中心ですごく安い。特に野菜と果物は東京の1/3位の値段。

このあたりは少子高齢化でお客はお年寄りばかり。限界集落に近づいていて、あと20年もするとこの辺りは住む人がいなくなるかもしれない、都市一極集中の弊害だと圭さんは嘆いていた。

夕食は夏向きの和食を作った。夕食の後片付けを済ませて私はまたお勉強。圭さんが今晩はゆっくり寝ようねとパスの合図。私も「はい」と了解。圭さんは、昨晩張り切り過ぎたから休養もしないといけないと言ってたけど、私はやっぱり少し寂しい。

【8月8日(月)】
今日は朝の涼しいうちに二人の結婚の報告もかねてお墓参り。タクシーを呼んで、近くの山の墓地へ向かう。途中、墓地の入口にある店で花と蝋燭と線香を買ってから、再び坂を上って行く。

中腹にお墓がある。おじいさんが見晴らしが良いと言って、ここに自分でお墓を建てたそうだ。圭さんの両親と妹さんが自分より先に入ることになって、とっても悲しんでいたと圭さんはいった。タクシーを待たせて二人でお参り。

金沢は新盆でお墓参りは7月と圭さんが教えてくれた。おじいさんが選んだだけあって、見晴らしが良いところだった。この辺りは古戦場だったとか。心地よい風が吹いている。これで二人の結婚の報告が終わって、ほっとして帰宅した。

1時間でお墓参りが済んで暑くなる前に帰れてよかった。まだ、9時を少しまわったところ。それから、私は昼までお勉強をさせてもらう。圭さんは庭の草とり。5月の連休は二人で草取りをしたが、もう草が一面に生えていた。ドクダミが満開。

昼食はソーメンにした。圭さんは、大学生のころ、休日の昼食がソーメンだと、これじゃ力がでないとおばあさんに言っていたけど、今はこれくらいの軽さの昼食が丁度良いと言っていた。確かに、もう育ち盛りでもないし、暑い時はソーメンが一番と2人で食べた。午後も私はお勉強。圭さんは草取りに疲れたのかお昼寝。

夕食は、ソーメンじゃ力が出ないと思って、肉野菜炒めとソーメンの残りのだし汁で作った澄まし汁を作った。簡単で済みませんと謝ったら、勉強しながらありがとうとお礼を言ってくれる。でも今日もゆっくり寝ようねとパスの合図。夜も勉強します。

11時ごろ、2階の寝室兼勉強部屋へ圭さんが様子を見に来たので、勉強終わったと抱きつく。圭さんはどうしようかと迷っていたみたい。一瞬その気になったようだったけど、思い留まったみたい。明日は海水浴へ行くけど、朝早くからお弁当を作るのは大変だから早く寝ようといわれた。残念だけどしかたがない。そっと抱いて撫でてくれた。おやすみ。

【8月9日(火)】
朝、暑くなる前にお弁当を持って出発。金沢駅まではバスで15分、それから浅野川線北鉄金沢駅から電車で終点内灘駅までは20分足らずで到着。駅から徒歩20分くらいで内灘海岸へ、家から約1時間で海水浴場に到着。東京と比べると海がとっても近い。

私はどうしても日本海で泳いでみたかった。学校へ戻ったら日本海で焼いて来たと自慢したいから。家からこんなに近くて早く着けるとは思わなかった。

海の家(浜茶屋)で着替えを済ませて、波打ち際へ向かう。10時ごろだというのに、もう日差しが強くて気温もかなり高くなっている。足の裏が焼けるように砂が熱い。最初はゆっくり歩いていたが、耐えられず駆け足で波打ち際へ。幸い波は穏やかだった。

私はスクール水着。圭さんが頭に手ぬぐいを巻いてくれた。かっこ悪いけどしていなさいと言われてしぶしぶ従う。圭さんは実家においてあった学生時代の海水パンツ。海に入り身体を海水に浸す。水温は高くない。

少し泳いでから波打ち際で砂遊び。私はきれいに焼くために用意してきたオイルを塗ってもらった。圭さんが余り焼き過ぎると後が大変だからと言ってくれたけど、聞き入れずにじっくり肌を焼いた。これが目的だったから。

海を見ていると落ち着くねと言うと、圭さんはもう顔が真っ赤になっているからほどほどにしてという。東京よりも空気が澄んでいるためか日差しが強く感じられる。でも気持ちが良い。海水浴なんて何年ぶりだろう。海水浴は両親と小学生の時に行ったきりだった。両親のことを思い出して涙ぐんでしまう。

お昼になったので、海の家へ戻ってお弁当を食べた。お茶も持参したもの。私の手足は日に焼けてもう真っ赤になっている。圭さんが「大丈夫?」と聞いてくるけど「大丈夫、せっかく来たのだから午後も焼かなくちゃ」と無視。

圭さんはしかたなさそうに「もうかなり焼き過ぎだから、あと少しだけだよ」といって、付き合ってくれた。二人砂浜を走って波打ち際へ、少し日に当たると、海に浸かって身体を冷やそうと、無理やり海水に浸からせられた。海水に浸かると肌が少しピリピリする。圭さんが「もう上がった方がよい」というのでしぶしぶ海の家へ戻って着替えした。

圭さんは、「まだ1時過ぎだけど、これ以上いると疲れるからもう帰ろう」という。二人駅へ向かう。駅前で、電車を待つ間にかき氷を食べた。冷たくておいしい、頭にキンとくるけど最高。

帰りの電車では疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。金沢駅で駅弁を二人分買って、タクシーで帰る。日焼けはかなり疲れるみたいで、タクシーでも眠ってしまった。3時前には家に着いた。私はもうぐったり。圭さんがクーラーを効かせた寝室で休ませてくれる。今日はもう勉強どころではないみたい。

6時ごろ目がさめたので、寝室から降りていった。身体がほてる、日焼けし過ぎたみたいだけど、もう後の祭り。

「肌がピリピリする」

「だから言っただろう、焼き過ぎると大変だよって」

「これほどとは思わなかった。日焼けを甘く見ていた」

「とりあえず、お弁当を食べよう」

「食べ終ったら、冷たいシャワーを浴びたい」

「こういう時は温いシャワーにした方が良い。冷たいシャワーだと返って火照るよ」

「分かりました。そうします」

「今日はお勉強をお休みにするから抱いて下さい」

「いいよ、よろこんで」

私はシャワーを浴びてバスタオルを身体に巻いて寝室に入った。圭さんが待っていてくれた。そのまま抱きつく。

「だめ、日焼けしたところがひりひりして集中できない」

「水着を着けていたところは大丈夫だろう」

「肩と腕がお布団に触れるとひりひりして、腿も触られると、ひりひりしてだめ」

「残念だけど今夜は諦めるとするか。濡れタオルで冷やしてあげる」

圭さんは冷蔵庫からアイスノンを取り出して、水を入れた桶に沈めて、手ぬぐいを冷やしている。そして冷えた手ぬぐいで肩、腿、額を冷やしてくれた。

「冷たくて気持ちいい。ありがとう」

「僕も腿がひりひりする」

「楽しみにしていたのに今夜は諦めます」

日焼けを甘く見ていた。久しぶりだったのに悲しい。

【8月10日(水)】
一晩寝て時間が経ったのと冷やしたので、ひりひりは幾分収まったみたい。7時に起きて、朝食と昼のお弁当を作った。今日はもう最終日で午後には東京へ向かう予定。

朝食後、9時から12時まで私はお勉強、圭さんは家の片付け。お昼のお弁当を家で食べて、1時にタクシーで駅へ。外はかなりの暑さ。2時前の「はくたか」で東京へ。

家には6時前に無事帰着。夕食は金沢で買ってきたお弁当。日焼けも落ち着いたので、お勉強の後、久しぶりに可愛がってもらった。幸せ、良い夏休みだった。でもやっぱり家が一番落ち着いてできる。
【8月11日(木)山の日】
圭さんはまだ夏休み中。私に勉強させるためと休養させるために、休みの間は圭さんが料理以外の家事をしてくれるという。ありがたい。受験勉強に集中できる。夏休みは受験勉強の天王山。頑張る。

それから、二人話し合って、これから受験が終わるまで、愛し合うのは週末だけにして、ウィークデイは抱き合って眠るだけに決めた。お互い我慢するしかない。

私の夏休み中は時間があるので家事は私がするけど、土日は料理以外をすべて圭さんがしてくれることになった。

また、2学期になったら、ウィークデイの家事は私だけど、夕食の後片付けなどは圭さんがして、土日は料理以外の家事は圭さんがすることになった。圭さんに家事をしてもらって申し訳ないけど、できるだけ勉強時間を確保してあげたいという圭さんに甘えることにした。だから、絶対合格する。

【8月14日(日)】
朝、二人で私の両親のお墓参りに行った。結婚してから気になっていたこと。お墓は五反田の近くのお寺にあるけど、圭さんはネットの地図で確認していた。

納骨してから来る機会が無くてごめんなさいとお墓の前でしばらく泣いた。そして、圭さんと結婚して幸せに生活していますと報告した。私は圭さんにお墓参りに連れてきてくれたことを何度もお礼を言った。「両親が見守ってくれているので、受験きっと大丈夫」と言ってくれた。

【9月16日(金)17日(土)】
夏休みの後半は圭さんの協力もあって勉強がはかどった。9月16日(金)、17日(土)に実力試験があった。夏休みに集中して勉強した成果が表れてクラスで1番、学年全体でも5番の成績だった。佐藤先生からはこのまま頑張れば合格できると言われた。気を抜かないで必ず合格すると決意を新たにする。

受験では塾へ行くところだが、時間のゆとりがないことと、自分で考えてやった方が効率的と思ったので、自分で計画を立てて進めていた。また、佐藤先生から推薦してもらった問題集を購入して自分なりに受験勉強を進めていたが、これで良いと自信が持てた結果だった。

ただ、週末の夜には、圭さんに抱きついて、1週間分まとめて愛してもらっている。週末を楽しみにして勉強に身が入る。抱いてもらうと受験勉強のストレス解消になる。頭が真白になって、幸せな思いにしたってその中で漂っていると、圭さんがそっと身体で包んでくれて深い眠りに落ちる。次の日は勉強の能率が上がるので、他の受験生より断然有利だと思っている。
【10月10日(土)】
圭さんは大学の同窓会に出席するため、1泊2日で金沢へ行った。私は受験勉強があるので、当然お留守番。圭さんがゆっくり勉強できるように気を使ってくれたのだと思う。

出かける前に「昔の彼女に会いに行くの?」と聞いたら「うーん」と言って「誰が出席するか行ってみないと分からない」と言っていた。卒業してから10年経っての初めての同窓会らしい。皆がどうしているかちょっと知りたくなったとか言っていたけど、本当は昔の彼女がどうしているか気になっているのかもしれない。

圭さんは昔のことはあまりしゃべらない。私と同じで、良い思い出がないのかもしれない。だから私も聞いたりしないことにしている。そういえば、初めての夜、圭さんはプロの女性との経験は結構あったけど、素人の女性は美香ちゃんが初めてだったといっていた。女性の扱いに慣れている感じがしたから、きっと本当だと思う。

それを聞いてうれしかったけど、ちょっと不思議だった。圭さんみたいな良い男を周りの女性がほっておくはずがないと思ったから。でも、確かに圭さんの部屋には女の人の痕跡が全くなかったから、深い付き合いをした女性は居なかったのだと思う。学生時代に何かあったのかもしれないけど、今の私にはかかわりのないこと。圭さんから話すまで聞かないでおこう。

受験勉強を夜遅くまで頑張った。でも、一人で寝るのは寂しい。同居後しばらくして、泊りがけの出張が2回あったけど、結婚してからは1回もなかった。毎晩そばで寝てくれていた。一人になって、圭さんが私の中でどんなに大きな存在になっているのか、大事な人なのか良く分かった。早く帰ってきてほしい。

【10月11日(日)】
早起きして、家事を済ませて、勉強をはじめる。是が非でも期待に応えて合格しなければならない。それが圭さんへの恩返しにもなる。1時過ぎに圭さんからメールが入る。駅弁と「あんころ」を2つずつ買ったので、晩御飯は準備不用の連絡。ありがたい。

5時ごろ、ドアのかぎを開ける音がする。玄関にとんで行く。

「おかえりなさい」

「勉強はかどった?」

「まずまず。でもそばにいないと今頃なにしているのかと返って気になって。同窓会どうだった。昔の彼女に会えた?」

「皆、元気でやっているみたい。自分も結婚を報告しておいた。でも結婚相手が女子高生だとはとても言えなかった」

「本当のところを報告すべきだったと思うけど」

「そうだ、羨ましがられるように報告すべきだった。でも同窓会に出てよかった。これで学生時代の思い出とさよならできそうだから」

「どんな思い出?」

「ほろ苦い思い出だけど、もう忘れた。それよりも美香ちゃんを抱きたい」

「うれしい」
12月の模試の結果では、合格圏内に入っていた。年末年始の帰省は、臨戦態勢で臨むために中止になった。正月休みは圭さんが家事に専念して私の受験のサポートに徹してくれることになった。ありがたい。

【12月23日(金)天皇誕生日】
23日に一日早いクリスマスを2人でお祝いした。圭さんは「これまでクリスマスなんかには縁がなかった、イブは一人家へ帰って、テレビのクリスマス特集番組を見ることが多かった、今年は美香ちゃんの受験勉強があるけど、せめて1晩はゆっくりしたい」と言ってくれた。それで3連休の1日目の晩にお祝いすることになった。あと2日間はお勉強に充てる予定。

午前中に2人で近くのスーパーに買いものに行って、調理の手間が省けるローストチキン、クリスマスのオードブルセット、赤ワインなどを購入。ケーキ屋さんでショートケーキ2個購入。また、今日の昼食用のお弁当を2つ購入した。お弁当を食べてから私は6時までお勉強。

6時から2人でクリスマスの夕食を準備。ただ、買ってきたものをならべるだけだけど。

「一日早いクリスマス、おめでとう」

「今年のクリスマスは本当に嬉しくておめでたいクリスマス。大好きな圭さんと2人きりで過ごせるクリスマス、去年の今ごろは想像もできなかった。本当にありがとうございます」

「僕も去年のクリスマスは買ってきた総菜を肴に、一人部屋で缶ビールを飲んでいた。今日は可愛い妻と2人でささやかだけど楽しいクリスマスを祝っている。1年前はとても想像できなかった。3月から本当にいろんなことがあったね。乾杯しよう」

圭さんが出張のおみやげに買ってきたお気に入りのワイングラス2個、同じデザインで色違い、圭さんは青い模様のグラスにワインを、私は赤い模様のグラスにグレープジュースを注いで、これからの2人に乾杯した。

「このあとのお勉強はどうするの」

「今日はクリスマスイブイブ、お勉強は一休みします、頭を休めることも大切。寝ている間に記憶が固定されるとか聞いたことがあります」

「今夜はゆっくり愛し合えるね」

「2人の記念すべきクリスマスだから思いっきり可愛がって下さい。あすは連休2日目で朝寝しても大丈夫だから」
愛し合った後、私は圭さんの腕の中で熟睡した。きっと勉強の記憶が固定されたはず。

【12月31日(土)】
今日は大晦日。圭さんのお陰で私のお勉強は順調に進んでいる。10時から2人で年末のお買い物。玄関のお飾りとパックの鏡餅、年越し用にそばとてんぷら、正月の食材、冷凍食品などを買い込んだ。

私がお正月の間、勉強に専念できるようにと、圭さんはお節料理のセットを2人前、通販で申し込んでくれた。午後に配達される予定になっている。これでお正月の準備が整った。

家に帰って簡単な昼ご飯。その後、私は5時までお勉強。圭さんは、正月の飾付、お鏡をセット、カレンダーを交換、洗濯物の取り込みや部屋の整理整頓などをしてくれた。

5時から私は夕食の準備。夕食は簡単にてんぷらそば。でもだしを鰹節からとって丁寧に作った。こんな年越そばは初めてでおいしいと圭さんが喜んでくれた。

食事後にお風呂に入ってから「これから12時までお勉強します。その後抱いて下さい」というと、圭さんは頷いた。圭さんはテレビのボリュームを絞って紅白を見ている。

12時、小さいけど、どこかから除夜の鐘が聞こえた。お勉強はここまで。

「除夜の鐘が聞こえるね」

「ほんと小さいけど除夜の鐘」

「今年のお勉強は終わりです。今年の締めに抱いて下さい」

寝室で2人布団に入って抱き合う。

「身体が冷たくなっているよ。大丈夫?風邪をひくよ」

「ギュッと抱きしめて温めて下さい」

抱き締められて、身体をさすられているうちに身体が段々温かくなってくる。それから部屋の暖房を強くして、愛し合う。来年も良いことが一杯ありますように!

【1月1日(日)】
朝、目が覚めたがもう9時に近い。そっと寝床を抜け出して朝食の準備を始める。10時になったので、圭さんを起こす。

「おめでとうございます。起きてください」

「食事の準備ができています」

「お正月はゆっくりで良いと言っていたはずじゃないか。よく眠れた?」

「もう10時ですよ。私も今起きたばかりです。朝と昼の兼用の食事です。着替えて来て下さい」

「お雑煮にお餅を幾つ入れますか?」

「3つかな」

「私は2つ」

のんびりした2人初めてのお正月の食事はまた楽しい。

「これがお昼兼用の食事ですけど夕飯もこのお節の残りでお願いします」

「缶ビールが1本あれば、これで十分なご馳走だ」

「助かります」

「食事が済んだら、近くの洗足池公園にある千束八幡神社へ初詣に行こう。今年は勉強もあるから近場で済まそう。来年は明治神宮へ行ってみよう」

「散歩している時にあったあの神社ですね」

「この辺りでは一番大きい神社かな」

それから、2人で初詣でに出かけた。お昼近くだというのに意外に長い行列ができていたのに驚いた。列はカップルや家族づれがほとんど。15分くらいでお参りができた。美香ちゃんはおみくじを引いた。

「大吉が出た」

「こいつは春から縁起が良いね」

「圭さんはやはり引かない?」

「引かない。美香ちゃんの大吉で十分。少し運を分けてもらえればありがたい」

「もちろんです」

私は大吉が出たので満足して帰宅した。もちろん圭さんも。それから私はこの勢いに乗ってお勉強を始めた。

6時に残りのおせちで夕食。夕食後にお風呂に入って、私はまたお勉強。圭さんはテレビをつけるけど、正月番組はどこも同じでおもしろくないと録画してあった映画を見ている。

11時になったので、ソファーの圭さんのところへ行く。

「へへ、今日は『姫始め』ですよね」

「『姫始め』を知ってるんだ。大晦日の夜が『姫納め』でお正月の初めてが『姫始め』」

「お勉強済んだので、今日もお願いします」

「姫始めは1月2日ともいわれているけど、お互い我慢できそうにないね」

「我慢していたら、お勉強に集中できないので。抱いてもらうとすっきりして、また、集中できるんです」

「そういうのなら、もちろん協力するけど、姫始めが済んだらできるだけ勉強に集中して、もちろんプレッシャーをかけるつもりはないけど」

「よく分かっています」
【1月16日(土)17日(日)】
1月16日(土)17日(日)にセンター試験があった。国公立薬学部のセンター試験受験科目は5教科7科目。センター試験得点率85%、偏差値65が合格圏。自己採点の結果では大丈夫みたい。2次試験まではあと40日位なので、2次試験の科目の数学、化学、英語の3科目に絞って、最後の追い込み。絶対合格する!

【2月25日(土)】
前期日程の試験は2月25日(土)だった。前日に試験場の確認に出かけ、当日は朝早く、余裕をもって出かけた。むずかしかったけどなんとかできた。

試験が終わって私は4時半ごろに帰宅した。疲れた。圭さんが心配そうに「どうだった」と聞く。「全力を尽くしたから、悔いはありません」といって、ソファーに寝転んだら眠ってしまった。

カレーの匂いで目が覚めた。もう6時過ぎだった。圭さんが毛布を掛けてくれたみたい。ありがとう。圭さんが夕食にカレーライスを作ってくれていた。目をこすりながらテーブルへ。

「ごめんなさい。疲れていたみたいで、眠ってしまって」

「夕飯はカレーを作ってみた。気に入るかわからないけど」

「すみません。今日はごちそうになります」

「疲れたみたいだね。14年前を思い出すよ。僕も帰ってすぐに眠ったのを覚えている。本当に受験なんか2度としたくない」

「受験させてもらってありがとうございました。がんばりました。合格すると良いけど」

「あれだけがんばったんだから、良いじゃないか。悔いはないだろう」

「はい。明日から家事はすべて私がやります。長い間のご協力感謝します」

「当然のことだから気にしないで」

「明日、学校へ行って佐藤先生に報告してきます。卒業式は3月4日(土)、合格発表の6日(月)は私一人で見に行ってきます」

「分かった。不合格なら後期日程で頑張れば良い」

「今日は抱いて下さい。頭を空っぽにしたいから」

「良いよ。久しぶりだから思いっきり」

久しぶりに幸せな思いに浸ってその中で漂っていると、圭さんがそっと後ろから身体で包んでくれる。背中が温かくて心地よい。

「結婚してこんなに優しく愛してもらうようになってもう8か月になります。いやいやさせられていた期間よりもずっと長くなって悪い夢も見なくなりました。今、私とっても幸せです。これからもこの幸せがずっと続くように毎日神様にお祈りしています」

私は圭さんの腕を力一杯握り締める。

「美香ちゃんが幸せと思っていてくれて嬉しい。悪いことが忘れられてよかった。これからも優しくするよ」

圭さんの腕に力が入って力一杯抱き締めてくる。息が詰まるほど苦しい。でもとても嬉しい。

【3月4日(土)】
3月4日(土)の卒業式は佐藤先生や副校長へのお礼の挨拶もあるので、2人で臨んだ。佐藤先生に挨拶すると、お二人のおかげで僕たちも結婚できたと反対にお礼を言われた。山崎先生とは既に入籍して一緒に暮らしているが、春休み中に式を挙げると言っていた。

私は、いつもはネックレスに通して目立たないようにしていた婚約指輪と結婚指輪を、今日は左手の薬指に着けた。圭さんに無事に高校を卒業できたことを感謝したいから。今日からはずっと着けていよう。

【3月6日(月)】
3月6日(月)合格発表の日の朝、私は一人で見に行くと圭さんに言った。発表は午後1時。

「不合格でも、絶対に電車に飛び込んだりしないで、そんなことをしたら悲しくて僕も電車に飛び込むよ」

「そんなことは絶対ありません。ご心配なく」

「後期日程もあるからあきらめないで」

「大丈夫です」

圭さんは「結果が分かったら電話かメールをして」と言って出勤した。

どきどきして、発表の番号を探す。なぜか合格していると思っていた。自分の番号を見つけてほっとした。急いで、圭さんに電話して報告した。

圭さんが「ほっとしたよ」というのを聞いて、嬉しさが込み上げてきた。これで頑張って卒業すれば圭さんに恩返しできる。本当に合格出来て良かった。

7時前にドアのカギを開ける音がする。圭さんだ。とんでいって抱きつく。

「合格おめでとう」

「ありがとう。圭さんのお陰です。とっても嬉しい」

「美香ちゃんの努力の結果だよ。肩の荷が下りた」

「合格発表の帰りに五反田のお寺の両親のお墓に合格を報告してきました」

「それはよかった」

それから、お礼を込めて一生懸命に作った夕食を2人で食べた。こんなに嬉しい思いで食べる夕食は結婚した時以来で久しぶり。

夕食を片付けた後、2人でお風呂に入って、身体を洗いあって、寝室へ。私はすぐに圭さんにしがみつく。そしたら、涙が出て来て、どうしようもなくなって、わんわんと大声で泣きだしてしまった。こんなに泣いたのは結婚式の日以来。どうも私はとても嬉しいことがあると大声で泣いてしまうみたい。

圭さんもそれが分かっていて、強く抱き締めて思いっきり泣かせてくれる。大声で泣いたらすっきりした。泣き止んだ私を圭さんがいつものように優しい目で見ている。私は照れくさくなって「これからは思う存分できる」といって笑顔を見せたら、圭さんは声を出して笑った。それからは何もかも忘れてひたすら愛し合った。

時計を見たらもう12時近く。快感にどっぷり浸っている私は身体からすっかり力が抜けてもう動けない。

「おしっこがしたいけど、腰がだるくて歩けないんです。トイレに連れて行って下さい。お願いします」

「僕も疲れているけど、なんとか連れてってあげる。それまで我慢して」

圭さんは、私を抱っこしてふらふらしながらトイレまで連れていってくれた。

「終わるまで前で待って居て、お願いします」

私がでてくると圭さんも入る。私は立っていられずその場にしゃがみ込む。

「寝室まで抱っこしていって下さい。お願いします」

「もうかんべん、おんぶにしてくれ」

私は寝室までおんぶしてもらった。覚えているのはそこまで。疲れた・・・。でも心地よい疲労。2人倒れ込んで深い眠りに落ちたみたい。めでたい夫婦!
【3月9日(木)】
入学手続きの締切は3月15日(水)で、それまでに入学金と授業料などを納めれば良いのだけど、圭さんは早めに手続きを済ませたいからといって、3月9日(木)に休暇を取ってくれて、2人で大学へ入学手続きに行った。

圭さんが駅のキャッシュコーナーで必要額を引き出す。そして大学の窓口で手続きを済ませてくれた。これで入学できると圭さんは安心していた。圭さんに「何から何までありがとうございました」とお礼をいったら「美香ちゃんの力になれて本当に嬉しい」と言ってくれた。

帰りに新橋と西千葉の中間地点と考えられる船橋と市川に途中下車して、引越し先を探した。なかなか適当な物件が見つからない。2人とも気乗りがしないので、まだまだ日にちがあるので、今回はとりあえず引き上げて、引越し先探しは次の機会にした。

合格のお祝いに2人で東京駅近くのビルのイタリアンレストランでディナーを食べた。

「船橋と市川、どちらも気乗りがしないね。どうも街の雰囲気になじめない」

「私もそう思った。長原から千葉まで1時間10分くらいだから通学可能だと思うので、引越しはやめた方が良いと思います。私は長原の街が好きです」

「もしそうするなら、通学時間が長くなる分、家事を協力しよう」

「大丈夫と思いますが、帰りが遅くなったらお願いします」

「2年後輩の山本君が去年マンションを買ったけど、通勤時間が1時間45分もかかるそうだ。東京では通勤時間は2時間以内であれば良いそうだから、このままでも良いか。引越しを止める代わりに近くにもっと広いマンションを借りるのが良いと思う。美香ちゃんに勉強部屋が必要だから」

「そっちの方が良いかもしれません」

圭さんは、マンションの管理人さんに結婚したので、もう少し広いマンションに替わりたいが、良さそうな物件を知らないかと相談したところ、このマンションに2LDKの事故物件があると教えてくれたと言う。圭さんはマンションのオーナーに事故物件のことを聞きに行った。圭さんから電話が入る。

オーナーに聞いてみたら、賃料を下げても未だに入居者が決まらなくて困っているとのことなので、結婚したのでもっと広いところを考えているので妻と相談してみるといったら、今の部屋と同じ賃料で良いとのこと。どうするというので、気にしないので構わないと言うと、圭さんは転居することに決めた。

圭さんが部屋に戻ってきて詳しい話をしてくれた。昨年夏に高齢の女性が孤独死したとのこと。いつも挨拶していた品の良い高齢の夫人と最近合わなくなっていたのを思い出したとか。私は「知っていて挨拶をしていた人だから大丈夫でしょ、それに圭さんも実家はお墓のそばでなれているでしょ、同じ賃料なら広い方が断然良いに決まってる」と言ったら、圭さんは随分感心していた。

【4月2日(土)】
4月2日(土)に引越し屋さんを頼んで転居した。2LDKだけど部屋の造りは今のところとほとんど同じで、1部屋多いだけ。大きい部屋が私の部屋に、小さめの部屋が圭さんの書斎になった。小さめといっても前の圭さんのお部屋と同じ大きさ。寝室はその時々に応じてそれぞれの部屋を使うことにした。これで新しい生活のスタートができると2人よろこんだ。

【4月5日(水)】
4月5日(水)に入学式がポートアリーナであった。学生は12時集合で1時開会。私は圭さんに是非来て晴れ姿を見てほしいとお願いした。圭さんはもちろんと言って休暇をとって一緒に出席してくれた。式の終了後にまた一緒に帰る。

途中、私に入学祝いをプレゼントしたいと、結婚指輪を買った銀座のティファニーに立ち寄ってくれた。

「入学祝いをしたいけど、美香ちゃんにはブレスレットをしてほしいと思っている。いつか電車でブレスレットをつけている女性を見かけたけど何気ない服装にブレスレットがとても似合っていた」

「ブレスレット、思ってもみなかったけど、圭さんがしてほしいなら喜んでします」

「美香ちゃんは色白だから、気軽にできるシルバーの細いのが似合うと思う。最近は皆スマホを持っているので腕時計をしなくなった。女性のきれいな手が寂しく見える」

「この細い鎖みたいなのをお願いします」

「せっかくだからつけて帰って。いつも身につけていてくれたらうれしいけど」

「ありがとう。もちろんです」

「結婚して約9か月になるけど、今から考えてみれば、こんなに可愛いJKを妻にしていたなんて、男冥利に尽きるよ。まして、これから6年間も美人の女子大生を妻にできるなんて、会社でも話さないようにしなくては。評判になったら嫉まれて転勤にでもなりかねない。本当に、人助けはしておくべきだ『情けは人のためならず』」と帰り道しみじみ言っていた。確かに今、転勤されたら困る。会社の人には会わない方が良いかもしれない。

駅を出ると雨が降ってきた。春の雨。去年の3月3日(木)の雨の日に出会って、相合傘で家まで帰ったことを思い出した。もう1年以上前のことだけど、昨日のことのようにも思える。あの時の雨はとっても冷たくていやだった。そして私は身も心も冷え切っていた。圭さんはそれから私の身も心も温めてくれた。そう思って圭さんの手を握り締めたけど、その手を圭さんは握り返してくれた。嬉しかった。

「圭さんと初めて出会って家へ連れて行ってもらったあの日も雨の日でした。覚えてます?」

「随分前のことにも思えるし、昨日のことのようにも思える。辛い時間は長く感じるけど、楽しい時間はあっという間に過ぎる」

「辛いことはいつまでも覚えているけど、楽しいことは忘れるのが早い気がするわ」

「楽しい時間を大切にしようね」

「いつまでも忘れないように」

今日の春の雨はあの時よりもずっと温かい。これから一雨毎に春らしくなってくる。あの時と同じように相合傘で家へ帰るけど、今は2人とも身も心も温かい。


これで家出JKの私がオッサンに拾われて妻になり女子大生になるまでのお話はおしまいです。めでたし、めでたし。

作品を評価しよう!

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:2

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作品を見ている人にオススメ

エラーが発生しました。

この作品をシェア