ソングが火を起こして青魚をナイフで捌いて料理し、チーネがパンと果物を石のテーブルの上に用意した。

 妖精は菜食主義で肉は食べないが、異界から海に落ちた魚は大好物である。アーズランドの海中には奇妙な古代魚から異常巻アンモナイトが生息していて、神族は食すが妖精は不味いと嫌っていた。

「やっぱ美味いな」
「うん。ソングは魚料理上手だ」

 三枚に切り分けた焼魚と刺身をチーネは木のフォークで食べ、ソングは箸を使って器用に食べている。(十歳まで人間界に住んでいたソングとしては普通の食事スタイルであった。)

「それじゃ、今日の授業を始めるか?神族の歴史を読み取れば、妖精が女性だけになった理由が見えてくる」

「それともう一つ、俺はなぜ妖精の世界に連れて来られた?母からそれとなく聞かされていたが、しっくりこないんだよなー」

 ソングの首には母の形見である父の写真が入ったペンダントが掛けられている。それを手に取ってチーネに見せた。

「勇者ゼツリね?」

 もみあげと顎髭を生やした精悍な顔付きであるが、優しい眼差しと精一杯の笑顔で見守っている。チーネはソングの目を見て、少しは似てるわねと微笑む。

 昼食を終えて、ハーブティーを飲みながらチーネがソングの疑問に答えるべく授業を始めた。岩室の中央に窪みがあり、大理石のホワイトボードと石膏を染めたチョークが置いてある。

「チーネって、防具外すと普通の可愛い女の子になるよな」
「揶揄うのはやめなさい」

 チーネは緑色の胸当てと青い厚手のスリットを外し、ピンクの布ブラと薄手の巻きスカートになっている。

 透けて紐パンが微かに見えるが、全然気にせずにソングに背中を向けて、ボードにユグドラシルの木を描き、九つの国の名前と一番下にアーズランドの名前を記す。

「神々の国の最終戦争を覚えてる?」

「ああ、ラグナロク。プロレス団体の抗争みたいな感じで、ヨツンヘイムの巨人族とアースガルドの神々の戦争に他の国も巻き込まれた。神のくせに、邪悪な欲望に呑み込まれてしまったんだ」

「そう、一番恐ろしかったのは戦争が終わってからも続く呪いだった。腐敗の呪いが生き残った者を灰にして、聖なる木を枯らした」

 チーネがボードに描いたイグドラシルの木に繋がる異世界に次々とバツ印を付け、残った二つの国から線を引いて項目を書き足す。

・アーズランド 精霊の地に棲む妖精族と神族の移民エミー族が魔の呪いから免れた。

・ミッドガルド(人間界) 神を信じなくなり、他の世界から分断されて生き残る。

 ソングは円形に囲む石の段差に腰掛け、ボードではなく、チーネの細い足首から太もも、尻の膨らみと紐パンの食い込んだ割れ目を眺めてうっとりしている。