ヤズベルはファラに四つん這いされて尻を鞭で叩かれた醜態を払拭し、指で口髭をピンと伸ばして威厳のある顔を装い、窓外で待つスパックと伝書鴉に声を荒げて問う。

「何事だ?来客中に現れるとは、重要な案件なんだろうな?」
「ブェッ。もちろんです」
「戦士チームがキタゲロ」
「なに?あのスマフグを倒し、ウルズの泉の最終ゲートを通り抜けたというのか?」
「そうゲロ」

 スパックは窓枠に座って深々と頷き、伝書鴉は室内の匂いを嗅いで澱んだ空気に目を細め、ファラと目が合ったので慌てて視線を逸らす。

「なんなの?ヤズベル」
「アルダリが戦士チームを引き連れて、人間界へ侵入したようです。ランス様の古きライバルが、腐食の呪いを阻止しに現れた」
「へえー、またお父様に取り入って、金儲けができるじゃない」
「めっそうもない。私は善意でランス様の協力をしています。それに戦いは苦手なので、静観させていただきますよ」
「小狡い、策略家だからねー」

 長身のファラは両足を肩幅に開いてポーズを決め、鉄の下着、コルセット、黒革のブラの上から赤いワンピースを着て、ロングスカートのスリットから美脚を覗かせて窓辺へ歩み寄る。

「コラ、エロガラス。まだ話しは終わってないわよ」

 伝書鴉が慌てて飛び立ち、スパックもツノを伸ばして目を回して動揺し、ファラは目尻を吊り上げて鞭でスプーンを飛ばし、空中で羽根を散らした伝書鴉は公園の方へ降下してゆく。

「メスガラスなので、ファラさまのフェロモンが苦手なのです」

 ヤズベルはそう言ったが、内心は鉄の下着で抽出されるエレメントを嗅ぎ取り、危険だと恐怖して飛び去ったと思い、自分も熱くなった性器が萎えるのを感じた。(エレメントの原液は無害であるが、錬金術の調合により恐ろしい物質に変化する。)

「アルダリ率いる戦士がこちらに来たと、ファラさまよりランス様にお伝えください。この情報は無料サービスです」
「当たり前よ。楽しんでるところを邪魔しやがって。異界の生物は嫌いよ。ちょっと知恵があると思って生意気なんだ」

 スパックもマンダー家の魔女を恐れて逃げたかったが、蛇に睨まれたカエルのように心臓がバクバクして動けない。

「それで、そいつら強いの?」
「い、いえ。弱いゲロ」

 ファラは赤いネイルをスパックの腹に食い込ませて指で摘み上げ、顔を近付けて赤い舌でスパックの顎を舐め、スパックは『本当はめちゃ強くて、ヤズベルもマンダー家も負ければいい』と、ドラゴンの神器でスマフグを倒した事は内緒にした。

「ガキと女の子、ナンパなイケメンとスケベジジイ。みんな弱いゲロ」
「ふ〜ん。でもスマフグは止められなかったんだろ?」
「金貨に目がくらんだゲロ」

 そう言われて、ファラはスパックを外に放り投げ、文句を言いたそうなヤズベルを睨み、人差し指を向けて女教師のように注意する。

「父はウルズの泉へ入れるなと言ってた筈。これはヤズベルの失態だと報告しておきます。それにさっきキスを押し退けたのも、マイナスポイントだわね」

 ファラがそう言い捨ててリビングを出て行き、ヤズベルは頭を下げて丁重に玄関まで見送ったが、心の奥底では顔を顰めて愚痴っていた。

『まったくヒステリックになると、手がつけられんぜ』