緑色の草原の中を船首と車輪のある水陸車が走り、前を引くコブロバは背中にコブが二つあり、マイ乳首を取り付ければ旅人に飲み物を与え、愛くるしい瞳で笑顔を振りまく、長い旅路には最適な乗り物である。

 渓谷の吊り橋を渡り、曲がりくねった野道を揺られて巨人の手の如く五本の川が集結するミーミル湖に着くと、アヒルと一緒にコブロバが泳いで水陸車を湖の中央にある城へ運び王女一行が入場した。

 そして正門の扉が開くと、王国専任の錬金術師アルダリが出迎え、その足で王女エッダは城の大広間から塔の上階の寝室へ向かい、極秘裏に死体の現場検証が始められた。


 アルダリは神々の最終戦争『ラグナロク』を唯一知る魔術師であり、白髪で髭を生やして肋骨が浮き出るほど痩せているが、未だに現役だとちょいワルファッションを目指して、スエードのアウターの胸ポケットにはサングラスを入れてある。

 一角獣の角骨の杖を持ち、(わざ)とゆっくり歩き、助手のケインを先頭にして塔の石段を上がる王女の揺れるお尻を眺めて楽しんだ。

 つまり炎と情熱の優れた錬金術師であるが、スケベジジイとしての評判は拭いきれない。その弟子のケインはごく普通の真面目な若者であった。


 雲に隠れていた白カラスが塔のバルコニーへ舞い降り、寝室に入った女王エッダが窓から白カラスをチラッと見て開き戸を閉じ、眩しい陽射しを遮るように赤い花柄のジャカード織のカーテンをきっちり閉めた。

「アリダリ。いつまで、そのままにしておくつもり?」

 塔の狭い寝室にはキングサイズのベッドが鎮座し、シャンデリアの下で性器から炭黒く腐って死んだ王サーディンと愛人がその時の体位を保ったまま抱き合っていた。

「そうですね。これから外しますから少々お待ちを……」

 アリダリは王と愛人の肌の状態を調査してから、腐敗した体が崩れないように王の下半身に馬乗りになっている愛人を助手と二人で持ち上げて引き離す。

「ケイン。そっちを持ってくれ」

 墨黒く変色した皮膚をピンセットでビニール袋に採取していた助手のケインが愛人の左側に立ち、一緒に持ち上げて結合した性器を外し、ゆっくりと床に置いたが、腕がひび割れて傾き、片方の腐敗した乳房が床に崩れ落ちた。