ユグドラシルの木の迷路を通り抜け、ウルズの泉を潜った戦士チームは巨大クラゲの細胞管で人間界へ移送され、夕闇の海に浮上して皮膚に付着したヘドロを拭い、見慣れぬ景色を見渡して、想像以上に汚染された世界だと嘆く。

「油で髪と肌がヌルヌルだ。毒が此処から流れ込んだというアルダリの説が正解だったか?」
「フム、人間は星を消し、欲望と堕落の文明都市を築いたんじゃ」
「俺は平気っすよ。ジェンダ王子はデリケートですからね」
「うん。チーネも大丈夫だよ。星が見えないのは残念だけど……」
「ソングに気を遣ってんだろ?妖精族は住めない世界だ」
「いや、田舎へ行けば海も空も澄んでて、森や川もあるんだぜ」
「ソング。此処は何処なの?」
「たぶん、東京のお台場だと思う」

 レインボーブリッジのイルミネーションが戦士チームの後方に輝き、対岸に高層ビル群と東京タワーが聳え、自由の女神のレプリカが出迎えている。

「東京には可愛い子と遊べる店がいっぱいあるぞ」
「アルダリ。まさかそれが目的で来たんじゃねーだろうな?」

 エリアンがアルダリの赤い褌を引っ張って沈め、溺れそうになったアリダリをソングがとチーネが助け、ウルズの泉でふざけた時とは違うと心配した。

「戦いはこれからだぞ」
「じいさん。しっかりしろ」
「死ぬ……。もうダメじゃ」
「仕方がない。運んでやるか」

 ジェンダ王子がエリアンの盾にアルダリを乗せて、アヒルの被り物をしたトーマが後ろから押し、チーネとソングが先頭になり波を掻き分けて進む。

「砂浜に人間がいるよ」
「波に隠れて泳げ。異世界から来たってバレたら、大騒ぎになるぜ」

 戦士チームは浅瀬になると身を屈めて歩き、岸に近づくとアリダリに服を着せ、トーマはアヒルの被り物を外し、全員砂浜に伏せて周囲を偵察する。

「これからどうする?人間は異世界の存在を知らず、神族や妖精族を見たら驚くでしょうね。アルダリ、なんか策はあるのか?」
「わしを誰だと思う?」
「単なるスケベジジイ」
「そうとも言えるが、急いで出発したのには訳がある。ソング、今日が何の日か知らんのか?」

 アルダリがそう言って立ち上がり、ジェンダ王子とエリアンが慌てて倒そうとして逆にデート中の若者に注目され、剣と盾を手にして身構えたが特に騒ぎ立てる事もなく、ソングが首を傾げて通りを眺め、「ハロウィン……」とアルダリの質問に答えた。