ウルズの泉の噴水が鎮まると、アルダリがズボンを下げて赤い褌となり、エリアンが顔を顰めて怒ってソングとトーマも呆れて文句を言う。

「戦士たちよ、わしに続くが良い」
「アルダリ、なんでまた脱ぐんだ?」
「ふざけるのもいい加減にしろ」
「まったく、懲りないっすね」

 しかしアルダリは無視して赤い褌の股座に手を突っ込み、「アソコの座り心地が悪いんじゃ」と、その手をエリアンに嗅がせようとして、カッコよく飛び込むつもりがエリアンに担ぎ上げられてウルズの泉に放り込まれた。

「コラ、やめろ。年寄りを敬え」

 水面へうつ伏せに落ちて水飛沫が上がり、アルダリが手足をバタつかせて顔を水面に上げ、口から水を吹き出してから水中に潜る。

「スケベジジイめ、溺れたふりかよ?」
「侮れないっすね」
「じゃー、行きますか?」
「うん。チーネがアリダリを追う。たぶん赤い褌が目印なんだよ」

 ジェンダ王子が声を掛け、チーネとソングが先に泉へ飛び込み、アヒルの被り物をしたトーマが続き、剣と盾を背中に装着したエリアンがジェンダ王子と一緒に飛び込む。

『こっちだ……』

 華麗な泳ぎでチーネが先頭を潜り、『ほら』と振り返ってソングを手招き、青い水中に靡く赤い布を指差す。

 アリダリはズボンの裾を首に縛り、大股開きで軽快に潜って赤い褌を見え易くし、鼻から吸い込んでオーツを鼻腔に溜め込み、貴重な酸素を肺に取り込む。

 不慣れなソングが息苦しくなり、『ウゲッ』と口から泡を吐き出して、『鼻だよ』とチーネがゆっくり吸い込めとジェスチャーで教え、『なるほど……』とソングもオーツから酸素を貰う。

 オーツは水の中に生息する光虫で、水から酸素を吸収して体内に蓄え、ウルズの泉を浄化する役割を担っていたが、汚染水の混入により底へ行く程に濃い青緑となりオーツが減少している。

『以前よりも濁っておるわ……』と、アルダリが底から湧く源泉を見て嘆き、徐々に視界が悪くなるのを不安視してスピードを落とし、後続が近付くのを待ってから、下方に微かに見える巨大なブルーの球体へ迫る。

『あれが人間界への入り口じゃ』
『アルダリ。どこにも扉がねーぞ?』
『ブルーの壁すっね』
『細胞膜を通り抜けんだよ』
『巨大なクラゲなのか?』
『フム、触れれば球体が移送地点を決める』
『しかし、汚染されてますね』

 ジェンダ王子がブルーの膜から黒い沈殿物が滲み出ているのに気付き、アルダリが顔を顰めてブルーの細胞膜に手を差し込み、スーッと抜いた穴から球体の中を覗き込む。

『以前はブルーの泡が浮遊する美しい世界だったが、黒い汚物に侵食されてしまった』
『やはり呪いは人間界から漏れているのか?』
『とにかく入りましょう』
『フム、中へ入ればすぐに激流に呑まれ、一瞬で人間界へ着くはずじゃ』

 アルダリが塞がる穴に両手を入れて広げて入り込み、ソングとチーネも細胞膜に手を入れて入り、エリアンとジェンダ王子、躊躇していたトーマもブルーの球体へ入り込むと、細かい気泡の流れが渦を巻き、戦士チームは激流に呑み込まれ、スピンをして細胞のトンネルを通過し、意識が朦朧となった状態で人間界へ運ばれた。