ウルズの泉の付近に休憩スペースがあり、戦士チームは化石の椅子に座って焚き火で暖をとり、エリアンは焼け焦げた戦闘服を直し、ジェンダ王子とトーマは泉の流水で傷付いた顔と腕を洗い、アルダリとチーネはソングが持つ剣と盾が消え去るのを眺めている。

「時間が限られているのか?」

 青く輝く剣身(ブレイド)が青い鏡となり、戸惑うソングの顔が映っていたが、刃先からスーッと透明になって骨のガードとグリップも消え、石床に立て掛けた十字のチェーンが刻まれた盾も消失した。

「フム、股のドラゴンが眠るように、剣と盾のエネルギーも限られているんじゃろう。しかも、チーネの協力なしでは剣も盾も使えまい」
「残念だが、ソングまだ半人前ね」
「くそっ、いつかひとりで剣と盾を出し、自在にコントロールしてみせっぜ」

 ソングの決意にチーネが微笑み、精霊秘体に潜り込んだ時に聴こえた優しい声を想い返す。

「ソング。父と母の声に耳を澄ますことね」
「チーネにも聴こえたのか?」
「うん。顔も見えた。お母さん美人だね」

 チーネには二人の姿まで見え、方法は不明だが精霊秘体の世界に魂を蘇らせ、ソングを正しい道へ導こうとしている。

「なるほど……」とサングラスをしてアリダリが赤い褌一枚で両腕を組み、ゼツリの顰めっ面を想像していると、スマフグが痺れを切らして戦士チームへ近寄り、ウルズの泉を指差して念を押す。

「アルダリ。剣が消えたからって約束は守るが、帰りの金貨は払えるんだろうな?」

「フム、強欲な奴じゃ」とアリダリが苦笑し、ジェンダ王子がスマフグの足元を剣で指し示して苦言を施す。

「自由は何事にも変えがたい。スマフグ、金貨以上の価値があると思わないのか?」
「当然、帰りはフリーにしてもらう」
「そういうことっす」

 エリアンとトーマもジェンダ王子と一緒にスマフグに文句を言ったが、アルダリは意外にも笑顔で対応した。

「まー、いいじゃろ。門番を命じたのじゃから、イチャモンをつけてはいかん。帰りの金貨はヤズベルという商人に出してもらおう」
「そういう事。ルールは守らないとな」

 数十分後、火傷と擦り傷の手当てを終えた戦士チームはぼろぼろの衣服を着て武器を装着し、アルダリの掛け声で立ち上り、ウルズの泉を囲んで水面を眺めた。

「わしが水中を潜り、奥深い水底にある人間界への入り口へ先導する。最初は苦しくとも、すぐに体が慣れてくる筈じゃから、慌てずについてくるんじゃぞ」