王女一行は聖なる岩山を降りる途中、妖精の族長チャチルに案内されて、霧の中に聳え立つ巨大なユグドラシルの枯れ木を眺めた。

「ユグドラシルは大丈夫なのですか?」
「生命は感じる。完全に枯れたら終わりじゃがのう」

 巨石と一体化したユグドラシルの幹に蔓の絡み合った門があり、洞窟の迷路で九つの国と繋がっていたが、神々の世界が滅びてからは一つの国・人間界が存在するだけであった。

「王サーディンが呪いで死んだとなると、時間はそれほど残されてはいまい」

 緑色のドレッドヘアーをした老女チャチルがそう嘆き、王女エッダは表情を曇らせながら精霊の木を後にした。


 数時間後、森のゲストハウスへ戻って身支度を終えた王女一行がコブロバが引く水陸車に乗り、王女は名残惜しげに付近を見渡し、滝の流れる岩場でトレーニングをする少年と妖精の娘を見つけて、見送りに出たチャチルに質問する。

「あれは?」
「少年は伝説の勇者ゼツリの子、ソング。指南しているのは我が娘、チーネじゃ」

「あれが、ゼツリの息子ですか?」

 遠くからではあるが、滝の水飛沫の中で激しい剣の対戦をしている二人の姿を王女は瞳に焼き付け、ユニコーンに跨ったチャチルもソングとチーネの素早い動きを笑顔で見つめている。

 宙を舞うチーネへ水の流れるスピードでソングが剣を繰り出し、二人は重なり合うように石の上に落下すると、仰向けに倒れたソングの上でチーネが顔を寄せて微笑む……。