愛と禁欲のサーガ・腐食の魔法[第一部・人間界都市編]

 石床に落ちた二つの松明の火が消えかかり、広い岩室の奥の暗闇に赤い眼光が浮かび、天井のすぐ下付近で線を描いて侵入者の動きを監視し、ウルズの泉の前き立ち塞がる。

「地竜だ」とチーネが小声で教え、ジェンダ王子とトーマが石床に落ちた松明を拾い、残り火で奥の方を照らすと、地竜のゴツゴツとした尻尾が見えて全員に緊張が走った。

 地竜はユグドラシルの地下に棲み、ミズガルズ(人間界)へと通じるウルズの泉を守る番人であり、罪深い者は餌食にされると恐れられている。

 後ろ足に金属の拘束具が嵌められ、太い鎖に繋がれて行動範囲は限られていたが、岩室のスペースを動き回るには造作無い。

「興奮させるな。怒らせると厄介だぞ」
「といっても、すでに機嫌悪そうっすよ」
「登場の仕方が悪過ぎた。アルダリ、早く交渉しろ」
「フム、ちょっと待ってくれ」

 アルダリが頭を振りながらよろよろと立ち上がり、リュックから金貨の入った布袋を取り出し、ジェンダ王子とトーマは火薬を貰って松明の明かりを復活させた。

「ソング。戦えるの?」
「お股が痛いけど、大丈夫だ」
「天罰が下ったのね」

 ソングが股間を押さえて屈伸し、チーネの横に立って剣を抜くと、エリアンもその横で盾と剣を構え、ジェンダ王子とトーマが松明を眼光の方へ向けて地竜の全体像を照らし出す。

「めちゃ、でかいっすね」
「その割には翼は小さい」

 地竜は翼が退化して飛べないが、火炎はドラゴンよりも凄まじく、鋼の鱗は剣を砕いて矢は弾き返し、太い尻尾は岩をも砕く。

「おまえら、此処をウルズの泉の最終ゲートと知って来たのか?」

 鋭い牙を剥いて蒸気を鼻の穴から吹き出し、戦士チームを赤い眼光で睨み、宙に尻尾を振って威嚇する。

「もちろんだ。スマフグよ」
「俺の名を呼ぶのはアリダリか?」
「ああ、金貨も人数分用意してあるぞ」

 ゲートを通るにはスマフグに金貨か宝石を渡さなけれならない。奥の寝床には財宝が転がり、壁際には骨の残骸が散らばっている。アリダリは用意した七枚の金貨をスマフグの足元に放り、スマフグは人数と合わせて足りないと告げた。

「アリダリ。半分しかねーぞ」
「ナヌ?一名につき金貨一枚の筈じゃ」
「値上がりしたんだ。つまり、この倍の金貨十四枚が必要」
「ふざけるな。我らは王女の命を受けて旅立っている。勝手な事をほざくでない」

 数千年の間、通行料が変更された事はなく、九つの刻印のある純金の金貨は異世界共通貨幣として流通している。

「買収されたのか?入り口にはクォレルの矢、螺旋階段は絶妙なタイミングで崩れ、通行料は値上げされた」

 ジェンダ王子が「これが最後の罠」だと剣を抜いたが、スマフグは意に介さず「イケメンの神族か?」と舌舐めずりをして喜んだ。
 颯爽と前に進み出てスマフグに剣を向けたジェンダ王子であったが、「美味そうな奴だな」と脅かされ、すごすごと後退してトーマと一緒にエリアンとチーネとソングの陣形に隠れ、遺恨を残す女同士の争いに耳を傾ける。

「そんなか細い剣が刺さるかしら?」
「フン、そのぶっとい剣で尻尾を切り落とすことを願ってるわ」

『了解』とエリアンが筋肉を盛り上がらせて片手で太い剣を一振りし、チーネは『眼に突き刺す』と身を低くして蜜蜂の剣を頭上に構え、ソングは『下は俺に任せろ』とアイコンタクトした。

「いくわよ」とチーネが走り出してジャンプすると、ソングは前転してスマフグの足に斬りかかり、エリアンは背後に回り込んで地竜の尻尾に剣を振り下ろす。

「愚かな奴らだ」

 スマフグは久しぶりの戦いを愉しみ、空中で顔面に剣先を向けるチーネを軽く振り払い、チーネは寸前で躱したが、裏拳で叩き落とされて、ソングが剣を持つ手を痺れさせ、火花が飛び散るのを石床に倒れて見た。

「鋼の鱗で剣が弾かれる」
「堅すぎだ」

 エリアンの太い剣でさえ皮膚に傷も付けられず、荒ぶる尻尾に壁際まで弾き飛ばされてしまう。ソングはジャンプして避けたが、チーネが踏み潰されそうになり、寸前で抱き上げて岩陰へ避難する。

「くそっ、腹を切り裂いてやるぜ」
「ソング。その剣では無理だ。背骨の剣を抜き、臀部の盾を使うのよ」
「いや、そう言われても。また、恥ずかしい思いをするだけだぜ」

 ソングはドラゴンの神器が使えるなら、カッコよく取り出して戦っていたが、面接試験の時も失敗したし、体の中に剣と盾がある感覚さえなかった。

「アリダリ、余分の金貨はないのか?このままでは全滅だ」
「実は帰りの金貨も覚束無(おぼつかな)い」

 岩室の隅っこで、ジェンダ王子がアルダリに全額を支払えと提言したが、アリダリは金貨の入った袋の中を覗いて嘆き、城の金庫を開けたトーマが「王国は財政難っす」と呟く。

「チーネが時間を稼ぐから、ソング、なんとかして背骨の剣を抜きなさい。この危機を乗り越えるにはそれしかないよ」
「いや、でも……」

 ソングに抱えられていたチーネが立ち上がり、隅の壁に座り込むエリアンも三角の耳とパンクヘアーを逆立たせて、チーネと一緒に剣を構えてスマフグへ立ち向かう。

「わかった。やってやるぜ」

 ソングがチーネとエリアンの背中に声を上げ、両手を広げて仁王立ちになり、アソコにエネルギーを集中させる。しかし体の中の武器をイメージするが、森の湖に霧がかかったように背骨の剣も臀部の盾も見えてこない……。
『剣と盾は何処にある?』

 腰のキルト生地が少し膨らみ、ソングは股間の辺りに圧迫感を感じたが、父ゼツリが体の中に隠したというドラゴンの神器は見当たらず、額に脂汗が滴り閉じた目に入り込み、思い浮かべたチーネの裸体が消えかかる。

「アルダリ、ソングを残してチーネとエリアンが戦っている。武器を発現させるつもりだ」

 交渉を諦めたジェンダ王子がアリダリに声をかけ、「フム、この危機を脱するにはそれしかあるまい」と一角獣の杖を前に突き出してアドバイスした。

「ソング、もっとエッチな想像をしろ。チーネとやった時を思い出すんじゃ」
「邪念を捨てろ、と正反対すね?」

 何気なく呟いたトーマの言葉に、ジェンダ王子は『勇者ゼツリは無闇に武器が使えないように、至福の愛を感じた時に封印が解かれ、武器の使用時間も制限した』と推理した。

「ソング。真の快感は愛から生まれる。欲望の向こう側にある愛を見つけるんだ」

 ジェンダ王子の声にソングが振り向き、首に掛けた母の形見のペンダントが揺れて開き、揉み上げと顎髭を生やしたゼツリの精悍な顔写真が微笑む。

「なるほど、ゼツリの奴め」

 唯一、一緒に戦った事のあるアリダリがゼツリの思惑に苦笑し、『神々の戦争を嘆き、ドラゴンの神器を封印したい』と苦悩していた最強の戦士を思い浮かべる。

「息子に愛の課題を与えたか?」

 ソングもエッチな想像だけで武器を使えるなら苦労はしなかっただろう。チーネとの初体験を終えたばかりの少年が、欲望の果てに輝く愛を理解し、精霊秘体の中に存在するドラゴンの神器を発現させ、自在に扱うには神聖な魂が必要であった。

「そんな簡単じゃねー」

 目を閉じてチーネの苺の唇と柔らかい桃の乳房を思い浮かべたが、爆発するような快感は得られない。

「僕みたいな愛の熟練者なら、イメージで絶頂に達する事も可能なのですが……」
「それ、自慢すか?」
「フム、ソングにチーネを抱かせるしかあるまい」

 アルダリがジェンダ王子の意見を聞いて『チーネの愛が必要』と答えを出し、トーマが「ここで?」と驚いたが、ジェンダ王子も頷いて、「戦地にベッドを作ってやりましょう」と弓矢に松明の火を付けて放ち、ソングの周辺の石床に刺さると、炎の線が走って四角に囲われ、アリダリが声を張り上げて叫ぶ。

「時間稼ぎは我々がする。チーネはソングとSEXをして、剣と盾を出現させるんじゃ」
 エリアンが防御に徹して剣と盾でスマフグの打撃を食い止め、身軽なチーネが猛スピードでスマフグの背中を駆け上がり、後頭部から蜜蜂の剣を半円に曲げてスマフグの眼を剣先で突き刺す。

「ムッ?」

 死角か襲う剣の軌道にマフグが蒸気の息を吐き出し、一瞬、片眼に刺さったと思われたが、瞼を閉じて跳ね返され、首を振ってチーネを後頭部から投げ飛ばす。

『えっ?』

 チーネはスマフグの耳に掴まって必死耐えていだが、アリダリの叫び声に気を取られ、空中で暗唱して石床に落下した。

『時間稼ぎは我々がする。チーネはソングとSEXをして、剣と盾を出現させるんじゃ』

 ソングも炎で型だったベッドを振り返り、「冗談だろ?」と呟いたが、アルダリは真剣な表情でソングとチーネを睨む返す。

 しかもスマフグは蒸気の輪っかを鼻から吹き出し、息をいっぱいに吸い込んで火炎を吐き出す動作を始めた。(頬をプクッと膨らます事からスマフグと呼ばれ、喉ちんこの火種で、発酵アルコールを発火させて一気に吐き出す。)

「チーネ、逃げろ」

 ソングの叫びと同時に、エリアンがチーネの腕を掴んで退避し、アルダリの手前でスマフグが吐き出した火炎を盾で受け、炎の波を堰き止めたが、エリアンのパンクヘアーとアリダリの髭がチリチリに焼け焦げてしまう。

「火はすぐには吐けまい。王子とトーマはヒットアンドウェイじゃ」
「了解した」
「しょうがないっすね」

 スマフグの足は鎖に繋がれているのを見てアルダリが指示を出し、ジェンダ王子が剣を抜いてスマフグに近寄り、トーマも仕方なくショルダーバッグから出したトカゲの被り物をして、爬虫類の腕でカンフーの構えをする。

「アリダリ、俺は?」
「わしとエリアンは火炎を防ぎ、ベッドを死守する」
「わかった。しかし盾が保つかな?」

 盾はさっきの火炎で黒焦げになり、アリダリが一角獣の杖を向けて霊力のバリアーを張り巡らしたが、それとても火炎に耐えられる時間は少ない。

「フム、三十秒じゃ。次の火炎より三十秒で絶頂に達し、剣と盾を手にせよ」

 走り出したジェンダ王子とトーマはアリダリの声を背中で聴き、スマフグの前で左右に分かれて、振り払う腕を躱して壁際に散らばった。

「それがタイムリミットか?」
「短すぎだろ?」

 チーネとソングは三十秒以内に絶対に達し、ドラゴンの神器を発現させる事以前に、戦いの最中にSEXする事でさえ無理難題に思えた。

「しかも、上手くいっても指を失う」
「最悪、体まで腐って死ぬ」
「でも、ヤルしかねーか?」
「そうね」

 チーネとソングはジェンダ王子が剣を回転させながら逃げ回り、トーマは壁を這って天井へ退避し、アリダリとエリアンが陣形を作ってベッドを守るのを見て覚悟を決めた。

「ソング。やるよ」とチーネがソングを火に囲まれたベッドへ誘い、「ここでか?」と渋ったソングを押し倒して宣言する。

「愛が有れば場所は関係ない。それにソング、あなたは愛の戦士になると誓った。恥ずかしがるより、勇者としてチーネを抱きなさい」
 チーネが甲虫(コウチュウ)の防具と腰のスリットを外し、花柄の巻きスカートを脱いで紐状のパンツ姿になると、ソングも覚悟を決めて仰向けになったままキルトのパンツを脱ぎ、シャツをはだけて胸を手で隠すチーネを手招く。

「やってみせっぞ。チーネ」
「ソング。ロマンスはなしだ」

 チーネは時間がないのでソングの腰の辺りに跨り、ソングはチーネの腰に手を回して興奮したが、周辺ではスマフグと戦士チームの戦いが激化し、体は反応しても心が集中できない。

『この状況で、SEXしろってか?』

 スマフグはジェンダ王子とトーマを岩室の端に追い詰め、エリアンとアリダリが背後から剣と一角獣の杖で突くが、スマフグはエネルギーが回復したら、一気に炎を吐いて焼き殺すつもりで遊んでいる。

「あいつらだけで戦えるのか?それに三十秒なんてムリだ」
「ソング。チーネのテクニックを馬鹿にするな」
「でも、剣を掴めるとも限らないぞ」
「しっかりしなさい。愛の戦士だろ?」

 チーネも初体験を終えた初心者であるが、妖精族の指南役として大胆に振る舞い、馬乗りになってソングの頬を平手で叩いて鼓舞する。

『アッ……』と、強気なチーネがソングの硬くなった物に小さく喘ぎ、腰を浮かせて紐パンを横にずらすと、ソングのアソコが中に少し入ってきた。

『ヤダ、ソングったら。ムリとか言って、速攻で反応してるじゃない』

 小さな顎を突き出してツンと澄ました顔が火照り、砂糖菓子を炙ったトロけた表情になる。

 しかしその時、スマフグが息を吸い込んで頬を膨らまし、炎を口から吐き出してジェンダ王子とトーマが襲われ、エリアンのカウントダウンとアリダリが叫ぶ声が聴こえた。

「1.2.3..……」
「ソング、チーネ。始まったぞ」
「ヤベー、逃げろ」
「速攻で、終わらせてくれー」

 ジェンダ王子とトーマが炎に吹き飛ばされて倒れ込み、アルダリが赤い褌一枚になってスマフグを挑発する。

「こっちじゃ。スマフグ」
「闘牛士のつもりか?」

 エリアンが裸で赤い褌をひらひらさせるアリダリを見て馬鹿にしたが、スマフグは向きを変えてアリダリへ近寄り、焼け焦げたジェンダ王子とトーマはエリアンの盾の中へ入り込む。

『……4.5.6……10』

 チーネはエリアンのカウントを引き継ぎ、馬乗りで腰を振ってソングのドラゴンを呼び覚まし、時間内に愛液を湧出させてソングに勇者の剣を握れと願う。

『ソングのドラゴンよ。キテ……』
『……11.12.13……』

 ソングはチーネが跨った太腿とお尻の感触に興奮し、アソコはすぐに立ち上がったものの、チーネが呟くカウントダウンの秒読みに気を取られ、心の中で父ゼツリに文句を言う。

『くそ~、父はなんて意地悪なんだ。ドラゴンの剣と盾はどこにある?』

 その時、ソングの意識内に入り込んだチーネに呼ばれて、精霊秘体の扉が僅かに開き、薄闇の世界に光が差し込み希望を感じた。

『こっちよ』
『おっ、微かに見えてきたぜ。愛のパワーでチーネをいかせ、勇者の剣を手にしてみせる』

 ソングは目を閉じたまま手を伸ばして二つの桃の乳房に触れ、チーネの喘ぎ声を聴きながら、戦闘中のベッドインを忘れて、無我夢中でチーネを強く抱き締める。

『愛だ。愛を感じろ』

 父ゼツリの低く力強い声が頭の中で聴こえ、ソングは不思議な感覚に陥って体が小さくなり、チーネの蜜で溢れた壺にダイビングし、全身に快感のシャワーを浴びて至福の階段を駆け上がり、太陽の輝く大空へ両手を広げてジャンプした。

『チ~ネ!』
『ソング~』

『今よソング。心の目で見るのです』

 今度は懐かしい母結衣の声が聴こえ、ソングは快感の爆発と同時に目を見開き、チーネも外耳の花冠の蕾が開いて内耳のメシベがオシベの花粉で受粉し、蝶の羽で精霊秘体の空間を舞い、ソングの父と母の存在を知る。

『勇者ゼツリはソングにドラゴンの神器を遺し、お母様と一緒に見守っていたんだ』

 ソングは空中に浮遊して赤土の荒野を見下ろし、『ドラゴンの棲む世界か?』と呟き、
光り輝くドラゴンが暁の空から黄金色の粉を降り注ぐのを呆然と眺めた。(精霊秘体とは体内に造られた異空間で、霊意識の小世界と云われている。)

 ドラゴンが口から炎を吐いて地底から湧き出る黒い煙の獣を焼き払い、チーネは火柱をくぐり抜けて舞い上がり、ソングの横に並んで赤い霧の漂うモニュメントを見渡し、内部に聳え立つ背骨の剣と臀部の盾を指差す。

『ソング、剣と盾だ』
『おお〜、まるでレントゲン写真みてーだ』

 ソングは幻影かと目を指で擦り、背骨の脊椎(せきつい)のプロックに挿し込まれた剣と、臀部の坐骨に被さっている盾を目を凝らして発見した。

『呪いはドラゴンが焼き払っているが、時間がないのでチーネは先に戻る。ソング、抜けるよね?』
『まかせろ』

 ソングがそう言った瞬間、チーネは『アッ…』と絶頂に達して精霊秘体から消え、元の体に戻ってソングの足元で片膝を付き、蜜蜂の剣を構えて秒数を数えた。

『……20.21.22』

 少し遅れてソングの意識も戻り、両足を跳ね上げて火のベッドから立ち上がり、右腕を背中に回して左腕で臀部を触り、勇者の剣と盾を手に取って構えた。

 チーネはその前に屈み込みソングの下半身は隠されていたが、パンツを脱いだ状態で股間のドラゴンは威風堂々と突っ立ち、剣と盾にエネルギーを送っている。
 ドラゴンの剣と盾を構えて走り出したソングにチーネがキルトの巻きスカートを投げ渡し、ソングは空中で腰に巻き付けて戦士チームを救いに向かう。

『……24.25.26』

 スマフグの火炎でエリアンの盾がひび割れ、アルダリの一角獣の杖も熱で折れ曲がり、ジェンダ王子とトーマも後半へ逃れて身動きができない。

「もう限界じゃ」
「このままでは焼け死ぬぞ」
『……28、29』

 タイムアップ寸前でソングがエリアンの前に出て、十字のチェーンが刻まれた盾で床を這う火炎の波を吸い込み、一瞬で消失した炎を見てスマフグは息切れし、再度火を吹こうとするが煙しか出ず、エリアンとアリダリがへなへなと座り込む。

「待たせたな」
「ギリギリだった」
「ふぅ〜、ひやひやさせるな」
「しかし、まだ倒してはない」
「ひぇー、トカゲの丸焼きっす」

 トーマが焼け焦げた被り物を見て嘆き、ジェンダ王子はブランドの髪を手で払って火を消し、ソングの盾の防御力に驚く。

「火を吸い込むとはな?」
「フム、竜族の王ラウバルの力が秘めらておる」
「グラウバルを倒したのはゼツリ」
「なるほど、ドラゴンの骨と鱗で作られているんすね?」

 トーマはドワーフの鍛冶屋の親父に製造技術を叩き込まれ、神々の戦争で家族を失って旅人になった。

「トーマ、よく知っとるな?」
「亡くなった鍛冶屋の親父から、魔法の力を持つドラゴンの盾と剣が存在するって聞いたっす」

 アリダリは焼け焦げた髭と赤い褌の火の粉を払って一息つき、エリアンも黒焦げになった盾を石床に置き、黒革の戦闘服も焼けてボロボロになっていたが、ドラゴンの剣先をスマフグに向けるソングの隣りに立つ。

「ソング。やるな」
「エリアン、休んでていいぜ。スマフグ、おまえの負けだ。諦めて降参しろ」

 エリアンがソングの腰に太腿をピッタリ寄せ、股間のドラゴンがキルト地の巻きスカートの下で横を向いたが、ソングは気にせずに鱗の波打つ剣を構え、右手の小指が腐食して第二関節から欠けているのに気付く。

『ん?』

 アドレナリンが出て痛みは感じなかったが、剣を握れなくなる不安が()ぎり、SEXの回数と比例していると嘆く。

『あと、八回……か?』

 スマフグは歯軋りをして悔しそうにソングが持つ剣と盾を見下ろし、『竜族の王グラウバルが遺した武器かよ?』と呟き、闘志を漲らせて前へ踏み出す。
 青く輝く剣身(ブレイド)にはドラゴンの大鱗が密集して蠢き、グリップとガードは削られた骨に宝石が埋め込まれている。十字のチェーンが刻まれた盾は魔法の力を秘め、攻撃を吸収する事も可能であった。

「人間のガキのようだが、お前は何者だ?」
「ソングだ」

 そう名乗ると、チーネがエリアンを押し退けてソングの横に立ち、胸カップの防具に紐パンのチーネと豊満なエリアンの争いが始まる。

「ちょっとエリアン。くっ付き過ぎ」
「な、なんだよ。邪魔すんなって」
「レズビアンなのに何で?ソングの指南役はチーネなんだよ」
「恋は自由だ。SEXは俺の方がベテランだし、ドラゴンも喜ぶと思うぜ」

 アルダリとジェンダ王子とトーマも背後で陣形を作ったが、女性同士の険悪な雰囲気を見て呆れ、ソングも振り返ってあっけに取られている。

「効き目があり過ぎたか?」とジェンダ王子が小声で呟き、アリダリがキューピッドの矢を使ったと気付く。

「恋の悪戯か?」
「それって、解けないんすか?」
「一度、ヤラないとダメな筈じゃ」
「はい。イージーです」
「まったく、困った王子じゃ」

 アリダリがチーネとエリアンの間に割って入り、ソングの横に立ってスマフグを説得するが、赤い褌一枚の老人が加わって更に心象を悪くした。

「スマフグよ。話を最初に戻して、七枚の金貨で我らを通してくれぬか?ソングと戦えば、お主でも切り刻まれるぞ」
「ふざけるな。おめーら、オレを舐めてんのか?」

 スマフグが怒り狂って翼を広げて四メートル程ダイブし、戦士チームを押し潰そうと襲い掛かる。その時、ソングはスマフグの足を拘束する鎖が突っ張るのを見て、最善の策を思い付く。

『なるほどね』

 戦士チームの頭上を翼と胴体の巨大な影が覆い、左右に散らばって逃げるが前へ走り出したアルダリがうつ伏せに倒れ、ソングが「アリダリー」と心配して叫び、スマフグの股の間で上半身を起こして褌を引っ張るアルダリを見て胸を撫で下ろす。

「これ、大事な褌を踏むでない」
「トーマ、大丈夫?」
「フーッ、服が破れただけっす」

 トーマは背中を鋭い爪で引っ掻かれて転び、チーネが助け起こして避難させ、エリアンはジェンダ王子の上に覆い被さり、尻尾が振られるのを剣で跳ね返す。

「サンキュー、エリアン」

 豊満な胸の下でジェンダ王子が礼を言い、ソングはドラゴンの剣を振り上げてスマフグの尻尾を切断し、尾を片手にぶら下げて剣先を向け、チーネがソングに駆け寄って横に並び、蜜蜂の剣を構えてスマフグを睨みながらソングを制する。

「この剣なら、首だって切れるんだぜ」
「ソング、待ちなさい。その者は仮にもウルズの泉の門番です。九つの国が途絶えたとはいえ、ユグドラシルには必要な存在」
「わかってるよ、チーネ。こいつを許す。俺は愛の戦士だからな」

 ソングはジャンプしてドラゴンの剣を振り上げたが、スマフグの首ではなく、繋がれた鎖を切断して拘束されたスマフグを解放した。
 頑丈な鎖が真っ二つに切れて石床に転がり、カッコよく両足を広げて着地したソングであるが、切り捨てスマフグの尻尾を踏み付けてピクピクと動き「うわっ、生きてんのか?」と飛び退いてころび、「ソング、返して」とチーネが巻きスカートを奪って腰に付け、ソングは下半身丸出しになり、慌てて自分のパンツを取りに走った。

「別に、負けを認めたわけじゃねーぞ」とスマフグが鎖を蹴散らして戦士チームへ迫り、エリアンとジェンダ王子とトーマが対峙して文句を言う。

「まだ、やる気か?」
「往生際が悪いっすね」
「ソング。やっぱ、首切った方がいいかもよ」

 ソングは何も言わずにチーネの衣服を拾って渡し、火の消えたベッドを懐かしむように精霊秘体の中を浮遊した体験を思い起こし、チーネと一緒に服と防具を装着した。

「ソング。また指欠けたね」
「ああ、体の中でドラゴンが呪いを焼き払ってんだな。隠された武器にも驚いたぜ。チーネ、導いてくれてありがとう」
「うん、間に合って良かった」

『フム、誰もが最強の武器を手にすると傲慢になるのだが、ソングには優しさが溢れておる。チーネともいいコンビじゃ……』

 アリダリがスマフグの前へ出て、布袋から金貨を七枚取り出して差し出し、スマフグは赤い褌一枚のアルダリを見下ろす。

「スマフグよ。これでおまえは自由だが、改めてウルズの泉の門番を続けるが良い。そしてわしらをこの金貨で通してくれぬか?」
「しょうがねー。アリダリがそこまで言うなら、許してやるか」

 スマフグは今更地下の棲家から出て、空も飛べないのに地上で権威を振るえるとは思えず、門番の仕事を辞める気はなかった。

「それに俺はこの仕事が気に入っている」
「おおー、それは良かった。では、少し休んだらウルズの泉へのゲートを通らせてもらうぞ」
「アルダリ。人間界へ何をしに行くのか知らないが、ヤズベルという商人と闇に堕ちた錬金術師には気をつけろ」

 スマフグは解放してくれたお礼として、アルダリに忠告し、敢えて名前は出さなかったが、錬金術師ランス・マンダーが罠を仕掛けた首謀者である事を匂わせた。

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