巨石の連なる危険な崖道を軽快に進むチーネとソング。ジェンダ王子はアルダリに手を貸し、足を踏み外すと最後尾の女戦士エリアンが襟首を掴んで助けた。
「アルダリ、しっかりしろ」
「ふむ、そろそろトーマと待ち合わせた場所に着く頃じゃが」
登り坂が緩やかになり、波の紋様の岩肌に囲まれた自然の通路を抜けると、陽が射し込む岩の上に、トーマとベールゼブフォというビーチボール大のカエルが座り、アリダリ達へ同時に右手を上げて迎えた。
「ヤー、遅かったな」
「王の葬儀で慌ただしくてな。しかも恋人が別れを悲しんで大変じゃったわ。トーマ、それで何か変わった事は?」
「一昨日、怪しい商人が通ったそうだぜ」
旅慣れたトーマは夜明けと同時に出発し、アルダリから情報収集して欲しいと頼まれて、仲良しのベールゼブフォから流浪の商人がイグドラシルに向かったと教えられた。
「ヤズペルだ。アイツ、キライ」
「トーマ、カエルと友だちなのか?」
「まーね」
ソングがベールゼブフォの頭を恐る恐る撫で、チーネは珍しくもなくツノを指で弾いて揶揄う。(二本のツノがある古代種で口はかなり大きい。)
「ヤズペルって商人は希少品種を捕まえて、異界へ密輸してたらしいぜ」
「フム、その商人が人間界の者と通じ、悪事を働いているやもしれぬ」
「神々の世界は滅び、七つの道は閉ざされた。現在、ユグドラシルは人間界へしか通じてないんだろ?」
ジェンダ王子がそう聞くと、アリダリは悲しげに霧の向こうに聳えるユグドラシルの木を眺めて、一角獣の杖をついてよろよろと歩き出す。
「無事に通り抜けられるといいのじゃが」
「ユグドラシルの中は迷路だけど、途中までは行ったことあるよ」
チーネがアリダリを追い越して石の上を飛び跳ねて進み、ソングも負けじとその後を追いかけ、トーマはショルダーバックを持ってベールゼブフォに別れを告げる。
ジェンダ王子はブランドの長髪を風に靡かせ、白いブラウスに防具のチョッキを着け、ブラウンのパンツにブーツを履き、弓と盾を背負って腰には剣を装着している。
女戦士エリアンはいつもの黒革の戦闘服で太い剣と盾を持ち、パンクヘアーでメイクも野獣仕様で三角の耳をピンとさせている。
アリダリはサファリファッションで一角獣の角骨の杖とリュックを背負い、トーマは迷彩服にゴーグルと十字架のペンダントをしてショルダーバックを抱えている。
ソングはキルトのジャケットにハーフパンツ。腰のベルトに剣を装着し、甲虫の防具を胸と肘と膝にしている。
チーネは黄金色の髪を編み込んだハーフアップスタイル。キルトの鮮やかな花柄の服を着て、甲虫の胸当て、厚手のスリットを腰に巻き、背中の剣はもちろん蜜蜂の剣で、腰の皮ベルトに短剣を装着している。
やがて霧の中に聳え立つ巨大なユグドラシルの枯れ木へ戦士チームが迫り、時折、尊厳な雰囲気に足を止めて、精霊の木の息遣いに耳を澄ます。
「木というより、化石ですね?」
「いつ朽ち果てても、おかしくねーぞ」
「中で崩れたら、全滅っすね」
その時、エリアンに背負われていたアリダリが豊満な胸の谷間に手を入れ、投げ落とされて地面に腰を打ち、「大丈夫じゃ。まだ、生きとるわ」と自分の事のように返答した。
ユグドラシルの木は背後の巨石の壁面に張り付いて同化し、根も枝も幹も石化して岩肌にめり込み、下部の太い幹に蔓の絡み合った門の入り口がある。
「すげーな」
「驚くのはこれからよ」
チーネとソングが先頭になって門をくぐり抜け、ジェンダ王子が巨木を見上げてアリダリに質問する。
「岩山と一体化しているのか?」
「ああ、幹が空洞化して巨石の内部に洞窟の通路を張り巡らせ、地の底まで続いている。風化して崩れておるが、真の道は変わらぬ」
数歩進むと明かりが途絶えて洞窟の奥が見えなくなり、チーネが背を向けたまま手招くが、ソングは足を止めてアルダリが来るのをを待つ。
「こっちだ」
「チーネ。松明をつけるから待てよ」
「問題ない。夜目は利く」
チーネとエリアンが瞳を光らせて先に進み、「俺も見えるっす」とゴーグルをしたトーマも続く。(妖精のチーネは視聴能力が鋭敏であり、エリアンは猫の瞳をしている。トーマは岩穴を好むドワーフの血筋だ。)
しかしチーネが途中で足を止めて手を背後に向けて制し、エリアンも三角の耳を傾けて風の流れを聴き、猫の瞳で洞窟の奥に目を凝らす。
「何か変ね」
「風が不規則になった……」
「気のせいだろ?心配性すね〜」
トーマは適当なことを言って、エリアンの背後に隠れ、アルダリのリュックから取り出した火種で松明に火を付けたソングとジェンダ王子が駆け寄る。
「どうした?早く行こうぜ」
「よせ。ソング」
制止するチーネの手をソングが払い除け、松明の明かりを前に出して踏み出した時、何かに触れて奥の暗闇から矢が数本飛んで来た。
「クォレルだ」
エリアンが素早く大きな盾をソングの前に出して二本の矢を防ぎ、もう一本の矢はチーネが背中の剣を抜いて叩き落とす。(クォレルとは古代のクロスボウであり、洞窟の奥の台の上に設置された三台のクォレルが入り口付近を狙っていた。)
「罠っすね。光を遮ると発射されるみたい」
ソングの足元を見ていたトーマがゴーグルのスイッチを切り替えて、赤外線が張り巡らせてあるのを見つけた。
「トーマ。見えるなら早く教えろって」
「わりい。このゴーグル、切り替えが鈍くてさ。まさか、こんな罠があるとは思わねーだろ」
ソングがエリアンの盾に刺さって矢を抜いてトーマに文句を言い、ジェンダ王子はセンサーに手を翳して、クォレルのスイッチが入る仕組みを確認した。
「もしかして、ヤズペルという商人の仕業ですか?」
「フム、人間界の技術かもしれぬ。この炎の錬金術師を恐れる者が、人間界にいるってことじゃな」
「いや、戦士の方だと思いますよ」
「スケベジジイを狙ったなら、セクハラの恨みだろ?」
「うん。たくさんいそうだ」
「と、年寄りを脅かすな。旅の楽しみが半減するわ」
「ねっ、もう大丈夫だと思うけど、警戒して進も。アルダリ、こっちでいいよね?」
「ああ、チーネ。今日も可愛いな」
チーネは親しみを込めてアルダリを呼び捨てにしたが、尻を触ろうとしたのでノールックで背中の剣を向けた。
「サンキュー、エリアン」
「き、気にすんな」
盾で矢を防いでくれたエリアンにソングが礼を言い、『親密になってる』とチーネが振り返る。
チーネは審議会を終えた通路で、ジェンダ王子がキューピッドの矢でエリアンに恋の魔法をかけたと疑い、それとなくエリアンに好きなタイプを聞くと、「俺はレズなので、キュートな女の子が好きなんだ」と教えられた。
『だったら、チーネじゃないか?』
「しかしこの盾、デカッ」
「まーな。いつでも守ってやる」
エリアンがソングにそう言って微笑みかけ、猫目で松明の炎を見たせいか、ソングの顔がボヤけて目がクリッとした可愛い女性に見え、慌てて目を瞬いて指で擦る。
「チーネ。エリアンが先頭で、戦士チーム全員の盾になる」
女戦士エリアンはソングの幻影を振り払い、チーネに追いつくとサーディン王の紋章の盾を前方に翳し、後続を引き連れて早足に突き進んだが、暫くすると洞窟の先は途絶えた。
「行き止まりだ」
広い岩室の中央でエリアンが盾を下ろし、閉ざされた三方の岩壁を茫然と眺め、隣で両腕を組むチーネに聞く。
「ここで間違いないのか?」
「うん。チーネはここまでしか来たことがないんだ。上に行けばアースガルズがあり、下にはミズガルズへの入り口があると聞いてる」
ソングが付近を松明で照らし、王子とトーマは岩壁に扉の痕跡がないか調べている。アルダリはリュックからビフレスト(虹の橋)と云われる、九つの国を円で結ぶ図柄の描かれた九角形の鍵を取り出し、戦士チームを集めて見せる。
「この鍵で、下への扉が開く筈だ」
アリダリの指示でソングが岩壁の隅を松明で照らし出すと、ビフレストがピッタリ嵌る窪みがあり、アルダリがミズガルズの文字の位置に回して合わせると、ユグドラシルの幹の年輪が回転し、ギシギシと木材が軋る音が響いて石の扉が開き始めた。
「気をつけろ。螺旋階段が、腐りかけておるからな」
アルダリがそう言ったように、扉の前に立って下を覗くと、中心の柱に太い蔓が巻き付き、踏み板の螺旋階段が下へ続いていたが、老朽化して何箇所が崩れている。
九角形のビフレスト(虹の橋)の鍵で開いた石の扉から、蔓の巻き付く螺旋階段を戦士チームが降りてゆく。体重の軽い順番で、チーネとアリダリ、トーマとソング、ジェンダ王子とエリアンが腐りかけた踏み板を確認して足を踏み出す。
「真っ暗で、下が見えねーぞ」
ソングとジェンダ王子が松明の明かりを下方に向けて照らすが、螺旋階段の着地地点は見えない。
「まるで、古城の魔物の棲家だ」
「ほんと、怪しい雰囲気っす」
「アリダリ、下にはウルズの泉があるだろ?」
「そういえば、水中を潜った記憶があるぜ」
「わしがソングを人間界から連れてきてやったのじゃ。まだ幼かったから、気絶して往生したぞ」
「ふーん」
「チーネ。トーマもバカにすんな」
「フム、下には門番の地竜がいるから気をつけろ」
「チーネは平気だ」
チーネが手摺りの蔓も使わずに螺旋階段を降り、アリダリに手を貸して順調に先頭を進むが、中程の踏み台の根元には切れ目があった。
ナイフで細工した微妙なトラップで、トーマとソングが踏んだ時は大丈夫だったが、ジェンダ王子で少し傾き、エリアンがその踏み台に足をかけた時に完全に折れ、王子、ソング、トーマ、アルダリとドミノ倒しのように螺旋階段を落下する。
「アリダリ」と、チーネが柱の蔓に捕まって手を伸ばすが、アリダリの足を掴んだソングとトーマと王子が連なり、最終的にエリアンが全員を道連れにした。
「アッ、痛~」
広い岩室の床にアリダリとトーマ、ジェンダ王子が重なって落ち、ソングの上にエリアンがボディープレスして、螺旋階段の切れ端が頭や背中を打ち付ける。
ソングは仰向けでエリアンの豊満な胸と石床にサンドされ、息苦しさと心地よい弾力に呻く。
『ブェッ、ジ、ヌゥ……』
普通の者なら重症か死に至る滑落であるが、戦士チームは神族と妖精族から選び抜かれた能力者であり、ソングも人間とはいえ勇者ゼツリの息子である。息を詰まらせながらも、戦闘服からはみ出した乳房の感触に股間のドラゴンが目を覚ます。
「あっ、ソング。大丈夫か?」
エリアンが上半身を起こして悶絶気味のソングの顔を見下ろすと、またもやキュートなソングが瞳に映り、思わずハミ乳を押し付けて抱きつき、ソングの股間の膨らみに太腿を擦り付け、挟み込むて悦ぶ。
『魔法の効き目は順調ですね』と、うつ伏のジェンダ王子がその光景を横目で見て微笑み、アルダリとトーマは起き上がったが、踏み板の破片が落下してアルダリの頭に当たり、またもやバタッと倒れ込む。
螺旋階段から飛び降りたチーネはエリアンの体を持ち上げて剥がし、朦朧としているソングの顔を覗き込んで頬をペタペタと叩く。
「ソング、しっかりしろ」
ソングは恍惚の表情で涎を垂らして「オッパイ……」と呻き、チーネは股間を足蹴りにしてエリアンに警告した。
「エリアン。戦闘服から乳がはみ出てるぞ」
茫然と突っ立つエリアンは胸がもろ見えな事に気付き、慌てて戦闘服を胸元を上げて隠し、肩を竦めてチーネの視線を逸らす。
「誤魔化す気ね?」と険悪な雰囲気になったが、エリアンもチーネも優秀な戦士である。こんな騒動の中でも、戦いの本能は失わず、不穏な視線を感じて剣のグリップに手を掛け、顔を見合わせて辺りを警戒した。
石床に落ちた二つの松明の火が消えかかり、広い岩室の奥の暗闇に赤い眼光が浮かび、天井のすぐ下付近で線を描いて侵入者の動きを監視し、ウルズの泉の前き立ち塞がる。
「地竜だ」とチーネが小声で教え、ジェンダ王子とトーマが石床に落ちた松明を拾い、残り火で奥の方を照らすと、地竜のゴツゴツとした尻尾が見えて全員に緊張が走った。
地竜はユグドラシルの地下に棲み、ミズガルズ(人間界)へと通じるウルズの泉を守る番人であり、罪深い者は餌食にされると恐れられている。
後ろ足に金属の拘束具が嵌められ、太い鎖に繋がれて行動範囲は限られていたが、岩室のスペースを動き回るには造作無い。
「興奮させるな。怒らせると厄介だぞ」
「といっても、すでに機嫌悪そうっすよ」
「登場の仕方が悪過ぎた。アルダリ、早く交渉しろ」
「フム、ちょっと待ってくれ」
アルダリが頭を振りながらよろよろと立ち上がり、リュックから金貨の入った布袋を取り出し、ジェンダ王子とトーマは火薬を貰って松明の明かりを復活させた。
「ソング。戦えるの?」
「お股が痛いけど、大丈夫だ」
「天罰が下ったのね」
ソングが股間を押さえて屈伸し、チーネの横に立って剣を抜くと、エリアンもその横で盾と剣を構え、ジェンダ王子とトーマが松明を眼光の方へ向けて地竜の全体像を照らし出す。
「めちゃ、でかいっすね」
「その割には翼は小さい」
地竜は翼が退化して飛べないが、火炎はドラゴンよりも凄まじく、鋼の鱗は剣を砕いて矢は弾き返し、太い尻尾は岩をも砕く。
「おまえら、此処をウルズの泉の最終ゲートと知って来たのか?」
鋭い牙を剥いて蒸気を鼻の穴から吹き出し、戦士チームを赤い眼光で睨み、宙に尻尾を振って威嚇する。
「もちろんだ。スマフグよ」
「俺の名を呼ぶのはアリダリか?」
「ああ、金貨も人数分用意してあるぞ」
ゲートを通るにはスマフグに金貨か宝石を渡さなけれならない。奥の寝床には財宝が転がり、壁際には骨の残骸が散らばっている。アリダリは用意した七枚の金貨をスマフグの足元に放り、スマフグは人数と合わせて足りないと告げた。
「アリダリ。半分しかねーぞ」
「ナヌ?一名につき金貨一枚の筈じゃ」
「値上がりしたんだ。つまり、この倍の金貨十四枚が必要」
「ふざけるな。我らは王女の命を受けて旅立っている。勝手な事をほざくでない」
数千年の間、通行料が変更された事はなく、九つの刻印のある純金の金貨は異世界共通貨幣として流通している。
「買収されたのか?入り口にはクォレルの矢、螺旋階段は絶妙なタイミングで崩れ、通行料は値上げされた」
ジェンダ王子が「これが最後の罠」だと剣を抜いたが、スマフグは意に介さず「イケメンの神族か?」と舌舐めずりをして喜んだ。
颯爽と前に進み出てスマフグに剣を向けたジェンダ王子であったが、「美味そうな奴だな」と脅かされ、すごすごと後退してトーマと一緒にエリアンとチーネとソングの陣形に隠れ、遺恨を残す女同士の争いに耳を傾ける。
「そんなか細い剣が刺さるかしら?」
「フン、そのぶっとい剣で尻尾を切り落とすことを願ってるわ」
『了解』とエリアンが筋肉を盛り上がらせて片手で太い剣を一振りし、チーネは『眼に突き刺す』と身を低くして蜜蜂の剣を頭上に構え、ソングは『下は俺に任せろ』とアイコンタクトした。
「いくわよ」とチーネが走り出してジャンプすると、ソングは前転してスマフグの足に斬りかかり、エリアンは背後に回り込んで地竜の尻尾に剣を振り下ろす。
「愚かな奴らだ」
スマフグは久しぶりの戦いを愉しみ、空中で顔面に剣先を向けるチーネを軽く振り払い、チーネは寸前で躱したが、裏拳で叩き落とされて、ソングが剣を持つ手を痺れさせ、火花が飛び散るのを石床に倒れて見た。
「鋼の鱗で剣が弾かれる」
「堅すぎだ」
エリアンの太い剣でさえ皮膚に傷も付けられず、荒ぶる尻尾に壁際まで弾き飛ばされてしまう。ソングはジャンプして避けたが、チーネが踏み潰されそうになり、寸前で抱き上げて岩陰へ避難する。
「くそっ、腹を切り裂いてやるぜ」
「ソング。その剣では無理だ。背骨の剣を抜き、臀部の盾を使うのよ」
「いや、そう言われても。また、恥ずかしい思いをするだけだぜ」
ソングはドラゴンの神器が使えるなら、カッコよく取り出して戦っていたが、面接試験の時も失敗したし、体の中に剣と盾がある感覚さえなかった。
「アリダリ、余分の金貨はないのか?このままでは全滅だ」
「実は帰りの金貨も覚束無い」
岩室の隅っこで、ジェンダ王子がアルダリに全額を支払えと提言したが、アリダリは金貨の入った袋の中を覗いて嘆き、城の金庫を開けたトーマが「王国は財政難っす」と呟く。
「チーネが時間を稼ぐから、ソング、なんとかして背骨の剣を抜きなさい。この危機を乗り越えるにはそれしかないよ」
「いや、でも……」
ソングに抱えられていたチーネが立ち上がり、隅の壁に座り込むエリアンも三角の耳とパンクヘアーを逆立たせて、チーネと一緒に剣を構えてスマフグへ立ち向かう。
「わかった。やってやるぜ」
ソングがチーネとエリアンの背中に声を上げ、両手を広げて仁王立ちになり、アソコにエネルギーを集中させる。しかし体の中の武器をイメージするが、森の湖に霧がかかったように背骨の剣も臀部の盾も見えてこない……。
『剣と盾は何処にある?』
腰のキルト生地が少し膨らみ、ソングは股間の辺りに圧迫感を感じたが、父ゼツリが体の中に隠したというドラゴンの神器は見当たらず、額に脂汗が滴り閉じた目に入り込み、思い浮かべたチーネの裸体が消えかかる。
「アルダリ、ソングを残してチーネとエリアンが戦っている。武器を発現させるつもりだ」
交渉を諦めたジェンダ王子がアリダリに声をかけ、「フム、この危機を脱するにはそれしかあるまい」と一角獣の杖を前に突き出してアドバイスした。
「ソング、もっとエッチな想像をしろ。チーネとやった時を思い出すんじゃ」
「邪念を捨てろ、と正反対すね?」
何気なく呟いたトーマの言葉に、ジェンダ王子は『勇者ゼツリは無闇に武器が使えないように、至福の愛を感じた時に封印が解かれ、武器の使用時間も制限した』と推理した。
「ソング。真の快感は愛から生まれる。欲望の向こう側にある愛を見つけるんだ」
ジェンダ王子の声にソングが振り向き、首に掛けた母の形見のペンダントが揺れて開き、揉み上げと顎髭を生やしたゼツリの精悍な顔写真が微笑む。
「なるほど、ゼツリの奴め」
唯一、一緒に戦った事のあるアリダリがゼツリの思惑に苦笑し、『神々の戦争を嘆き、ドラゴンの神器を封印したい』と苦悩していた最強の戦士を思い浮かべる。
「息子に愛の課題を与えたか?」
ソングもエッチな想像だけで武器を使えるなら苦労はしなかっただろう。チーネとの初体験を終えたばかりの少年が、欲望の果てに輝く愛を理解し、精霊秘体の中に存在するドラゴンの神器を発現させ、自在に扱うには神聖な魂が必要であった。
「そんな簡単じゃねー」
目を閉じてチーネの苺の唇と柔らかい桃の乳房を思い浮かべたが、爆発するような快感は得られない。
「僕みたいな愛の熟練者なら、イメージで絶頂に達する事も可能なのですが……」
「それ、自慢すか?」
「フム、ソングにチーネを抱かせるしかあるまい」
アルダリがジェンダ王子の意見を聞いて『チーネの愛が必要』と答えを出し、トーマが「ここで?」と驚いたが、ジェンダ王子も頷いて、「戦地にベッドを作ってやりましょう」と弓矢に松明の火を付けて放ち、ソングの周辺の石床に刺さると、炎の線が走って四角に囲われ、アリダリが声を張り上げて叫ぶ。
「時間稼ぎは我々がする。チーネはソングとSEXをして、剣と盾を出現させるんじゃ」
エリアンが防御に徹して剣と盾でスマフグの打撃を食い止め、身軽なチーネが猛スピードでスマフグの背中を駆け上がり、後頭部から蜜蜂の剣を半円に曲げてスマフグの眼を剣先で突き刺す。
「ムッ?」
死角か襲う剣の軌道にマフグが蒸気の息を吐き出し、一瞬、片眼に刺さったと思われたが、瞼を閉じて跳ね返され、首を振ってチーネを後頭部から投げ飛ばす。
『えっ?』
チーネはスマフグの耳に掴まって必死耐えていだが、アリダリの叫び声に気を取られ、空中で暗唱して石床に落下した。
『時間稼ぎは我々がする。チーネはソングとSEXをして、剣と盾を出現させるんじゃ』
ソングも炎で型だったベッドを振り返り、「冗談だろ?」と呟いたが、アルダリは真剣な表情でソングとチーネを睨む返す。
しかもスマフグは蒸気の輪っかを鼻から吹き出し、息をいっぱいに吸い込んで火炎を吐き出す動作を始めた。(頬をプクッと膨らます事からスマフグと呼ばれ、喉ちんこの火種で、発酵アルコールを発火させて一気に吐き出す。)
「チーネ、逃げろ」
ソングの叫びと同時に、エリアンがチーネの腕を掴んで退避し、アルダリの手前でスマフグが吐き出した火炎を盾で受け、炎の波を堰き止めたが、エリアンのパンクヘアーとアリダリの髭がチリチリに焼け焦げてしまう。
「火はすぐには吐けまい。王子とトーマはヒットアンドウェイじゃ」
「了解した」
「しょうがないっすね」
スマフグの足は鎖に繋がれているのを見てアルダリが指示を出し、ジェンダ王子が剣を抜いてスマフグに近寄り、トーマも仕方なくショルダーバッグから出したトカゲの被り物をして、爬虫類の腕でカンフーの構えをする。
「アリダリ、俺は?」
「わしとエリアンは火炎を防ぎ、ベッドを死守する」
「わかった。しかし盾が保つかな?」
盾はさっきの火炎で黒焦げになり、アリダリが一角獣の杖を向けて霊力のバリアーを張り巡らしたが、それとても火炎に耐えられる時間は少ない。
「フム、三十秒じゃ。次の火炎より三十秒で絶頂に達し、剣と盾を手にせよ」
走り出したジェンダ王子とトーマはアリダリの声を背中で聴き、スマフグの前で左右に分かれて、振り払う腕を躱して壁際に散らばった。
「それがタイムリミットか?」
「短すぎだろ?」
チーネとソングは三十秒以内に絶対に達し、ドラゴンの神器を発現させる事以前に、戦いの最中にSEXする事でさえ無理難題に思えた。
「しかも、上手くいっても指を失う」
「最悪、体まで腐って死ぬ」
「でも、ヤルしかねーか?」
「そうね」
チーネとソングはジェンダ王子が剣を回転させながら逃げ回り、トーマは壁を這って天井へ退避し、アリダリとエリアンが陣形を作ってベッドを守るのを見て覚悟を決めた。
「ソング。やるよ」とチーネがソングを火に囲まれたベッドへ誘い、「ここでか?」と渋ったソングを押し倒して宣言する。
「愛が有れば場所は関係ない。それにソング、あなたは愛の戦士になると誓った。恥ずかしがるより、勇者としてチーネを抱きなさい」
チーネが甲虫の防具と腰のスリットを外し、花柄の巻きスカートを脱いで紐状のパンツ姿になると、ソングも覚悟を決めて仰向けになったままキルトのパンツを脱ぎ、シャツをはだけて胸を手で隠すチーネを手招く。
「やってみせっぞ。チーネ」
「ソング。ロマンスはなしだ」
チーネは時間がないのでソングの腰の辺りに跨り、ソングはチーネの腰に手を回して興奮したが、周辺ではスマフグと戦士チームの戦いが激化し、体は反応しても心が集中できない。
『この状況で、SEXしろってか?』
スマフグはジェンダ王子とトーマを岩室の端に追い詰め、エリアンとアリダリが背後から剣と一角獣の杖で突くが、スマフグはエネルギーが回復したら、一気に炎を吐いて焼き殺すつもりで遊んでいる。
「あいつらだけで戦えるのか?それに三十秒なんてムリだ」
「ソング。チーネのテクニックを馬鹿にするな」
「でも、剣を掴めるとも限らないぞ」
「しっかりしなさい。愛の戦士だろ?」
チーネも初体験を終えた初心者であるが、妖精族の指南役として大胆に振る舞い、馬乗りになってソングの頬を平手で叩いて鼓舞する。
『アッ……』と、強気なチーネがソングの硬くなった物に小さく喘ぎ、腰を浮かせて紐パンを横にずらすと、ソングのアソコが中に少し入ってきた。
『ヤダ、ソングったら。ムリとか言って、速攻で反応してるじゃない』
小さな顎を突き出してツンと澄ました顔が火照り、砂糖菓子を炙ったトロけた表情になる。
しかしその時、スマフグが息を吸い込んで頬を膨らまし、炎を口から吐き出してジェンダ王子とトーマが襲われ、エリアンのカウントダウンとアリダリが叫ぶ声が聴こえた。
「1.2.3..……」
「ソング、チーネ。始まったぞ」
「ヤベー、逃げろ」
「速攻で、終わらせてくれー」
ジェンダ王子とトーマが炎に吹き飛ばされて倒れ込み、アルダリが赤い褌一枚になってスマフグを挑発する。
「こっちじゃ。スマフグ」
「闘牛士のつもりか?」
エリアンが裸で赤い褌をひらひらさせるアリダリを見て馬鹿にしたが、スマフグは向きを変えてアリダリへ近寄り、焼け焦げたジェンダ王子とトーマはエリアンの盾の中へ入り込む。
『……4.5.6……10』
チーネはエリアンのカウントを引き継ぎ、馬乗りで腰を振ってソングのドラゴンを呼び覚まし、時間内に愛液を湧出させてソングに勇者の剣を握れと願う。
『ソングのドラゴンよ。キテ……』
『……11.12.13……』
ソングはチーネが跨った太腿とお尻の感触に興奮し、アソコはすぐに立ち上がったものの、チーネが呟くカウントダウンの秒読みに気を取られ、心の中で父ゼツリに文句を言う。
『くそ~、父はなんて意地悪なんだ。ドラゴンの剣と盾はどこにある?』
その時、ソングの意識内に入り込んだチーネに呼ばれて、精霊秘体の扉が僅かに開き、薄闇の世界に光が差し込み希望を感じた。
『こっちよ』
『おっ、微かに見えてきたぜ。愛のパワーでチーネをいかせ、勇者の剣を手にしてみせる』
ソングは目を閉じたまま手を伸ばして二つの桃の乳房に触れ、チーネの喘ぎ声を聴きながら、戦闘中のベッドインを忘れて、無我夢中でチーネを強く抱き締める。
『愛だ。愛を感じろ』
父ゼツリの低く力強い声が頭の中で聴こえ、ソングは不思議な感覚に陥って体が小さくなり、チーネの蜜で溢れた壺にダイビングし、全身に快感のシャワーを浴びて至福の階段を駆け上がり、太陽の輝く大空へ両手を広げてジャンプした。
『チ~ネ!』
『ソング~』
『今よソング。心の目で見るのです』
今度は懐かしい母結衣の声が聴こえ、ソングは快感の爆発と同時に目を見開き、チーネも外耳の花冠の蕾が開いて内耳のメシベがオシベの花粉で受粉し、蝶の羽で精霊秘体の空間を舞い、ソングの父と母の存在を知る。
『勇者ゼツリはソングにドラゴンの神器を遺し、お母様と一緒に見守っていたんだ』
ソングは空中に浮遊して赤土の荒野を見下ろし、『ドラゴンの棲む世界か?』と呟き、
光り輝くドラゴンが暁の空から黄金色の粉を降り注ぐのを呆然と眺めた。(精霊秘体とは体内に造られた異空間で、霊意識の小世界と云われている。)
ドラゴンが口から炎を吐いて地底から湧き出る黒い煙の獣を焼き払い、チーネは火柱をくぐり抜けて舞い上がり、ソングの横に並んで赤い霧の漂うモニュメントを見渡し、内部に聳え立つ背骨の剣と臀部の盾を指差す。
『ソング、剣と盾だ』
『おお〜、まるでレントゲン写真みてーだ』
ソングは幻影かと目を指で擦り、背骨の脊椎のプロックに挿し込まれた剣と、臀部の坐骨に被さっている盾を目を凝らして発見した。
『呪いはドラゴンが焼き払っているが、時間がないのでチーネは先に戻る。ソング、抜けるよね?』
『まかせろ』
ソングがそう言った瞬間、チーネは『アッ…』と絶頂に達して精霊秘体から消え、元の体に戻ってソングの足元で片膝を付き、蜜蜂の剣を構えて秒数を数えた。
『……20.21.22』
少し遅れてソングの意識も戻り、両足を跳ね上げて火のベッドから立ち上がり、右腕を背中に回して左腕で臀部を触り、勇者の剣と盾を手に取って構えた。
チーネはその前に屈み込みソングの下半身は隠されていたが、パンツを脱いだ状態で股間のドラゴンは威風堂々と突っ立ち、剣と盾にエネルギーを送っている。