石床に落ちた二つの松明の火が消えかかり、広い岩室の奥の暗闇に赤い眼光が浮かび、天井のすぐ下付近で線を描いて侵入者の動きを監視し、ウルズの泉の前き立ち塞がる。

「地竜だ」とチーネが小声で教え、ジェンダ王子とトーマが石床に落ちた松明を拾い、残り火で奥の方を照らすと、地竜のゴツゴツとした尻尾が見えて全員に緊張が走った。

 地竜はユグドラシルの地下に棲み、ミズガルズ(人間界)へと通じるウルズの泉を守る番人であり、罪深い者は餌食にされると恐れられている。

 後ろ足に金属の拘束具が嵌められ、太い鎖に繋がれて行動範囲は限られていたが、岩室のスペースを動き回るには造作無い。

「興奮させるな。怒らせると厄介だぞ」
「といっても、すでに機嫌悪そうっすよ」
「登場の仕方が悪過ぎた。アルダリ、早く交渉しろ」
「フム、ちょっと待ってくれ」

 アルダリが頭を振りながらよろよろと立ち上がり、リュックから金貨の入った布袋を取り出し、ジェンダ王子とトーマは火薬を貰って松明の明かりを復活させた。

「ソング。戦えるの?」
「お股が痛いけど、大丈夫だ」
「天罰が下ったのね」

 ソングが股間を押さえて屈伸し、チーネの横に立って剣を抜くと、エリアンもその横で盾と剣を構え、ジェンダ王子とトーマが松明を眼光の方へ向けて地竜の全体像を照らし出す。

「めちゃ、でかいっすね」
「その割には翼は小さい」

 地竜は翼が退化して飛べないが、火炎はドラゴンよりも凄まじく、鋼の鱗は剣を砕いて矢は弾き返し、太い尻尾は岩をも砕く。

「おまえら、此処をウルズの泉の最終ゲートと知って来たのか?」

 鋭い牙を剥いて蒸気を鼻の穴から吹き出し、戦士チームを赤い眼光で睨み、宙に尻尾を振って威嚇する。

「もちろんだ。スマフグよ」
「俺の名を呼ぶのはアリダリか?」
「ああ、金貨も人数分用意してあるぞ」

 ゲートを通るにはスマフグに金貨か宝石を渡さなけれならない。奥の寝床には財宝が転がり、壁際には骨の残骸が散らばっている。アリダリは用意した七枚の金貨をスマフグの足元に放り、スマフグは人数と合わせて足りないと告げた。

「アリダリ。半分しかねーぞ」
「ナヌ?一名につき金貨一枚の筈じゃ」
「値上がりしたんだ。つまり、この倍の金貨十四枚が必要」
「ふざけるな。我らは王女の命を受けて旅立っている。勝手な事をほざくでない」

 数千年の間、通行料が変更された事はなく、九つの刻印のある純金の金貨は異世界共通貨幣として流通している。

「買収されたのか?入り口にはクォレルの矢、螺旋階段は絶妙なタイミングで崩れ、通行料は値上げされた」

 ジェンダ王子が「これが最後の罠」だと剣を抜いたが、スマフグは意に介さず「イケメンの神族か?」と舌舐めずりをして喜んだ。