巨石の連なる危険な崖道を軽快に進むチーネとソング。ジェンダ王子はアルダリに手を貸し、足を踏み外すと最後尾の女戦士エリアンが襟首を掴んで助けた。

「アルダリ、しっかりしろ」
「ふむ、そろそろトーマと待ち合わせた場所に着く頃じゃが」

 登り坂が緩やかになり、波の紋様の岩肌に囲まれた自然の通路を抜けると、陽が射し込む岩の上に、トーマとベールゼブフォというビーチボール大のカエルが座り、アリダリ達へ同時に右手を上げて迎えた。

「ヤー、遅かったな」
「王の葬儀で慌ただしくてな。しかも恋人が別れを悲しんで大変じゃったわ。トーマ、それで何か変わった事は?」
「一昨日、怪しい商人が通ったそうだぜ」

 旅慣れたトーマは夜明けと同時に出発し、アルダリから情報収集して欲しいと頼まれて、仲良しのベールゼブフォから流浪の商人がイグドラシルに向かったと教えられた。

「ヤズペルだ。アイツ、キライ」
「トーマ、カエルと友だちなのか?」
「まーね」

 ソングがベールゼブフォの頭を恐る恐る撫で、チーネは珍しくもなくツノを指で弾いて揶揄う。(二本のツノがある古代種で口はかなり大きい。)

「ヤズペルって商人は希少品種を捕まえて、異界へ密輸してたらしいぜ」
「フム、その商人が人間界の者と通じ、悪事を働いているやもしれぬ」
「神々の世界は滅び、七つの道は閉ざされた。現在、ユグドラシルは人間界へしか通じてないんだろ?」

 ジェンダ王子がそう聞くと、アリダリは悲しげに霧の向こうに聳えるユグドラシルの木を眺めて、一角獣の杖をついてよろよろと歩き出す。

「無事に通り抜けられるといいのじゃが」
「ユグドラシルの中は迷路だけど、途中までは行ったことあるよ」

 チーネがアリダリを追い越して石の上を飛び跳ねて進み、ソングも負けじとその後を追いかけ、トーマはショルダーバックを持ってベールゼブフォに別れを告げる。

 ジェンダ王子はブランドの長髪を風に靡かせ、白いブラウスに防具のチョッキを着け、ブラウンのパンツにブーツを履き、弓と盾を背負って腰には剣を装着している。

 女戦士エリアンはいつもの黒革の戦闘服で太い剣と盾を持ち、パンクヘアーでメイクも野獣仕様で三角の耳をピンとさせている。

 アリダリはサファリファッションで一角獣の角骨の杖とリュックを背負い、トーマは迷彩服にゴーグルと十字架のペンダントをしてショルダーバックを抱えている。

 ソングはキルトのジャケットにハーフパンツ。腰のベルトに剣を装着し、甲虫の防具を胸と肘と膝にしている。

 チーネは黄金色の髪を編み込んだハーフアップスタイル。キルトの鮮やかな花柄の服を着て、甲虫(コウチュウ)の胸当て、厚手のスリットを腰に巻き、背中の剣はもちろん蜜蜂の剣で、腰の皮ベルトに短剣を装着している。

 やがて霧の中に聳え立つ巨大なユグドラシルの枯れ木へ戦士チームが迫り、時折、尊厳な雰囲気に足を止めて、精霊の木の息遣いに耳を澄ます。

「木というより、化石ですね?」
「いつ朽ち果てても、おかしくねーぞ」
「中で崩れたら、全滅っすね」

 その時、エリアンに背負われていたアリダリが豊満な胸の谷間に手を入れ、投げ落とされて地面に腰を打ち、「大丈夫じゃ。まだ、生きとるわ」と自分の事のように返答した。