翌朝、塔と門に王旗が掲げられて、王サーディンの盛大な葬儀が城で行われた。王国の兵士と民衆が大広場に集まり、ドラゴンとイワシの紋章の彫刻が施された帆船が湖岸に着けられ、棺に入れられた王の遺体(黒炭の残骸)が、飾り付けをした台座に乗せれて運ばれてゆく。

 大空にはカワゲラやシダの大葉を羽にした運搬機に乗る妖精族が見送りに集まり、ランフォリンクスの翼竜が引き上げる篭に乗る妖精もいて、精霊の地へ向かうチーネとソングはユニコーンに跨って、名残惜しそうに城の上空を振り返る。

「カワゲラで飛びてーな」
「うん。でも、ソングの故郷に行くんだ。楽しいかもよ」

 チーネが後ろに乗るソングに微笑みかけて、ユニコーンの手綱を振り下ろして走らせ、その背後をゆっくりと走るコブロバの水陸車にはアルダリとジェンダ王子が寝そべり、馬に乗るエリアンが近寄って声をかけた。

「アルダリ。葬儀が終わってからでも良かっただろ。そんな慌てて人間界へ行く必要があるのか?」
「僕は王に軟弱だと嫌われ、母からは戦士として武勲を上げろと背中を押された。つまり、葬儀に出てる場合じゃないんだ」
「フム、夜までには人間界へ着きたい。ここで王とはお別れじゃ」

 水陸車の後部席でジェンダ王子とアルダリがグラスになみなみと葡萄酒を注ぎ入れ、高々と掲げて一気に呑み干し、女戦士エリアンは「王への忠義心はないのか?」と顔を顰めた。

 精霊の地を遊び場にするチーネが巨石の連なる岩山へ案内し、遠くにユグドラシルの木が見え始めた頃、王の葬儀は佳境に入り、城の見張り台から火矢が放たれ、王の遺体を積んだ帆船に火が燃え移り、ミーミル湖から海へ流れ着く。

「あれは……なに?」

 祭壇に立って祈る王女エッダが異変を感じて空を指差し、大広場に集まった兵士と民衆もざわつき始めた。

「なんか変じゃねーか?」
「空に穴が開いたみたいだ」
「しかも船の周辺だけ、海が荒れてるぞ」

 葬儀の帆船は海上で燃え尽きて、積んだ羊と鶏肉に巨大魚が群がって海中へと葬られるのだが、空が割れて船の周辺に激しいスコールと風が巻き起こっている。

「王の葬儀を汚すのか?」

 先頭のカワゲラに乗っていた族長チャチルが雨と竜巻で火の消された帆船を見下ろし、何者かの仕業だと怒る。しかも海面が波立ってオオダコの足が船に巻き付き、海の底へ引き摺り込まれ、チャチルはカワゲラを上昇させて空の切れ目へ向かう。

「チッ、不快な魔術を使いやがる」

 チャチルは背中に装着していた弓を構え、閉じてゆく空の切れ目へ矢を放った。