『なんなの?』
ソングの性器から出現したドラゴンが火を吐き、地底から沸々と湧き上がる黒い毒煙を焼き払い、弾け飛ぶ泡から変貌した何体もの獣がドラゴンを襲うが、高圧の赤い炎で一瞬で灰と化す。
『黒い呪い……。ドラゴンは黒い獣を消し去り、呪いを防いでいるんだ』
SEXをして性液と共に湧き上がる黒い毒煙を浴びると、肉体は生気を失い黒く腐って死ぬ。
『愛液に呪いを混ぜ込み、闇黒の魔界から湧き上がらせているのか?だとしたら、ソングが危ない』
ドラゴンは幾筋もの赤い炎を吐き奮闘しているが、毒煙は変幻自在に蠢いて地表の裂け目から噴出し、ソングの精霊秘体を侵略しようとしている。
魔界の呪いは邪悪であり、完全に消し去る事は不可能だ。その証拠に一筋の毒煙が宙で揺れ動き、ドラゴンの火を躱して青い炎の矢となり、ソングの小指に突き刺さった。
「い、痛〜。な、なんだよー?」
ソングが左手の小指を押さえて、ベッドの上でのたうち回っている。SEXの快感の直後に、青いバーナーの炎で肉と骨が一瞬にして焼かれ、黒い染みが小指を侵食して激痛が走った。
「黒焦じゃねーか?」
しかしソングは炭黒く変色した小指の痛みよりも、さっきまで抱き締めていたチーネが突然消えている事を心配した。
「チーネ、何処にいる?大丈夫か?」
ソングは左の手首をもう一方の手で押さえて、シーツを捲ったりベッドの下を覗いたりして隅々まで探し、チーネを永遠に守ると誓ったのに、初体験の記念日に破るわけにはいかないと焦る。
「チーネなら平気だ。それよりソング、小指だけで済んで良かったな」
チーネの声がして、小さな蝶が目の前に舞い上がって空中でソングの顔を見つめ、ソングは寄り目にして、蝶の羽を背中に付けてホバリングする数センチのチーネと話す。
「変身したのか?」
「うん。災難だったな。でも、凄いもん見つけたぞ」
「アアー、すげかった」
ソングはSEXの感想と思って微笑んだが、チーネが言いたかったのはソングの体に秘められたアイテムの事であり、その能力でソングは小指の損傷だけで済み、チーネも愛の時間を無事に終える事ができた。
だが、この騒ぎを聞いた族長チャチルが剣と弓を持ち、緊急事態が発生したとポンヌを連れて丸太の通路を早足で進み、ソングの部屋へ向かっていた。
数十分前、夕空から舞い降りたに白い伝書鴉が窓枠にとまり、妖精の族長チャチルはアルダリから書簡が届いたかと近寄ったが、エロガラスはチャチルのフェロモンに興味を示さず、翼を広げて室内を逃げ回る。
「これ、妖精の熟女だぞ。胸も立派なもんだ」
チャチルは両手を広げてエロガラスを捕まえると、首を締め上げて無理やり胸の谷間を見せつけ、ブェッと書簡を吐き出させた。
[王の死は精液から発生する腐食の呪い。妖精族に不安はなかろうが注意せよ。そしてその呪いと戦う勇者の選出を妖精族からもお願いしたい。]
唾液で粘って丸まった紙片を指で広げて読み、「エロババア」と悪態をついて暴れるエロガラスを籠に入れ、窓から山間に沈む夕日を眺めて嘆く。
「王が亡くなったと王女から聞いたが、精液で腐って死んだとはのう……」
その時、集落の外れの方から騒がしい声がして、籠の中でエロガラスが「ハメたら死ぬぞー」と喋った。
チャチルは嫌な予感がして書簡を投げ捨て、剣と弓を手にして部屋を出ると、早足で住まいの繋がる木製の長い通路を歩く。
ポンヌがその慌ただしい姿を見て引き止める。妖精の族長チャチルは緑色のドレッドヘアーをした老婆であるが、剣と弓の腕は衰えず、このままではソングとチーネの仲が引き裂かれると心配した。
「チャチル様。落ち着いてください」
「しかし、怪しげな声が聴こえたぞ」
「たぶん、チーネとソングが遊んでいるだけです。お互い好きらしくて」
「まさか、ソングとチーネがエッチしとるのか?」
ポンヌは問い詰められてチーネとソングがSEXをしている事を白状し、チーネの祖母チャチルが寝取られて怒っていると思ったが、実際は心配で駆け付けたのである。
「やめろ!魔の呪いで腐るぞ」
ドアを蹴破ってソングの部屋に登場したチャチルは弓を構えて叫び、ポンヌはその背後で剣を持ち、魔の獣が現れたら斬り殺せと言われた。
「えっ?」と、パンツを穿いていたソングが振り向き、ハンケツで両手を上げて唖然としている。
「えっ?なに?ごめん、チャチル。マジで怒ってんのか?ポンヌまで、どうした?」
「ヤッタな?」
「いや、まー。でも、そんな怒ることか?それに呪いって?」
「チンコを見せろ」
チャチルは弓の矢をソングの股に向け、魔の呪いの気配を探っている。長年の経験から、邪悪な匂いを嗅ぎ取り、精霊の宿る目で黒い獣を映し出す事ができる。
「なんでだよ?」
「ポンヌ」
「は、はい」
チャチルに指示されたポンヌが剣先を向けてソングに近寄り、パンツを引き下げようとするが、ソングは文句を言って抵抗した。
「妖精は純粋な愛を受け入れるんだろ?俺はマジでチーネを好きなんだぜ」
「いいから、パンツ下げなさい」
「チーネ。チーネは何処におる。姿を見せろ」
部屋の隅の天井付近に飛んでいたチーネが一瞬にして蝶から元の姿に戻り、恥ずかしそうにチャチルの前に全裸で現れた。
「そんな騒いだら照れるだろ?呪いなら、ソングの体の中に潜むドラゴンが防いだ。完全には焼き払えなかったけどね」
「もしかして、コレのこと?」
ソングがパンツを膝までずり下ろし、炭黒く腐食して第二関節から崩れ落ちてしまった小指を立てて苦笑し、チャチルもポンヌもソングのチンコから視線を小指に移し、弓と剣を下ろしてケラケラ笑った。
塔の上のサーディン[イワシの紋章]の旗が夜空に翻り、湖面に映り込む星の輝きを掻き消して、アヒルとカモが仲良く泳いでいる。その暗い水面を城壁の小窓から眺める錬金術師アルダリは、赤いふんどし姿で腰に両手を当てて嘆いた。
「なんてことだ。優秀な戦士が五名も腐って死ぬとはな……。王の死を隠蔽せずに、すぐに警笛を鳴らすべきじゃった」
「アリダリさま。仕方なかったのです。王の名誉は守らなければなりません。それよりも、服を着てくださいよ」
アルダリは研究に夢中になると服を脱ぎ捨て赤いふんどしになる癖があった。弟子のケインが師匠の背中に白衣を掛けてやり、実験器具の後片付けを始めた。
黒色化した肉片を分析して、腐食の呪いと断定したが、元老院は王の名誉を守る為にSEX禁止令を発令するのが遅れ、優秀な戦士を数人失ってしまったのである。
「警告を受けた従者、農民や商人の多くの方は無事でした」
「いや、要請ではSEXの欲望を抑えられない。この呪いはそこにつけ込んでおるわ」
アルダリとケインは王の寝室から黒い細胞と精液の燃え滓を採取してから、ずっと地下の研究室に籠って毒素を調べ、大理石の台にはビーカー、メスシリンダー、三角フラスコ、試験管、アルコールランプ、シャーレなどの器具が並び、炭黒い細胞と粉塵が液体に溶かされ、アルコールランプの熱でガラス管を通り、幾つかの容器に振り分けられて薬品で三原色に変色している。
そして密閉した大きめのガラス容器がデスクの中央に置いてあり、仄かな黒い煙が結集して蠢き、獣の形状に変貌したが呪いの残像でしかなくすぐに消え去ってゆく。
「勇者が何名集まるか、不安じゃ……」
白衣を着たアルダリが壁側のライティングデスクに向かい、暫しペンを持って考え込み、レポート用紙にメンバーと特徴を書き込む。
・錬金術師アルダリ。ダンディーなちょいワル魔術師。
・ジェンダ王子。キューピッドの弓を持つ長髪のイケメン。
・女戦士エリアン。逞しい筋肉と美ボディを誇る野獣の剣士。
(ジェンダ王子はXジェンダーで性自認が男性にも女性にもあてはまらず、エリアンはレズビアンで腐食の呪いからは免れている。)
「わしを含めて、この三名は決定じゃが……」
「アルダリさま。戦士チームと人間界へ向かうとおっしゃってましたが、この呪いの主の目星はついているのですか?」
ケインの問いにアルダリは無言で微笑み返し、数十年前に人間界へ行った時の嫌らしい妄想で、股間がうずうずと元気付くの感じた。
『まだ、ノーパン喫茶はあるかな?今はメイド喫茶だっけ?兎に角、楽しみじゃて……』
キャバクラで指名したバニーガールをレポート用紙に書こうとして辞め、アルダリは妖精族からの戦士選手を期待して、チャチルからの連絡を待った。
そして翌朝、穏やかな陽射しが妖精族の森を照らし、チャチルの部屋の窓から白い伝書鴉が飛び立ち、サーディン城へ向かって青空を羽ばたいていたが、途中で心地良い匂いに誘われて急降下し、草原の木陰に隠れていた店舗車へ降り立った。
今は流浪の商人ヤズベルと呼ばれているが、昔は王侯貴族御用達の貿易商として高貴な貿易商九つの国を行き来していた。しかし神々の最終戦争『ラグナロク』で異界への道は閉ざされ、今はアーズランドとミズガルズ(人間界)の二つの世界で細々と商売をしている。
エピオという象鳥が引く店舗車にYazbel Shopと書かれた派手なステッカーが貼ってあり、骨董品から魔術道具、生活用品まで多様に販売し、額にオスとメスのマーク記号がある伝書鴉は人気商品であった。
「ほれ、女神の香りがするぜ」と、アプロディーテーの蜜液の入った硝子瓶の蓋を開け、女神の香水を宙に漂わせ、城へ向かう伝書鴉を惹きつけて、空から舞い降りるのを待ち受ける。
「ちょっと、見せてもらうぜ」
ヤズベルの腕にとまり、瓶口の匂いを嗅ぐエロガラスの喉を指で撫で、至福の表情で書簡を「ブェッ」と吐き出すと、唾液で丸まった紙片を手のひらで受けて、破れないように慎重に開く。(伝書鴉は受取る者の匂いを嗅ぎ分けて書簡を届けるが、女神の香水は万能である。)
[アルダリへ。妖精族からはチーネとソングを推挙する。チーネは最強の戦士であり、ソングはゼツリの力を秘めているぞ。」
伝聞に目を通したヤズベルは「なるほどな。コレでまた儲かりそうだぜ」と呟き、紙片を丸めてエロガラスの口の中に戻し、笑顔を浮かべて香水の硝子瓶の蓋を閉め、まだ匂いをねだる伝書鴉の頭を小突いて空に放る。
数十分後、城の地下室で実験の疲れからソファで寝てしまったアルダリは、湖面を滑空して城壁の小窓から侵入した伝書鴉に、頬を突かれて目を覚ました。
「おお、待ちかねたぞ」
デスクの上に「ブェッ」っと唾液で粘った紙片を吐き出し、アルダリはチャチルの返信を読んで喜んだ。
「これで戦士が揃った。両名とも希望通りの人選であり、特にソングは自分が五年前に人間界から連れて来て、チャチルに預けたゼツリの息子じゃ」
エロガラスは寄り道した事も気にせず、主人に擦り寄って餌をおねだりし、籠の中で唐揚げをいただき、アリダリは笑顔でレポート用紙にメンバーを書き加えた。
・チーネ。妖精の美少女であり、最強の戦士と云われる蜜蜂の剣の使い手。
・ソング(安室尊具)十五歳。人間の母の子であるが、勇者ゼツリの力を秘めている。
アルダリはメンバー表を早急に元老院に提出し、人間界へ旅立つ準備をしようと思ったが、ある事件によりもう一名メンバーに加える事になった。
昨晩、ヤズベルが城を訪れて王女エッダに接見し、新製品の自慰道具をお勧めして売った事から始まり、ケインが慌てて地下室への階段を降りて呼びに来た。
「アリダリさま。女王がお呼びです」
「ふむ、何事じゃ?」
「なんでも金庫が破られたらしく」
アルダリとケインが階段を駆け上がり、通路を早足で歩いて王室の居間に行くと、王女と側近の侍女四名がある者を捕らえて取り囲んでいた。
真夜中の出来事である。黒いビロードのように揺れる湖面をアヒルの被り物をしたトーマが群れに紛れて泳ぎ、城壁はトカゲの被り物に取り替えてペタペタと登って行く。
(魔変の被り物により、足の指が変形して足ヒレになり、粘着力のある爬虫類の指にもなる。)
狭間窓から忍び込んだトーマは見張りを避けてパラス(居館)へ入り、寝静まった城内の通路を忍び足で歩いて行く。
黒服にショルダーバックとゴーグルをしたトーマは小柄で臆病な男であるが、盗みに関しては天才的で開けられない金庫は無いと自負している。
お目当ての豪華な王室へ入ると、奥の壁に巨大な金庫を見つけて、首に掛けていたヘッドホンを装着して聴診器を扉に当てる。
『頼むぜ……』
胸の十字架のペンダントを鍵穴に差し込むと、イモムシのように鍵穴に合わせて変形し、トーマは微かな音を聴き分けて、三個のダイヤルを回して数字を合わせ、ロックが開錠する音を聴いて微笑む。
『よっしゃ〜』とサイレントで呟き、扉を開けて中を調べたが、金貨数枚と黒いケースしかなくがっかりする。
『まったく、王のくせにしけてやがる』
金貨を布袋に入れて、黒いケースを手に取って開けると、褐色の男性器の玩具が横向きに仕舞われてあり、皮膚感も生々しく、イボイボもあるのを見て『本物みてえだ』呆気に取られ、短剣を持って背後から近寄る者に気付かなかった。
「すぐにケースに戻しなさい」
「わ、わかりました」
トーマは短剣を首に当てられ、上品なケースの蓋を閉めて金庫の中へ戻し、扉をきっちりと閉ざしてから、両手を上げてゆっくりと振り向き、透け透けの寝巻き姿で短剣を構えてて睨む王女エッダに謝罪した。
「王女さま……口が裂けても、欲求不満だなんて言いません。絶対に秘密にすっから、お許しください」
王女エッダは許しを乞うトーマを見下ろし、怒りで短剣を持つ手を震わせながらも、恥ずかしさで顔を赤らめていた。
数時間前、ヤズベルから購入した自慰道具を早速試し、あまりの生々しい使い心地に怖くなり、王女の威厳を守るべく金庫に隠したのである。
アリダリとケインが王室の居間に駆け付け時には、王女エッダとトーマは密約を結び、トーマは命と引き換えに秘密を封印し、戦士チームに入隊して能力を生かすと誓った。
「王室の金庫を開けたのか?」
「ええ、まー、軽いもんです」
トーマは侍女四名に押さえ付けられて剣を向けられていたが、悪びれた様子もなく鍵師の能力を自慢している。
「コイツ、魔変の道具を持ってますよ」
ケインがショルダーバックを開けて、アヒルとトカゲの被り物を取り出してアルダリに見せ、「これを被って城に侵入したか?」と問い詰め、トーマは「フン」と鼻で笑った。
「イモムシの十字架といい、ドワーフの血を引いておるな?」
ドワーフは高度な製造技術を持ち、鍛治の炎で道具に命を吹き込むと云われている。孤児として育ったトーマは苦笑いして答えなかったが、王女エッダがアルダリに冷徹な表情で指示した。
「アリダリ。このトーマという鍵師を戦士チームに加えなさい。役立たずであれば、殺しても構いません」
「なるほど、面白い。この男をチームに加えるとしましょうぞ」
アルダリがイモムシの十字架をトーマの首に戻してやり、侍女からも解放されたトーマは立ち上がって黒服の埃を払い、ショルダーバックを開けてケインに被り物を戻させる。
「んじゃー、飯でも食わしてくれっか?腹減って死にそうだぜ」
正式な名簿用紙が元老院と王女エッダに提出され、アルダリも会議室に呼ばれて戦士チームの適正審議が行われ、ソングの選出だけが四名の議員から反対された。
「人間の子供が魔術師と戦えるものか?」
「ふむ、他のメンバーに異論はないが、この少年は問題があるな」
「それにゼツリはこの国を捨て、ミズガルズに住みおった」
「叛逆の疑いさえあるではないか?」
「それは誤解じゃ。勇者ゼツリは最期まで我らの為に戦い、正義を死守しようとした」
アルダリは憤慨して反論したが、元老院は空論だと聞き入れず、王女エッダの提案でソングは面接試験をして決定する事になった。
「では、他のメンバーは招集して構いませんね?」
「ふむ、問題ない」
「それでは即刻、通達を出しましょう」
アルダリが議員を睨んで退席すると、王女エッダは元老院の機嫌をとって雑談し、戦士選手の通達が発信された事を確信すると、地味な外出着に着替えて石畳の回廊を早足で歩き、一人で城の周辺にある酒蔵へ向かった。
長いスカートの裾を上げて王女エッダが酒蔵入り口の階段を上がり、樽から葡萄酒を瓶詰めしている店主にジェンダ王子の居場所を聞く。
「王子を見てないか?」
「王女様。ジェンダ王子ならあそこにお泊りです」
店主は王女を見て驚き、口止めされていたが宿舎の二階を指差し、王女が顔を顰めて階段へ向かう。
「思った通りだわ」
ジェンダ王子は戦士チームに選ばれた自覚もなく、若い男の子と一緒に酒蔵の二階の部屋で遊んでいた。王女は王子が戦士として戦えるか不安で、居ても立っても居られずに駆け付けたのである。
『王が愛人に産ませた一人息子で、ブロンド長髪のイケメンであるが、性自認が男性にも女性にもあてはまらず、天使のように愛を振り撒いて遊んでいる』
「やべえ、母上だ。じゃー、当分会えないと思うけど、元気でな」
ジェンダ王子が全裸でベッドから起き出して、まだ寝ている男の頬にキスをして別れを告げ、慌てて服を着てキューピッドの弓と剣を持って部屋の出口へ向かう。
「父上が腐って死んだというのに、まだ遊んでいるのですか?」
ドアを開けると、前に立つ王女と出くわして詰め寄られ、ジェンダ王子はブロンドの髪を掻き上げながら後退した。
「いや、寸止めすれば安全なのです。それに僕は性欲より、美しい愛に憧れている」
「兎に角、もっと男子らしくしなさい。先々、貴方は王にならなければなりません」
「はい。戦士チームの件なら喜んで戦いますから、ご安心ください」
ジェンダ王子は戦士チームの名簿用紙を見せ付ける王女に背を向け、窓へ走り出してジャンプした。
「こら、待ちなさい」
王女が窓に駆け寄って叫び、華麗に着地したジェンダ王子は手を振って逃げて行く。
「まったく」と、ため息混じりに王女が呟き、ベッドに寝ている若い男の子をチラッと見て注意する。
「SEXすると、精液でアソコから腐るのよ。暫くは禁欲しなさい」
「わかりました。でも王女さまとなら、死んでも構いませんよ」
王女は微笑む若者を無視して部屋を出たが、股間に見えたモノを想像してつい顔が綻び、王と愛人の哀れな死に様を思い返して気を引き締めた。
逃走に成功したジェンダ王子が人の流れに混じって二階の窓を振り返り、屈強な戦士に正面から衝突し、盛り上がった胸は低反発で気持ち良かったが、引き締まった腹筋と腰に弾き飛ばされて宙に浮き、落下する寸前に逞しい腕に胸元を鷲掴みにされる。
「うわっ〜と」
「ジェンダ王子。女王エッダがこっちへ来ただろ?妖精族の客が城に到着したので、呼びに来てやったぞ」
大柄な女戦士エリアンは宙吊りにした王子を下ろして立たせ、王子は三角の耳を見て「チャーミングだね」と呟く。戦いの時、耳はピンと立ち、鋭い爪と牙は野獣仕様になる。
「じゃー、一緒に見に行こうぜ。僕らと仲間になる戦士だろ?」
「別に俺は王子を呼びに来たわけではない」
「母上もすぐにこっちへ来るさ。しかし相変わらず、すげーファッションだな?」
「ファッションじゃねー。戦闘服だ」
ショートボブで胸元と腹筋の見える黒革のジャケットにスパッツ。背中には大型の野獣の剣を装着し、胸カップの乳首の部分に突起の金具があり、腰のベルトは鎖、ファウルカップの股間には牙のチャックが装着されている。
「君が無事で良かった。活躍を期待してるよ」
「いや、別に王子の為に戦うわけではない。王女に命を捧げているだけだ」
ジェンダ王子はエリアンがレズビアンで腐食の呪を免れた事を知り、キューピッドの弓矢で異性を好きにならないか試してみたかった。
「王子こそ、もう少し戦士らしい服装をした方がいいと思うぜ」
「まっ、僕は悪戯好きの天使なんでね。ライトな感じでいいのさ」
ジェンダ王子は弓と剣を持っていたが、フリフリの白いシャツにダメージジーンズの生地を腰に巻き、エリアンが理想とする戦士とは程遠い。
『この軟弱な王子に国が守れるのだろうか?』と、前を走る王子の背中とお尻を見て嘆く。
ジェンダ王子と女戦士エリアンが大広場へ行くと、城の上空を旋回していた二匹のカワゲラが広場に舞い降り、石畳の砂埃が羽の風圧で舞い上り、妖精の族長チャチルが先に降り立ち、チーネとソングが笑顔で手で振るのが見える。
「少女と少年のようだが?」
「君にとってはそんな感じだろうが、どちらも強い。特に少年の力には興味をそそられるね」
王子が細い唇を指で摘み、青い瞳で見透かすようにソングの体を観察している。エリアンはその横で広い肩をすぼめて首を傾げ、二人で最前列を割って出て、歓迎者の仲間に加わった。
アリダリが真っ先に来客を出迎え、その背後にケインと侍女四人が立ち、周辺に集まった民衆は巨大なカワゲラに驚く。
「やー、よく来てくれたな」
アリダリが妖精の族長チャチルに近寄りハグすると、チャチルはお尻を触られる前に押し返し、後ろに立つチーネとソングを紹介した。
「孫娘のチーネと、ゼツリの息子ソングだ」
「爺さん。久しぶりだな」
「おお、デカくなったじゃねーか」
ソングがアルダリに軽く挨拶して、隣で礼儀正しく跪くチーネに注意されたが、ソングは全然気にしてない。
「ソング。もっと敬意を払いなさい」
「いや、ただのスケベジジイだぞ。この世界に来る時、みんなそう言ってた」
「子供の聞き間違いだろう。チーネは可愛いお嬢さんじゃな。しかも最強の戦士と聞いておる」
「アルダリ、最強の名はまだ譲ってはおらぬぞ」
「そうか。わしだってまだバリバリの現役だぜ」
「ああ、それではこの二人をお主に任せる。王の葬儀は空から見送る手筈で良いな」
チャチルはそう告げてカワゲラに乗り込み、手を振って一気に飛び立つと、もう一匹のカワゲラも後ろから空に舞い上がり、チーネとソングは別れを惜しんで寂しそうに見送る。
その時、長いスカートの裾を捲りながら全速力で走って来た王女エッダが立ち止まり、肩で息をしながら両手を上げて叫ぶ。
「ああ〜、チャチル。会いたかったわ。今度はゆっくり遊びに来てちょうだい」
その声にチャチルは上空から王女を見つけ、カワゲラを湖から城へ滑空させて、王女に手を振り返して白い雲の中へ消え去った。
四名の元老院、王女エッダ、アルダリが一段高い議員席に座り、ソングだけがぽつんと前に立たされ、秘書官から配られたプロフィール用紙に目を通すと、老齢の議長が儀礼的に質問して面接試験がスタートした。
「安室尊具で間違いないかね?」
「うん。ソングって呼んでくれ」
ソングは特に緊張感もなく笑顔で答え、背後の傍聴席には妖精のチーネ、鍵師トーマ、ジェンダ王子、女戦士エリアンが見学している。
「なんであいつだけ面接してんだ?」
アヒルの被り物をした鍵師トーマが隣のチーネに質問して、ジェンダ王子と女戦士エリアンをチラッと見て警戒した。
「たぶん、態度が悪いからよ。ってか君、それ脱ぎなさいよ」
チーネが無理やり被り物を剥ぎ取り、トーマは恥ずかしそうにゴーグルだけして凌ぐ。盗賊の癖に人見知りで臆病者なのだ。
「トーマだっけ?なんで君がすんなりメンバー入りして、ソングがダメなのか不思議」
「アイツ、弱いからだろ?」
「どう見ても、トーマめっちゃ弱そう」
チーネにバカにされて苦笑いしたが、トーマはチーネとは仲良くなれそうだと思った。可愛いし、本音で話してくれる。
「ソングは人間の血を引き、しかも父親がゼツリだからだ」
「なに、あの伝説の勇者ゼツリの息子か?」
ジェンダ王子の答えに前の席に足を投げ出していた女戦士エリアンが驚き、身を乗り出してソングに興味を示す。
「ゼツリは王お気に入りの最強の勇者であったが、人間界の女と結婚して、王国を見捨てたと噂された」
「ふん、神族ってのは心が狭いんだね。偏見で真実が見えてない」
チーネが鼻を鳴らして批判したので、トーマも頷いて手を上げる。
「そうすっよね。俺もドワーフの血が流れってからよく分かる」
「そうなんだ」
「プライドが高いのさ。妖精族は昔から人間界と交流があるが、神族は人間は信じられないと毛嫌いした」
ジェンダ王子が小声で解説し、元老院の議長が席を睨んで木槌を叩き、「静粛に」と注意してからソングに質問した。
「それでソングとやら、人間界から精霊の地へ来て何年が経つ?」
「よく覚えてねーし、そこの爺さんの方が詳しいと思うぜ。異世界には恋人募集中の可愛い子が、山ほどいると誘われたからな」
元老院の四人が一番端に座っているアルダリを睨み、その隣の王女エッダが頭を抱え、アリダリは苦笑いして「ふむ、少年には夢が必要じゃ」と呟く。
傍聴席ではチーネが花冠の耳を真っ赤にして顔を両手で隠し、ジェンダ王子とエリアンがそれを横目で見たが、トーマは妖精族の内情を知らずに素直に憧れた。
「恋人募集中、なのか?」
「ち、違う。んなわけねーだろ」
チーネが否定するのも気にせず、ソングは堂々と自分の力をアピールして、母の名誉の為にも面接試験を突破したかった。
「そんな事より、俺が強いか知りたいんだろ?母が人間だからって、馬鹿にされたくはないんでね」
ソングは首のペンダントを手で握りしめ、母の思いを感じ取る。父の写真が入った母の形見はいつもソングを勇気付けた。
「俺は誰よりも強い」
クリスティアーノ・ロナウドがサッカーの両手を広げて仁王立ちするゴールパフォーマンスをアレンジし、両手の親指で股間を指し示して背筋を伸ばす。
「ドラゴンのパワーを感じろ」
「な、なんじゃ」
アルダリがすぐに反応して身を乗り出し、ソングの股間がキルトの生地を押し上げ、膨れ上がっているのに気付いて唖然とした。
ソングの周辺に熱エネルギーが漂い、頭髪がハリネズミみたいに跳ね上がると、鍛え上げた体の中に一瞬だけ何かが見えた。
「まさか、お前、ゼツリの神器を引き継いだのか?」
元老院の四人と王女エッダには見えなかったが、アルダリは未曾有のドラゴンのエネルギーと、背骨の剣、臀部の盾がソングの体の中に隠されている事を知る。
傍聴席のジェンダ王子とエリアンも荒ぶるエネルギーを感じ取り、目を凝らしてソングを見つめた。
「な、なんだ?」
「ゼツリの遺産だろ。勇者ゼツリはドラゴンを倒し、そのエネルギーを剣と盾に宿らせたと云われている」
「そうだよ」
チーネが我が事のように喜び、深呼吸をして火照った顔を手で扇ぐ。
「ドラゴンの炎で呪いを焼き払えるんだ」
「マ、マジか?ソングってすげ〜な」
トーマが素直に感心し、ソングとも仲良くなれそうだと思った。隙を見て秘書官からプロフィール用紙を盗み、自分と同じく両親がいないのを知って親近感を持つ。
「悲しみを乗り越えて、強くなったのか?」
しかしソングは思いのほか苦戦し、股間のドラゴンを出現させる事も、体に隠された剣と盾を手にする事もできなかった。
「なんか、違う。上手くいかねー」
あの時、ドラゴンが火を吹いて呪いを焼き払い、背骨には剣があり、臀部には盾があったとチーネに教えられたが、それをコントロールして扱うのは難しかった。