塔の上のサーディン[イワシの紋章]の旗が夜空に(ひるがえ)り、湖面に映り込む星の輝きを掻き消して、アヒルとカモが仲良く泳いでいる。その暗い水面を城壁の小窓から眺める錬金術師アルダリは、赤いふんどし姿で腰に両手を当てて嘆いた。

「なんてことだ。優秀な戦士が五名も腐って死ぬとはな……。王の死を隠蔽(いんぺい)せずに、すぐに警笛を鳴らすべきじゃった」
「アリダリさま。仕方なかったのです。王の名誉は守らなければなりません。それよりも、服を着てくださいよ」

 アルダリは研究に夢中になると服を脱ぎ捨て赤いふんどしになる癖があった。弟子のケインが師匠の背中に白衣を掛けてやり、実験器具の後片付けを始めた。

 黒色化した肉片を分析して、腐食の呪いと断定したが、元老院(げんろういん)は王の名誉を守る為にSEX禁止令を発令するのが遅れ、優秀な戦士を数人失ってしまったのである。

「警告を受けた従者、農民や商人の多くの方は無事でした」
「いや、要請ではSEXの欲望を抑えられない。この呪いはそこにつけ込んでおるわ」

 アルダリとケインは王の寝室から黒い細胞と精液の燃え滓を採取してから、ずっと地下の研究室に籠って毒素を調べ、大理石の台にはビーカー、メスシリンダー、三角フラスコ、試験管、アルコールランプ、シャーレなどの器具が並び、炭黒い細胞と粉塵が液体に溶かされ、アルコールランプの熱でガラス管を通り、幾つかの容器に振り分けられて薬品で三原色に変色している。

 そして密閉した大きめのガラス容器がデスクの中央に置いてあり、仄かな黒い煙が結集して蠢き、獣の形状に変貌したが呪いの残像でしかなくすぐに消え去ってゆく。

「勇者が何名集まるか、不安じゃ……」

 白衣を着たアルダリが壁側のライティングデスクに向かい、暫しペンを持って考え込み、レポート用紙にメンバーと特徴を書き込む。

・錬金術師アルダリ。ダンディーなちょいワル魔術師。
・ジェンダ王子。キューピッドの弓を持つ長髪のイケメン。
・女戦士エリアン。逞しい筋肉と美ボディを誇る野獣の剣士。
(ジェンダ王子はXジェンダーで性自認が男性にも女性にもあてはまらず、エリアンはレズビアンで腐食の呪いからは免れている。)

「わしを含めて、この三名は決定じゃが……」
「アルダリさま。戦士チームと人間界へ向かうとおっしゃってましたが、この呪いの主の目星はついているのですか?」

 ケインの問いにアルダリは無言で微笑み返し、数十年前に人間界へ行った時の嫌らしい妄想で、股間がうずうずと元気付くの感じた。

『まだ、ノーパン喫茶はあるかな?今はメイド喫茶だっけ?兎に角、楽しみじゃて……』

 キャバクラで指名したバニーガールをレポート用紙に書こうとして辞め、アルダリは妖精族からの戦士選手を期待して、チャチルからの連絡を待った。


 そして翌朝、穏やかな陽射しが妖精族の森を照らし、チャチルの部屋の窓から白い伝書鴉が飛び立ち、サーディン城へ向かって青空を羽ばたいていたが、途中で心地良い匂いに誘われて急降下し、草原の木陰に隠れていた店舗車へ降り立った。