ソングはチーネの友だち、ボンヌが湿布を取り替えているのを見て、運搬機の底の荷台でチーネとポンヌがペダルを漕ぐのを下から朦朧と眺めたのを思い出す。
妖精の森の木で作られた運搬機は巨大なシダの葉を羽にして、ペダルの動力で羽ばたいて飛ぶが、浮力が足りない場合はランフォリンクスの翼竜に引き上げてもらう。ソングはローブの網に寝かされ、底板の隙間からチーネとポンヌの足が見えた。
「やっとお目覚めですか?」
「ボンヌか?俺、どれくらい寝てた?チーネと戦って、もう少しでゴールできたのに……。やっぱ、ダメだったんだよな」
ソングが葉っぱの天井を見上げて嘆き、ボンヌはソングの胸の傷に貼った湿布薬を取り替えると、ソングのパンツを下げてチンコを観察した。
「ふ〜ん」
「こら、なんてことすんだ」
「あの時、凄かったのよ」
ポンヌが縮んでちっちゃくなったアソコを指で弾いて、「カワイイ」と笑っている。(ソングが気絶している時、ポンヌは蜜蜂の剣に刺された胸の傷と、お尻の治療をして聳り立つ物に驚いた。)
「やめろ。バカ」
ソングが腰を浮かしてキルトのハーフパンツを上げようとするが、ボンヌはそれを制して体を裏返してお尻を叩く。
「大人しくしてなさい」と、乱暴にお尻の湿布薬を剥がして傷の具合を見る。
「こっちはもう大丈夫だね。ソング、あんな危険な真似しなくたって、普通に求愛すれば良かったのよ。チーネはソングのこと、好きだと思うけどな」
ボンヌはチーネと並んで運搬機のペダルを漕ぎながら、ソングがSEXを懸けて妖精の卒業試験に挑戦したと聞き、「チーネに勝てる筈ない」と一緒にケラケラ笑った。
「チーネは妖精族、いや神族の中でも最強の戦士だもん。プライドだってあるし、好きでもソングに負ける訳にはいかないんだよ」
寧ろ妖精は純粋な愛なら、純粋な気持ちで受け止める。それに感じやすくて好奇心も旺盛だと説明した。
「星空の夜。耳元で好きだって囁くのよ。妖精はそういうのに弱いんだ」
ソングはボンヌにそう言われて、「そうなのか?」と、少し気持ちを和らげた。
「直接過ぎたか?チーネと対等にならないと、俺に抱く資格は無いと思ったんだが」
「だから、妖精のハートは温かい光と清らかな水で咲くんだよ。耳の花冠で感じるんだ。理屈と腕力は関係ない。まったく、わかってないわね」
「まっ、俺は人間なので」とソングが苦笑し、今度は純粋に恋をしていると告白しようと思った。
「卒業試験はもっと腕を上げて、再挑戦すればいいか?確かにSEXを懸けて戦うなんて、大人気ないよな〜」
ポンヌは「そもそもガキだよ」と微笑み、薬箱を持って立ち上がると、ベッドに寝ているソングを見下ろして、意味深な言葉を残して部屋を出た。
「とにかく頑張りなさい。まだ少し痺れてると思うけど、ボンヌの特効薬でぴんぴんになるからね。上手くいったら、青魚をご馳走しなさいよ」
ソングは今一つ意味不明だったが、ボンヌの揶揄うような笑みが気になり、想像を巡らしていると湿布薬のせいか瞼が重くなり、うとうとと眠ってしまう。
そして夕暮れになり、お腹が空いてベッドから起き出そうとした時、チーネが食事を運んで部屋に入って来た。
「ソング。具合はどう?」
チーネは編み込んだ黄金色の髪を肩まで下ろし、薄布を羽織っているが胸と腰の付近は微妙に透けて、ピンク色の細い布巻きと赤い紐パンが微かに見えている。
「ああ、もう痺れも取れたぜ」
「じゃー、食事にする?それとも、卒業試験に再挑戦してみるか?」
「いや〜、いくら俺でもまだムリ」
ソングは笑ってベッドから起き出そうとしたが、チーネの様子がなんかおかしい。いつもなら、「まだ寝てんの」と言って叩き起こす筈だし、部屋着はもっとスポーティなのを着ている。
しかも少し恥ずかしそうな笑みを浮かべて、羽織っている布をぱらりと床に落とした。
「バカね。愛の方だよ。そっちの試験さ。そっちはまだ試してないだろ?」
「いや、戦いに負けたし。そ、それに夜空に星が……見えてないぞ」
焦ったソングは窓から陽の沈む夕空を見て、早く夜空に星が輝くことを願い、ボンヌに言われた恋のマニュアルを実行する。森の木と葉で作られた屋根の一部は天窓になるので、手を伸ばして紐を引っ張って開き、星はともかく夕空で雰囲気を醸し出す。
「俺、チーネが好きだ。絶対、最強の愛の戦士になってチーネを守るよ」
「バカね。守るのはこっちだぞ。だって、チーネが最強だもん」
『ヤバい』また、どっちが強いかで言い争いになりそうだと思ったが、その前にチーネの唇がソングの顔に迫って来た。
「好きってだけでいい。チーネもソングが好きだし」
苺の唇が甘く囁き、ソングの唇にぴったりと重なった。それだけで全身のエネルギーが湧き上がり、ソングは爆発しそうになった。
『うわっ、マシュマロかよ〜』
チーネとのキスは苺ミルクの味がして、背中に手を回して抱きしめると、弾力のある雲みたいにフワフワしていた。
『戦っている時のチーネとは全然違くて、バネの筋肉がパイ生地になり、生クリームとカスタードが盛ってあるみたいだ。胸とお尻はフルーツ。白桃みたいな甘い香りがするぞ〜』
ソングはチーネの胸の布巻きを外して乳房の生クリームに顔から突っ伏し、お尻を手のひらに包んで、紐パンを摘んで引っ張って解く。
「優しくしてね。だってソングのアソコ、すごいんだも〜ん」
チーネが猫みたいな声で甘えて、ソングの大きくなったアソコに触れ、黄金色の髪が揺れて小麦粉が宙に舞ってキラキラ輝いている。
『ひえー』と心では快感の叫びを上げながらも、ポンヌに言われた恋のマニュアルを想い出して、チーネの耳元で優しく囁く。
「チーネ。これが俺の大好きなチーネなのか?異世界のドマン中で愛を叫ぶぅ……」
ソングは興奮を抑えきれず、『ああ〜、ダメだ。恋のマニュアル通りにできそうもない』と、アソコがチーネのアソコの中へ入って、愛の告白は喘ぎ声になってしまう。
「ソング。チーネも初めてなんだ。愛の蜜が溢れ出して、薔薇色の花が咲きそうだよ」
チーネはソングの敏感な部分を蜜で濡れた花で包み込み、ゆっくりとお尻を振って花びらを擦り付けた。
ソングはその愛の蜜の中に吸い込まれ、ハート形の星空の宇宙に放り込まれ、愛液を宇宙空間に放出する。
『アッ、アゥア〜』
押し寄せる波飛沫にチーネも絶頂に達し、耳の花冠の蕾が花のように開いて、内耳器官のメシベがオシベの花粉で受粉し、チーネは妖精の原始型に戻って縮小し、ソングの精霊秘体に入り込み、宙に浮かんで体の中に隠された不思議な物体を発見した。
『剣と盾……?』
[妖精について]
・妖精の見かけは人間とそれ程変わりないが、耳が花冠の形状に似ている。
・蕾の外耳が花のように開いて蜜で溢れると、内耳にあるメシベがオシベに受粉して体が急速に縮小して蝶の羽が生えて飛ぶ事ができる。
・それが本来の妖精の姿であり、花粉の授粉は性的な快楽物質ドーパミンが分泌されて起きると言われているが、魔法の領域であり科学的理論では証明不可能であった。
・縮小率も数ミリまで自在に小さくなれると言われるが、愛と精霊の反応なので体現した者は少ない。
・妖精は体の変化だけはなく、視力と霊力がアップして魔法を見透す能力を得る。
チーネは背中に蝶の羽を生やし、精霊の目でソングの体の中に秘められた強力なアイテムを見通した。
『美しくも超剛性の剣が背骨に埋め込まれ、防御の呪文、十字のチェーンが刻まれた盾は臀部に隠されている。これは勇者ゼツリの剣と盾か?』
そしてチーネは股間付近を見て更に驚愕した。ドラゴンのエネルギーが睾丸に備蓄され、性器に潜むドラゴンが出現して、口から火を吹き始めたのである。
『なんなの?』
ソングの性器から出現したドラゴンが火を吐き、地底から沸々と湧き上がる黒い毒煙を焼き払い、弾け飛ぶ泡から変貌した何体もの獣がドラゴンを襲うが、高圧の赤い炎で一瞬で灰と化す。
『黒い呪い……。ドラゴンは黒い獣を消し去り、呪いを防いでいるんだ』
SEXをして性液と共に湧き上がる黒い毒煙を浴びると、肉体は生気を失い黒く腐って死ぬ。
『愛液に呪いを混ぜ込み、闇黒の魔界から湧き上がらせているのか?だとしたら、ソングが危ない』
ドラゴンは幾筋もの赤い炎を吐き奮闘しているが、毒煙は変幻自在に蠢いて地表の裂け目から噴出し、ソングの精霊秘体を侵略しようとしている。
魔界の呪いは邪悪であり、完全に消し去る事は不可能だ。その証拠に一筋の毒煙が宙で揺れ動き、ドラゴンの火を躱して青い炎の矢となり、ソングの小指に突き刺さった。
「い、痛〜。な、なんだよー?」
ソングが左手の小指を押さえて、ベッドの上でのたうち回っている。SEXの快感の直後に、青いバーナーの炎で肉と骨が一瞬にして焼かれ、黒い染みが小指を侵食して激痛が走った。
「黒焦じゃねーか?」
しかしソングは炭黒く変色した小指の痛みよりも、さっきまで抱き締めていたチーネが突然消えている事を心配した。
「チーネ、何処にいる?大丈夫か?」
ソングは左の手首をもう一方の手で押さえて、シーツを捲ったりベッドの下を覗いたりして隅々まで探し、チーネを永遠に守ると誓ったのに、初体験の記念日に破るわけにはいかないと焦る。
「チーネなら平気だ。それよりソング、小指だけで済んで良かったな」
チーネの声がして、小さな蝶が目の前に舞い上がって空中でソングの顔を見つめ、ソングは寄り目にして、蝶の羽を背中に付けてホバリングする数センチのチーネと話す。
「変身したのか?」
「うん。災難だったな。でも、凄いもん見つけたぞ」
「アアー、すげかった」
ソングはSEXの感想と思って微笑んだが、チーネが言いたかったのはソングの体に秘められたアイテムの事であり、その能力でソングは小指の損傷だけで済み、チーネも愛の時間を無事に終える事ができた。
だが、この騒ぎを聞いた族長チャチルが剣と弓を持ち、緊急事態が発生したとポンヌを連れて丸太の通路を早足で進み、ソングの部屋へ向かっていた。
数十分前、夕空から舞い降りたに白い伝書鴉が窓枠にとまり、妖精の族長チャチルはアルダリから書簡が届いたかと近寄ったが、エロガラスはチャチルのフェロモンに興味を示さず、翼を広げて室内を逃げ回る。
「これ、妖精の熟女だぞ。胸も立派なもんだ」
チャチルは両手を広げてエロガラスを捕まえると、首を締め上げて無理やり胸の谷間を見せつけ、ブェッと書簡を吐き出させた。
[王の死は精液から発生する腐食の呪い。妖精族に不安はなかろうが注意せよ。そしてその呪いと戦う勇者の選出を妖精族からもお願いしたい。]
唾液で粘って丸まった紙片を指で広げて読み、「エロババア」と悪態をついて暴れるエロガラスを籠に入れ、窓から山間に沈む夕日を眺めて嘆く。
「王が亡くなったと王女から聞いたが、精液で腐って死んだとはのう……」
その時、集落の外れの方から騒がしい声がして、籠の中でエロガラスが「ハメたら死ぬぞー」と喋った。
チャチルは嫌な予感がして書簡を投げ捨て、剣と弓を手にして部屋を出ると、早足で住まいの繋がる木製の長い通路を歩く。
ポンヌがその慌ただしい姿を見て引き止める。妖精の族長チャチルは緑色のドレッドヘアーをした老婆であるが、剣と弓の腕は衰えず、このままではソングとチーネの仲が引き裂かれると心配した。
「チャチル様。落ち着いてください」
「しかし、怪しげな声が聴こえたぞ」
「たぶん、チーネとソングが遊んでいるだけです。お互い好きらしくて」
「まさか、ソングとチーネがエッチしとるのか?」
ポンヌは問い詰められてチーネとソングがSEXをしている事を白状し、チーネの祖母チャチルが寝取られて怒っていると思ったが、実際は心配で駆け付けたのである。
「やめろ!魔の呪いで腐るぞ」
ドアを蹴破ってソングの部屋に登場したチャチルは弓を構えて叫び、ポンヌはその背後で剣を持ち、魔の獣が現れたら斬り殺せと言われた。
「えっ?」と、パンツを穿いていたソングが振り向き、ハンケツで両手を上げて唖然としている。
「えっ?なに?ごめん、チャチル。マジで怒ってんのか?ポンヌまで、どうした?」
「ヤッタな?」
「いや、まー。でも、そんな怒ることか?それに呪いって?」
「チンコを見せろ」
チャチルは弓の矢をソングの股に向け、魔の呪いの気配を探っている。長年の経験から、邪悪な匂いを嗅ぎ取り、精霊の宿る目で黒い獣を映し出す事ができる。
「なんでだよ?」
「ポンヌ」
「は、はい」
チャチルに指示されたポンヌが剣先を向けてソングに近寄り、パンツを引き下げようとするが、ソングは文句を言って抵抗した。
「妖精は純粋な愛を受け入れるんだろ?俺はマジでチーネを好きなんだぜ」
「いいから、パンツ下げなさい」
「チーネ。チーネは何処におる。姿を見せろ」
部屋の隅の天井付近に飛んでいたチーネが一瞬にして蝶から元の姿に戻り、恥ずかしそうにチャチルの前に全裸で現れた。
「そんな騒いだら照れるだろ?呪いなら、ソングの体の中に潜むドラゴンが防いだ。完全には焼き払えなかったけどね」
「もしかして、コレのこと?」
ソングがパンツを膝までずり下ろし、炭黒く腐食して第二関節から崩れ落ちてしまった小指を立てて苦笑し、チャチルもポンヌもソングのチンコから視線を小指に移し、弓と剣を下ろしてケラケラ笑った。
塔の上のサーディン[イワシの紋章]の旗が夜空に翻り、湖面に映り込む星の輝きを掻き消して、アヒルとカモが仲良く泳いでいる。その暗い水面を城壁の小窓から眺める錬金術師アルダリは、赤いふんどし姿で腰に両手を当てて嘆いた。
「なんてことだ。優秀な戦士が五名も腐って死ぬとはな……。王の死を隠蔽せずに、すぐに警笛を鳴らすべきじゃった」
「アリダリさま。仕方なかったのです。王の名誉は守らなければなりません。それよりも、服を着てくださいよ」
アルダリは研究に夢中になると服を脱ぎ捨て赤いふんどしになる癖があった。弟子のケインが師匠の背中に白衣を掛けてやり、実験器具の後片付けを始めた。
黒色化した肉片を分析して、腐食の呪いと断定したが、元老院は王の名誉を守る為にSEX禁止令を発令するのが遅れ、優秀な戦士を数人失ってしまったのである。
「警告を受けた従者、農民や商人の多くの方は無事でした」
「いや、要請ではSEXの欲望を抑えられない。この呪いはそこにつけ込んでおるわ」
アルダリとケインは王の寝室から黒い細胞と精液の燃え滓を採取してから、ずっと地下の研究室に籠って毒素を調べ、大理石の台にはビーカー、メスシリンダー、三角フラスコ、試験管、アルコールランプ、シャーレなどの器具が並び、炭黒い細胞と粉塵が液体に溶かされ、アルコールランプの熱でガラス管を通り、幾つかの容器に振り分けられて薬品で三原色に変色している。
そして密閉した大きめのガラス容器がデスクの中央に置いてあり、仄かな黒い煙が結集して蠢き、獣の形状に変貌したが呪いの残像でしかなくすぐに消え去ってゆく。
「勇者が何名集まるか、不安じゃ……」
白衣を着たアルダリが壁側のライティングデスクに向かい、暫しペンを持って考え込み、レポート用紙にメンバーと特徴を書き込む。
・錬金術師アルダリ。ダンディーなちょいワル魔術師。
・ジェンダ王子。キューピッドの弓を持つ長髪のイケメン。
・女戦士エリアン。逞しい筋肉と美ボディを誇る野獣の剣士。
(ジェンダ王子はXジェンダーで性自認が男性にも女性にもあてはまらず、エリアンはレズビアンで腐食の呪いからは免れている。)
「わしを含めて、この三名は決定じゃが……」
「アルダリさま。戦士チームと人間界へ向かうとおっしゃってましたが、この呪いの主の目星はついているのですか?」
ケインの問いにアルダリは無言で微笑み返し、数十年前に人間界へ行った時の嫌らしい妄想で、股間がうずうずと元気付くの感じた。
『まだ、ノーパン喫茶はあるかな?今はメイド喫茶だっけ?兎に角、楽しみじゃて……』
キャバクラで指名したバニーガールをレポート用紙に書こうとして辞め、アルダリは妖精族からの戦士選手を期待して、チャチルからの連絡を待った。
そして翌朝、穏やかな陽射しが妖精族の森を照らし、チャチルの部屋の窓から白い伝書鴉が飛び立ち、サーディン城へ向かって青空を羽ばたいていたが、途中で心地良い匂いに誘われて急降下し、草原の木陰に隠れていた店舗車へ降り立った。
今は流浪の商人ヤズベルと呼ばれているが、昔は王侯貴族御用達の貿易商として高貴な貿易商九つの国を行き来していた。しかし神々の最終戦争『ラグナロク』で異界への道は閉ざされ、今はアーズランドとミズガルズ(人間界)の二つの世界で細々と商売をしている。
エピオという象鳥が引く店舗車にYazbel Shopと書かれた派手なステッカーが貼ってあり、骨董品から魔術道具、生活用品まで多様に販売し、額にオスとメスのマーク記号がある伝書鴉は人気商品であった。
「ほれ、女神の香りがするぜ」と、アプロディーテーの蜜液の入った硝子瓶の蓋を開け、女神の香水を宙に漂わせ、城へ向かう伝書鴉を惹きつけて、空から舞い降りるのを待ち受ける。
「ちょっと、見せてもらうぜ」
ヤズベルの腕にとまり、瓶口の匂いを嗅ぐエロガラスの喉を指で撫で、至福の表情で書簡を「ブェッ」と吐き出すと、唾液で丸まった紙片を手のひらで受けて、破れないように慎重に開く。(伝書鴉は受取る者の匂いを嗅ぎ分けて書簡を届けるが、女神の香水は万能である。)
[アルダリへ。妖精族からはチーネとソングを推挙する。チーネは最強の戦士であり、ソングはゼツリの力を秘めているぞ。」
伝聞に目を通したヤズベルは「なるほどな。コレでまた儲かりそうだぜ」と呟き、紙片を丸めてエロガラスの口の中に戻し、笑顔を浮かべて香水の硝子瓶の蓋を閉め、まだ匂いをねだる伝書鴉の頭を小突いて空に放る。
数十分後、城の地下室で実験の疲れからソファで寝てしまったアルダリは、湖面を滑空して城壁の小窓から侵入した伝書鴉に、頬を突かれて目を覚ました。
「おお、待ちかねたぞ」
デスクの上に「ブェッ」っと唾液で粘った紙片を吐き出し、アルダリはチャチルの返信を読んで喜んだ。
「これで戦士が揃った。両名とも希望通りの人選であり、特にソングは自分が五年前に人間界から連れて来て、チャチルに預けたゼツリの息子じゃ」
エロガラスは寄り道した事も気にせず、主人に擦り寄って餌をおねだりし、籠の中で唐揚げをいただき、アリダリは笑顔でレポート用紙にメンバーを書き加えた。
・チーネ。妖精の美少女であり、最強の戦士と云われる蜜蜂の剣の使い手。
・ソング(安室尊具)十五歳。人間の母の子であるが、勇者ゼツリの力を秘めている。
アルダリはメンバー表を早急に元老院に提出し、人間界へ旅立つ準備をしようと思ったが、ある事件によりもう一名メンバーに加える事になった。
昨晩、ヤズベルが城を訪れて王女エッダに接見し、新製品の自慰道具をお勧めして売った事から始まり、ケインが慌てて地下室への階段を降りて呼びに来た。
「アリダリさま。女王がお呼びです」
「ふむ、何事じゃ?」
「なんでも金庫が破られたらしく」
アルダリとケインが階段を駆け上がり、通路を早足で歩いて王室の居間に行くと、王女と側近の侍女四名がある者を捕らえて取り囲んでいた。
真夜中の出来事である。黒いビロードのように揺れる湖面をアヒルの被り物をしたトーマが群れに紛れて泳ぎ、城壁はトカゲの被り物に取り替えてペタペタと登って行く。
(魔変の被り物により、足の指が変形して足ヒレになり、粘着力のある爬虫類の指にもなる。)
狭間窓から忍び込んだトーマは見張りを避けてパラス(居館)へ入り、寝静まった城内の通路を忍び足で歩いて行く。
黒服にショルダーバックとゴーグルをしたトーマは小柄で臆病な男であるが、盗みに関しては天才的で開けられない金庫は無いと自負している。
お目当ての豪華な王室へ入ると、奥の壁に巨大な金庫を見つけて、首に掛けていたヘッドホンを装着して聴診器を扉に当てる。
『頼むぜ……』
胸の十字架のペンダントを鍵穴に差し込むと、イモムシのように鍵穴に合わせて変形し、トーマは微かな音を聴き分けて、三個のダイヤルを回して数字を合わせ、ロックが開錠する音を聴いて微笑む。
『よっしゃ〜』とサイレントで呟き、扉を開けて中を調べたが、金貨数枚と黒いケースしかなくがっかりする。
『まったく、王のくせにしけてやがる』
金貨を布袋に入れて、黒いケースを手に取って開けると、褐色の男性器の玩具が横向きに仕舞われてあり、皮膚感も生々しく、イボイボもあるのを見て『本物みてえだ』呆気に取られ、短剣を持って背後から近寄る者に気付かなかった。
「すぐにケースに戻しなさい」
「わ、わかりました」
トーマは短剣を首に当てられ、上品なケースの蓋を閉めて金庫の中へ戻し、扉をきっちりと閉ざしてから、両手を上げてゆっくりと振り向き、透け透けの寝巻き姿で短剣を構えてて睨む王女エッダに謝罪した。
「王女さま……口が裂けても、欲求不満だなんて言いません。絶対に秘密にすっから、お許しください」
王女エッダは許しを乞うトーマを見下ろし、怒りで短剣を持つ手を震わせながらも、恥ずかしさで顔を赤らめていた。
数時間前、ヤズベルから購入した自慰道具を早速試し、あまりの生々しい使い心地に怖くなり、王女の威厳を守るべく金庫に隠したのである。
アリダリとケインが王室の居間に駆け付け時には、王女エッダとトーマは密約を結び、トーマは命と引き換えに秘密を封印し、戦士チームに入隊して能力を生かすと誓った。
「王室の金庫を開けたのか?」
「ええ、まー、軽いもんです」
トーマは侍女四名に押さえ付けられて剣を向けられていたが、悪びれた様子もなく鍵師の能力を自慢している。
「コイツ、魔変の道具を持ってますよ」
ケインがショルダーバックを開けて、アヒルとトカゲの被り物を取り出してアルダリに見せ、「これを被って城に侵入したか?」と問い詰め、トーマは「フン」と鼻で笑った。
「イモムシの十字架といい、ドワーフの血を引いておるな?」
ドワーフは高度な製造技術を持ち、鍛治の炎で道具に命を吹き込むと云われている。孤児として育ったトーマは苦笑いして答えなかったが、王女エッダがアルダリに冷徹な表情で指示した。
「アリダリ。このトーマという鍵師を戦士チームに加えなさい。役立たずであれば、殺しても構いません」
「なるほど、面白い。この男をチームに加えるとしましょうぞ」
アルダリがイモムシの十字架をトーマの首に戻してやり、侍女からも解放されたトーマは立ち上がって黒服の埃を払い、ショルダーバックを開けてケインに被り物を戻させる。
「んじゃー、飯でも食わしてくれっか?腹減って死にそうだぜ」
正式な名簿用紙が元老院と王女エッダに提出され、アルダリも会議室に呼ばれて戦士チームの適正審議が行われ、ソングの選出だけが四名の議員から反対された。
「人間の子供が魔術師と戦えるものか?」
「ふむ、他のメンバーに異論はないが、この少年は問題があるな」
「それにゼツリはこの国を捨て、ミズガルズに住みおった」
「叛逆の疑いさえあるではないか?」
「それは誤解じゃ。勇者ゼツリは最期まで我らの為に戦い、正義を死守しようとした」
アルダリは憤慨して反論したが、元老院は空論だと聞き入れず、王女エッダの提案でソングは面接試験をして決定する事になった。
「では、他のメンバーは招集して構いませんね?」
「ふむ、問題ない」
「それでは即刻、通達を出しましょう」
アルダリが議員を睨んで退席すると、王女エッダは元老院の機嫌をとって雑談し、戦士選手の通達が発信された事を確信すると、地味な外出着に着替えて石畳の回廊を早足で歩き、一人で城の周辺にある酒蔵へ向かった。
長いスカートの裾を上げて王女エッダが酒蔵入り口の階段を上がり、樽から葡萄酒を瓶詰めしている店主にジェンダ王子の居場所を聞く。
「王子を見てないか?」
「王女様。ジェンダ王子ならあそこにお泊りです」
店主は王女を見て驚き、口止めされていたが宿舎の二階を指差し、王女が顔を顰めて階段へ向かう。
「思った通りだわ」
ジェンダ王子は戦士チームに選ばれた自覚もなく、若い男の子と一緒に酒蔵の二階の部屋で遊んでいた。王女は王子が戦士として戦えるか不安で、居ても立っても居られずに駆け付けたのである。
『王が愛人に産ませた一人息子で、ブロンド長髪のイケメンであるが、性自認が男性にも女性にもあてはまらず、天使のように愛を振り撒いて遊んでいる』
「やべえ、母上だ。じゃー、当分会えないと思うけど、元気でな」
ジェンダ王子が全裸でベッドから起き出して、まだ寝ている男の頬にキスをして別れを告げ、慌てて服を着てキューピッドの弓と剣を持って部屋の出口へ向かう。
「父上が腐って死んだというのに、まだ遊んでいるのですか?」
ドアを開けると、前に立つ王女と出くわして詰め寄られ、ジェンダ王子はブロンドの髪を掻き上げながら後退した。
「いや、寸止めすれば安全なのです。それに僕は性欲より、美しい愛に憧れている」
「兎に角、もっと男子らしくしなさい。先々、貴方は王にならなければなりません」
「はい。戦士チームの件なら喜んで戦いますから、ご安心ください」
ジェンダ王子は戦士チームの名簿用紙を見せ付ける王女に背を向け、窓へ走り出してジャンプした。
「こら、待ちなさい」
王女が窓に駆け寄って叫び、華麗に着地したジェンダ王子は手を振って逃げて行く。
「まったく」と、ため息混じりに王女が呟き、ベッドに寝ている若い男の子をチラッと見て注意する。
「SEXすると、精液でアソコから腐るのよ。暫くは禁欲しなさい」
「わかりました。でも王女さまとなら、死んでも構いませんよ」
王女は微笑む若者を無視して部屋を出たが、股間に見えたモノを想像してつい顔が綻び、王と愛人の哀れな死に様を思い返して気を引き締めた。