チーネが足を前後に開いて低く構え、剣をしならせて前に突き出す。しかしソングは剣先が胸に刺さる寸前に頭上を飛び越え、笑顔で着地して細い岩橋を走り出す。

『完璧……』と、思ったが現実は甘くなく、すぐにお尻を剣で刺されて、海老反(エビゾ)りになって足を止めた。

「セコイぞ」
「こら、ケツはやめろ。便座に座れなくなるだろ」
「じゃー、ここかな?それともこっち?お尻じゃなくて、首筋に刺して終わらせる事もできたのよ。もっと正々堂々と戦って、ゴールとチーネを勝ち取りなさい」

 飛び越える作戦は成功したが、チーネに背中を見せる事は危険だった。ソングは振り返ってチーネの連続攻撃を必死に跳ね返し、中央の楕円形のスペースへ戻って足場を確保した。

「くそー、仕切り直しだ」
「というか、君が不利なのは変わらない」

 素早い剣先がソングの顔面を襲い、左右に顔を振ってギリギリで躱しているが、徐々に遅れて腕や足に傷を負わされる。

「まるで、蜂の大群に襲われてるみたいだ」
「降参しな。まだ、ガキなんだからさ」

 チーネが一旦攻撃を止めて、親指を自分の股に向け、「そんな簡単じゃないわよ」と嘲笑う。

 しかしチーネもソングが嫌いではなかった。最初は人間の少年の指南役を祖母に頼まれて嫌がったが、教えているうちにソングの無邪気で素直な性格に惹かれた。

『君には傲慢な神族にない優しさと、謙虚で真面目な探究心がある。チーネだって、ソングを大好きになったよ』

 それにソングは戦士の才能を秘め、もっと強くなってチーネを超える可能性があった。

『でも、それはまだ先の話。チーネを倒すのはまだムリだ』