愛と禁欲のサーガ・腐食の魔法[第一部・人間界都市編]

 ソングが火を起こして青魚をナイフで捌いて料理し、チーネがパンと果物を石のテーブルの上に用意した。

 妖精は菜食主義で肉は食べないが、異界から海に落ちた魚は大好物である。アーズランドの海中には奇妙な古代魚から異常巻アンモナイトが生息していて、神族は食すが妖精は不味いと嫌っていた。

「やっぱ美味いな」
「うん。ソングは魚料理上手だ」

 三枚に切り分けた焼魚と刺身をチーネは木のフォークで食べ、ソングは箸を使って器用に食べている。(十歳まで人間界に住んでいたソングとしては普通の食事スタイルであった。)

「それじゃ、今日の授業を始めるか?神族の歴史を読み取れば、妖精が女性だけになった理由が見えてくる」

「それともう一つ、俺はなぜ妖精の世界に連れて来られた?母からそれとなく聞かされていたが、しっくりこないんだよなー」

 ソングの首には母の形見である父の写真が入ったペンダントが掛けられている。それを手に取ってチーネに見せた。

「勇者ゼツリね?」

 もみあげと顎髭を生やした精悍な顔付きであるが、優しい眼差しと精一杯の笑顔で見守っている。チーネはソングの目を見て、少しは似てるわねと微笑む。

 昼食を終えて、ハーブティーを飲みながらチーネがソングの疑問に答えるべく授業を始めた。岩室の中央に窪みがあり、大理石のホワイトボードと石膏を染めたチョークが置いてある。

「チーネって、防具外すと普通の可愛い女の子になるよな」
「揶揄うのはやめなさい」

 チーネは緑色の胸当てと青い厚手のスリットを外し、ピンクの布ブラと薄手の巻きスカートになっている。

 透けて紐パンが微かに見えるが、全然気にせずにソングに背中を向けて、ボードにユグドラシルの木を描き、九つの国の名前と一番下にアーズランドの名前を記す。

「神々の国の最終戦争を覚えてる?」

「ああ、ラグナロク。プロレス団体の抗争みたいな感じで、ヨツンヘイムの巨人族とアースガルドの神々の戦争に他の国も巻き込まれた。神のくせに、邪悪な欲望に呑み込まれてしまったんだ」

「そう、一番恐ろしかったのは戦争が終わってからも続く呪いだった。腐敗の呪いが生き残った者を灰にして、聖なる木を枯らした」

 チーネがボードに描いたイグドラシルの木に繋がる異世界に次々とバツ印を付け、残った二つの国から線を引いて項目を書き足す。

・アーズランド 精霊の地に棲む妖精族と神族の移民エミー族が魔の呪いから免れた。

・ミッドガルド(人間界) 神を信じなくなり、他の世界から分断されて生き残る。

 ソングは円形に囲む石の段差に腰掛け、ボードではなく、チーネの細い足首から太もも、尻の膨らみと紐パンの食い込んだ割れ目を眺めてうっとりしている。
「妖精の王もラグナロクの戦いで死んだ。戦争に反対だった族長チャチル、チーネの祖母が数人の仲間と共にアーズランドの精霊の地で生き延びたんだよ」

「それで女性だけになったのか?」

 ソングはハーブティーを飲むフリをして視線を逸らし、嫌らしい目付きでお尻を覗いていたのを誤魔化す。

「そうね。妖精が男の子を産む確率は0.01パーセント。故に妖精の王とするしかなかったらしい」
「ハ、ハーレムじゃねーか?」

 チーネはソングの驚きと歓喜を挑発するように、巻きスカートを揺らして左右に歩き、太ももと紐パンをチラチラと見せている。

「でも妖精はミッドガルドで純粋な男を見つけて子供を産むシステムを考え出したんだ。チーネの母もそうなんだけどさ、病気で死んじゃった」
「つまり、に、人間とSEXしたのか?」

 ソングがまたもや驚きと歓喜の混じり合った声を上げて興奮している。

『で、できる……』

 ゴクッとハーブティーを喉に流し込み、更に一気にコップを空すると、笑みで緩んだ唇からドバッとこぼれ落ちた。

「ソング。さっきから変なこと考えてるでしょ?授業に集中しなさい」

 チーネがソングの前に来て両手を腰に当てて怒ったが、足を開いて巻きスカートが捲れ、紐パンがギリギリの位置で見えそうで見えない。

「君は勇者ゼツリの子であり、チーネと同じく人間の血を持ってるんだぞ」
「わ、わかってる。それで俺はなぜこの異世界にいる?」

 ソングはチーネと恋をして子孫を残す使命なんだと妄想するが、チーネはもっと純粋で崇高な想いを語った。

「アーズランドが守られたのは、勇者ゼツリと錬金術師アルダリ、族長チャチルの力だと云われている。特にゼツリは最強の戦士だったらしく、ドラゴンを倒して、ウルズの泉の門番を命じたのもゼツリだよ」

「マ、マジか?」

「うん。ミッドガルドへ逃げ出して、サーディン王を裏切ったっていう者もいるけど、ゼツリは愛の為に人間界へ行ったんだと思う」

(王サーディンが輝きを失い、堕落したのはゼツリが王の元から去ったからだと云われている。〕

 チーネはそう言ってボードの方へ戻り、台に置いたカップを持って、喉を潤すようにハーブティーを飲んで一息つく。実はソングの熱い視線を感じて、少し頬が火照(ほて)っていたのである。

『ヤダ。アソコも熱くなってる……』

「母が父を愛してたのは間違いない。幼い頃、父みたいに戦う日が来ると俺に言ってたぜ」

「ソング、それだ。精霊の地も、いつ魔の手に侵略されるかわかったもんじゃない。実際、クラウドの予兆により、絶滅の危機が迫っていると祖母が言ってた。チーネの買い被りかもしれないけど、将来ソングは世界を救う最強の戦士になると思ってる。まだまだ力不足ではあるが、そう信じてずっと鍛えてきたつもりだぞ」

「わかった。チーネ、俺に卒業試験を受けさせてくれ。そして俺が勝ったら、SEXしょうぜ」

 ソングは興奮してつい口を滑らせ、欲望を前面に出し過ぎたと後悔したが、もう後には引けなかった。理由はどうあれ、どちらも大人の戦士への第一歩である。
『チーネ、俺に卒業試験を受けさせてくれ。そして俺が勝ったら、SEXしょうぜ』

 チーネはその言葉を聞いてドキドキしたが、指南役として余裕の表情でソングに微笑みかけ、無謀な挑戦だと忠告した。

「いいでしょう。でもチーネに勝つなんて無理だと思う。それに君の今の力じゃ卒業試験は危険だよ。妖精だって、失敗して命を無くす者もいるんだからね」
「俺が人間だからって、甘く見てるんだろ?とにかく俺に勝ったら、SEXすると約束しろ」
「いいでしょう。SEXを賭けて戦いましょう」

 そう言ってチーネも甘い想像を脱ぎ捨て、本気モードのスイッチを入れた。妖精の戦士としてのプライドに懸けてソングを負かしてやる。

「可愛がってあげるわよ」

 不敵な表情でソングを睨んで、背を向けて岩壁の棚に置いた甲虫の胸当てと厚手のスリットを腰に装着する。

「ソング、武器を選びなさい」

 奥の収納庫に武器が常備してあり、防具とナイフ、剣と弓と槍が数種類並んでいる。妖精は盾は使わないので、二種類の武器を使用するのが通常であるが、ソングは使い慣れた少し重めの剣を選んで甲虫の防具を装着した。

 チーネは一番軽くて細い剣。妖精の熟練者しか使いこなせない、蜜蜂の剣を手にして先に歩き出す。

 絶壁の崖の両側を結ぶ岩橋の中央に対戦スペースがあり、三十センチ幅しかない足場をチーネが背中に剣を装着して平然と歩いて行く。

 ソングはその後ろ姿をチラッと見て、ゆっくりと幅の狭い橋を踏み出した。下は深い谷底で、チーネのお尻を眺める余裕なんてない。

『足を踏み外したら、戦う前に死ぬな』

 SEXを体験しない前に人生が終わってしまう。ソングはそれだけは嫌だと、戦いに全神経を集中した。

 岩石の天然橋は全長で百メートル程あり、中央に三メートル程の楕円形のスペースがある。妖精の戦士の卒業試験はその場所で対面して戦い、相手を退けるか切り倒して前に進み、逆側の崖まで先にたどり着いた者が勝者だ。

『ゴールは遠いが、チーネへの想いがアソコ、いやソコにある……』

 高所の平均台のような狭い場所では身軽な妖精が有利なのは間違いないが、ソングもチーネにしごかれ、五年間厳しいトレーニングに励み、人間離れした力を身に付けている。

『初めて見た時から、ずっとチーネが好きだった』

 初恋が妖精だなんて変な話だが、ソングはチーネに恋をして、母の死を乗り越えて頑張ってきたのである。いつの日か先生を超えて、同等の立場で愛し合うことを目標にし、夜な夜なエッチな想像をして初体験を夢見た。

 チーネが早足で対決の場所、楕円形のスペースの端に着くと、背中の剣を抜いてソングの方に振り向く。

「遅いわよ。ソング」

 足元を見ながら慎重に進むソングに、チーネが手招きをして挑発している。前屈みになって右足を前に出し、スリットから太ももが露わになったが、ソングはそれどころではなかった。

 両手を広げてバランスを取りながら、やっと楕円形のスペースにたどり着く。

「ゼツリの息子の力を見せてもらおうかしら?」
「ふん、父は関係ないぜ。俺は愛の為に戦う」

 実は怖がっているように見せたのは、ソングの作戦だった。油断させて一気にチーネを飛び越え、そのままゴールに突っ走る。

「俺はこの異世界に来て、チーネに出逢えてラッキーだったと思ってる。チーネが好きだから、この対決を申し出た。俺が目指すのは父ではなく、愛の戦士だからな」

 そう言って、いきなり上段から剣を振り下ろして飛び上がり、チーネの頭上で一回転して、三十センチ幅の踏み台に両手を広げて見事に着地した。
 チーネが足を前後に開いて低く構え、剣をしならせて前に突き出す。しかしソングは剣先が胸に刺さる寸前に頭上を飛び越え、笑顔で着地して細い岩橋を走り出す。

『完璧……』と、思ったが現実は甘くなく、すぐにお尻を剣で刺されて、海老反(エビゾ)りになって足を止めた。

「セコイぞ」
「こら、ケツはやめろ。便座に座れなくなるだろ」
「じゃー、ここかな?それともこっち?お尻じゃなくて、首筋に刺して終わらせる事もできたのよ。もっと正々堂々と戦って、ゴールとチーネを勝ち取りなさい」

 飛び越える作戦は成功したが、チーネに背中を見せる事は危険だった。ソングは振り返ってチーネの連続攻撃を必死に跳ね返し、中央の楕円形のスペースへ戻って足場を確保した。

「くそー、仕切り直しだ」
「というか、君が不利なのは変わらない」

 素早い剣先がソングの顔面を襲い、左右に顔を振ってギリギリで躱しているが、徐々に遅れて腕や足に傷を負わされる。

「まるで、蜂の大群に襲われてるみたいだ」
「降参しな。まだ、ガキなんだからさ」

 チーネが一旦攻撃を止めて、親指を自分の股に向け、「そんな簡単じゃないわよ」と嘲笑う。

 しかしチーネもソングが嫌いではなかった。最初は人間の少年の指南役を祖母に頼まれて嫌がったが、教えているうちにソングの無邪気で素直な性格に惹かれた。

『君には傲慢な神族にない優しさと、謙虚で真面目な探究心がある。チーネだって、ソングを大好きになったよ』

 それにソングは戦士の才能を秘め、もっと強くなってチーネを超える可能性があった。

『でも、それはまだ先の話。チーネを倒すのはまだムリだ』
 チーネは卒業試験ではなく普通にSEXを申し出れば良かったのにと、ソングの想いを摘み取る事を残念に思い、表情には出さずに心の中で呟く。

『そしたら、してあげたのに……』

 鋭い剣先の襲撃が止み、ソングは剣を地に這わせてチーネの足を払ったが、軽くジャンプして躱され、チーネが表情を引き締めて蜜蜂の構え直すのを見る。

「ソング。もう手加減はしないから、覚悟しなさい」
「それはこっちのセリフだぜ」

 二十センチ幅の岩橋を走って背後のゴールへ向かえば、身軽なチーネが勝利する確率が高い。しかしチーネはきっちりとソングを這いつくばらせて、卒業試験を失敗に終わるつもりだ。

 蜜蜂の剣のグリップを両手で握り締め、胸元に引き寄せてから、柄頭(ポンメル)に息を吹き込むと、(ガード)からプクッとした膨らみが剣先まで移動して、細い剣がグリャっと波打ってからピーンと張る。

「蜜蜂の剣を生き返らせたか?」
「ソング、これでちょっと刺されただけで毒がまわるよ。もちろん、死なない程度に弱めてあげるね」
「いやいや、背中見せなきゃ刺されはしないぜ。それより、妖精の羽を用意しておけ」

 ソングはここが勝負の分かれ目と、パワーでチーネを押し倒し、岩橋から落とす作戦に切り替えた。スリムだが全身の筋肉にパワー送ると、谷底から風が湧き上がり、黒髪がハリネズミみたいに跳ね上がった。

『剣のラリーでは、蜜蜂の毒針に刺されてしまう……』

 楕円形のスペースに足を広げ、剣を斜め下に振り下ろした瞬間、素早く体を回転させて背中を向け、バックスピンソードをチーネの胸に突き出した。

 チーネはソングが興奮するとハリネズミみたいに頭髪がとんがるのは知っていたが、アソコまでもがキルトの布を突っ張らせている。

『ソコも?』とチーネはソングの股間に目を奪われて油断した。

 バックスピンソードの一撃が甲虫の胸当ての真ん中に当たり、ガツッと緑色のカップが割れて弾け飛ぶ。

 チーネはバランスを崩して背後に倒れ、蜜蜂の剣をソングの剣に巻き付かせて堪えるが、片足を狭い足場から踏み外して落下してゆく。

「あっ……」

 ソングは剣を巻き取られ、チーネが仰向けになって目の前から消えたので、逆に驚いて楕円形のスペースから前に乗り出して谷底を見下ろす。

 妖精は危機に直面すると、特殊な分泌物を発して耳の花冠(かかん)が開き、メシベがオシベに受粉して体が縮小し、蝶の羽で飛ぶと聞いているが、ソングは見た事はなかった。

「チーネ!」と、谷底へ落ちたかと心配して四つん這いになって叫んだ。

 しかしその時、岩橋の下から蜜蜂の剣先が伸びてきて胸をチクっと刺す。

「呼んだ?ソング」

 チーネは両足のつま先を岩の突起に引っ掛け、逆さまになってぶら下がっていたのである。ソングの剣を左手に持ち、右手に持った蜜蜂の剣でソングが下を覗き込んだ瞬間に突き刺した。

「い、いや。呼んでねー。空耳だ……」

 チーネが見上げる微笑みと、谷底の景色がぼやけてソングの瞳に歪んで映り、蜜蜂の毒で神経が麻痺し、ソングは焦って首を振って振り返る。

『ま、まだ負けてない。絶対、先にゴールしてやる……ぜ』
 四つん這いになったソングが目を擦りながら前に進み、途中で立ち上がって歩こうとするが、目眩がしてふらついている。

 チーネは橋にぶら下がったまま左手の剣を楕円形のスペースに放り投げ、背後に金属音がしてソングが振り向くが、毒で痺れた体で戦えるとは思えず、剣を諦めて霞む道へ足を踏み出す。

『先に……ゴールすりゃいいんだ』

 蜜蜂の剣先を鉤型に曲げたチーネが橋の角に引っ掛けて状態を起こし、左手で岩の縁を掴むと、懸垂をするようにひょいと体を持ち上げて橋の上に戻り、蜜蜂の剣を真っ直ぐに伸ばし、「もう使う必要もないわね」と背中に装着した。

「ソング、もう諦めな。足を踏み外して、谷底へ落下して死ぬわよ。人間には羽はないからね」

 ソングはチーネの忠告も聞かず、ふらふらしながらもスピードを上げ、チーネはその危なっかしい後ろ姿を眺めて、心配そうにゆっくりと追いかける。

 背後にチーネが迫るのを感じたソングは焦ってバランスを崩して転ぶが、橋にしがみついて立ち上がり、必死に体勢を立て直してゴールへ向かう。

『な、なんなの?』

 毒液を弱めたとはいえ、普通なら数秒で動けなくなって意識を失う筈だが、ソングは髪を逆立てて歩いている。しかも体が傾いて横向きになった時に、アソコが元気に突っ立っているのが見えた。

『ヤダ、今にもキルトを突き破りそうじゃない?』

 チーネは空へと(そそ)り立って輝くモノを想像し、ソングはゴールを間近にしてグラっと前へ倒れ込み、腰を少し浮かして寝そべり、ジリジリ……と前へ進み、ペタッと右手を伸ばしたが、ほんの数センチ指先がゴールに届かず気絶した。

『凄いよソング』

 チーネは呆然と立ち尽くして、ソングの健闘を讃えたが、ソングの体が傾いて橋から転げ落ちる。

「あっ⁈」

 チーネは慌てて背後から駆け寄り、右腕を伸ばして助けようとしたが、掴んたのはソングの勃起したアソコだった。

「ソング……」

 一物をしっかりと握られたソングが岩橋の少し下で仰向けになって宙吊りになっている。それをチーネが橋から体を乗り出して右腕だけで支え、ソングは微かに意識を戻して、『見下ろす顔も、可愛いな』と思ったが笑えずに、「ギェ〜!」と、男の耐えられない痛みと恐怖に悲鳴を上げて目覚ました。

「ん?……夢か?」

 ソングは既に妖精の森の部屋で手当てを受けて眠っていたのである。実際はアソコではなく、チーネに腕を掴まれて助けられ、救護班の木製の運搬機に積まれて空を飛び、岩室の崖から妖精の森まで運ばれて、蜜蜂の毒を中和させる薬草の湿布を体に貼られていた。
 ソングはチーネの友だち、ボンヌが湿布を取り替えているのを見て、運搬機の底の荷台でチーネとポンヌがペダルを漕ぐのを下から朦朧と眺めたのを思い出す。

 妖精の森の木で作られた運搬機は巨大なシダの葉を羽にして、ペダルの動力で羽ばたいて飛ぶが、浮力が足りない場合はランフォリンクスの翼竜に引き上げてもらう。ソングはローブの網に寝かされ、底板の隙間からチーネとポンヌの足が見えた。

「やっとお目覚めですか?」

「ボンヌか?俺、どれくらい寝てた?チーネと戦って、もう少しでゴールできたのに……。やっぱ、ダメだったんだよな」

 ソングが葉っぱの天井を見上げて嘆き、ボンヌはソングの胸の傷に貼った湿布薬を取り替えると、ソングのパンツを下げてチンコを観察した。

「ふ〜ん」
「こら、なんてことすんだ」
「あの時、凄かったのよ」

 ポンヌが縮んでちっちゃくなったアソコを指で弾いて、「カワイイ」と笑っている。(ソングが気絶している時、ポンヌは蜜蜂の剣に刺された胸の傷と、お尻の治療をして聳り立つ物に驚いた。)

「やめろ。バカ」

 ソングが腰を浮かしてキルトのハーフパンツを上げようとするが、ボンヌはそれを制して体を裏返してお尻を叩く。

「大人しくしてなさい」と、乱暴にお尻の湿布薬を剥がして傷の具合を見る。

「こっちはもう大丈夫だね。ソング、あんな危険な真似しなくたって、普通に求愛すれば良かったのよ。チーネはソングのこと、好きだと思うけどな」

 ボンヌはチーネと並んで運搬機のペダルを漕ぎながら、ソングがSEXを懸けて妖精の卒業試験に挑戦したと聞き、「チーネに勝てる筈ない」と一緒にケラケラ笑った。

「チーネは妖精族、いや神族の中でも最強の戦士だもん。プライドだってあるし、好きでもソングに負ける訳にはいかないんだよ」

 寧ろ妖精は純粋な愛なら、純粋な気持ちで受け止める。それに感じやすくて好奇心も旺盛だと説明した。

「星空の夜。耳元で好きだって囁くのよ。妖精はそういうのに弱いんだ」

 ソングはボンヌにそう言われて、「そうなのか?」と、少し気持ちを和らげた。

「直接過ぎたか?チーネと対等にならないと、俺に抱く資格は無いと思ったんだが」
「だから、妖精のハートは温かい光と清らかな水で咲くんだよ。耳の花冠で感じるんだ。理屈と腕力は関係ない。まったく、わかってないわね」

「まっ、俺は人間なので」とソングが苦笑し、今度は純粋に恋をしていると告白しようと思った。

「卒業試験はもっと腕を上げて、再挑戦すればいいか?確かにSEXを懸けて戦うなんて、大人気ないよな〜」

 ポンヌは「そもそもガキだよ」と微笑み、薬箱を持って立ち上がると、ベッドに寝ているソングを見下ろして、意味深な言葉を残して部屋を出た。

「とにかく頑張りなさい。まだ少し痺れてると思うけど、ボンヌの特効薬でぴんぴんになるからね。上手くいったら、青魚をご馳走しなさいよ」

 ソングは今一つ意味不明だったが、ボンヌの揶揄うような笑みが気になり、想像を巡らしていると湿布薬のせいか瞼が重くなり、うとうとと眠ってしまう。

 そして夕暮れになり、お腹が空いてベッドから起き出そうとした時、チーネが食事を運んで部屋に入って来た。
「ソング。具合はどう?」

 チーネは編み込んだ黄金色の髪を肩まで下ろし、薄布を羽織っているが胸と腰の付近は微妙に透けて、ピンク色の細い布巻きと赤い紐パンが微かに見えている。

「ああ、もう痺れも取れたぜ」
「じゃー、食事にする?それとも、卒業試験に再挑戦してみるか?」
「いや〜、いくら俺でもまだムリ」

 ソングは笑ってベッドから起き出そうとしたが、チーネの様子がなんかおかしい。いつもなら、「まだ寝てんの」と言って叩き起こす筈だし、部屋着はもっとスポーティなのを着ている。

 しかも少し恥ずかしそうな笑みを浮かべて、羽織っている布をぱらりと床に落とした。

「バカね。愛の方だよ。そっちの試験さ。そっちはまだ試してないだろ?」
「いや、戦いに負けたし。そ、それに夜空に星が……見えてないぞ」

 焦ったソングは窓から陽の沈む夕空を見て、早く夜空に星が輝くことを願い、ボンヌに言われた恋のマニュアルを実行する。森の木と葉で作られた屋根の一部は天窓になるので、手を伸ばして紐を引っ張って開き、星はともかく夕空で雰囲気を醸し出す。

「俺、チーネが好きだ。絶対、最強の愛の戦士になってチーネを守るよ」
「バカね。守るのはこっちだぞ。だって、チーネが最強だもん」

『ヤバい』また、どっちが強いかで言い争いになりそうだと思ったが、その前にチーネの唇がソングの顔に迫って来た。

「好きってだけでいい。チーネもソングが好きだし」

 苺の唇が甘く囁き、ソングの唇にぴったりと重なった。それだけで全身のエネルギーが湧き上がり、ソングは爆発しそうになった。
『うわっ、マシュマロかよ〜』

 チーネとのキスは苺ミルクの味がして、背中に手を回して抱きしめると、弾力のある雲みたいにフワフワしていた。

『戦っている時のチーネとは全然違くて、バネの筋肉がパイ生地になり、生クリームとカスタードが盛ってあるみたいだ。胸とお尻はフルーツ。白桃みたいな甘い香りがするぞ〜』

 ソングはチーネの胸の布巻きを外して乳房の生クリームに顔から突っ伏し、お尻を手のひらに包んで、紐パンを摘んで引っ張って(ほど)く。

「優しくしてね。だってソングのアソコ、すごいんだも〜ん」

 チーネが猫みたいな声で甘えて、ソングの大きくなったアソコに触れ、黄金色の髪が揺れて小麦粉が宙に舞ってキラキラ輝いている。

『ひえー』と心では快感の叫びを上げながらも、ポンヌに言われた恋のマニュアルを想い出して、チーネの耳元で優しく囁く。

「チーネ。これが俺の大好きなチーネなのか?異世界のドマン中で愛を叫ぶぅ……」

 ソングは興奮を抑えきれず、『ああ〜、ダメだ。恋のマニュアル通りにできそうもない』と、アソコがチーネのアソコの中へ入って、愛の告白は喘ぎ声になってしまう。

「ソング。チーネも初めてなんだ。愛の蜜が溢れ出して、薔薇色の花が咲きそうだよ」

 チーネはソングの敏感な部分を蜜で濡れた花で包み込み、ゆっくりとお尻を振って花びらを擦り付けた。

 ソングはその愛の蜜の中に吸い込まれ、ハート形の星空の宇宙に放り込まれ、愛液を宇宙空間に放出する。

『アッ、アゥア〜』

 押し寄せる波飛沫にチーネも絶頂に達し、耳の花冠(かかん)の蕾が花のように開いて、内耳器官のメシベがオシベの花粉で受粉し、チーネは妖精の原始型に戻って縮小し、ソングの精霊秘体に入り込み、宙に浮かんで体の中に隠された不思議な物体を発見した。

『剣と盾……?』

[妖精について]
・妖精の見かけは人間とそれ程変わりないが、耳が花冠(かかん)の形状に似ている。
・蕾の外耳が花のように開いて蜜で溢れると、内耳にあるメシベがオシベに受粉して体が急速に縮小して蝶の羽が生えて飛ぶ事ができる。
・それが本来の妖精の姿であり、花粉の授粉は性的な快楽物質ドーパミンが分泌されて起きると言われているが、魔法の領域であり科学的理論では証明不可能であった。
・縮小率も数ミリまで自在に小さくなれると言われるが、愛と精霊の反応なので体現した者は少ない。
・妖精は体の変化だけはなく、視力と霊力がアップして魔法を見透す能力を得る。


 チーネは背中に蝶の羽を生やし、精霊の目でソングの体の中に秘められた強力なアイテムを見通した。

『美しくも超剛性の剣が背骨に埋め込まれ、防御の呪文、十字のチェーンが刻まれた盾は臀部に隠されている。これは勇者ゼツリの剣と盾か?』

 そしてチーネは股間付近を見て更に驚愕した。ドラゴンのエネルギーが睾丸に備蓄され、性器に潜むドラゴンが出現して、口から火を吹き始めたのである。