もうすっかり夜だということで、カミラの家に泊まることに。
滅亡したとはいえ、民家が全壊したわけではなかったので、寝食は可能だった。
肝心の国民どもはどうなったのかというと、国王が俺たちが戻る前に彼らに避難令を布いて、パルケ王国または港町に移動させていたらしい。
国民の大半は亜人族の王国へ移ったそうだ。移れなかった国民がどうなったかは知らんが。
それと、この地には国民の生き残りがまだいる。そいつらはそれぞれ自分の家にこもって、避難していたようだ。
家に着くと同時にカミラが倒れた。雨に長時間体をさらしていたのもあるが、やっぱり心労が酷かったのが原因か。
裏切り捨てられたショックと死の恐怖、必死の命乞いに俺たちの仲間入り申し出。そら疲れるわ。
まだくたびれているアレンをベッドに運び、カミラも別のベッドに運ぶ。
「...ありがとうございます。主であるカイダ様に、こんなことさせてしまい恥ずかしい限りです」
頬を染めて俺に礼を言う。恥ずかしいだけじゃないな。額に手を置く。やっぱり熱が出てるな。目もぼーっとしてるし。
「気にするな。色々俺のせいでこうなったわけだし」
ホント今更だけどな。俺が好き勝手やった結果、また国が滅んでしまった。
一人の酔っ払い貴族を殺したことがきっかけで色々暴れた結果が、これだ。
「...いえ、もうこの王国に未練はありませんから。父様と母様もいないこの王国など、どうでもよかったのです」
「そっか。なら良かった(←?)」
するとカミラは恥ずかしそうに身を捩って俺に話しかける。
「その...また頼み事をして申し訳ないのですが...タオルと服を、持ってきてくれませんか?あ、あと...下着、も...(赤面)」
「...はいよ。あと、お前は俺の従者じゃない。仲間なんだから、頼み事するのに遠慮するな。今動けるのは俺だけ、今日はとことん頼れ」
俺の返事にカミラは嬉しそうに微笑んで礼を言った。衣装タンスを漁り、部屋着とタオル、あと...下着を一式取り出した。
で、上の下着なのだが...サイズを見てビックリ。メロン大のカップのブラだった。あの身長でこのサイズ...だと!?確信が無いまま部屋に戻り、全部カミラのもとに置く。
礼を言うカミラに手を振って俺は退室しようとする。が、カミラに呼び止められる。
「カイダ様?外に出られるのですか?」
「いや?つか着替えるだろ?だから別部屋に移動しようと思って」
「そんな...私は、気にしませんよ?むしろ...体を拭くのを手伝って欲しいというか...お、お願いしていいですか...?」
なんて、恥ずかし気にそんなこといいやがった...。こいつ、積極的に頼るなぁ...頼れと言ったのは俺なんだけどさ。
「分かった、手伝うよ。じゃ、服脱いで――」
言ったそばから、カミラは準備万端態勢――半裸になってた。早えーよ。
髪、腕、胴、脚を順に丁寧に拭いてく。その際、女の匂いとかしたが気にしないようにした。大丈夫、耐性ついてるから。アレンのお陰で。
...というか、カミラの胸を見てしまったのだが、本当にこのブラと同じサイズだった。確定した。眼鏡ロリ巨乳だ、と。
「着痩せするタイプだったのな...あ」
思わずそう口してしまい、ハッとなる。対するカミラは怒るどころかやや自慢そうに胸を強調する。
「はい...背が伸びない代わりに、ココが大きく成長してしまったそうで...。カイダ様、もしお望みなら、触り――」
「いやけっこう。刺激強いわ。ほら、拭き終わったぞ。後は着替えて...」
言い終える前に俺の手にカミラの手が置かれる。その手を服のところにスライドさせる...。
「何度もすみません...着替え、を...」
「...アア、ハイハイ」
結局最後まで世話することになった...。
「コウガ、照れてる......」
アレンに半目で見つめられながらという状況下で...。カミラは終始ご満悦の表情を浮かべていた。病人って最強だよな。
*
カミラの家で一夜を明かし、全員心身ともに回復できた。カミラはまだ体調全快したわけではないが、本人がもう行けるというので意思を尊重した。
昨夜は二人の看病に付きっきりだった。動けないアレンの食事と着替えの補助(彼女はずっとご満悦だった)、カミラにも同様の補助及び魔法で体を温めたりなどをした(彼女もずっとご満悦だった)。
仲間に加えて以降、カミラの態度が軟化しまくりだった。俺に何でも頼んでくるし、アレンとあっという間に打ち解けたし。ま...あの2人には親の件で共通するところがあって、分かり合えるとこがあったのかもな。お互い名前呼び捨てで呼び合っていたな。
俺もカミラにはコウガと呼ばれるようになった。仲間だし、様付けは変だということと、カミラは19才と俺より年上だっていうので、名前呼びになった。
(私が年上だったのですか...じゃあ私はコウガのお姉さんってことになりますね...ふふっ♪)
弟ができたようだと大変嬉しそうだった。一人っ子特有の、下の子願望があるのか?
とにかく二人の体調が良くなったので、王国跡地を出る前に今後の行動を決めることにした。目下はやっぱり亜人族のところだ。鬼族...アレンの仲間たちが保護もしくは隷属させられているかもしれない。
前者ならサラマンドラ王国の時と同じ要領で行けばいい。もし後者なら...アレンの復讐の時間だ。
亜人族の件が終われば、次は獣人族のところへ行こうということも決まった。エルザレスは以前に、獣人族には鬼族に手酷くやられた借りがあると話した。もし鬼族がいるなら、あいつらは鬼族に酷い扱いを強いてる可能性がいちばん高く、危険だ。
よって今日からこの2つの王国を訪問するという方針に決まった。
まずはパルケ王国...死んだハーベスタンの国王どもが亡命しようとした、俺にとって2つ目の魔族国。
カミラを先頭に、午前半ば頃に王国跡地を発つ。亜人どもの用が済めば、またここに戻る予定だ。カミラの身の回りの整理もあるからな。
パルケ王国までの最短ルートをカミラの案内で進んで行く。やっぱり最短の道を行く為の地理に詳しい人間がいるのは楽で良いな。しかもこの道は魔物もあまり出てこない、安全かつ近道できるという都合の良いルートだ。
昼になる前に俺たちはパルケ王国の国境に入り、王国内目前のところに来た。入国するにあたって、カミラは良いとして俺たちはどう動こうかという問題に直面する。サント王国が俺のことを同盟国全てにバラしたとなれば、本体さらして行くのはまた面倒事の種となりそうだ。アレンの場合、もし亜人どもが鬼族に対して敵対視しているなら彼女を排斥行動に出るだろうから危険だ。まぁ俺がいる以上させないが。しかもそこで俺が暴れようとしようなら、鬼族を人質にもしくは殺す可能性がある。
いずれにしろ2人とも入国段階で顔バレするのは面倒事不可避だ。
...と、カミラがここまで推測して、さらには「迷彩」で俺たちはハーベスタンの難民としてカミラに率いられて来たという設定で行こうとの提案も出してくれた。
やっぱり頭がキレる。今までは俺が作戦立ててきたが、その役目はもうカミラに全投げして良いなぁ。
入国後はまず国王のところへ行く。そこで俺とアレンが正体を明かし、鬼族について聞き出す。その際国王を人質にするなりして鬼族を人質に取らせないようにする...という流れで行くことに。うん、良い行程だ。流石は世界トップの軍略家だ。
満を持して入国。カミラが門番兵に嘘と誠が混じった事情を話して、国王にまで通すよう頼む。世界トップの軍略家としてハーベスタン王国の重要人物と認識されているカミラの要求はすんなり通り、このまま一気に国王のもとへ案内してくれた。
パルケ王国。その魔族国の実態だが、国民全員が亜人ではなく、人族も混じっていた。このへんはハーベスタンと同じだ。友好国だからこその、共生可能国なのだろう。ならばここにいる人間のほとんどはハーベスタン出身だろう。まさか昨日で母国が滅んでるとは思いもよらないだろうさ。
何人かがカミラを見て、あっと声を上げる。有名人だなぁ、特に人族には。
衛兵に連れられて王宮内に入る。扉の前には武装した男が待ち構えるように立っている。ここからは彼が案内役になる。
「兵団長及びこの国の王子でもあるアンスリールだ。 “超人”種の亜人だ」
自己紹介してきた男はかなりの地位の人間だ。王子だがいちばん強い兵らしい。それに超人...どんな人種だ?名前からしてレアそうな種だな。
「魔族の王族って、武闘派ばかりなのか?竜人族も、戦闘民族ばかりだったし」
「私たち人族と違って武力が強い者が高い地位に位置する風潮だそうです。滅んでしまった海棲族のことは知りませんが、少なくとも大陸に領地がある魔族は全て実力主義です」
小声でカミラと会話を交わす。王族はとても強い、それが魔族間での常識らしい。ならば目の前にいるこの男はかなりの実力者と言えるのだろう。「鑑定」で見てそう思った。ドリュウより強いな。災害レベル級の強さを持ってる。こいつがいればモンストールの侵攻も怖くはないだろう。
「カミラ殿、こうして顔を合わすのはお初であったな。以後よろしく。しかし随分急な訪問だな?それもお付きの者は平民2人だけとは...いったい何用で?」
「アンスリール王子、初めまして。この度の急な訪問、大変無礼は承知です。しかしこれには深刻な事情があるのです。...我が国ハーベスタン王国は、昨日災害レベルのモンストール群によって、滅亡しました」
お互い名前は知っているが顔合わせるのは初めてだそうで簡単に自己紹介してから訪問理由を言う。アンスリールはたいそう驚いて、憂いの言葉を並べた後、改めて俺たちを国王のところへ案内してくれる。
階段を上り、小部屋に入れて数分待つよう言われる。国王が謁見の間でスタンバイするのを待つ時間か。その間、改めてこの後のやり取りを再確認する。カミラがいくつか予測パターンを言ってくれたので柔軟に対応できる姿勢になれた。
そしてアンスリールが再度俺たちを案内して王の謁見部屋に入る。衛兵が数十人(何人か災害レベル手前のステータスだった)静かに立っている中、ドラグニアで見たデカい椅子ではなくもの凄いふかふかそうな座布団で胡坐をかいている壮齢の男がよく来た、と通る声で喋りだした。
「カミラ・グレッド!およびその従者か?よく来た!
私がパルケ王国の王にして亜人族の現トップである、ディウル・パルケだ!」
「お初にお目にかかります。故ハーベスタン王国直属の軍略家を務めていたカミラ・グレッドと申します。此度は――」
まずは国王ディウルとカミラが形式的な挨拶を交わし、改めて訪問した事情...昨日何が起きたのかを説明した。カミラの話に対して、ディウルは悔し気に歯噛みし、ハーベスタンが滅んだことに悲しみの表情を浮かべていた。情に厚い性格か?
次いで俺たちの紹介に入る...が、ここで悲し気にしていたディウルの顔が一変した。その目には疑念に満ちていた。
「そこの従者を名乗る2人、姿を偽るのはそこまでにしようか。私の目は誤魔化せないぞ」
俺もカミラも、ついでに奴の隣にいるアンスリールさえも驚いた表情をした。
「固有技能『擬態看破《ぎたいかんぱ》』。ここにお前たちが入った時から、これを発動していた。カミラ殿は引っかからなかったが、その二人はそうはいかなかった。女の方からは魔族の気配、それももの凄い戦気を感じた。そして、男の方は...何やら死の臭いがした。いずれにしろ両者ただ者ではないのは確かだ。
さぁ、正体を明かしてもらおうか」
ディウルが言い終えると同時にアンスリールと周りの衛兵どもが武器に手をかけた。まさか、俺の「迷彩」を見破るとは。カミラは策で破ってみせたが、この男は固有技能使って真正面から破りやがった。流石は一魔族の頭をやってるだけある。面白い...!
俺は「迷彩」を解除してアレンともに正体をさらす。俺もそうだがアレンを見たこいつらの反応は大きなものだった。皆アレンの金色の角を凝視して驚愕していた。しかし、同時にどこか得心した様子すらうかがえた。
...ここに来て正解だったな。とりあえず俺たちの質問タイムといこう。