「おーおー。何か偉そうな連中が揃ってのご登場だ?」

 たくさんの護衛兵に囲まれながら怒り足で歩いてくる煌びやかな衣装を纏ったオッサン…というかジジイが、怒りの形相でこちらを睨みつけている。奴以外にも同じような格好をした奴らが何人かいる。

 「...国王様」

 カミラが呟くように言う。やっぱりあれがこの国の王か。自己主張激しい格好してやがる。自分が王だと、ウザいくらいに見せてやがる。他の奴らもそうだ。王子や王女、王妃にその他権力者ってところだろう。
 あいつら見てると、ドラグニアで殺した老害国王とクズ王子思い出されて苛つく。不快に思う視線をとばす俺に、ジジイが名乗りを上げる。

 「我はニッズ・ハーベスタン!この王国の王だ!貴様が件の殺人犯およびドラグニア王国を滅ぼした大罪人、カイダコウガだな!?」
 
 短く答える俺のもとにさらに近づく国王。その間周りにいる護衛兵どもが魔力障壁を張っている。用心なのは良いが、そんな薄い壁無意味だっての。

 「貴様がやったこと、実に赦されないことだ。それを自覚してるしてないはこの際問わない。ここまでする程だ。どのみち貴様は死罪に値する大罪人だ。
 ...とはいえ我々の武力では貴様をどうすることもできない、ようだな。この惨状を見れば分かる。我が国の有力戦士が揃ってあの様だ」

 怒りの形相でいる割には、馬鹿な王みたいに「こいつを即刻殺せ」って喚くことはせず、今の状況を冷静に把握している。とりあえずまともに会話するくらいの知能はあるらしい。

 「ニッズ国王!そのような賊一人で我が国をこんな状態にしたと!?信じられん!大軍率いて蹂躙した後、この街中のどこかに潜ませているのだろう!?呑気に構えているこの賊を即刻殺すのだっ!!こいつは、私の息子を殺した大犯罪者だぞ!!」

 怒り心頭で突如しゃしゃり出てきたのは赤いコートを着たでっぷり体型のオッサン。ザ・クソ貴族って感じの悪党面してやがる。
 “息子を殺した”という発言から察するに、こいつは昼間殺したデカクズの親らしい。この親あってあの子ありってところだな。

 「護衛兵!とっととあの賊を斬り殺せ!!あんなひ弱な男一人に劣る貴様ではあるまい!?」
 
 すぐそばにいる護衛兵に俺を殺すよう怒鳴り声で命じる。若干戸惑いながらも、権力者の命令に従い、一人の兵が俺に斬りかかってきた。はぁ、ここは少し派手に力見せておくか。国王の制止の声も聞かずに兵はこちらに向かって来る。あいつ自身も俺が怪物だって思っていないのだろうな。

 「だっダメです!彼は――」
 
 カミラが言い終わる前に、俺は手刀を振るって護衛兵の首を綺麗に刎ねた。数秒後、首元から鮮血が噴水のように噴き出た。その光景をみた権力者と王族どもは悲鳴を上げる。
 ついさっき命令した赤コートのデブは顔を真っ青にしてその場で尻を着く。俺が本物のヤバい奴だと理解したようだ。

 「で?まだやるってのか?そこの護衛兵の首全員刎ねたら満ぞ――」
 「分かった!もういい!!貴様がとてつもない化け物だということはここにいる全員が理解した!これ以上殺すのは止めてくれ!!」

 国王が青い顔のまま俺を制止する。パフォーマンスタイムはもう終わりか。

 「これ以上殺すなって言われてもなぁ?武力行使したのはそっちからだしさぁ。どのみち俺を殺すつもりだったんだろ?だったらこの王国滅んだっておかしいことないよなぁ?そういう覚悟で、俺にちょっかいかけてきたのだろ?無いとは言わせないからな。
 ということで、この王国は滅ぼすことにする」
 
 自分でも無茶苦茶なこと言ってる自覚は、いちおうある。そもそも俺が先に殺人を犯した身でもあるから、非があるのは明らかに俺の方になる。
 にも関わらず、王国滅ぼす宣言をする俺、ヤバい。でもそんなの知るか。この王国凄くムカついたから仕方ないことだ。

 そんな俺に、国王は未だに食い下がってくる。後ろを見やり全員に相槌を打つ。そして今来た王族と権力者どもがその場で土下座の姿勢を取る。この世界でも土下座あったんだ。

 「これだけやったのだ。これ以上は手打ちにしてくれ!ただでさえこの王国は武力に乏しくモンストールに侵略されて衰退の一途を辿っているのだ。貴様がここで暴れたことでもはや滅亡同然。
 頼む、ここはもう退いてくれ!これだけやったのだから、もう満足してここから去ってくれ!!」

 要はこいつらただの命乞いをしてるだけだな。もう王国は滅んだことにして、俺のしたいことはもう成したと思わせようとしてやがる。自分が殺されまいと必死こいて乞うているのだ。
 俺がここで去った後は、パルケ王国に亡命して武力整えて俺に報復しにくるのだろうなどうせ。それはそれで亜人族も全滅させてさらに絶望させるのも一興だが。

 まぁここは手を退いてやってもいいか。ひと暴れしたことで溜飲が下がったことだし。こんな雑魚どもに時間割くのも勿体ない。

 「良いぜ、もうここで殺戮はお終いにするよ。
 けど、このまま引き下がるのはなんか違うんだよな?
 今回のこれは戦争と言ってもいい。俺たちとテメーらによる戦争だ。当然だろ?王国の兵をほぼ全て起用したんだ。もはや戦争だ。
 そして戦争が終われば、その後戦犯者を決めたりしてたんだろ?」

 俺が話す内容を聞いてカミラが、俺が言いたいことをまず理解したようで小さくあっと声を出す。その後戦犯という単語に今度は国王が反応して青ざめる。察しが良いな、俺の言いたいことを大体理解してくれたみたいだ。

 「そこでだ。今回の戦争の戦犯者一人を、この場で処刑する!それで手打ちにして俺たちは消えるとするよ。断れば即皆殺しエンドに入る。はい決定!!
 ああ、戦犯者決めるのはテメーらがやってくれ。俺は選ばないから」

 手を鳴らしてそう宣言する。まぁこういう戦犯処刑は現実にも過去でたくさん行われてきただろうし、間違ってはいないだろう。せっかく自分の要求を呑んでくれるんだ。俺のこの条件くらい容易く呑めるだろう。断れば全員殺すって言ったし。

 俺が生かしておいた兵数人と、アレンが倒した兵3人もいつの間にか国王のところに集まって深刻な顔を浮かべている。俺としては、こういうのは国王か戦場で指揮を執っていた兵団長が挙げられるだろうなと思っていた。

 が、あいつらが戦犯者に仕立て上げたのは、思いもよらない人物だった。



 「此度の戦争における戦犯者は、カミラ・グレッドとする。カイダコウガよ、その者を首を以て、我々をどうか赦してくれ!!」

 
 戦に出ていないし王族でも権力者でもない、軍略家の女が戦犯者として挙げられた。

 「............え?」

 当のカミラは、呆然と今の宣告を聞いていた。

 「国王様?私が戦犯者と、言ったのですか?な...何故!?」
 
 まだ納得がいかないという様子で国王に問う。対して国王は憮然と答える。

 「何故だと、分からないか?カイダコウガを捕縛もしくは処刑しようと提案したのは貴様ではなかったか?国中の兵を集めて奴を待ち伏せて囲んで叩くという策を練ったのは貴様だったであろう!」
 「それは...!この王国を存続させるために、王国を脅かすものを排除するためにやって...!知恵を振り絞って作戦を立てて!私はただ軍略家としての責務を全うしただけ!あとは戦場に出る者たちの問題!私の策謀に欠陥は無かった。落ち度があったとするなら...武力が足りなかった兵士団にあるのではないですか!?」

 ここでカミラは戦いの責任は力が足りなかった兵士たちにあると主張する。だがそれをここで、奴らの前で言うのは失敗だ。それが分からない彼女ではないはずだが、それだけ冷静さを欠いてるようだ。
 案の定、今の発言を聞いた兵士たちが彼女を糾弾し始める。

 「何を言うか!策を出した後は空で高みの見物を決めていた分際が!武力が皆無のお前が言うことか!!」
 「策に欠陥が無かっただと!?俺たちはお前の出した策通りに動いただけだ。その結果がこれだ!武力の問題では無い、不完全な策略を展開したお前こそが戦犯者だ!!」
 
 などと男女兵士がカミラを責め立てる。多勢に無勢。どれだけ正論をかざそうと大多数の意見には為す術なく踏み潰される。

 「貴様が今まで我が国の為に働いたこと、ずば抜けた策略でこの王国の衰退を遅らせてきた功績、モンストールに対して優れた謀略を展開して侵攻を防いできたこと。どれも貴様無しには成し得なかったこと。貴様がいたからこの王国は今まで存続できていた。
 だが、どれだけ成果を上げていようとも、一度たりとて失敗は許されない!貴様の策で死ぬ兵だっているのだぞ!?今がまさにそうだ!貴様がカイダコウガに報復することを提案しなければ、こんなことにはならなかった!この惨状を招いたのは、貴様であるも同然だ!!貴様が、我が兵たちを死なせたのも同然だ!!
 ならば、しかるべき処罰...戦犯者としてその首差し出せ!我らの為に!」

 国王がこれ見よがしに、一気にカミラを糾弾して完全に罪を被せようとしている。

 「私が、ここで死ねば!モンストールへの対策はどうするのです!?闇雲に迎撃して勝てる敵ではない、ならば優れて柔軟に対応できる策略を練られる軍略家は必要なはず!私はここで死ぬべきではないはず!!」
 「優れていても柔軟でもずば抜けていても!それでも勝てなかったではないか!!我は痛感したのだ、どんなに凄い軍略を以てしても、圧倒的過ぎる理不尽には敵わないと。この先の戦いもそうだ。理不尽の前には軍略などあって無いようなもの。
 それならば軍略家など、ここで切って捨てても構わん。貴様が戦犯者として死ねば我らが助かる。ならばここで貴様を生贄として差し出すまでだ」
 「な!?......な...」

 国王の言葉に絶望の表情を浮かべるカミラ。しかしなおも縋るように言葉を絞り出す。

 「私、は...この王国の為に...ずっと尽くしてきて、戦闘スキルが皆無で非力だったから、必死に勉強して...軍略家の地位を得て、王国に貢献してきたのに...」
 
 だが国王は、そんな彼女を冷たい眼で睨みながらこう吐き捨てた。

 「この先ロクに戦闘できない者は不要だ。剣も魔法も武闘術も使えない...
 
 《《ハズレ者》》に、生きる価値など無い――」

 ――ピクッ...

 国王の、最後に放ったあの単語に、俺は思わず反応してしまった。 
 それは生前も、この前も聞いた蔑称。才能が無い奴に貼られるレッテル。不名誉極まりない呼び名。
 俺に対して言われたわけでもないのに、この時俺は何故か憤りを感じてしまった。

 「...............」

 取り付く島もない、これ以上何を言っても戦犯者扱いされると悟ったカミラは、もう放心状態だった。その顔は全てを諦めた者の表情のようで、その目は虚空を見つめているだけに見える。もう全てがどうでもいいと思ってしまった様子だ。
 さっきから奴らの口論を黙って聞いてたが、カミラも国王どもも、言っていることは間違っていないと思った。

 片や自分は戦争の指揮を執っていたわけではない、ただ作戦を立てて戦略や知略を提供しただけだと主張して、自分に罪は無いとのこと、と言うカミラ。
 片や俺に報復しようと捕縛もしくは討伐すべく王国兵団を動かした時点で、今回の件での全責任はカミラにある。こうなることを予測できずにたくさん兵を死なせたのは全て彼女のせいであると主張する国王や兵士たち。

 どっちが正しいかなんて分からない。元の世界では、過去の戦後処理において、日本では総理とかが戦犯扱いされていた。ここでの総理といえば、国王にあたる。ならばあのジジイが死ぬのが道理。
 しかし、俺に戦争を仕掛けたのは奴ではなくカミラ。ならばふっかけた本人が死ぬべきというのもまた正しい。

 「さぁ、これで戦犯者は決まった!カイダコウガよ、カミラ・グレッドの首をとって、そしてここから去ってくれ!奴の処刑を以て我らを見逃してくれ!!」

 国王が催促してきた。もう決定らしいな。俺が言ったことだし、あいつらが良いと言うなら、その流れに乗るだけだ。

 「コウガ...」

 アレンが俺に問いかけてきた気がした。“良いのか?”と。俺は黙ったまま首肯する。アレンはそれ以上何も言わなかった。
 手に魔力光線を溜める。ひと思いに殺すなら、こいつで全身を消し飛ばすのが効率的だ。痛みや苦しみなく一瞬でくたばる。

 「ひ、ぃ...いや、いや...!」

 近づく俺を見たカミラが我に返り、恐怖に後ずさる。腰が抜けたのか、立って走る気配がない。
 手を掲げて光線を放とうとした、その時――

 「...?地鳴り?」
 
 この周囲から地鳴りが聞こえてきて、地震も発生した。次第に揺れがデカくなり、国王たちの顔に不安の色が見える。
 
 「コウガ!来るよ!」
 
 アレンが危険を察知して臨戦態勢に入る。表情からしてさっき戦った奴らより強いらしい。俺も察知したので敵の力量は分かってるのだが。

 「このタイミングで来るか...面白い偶然だ」

 数秒後地面が爆発して、そこから巨大な影が見えた。数は結構いる。それらを見た国王たちがひどく狼狽える。

 「あ、あれは...!?」

 ハーベスタン王国に、人族を脅かす災害《モンストール》がやってきた。