突如俺の足場が無くなり浮遊感が。下を見るとマグマのように煮えたぎった液体が溜まっている。火属性と水属性を合成させた強力な溶解液のようだ。
 さらに左右には鋭利な剣で埋まっている。壁に手をつこうにも剣が刺さって手がおじゃんになってしまう。中々な罠じゃないか。面白い。

 俺は平気だが、生身のアレンにはきついだろう。ここはアレンを逃がすのが先決だ。
 そう思って俺は自分の腕を使ってアレンの足場をつくってやる。俺の意図を察したようで、アレンは頷き、俺の腕にとび乗ってしゃがみ姿勢に入る。
 俺はアレンを乗せたままの左腕を思い切り振り上げる。その勢いに乗ってアレンが思い切り跳躍する。これで落とし穴からは脱出できたな。次は俺だ。
 といっても、魔防が6桁...いや7桁台の俺にはこんな液体浸かっても何とも無いけどな。

 と思っていたのだが、数秒経つと体から煙が上がってきた。こいつはただの溶解液ではないな。何か、特殊なものを入れてるな。

 「その溶解液には対不死性質の生物の為につくられた“聖水”が投与されています。あなたは不死の人間だという情報も得ているので。不死対策をさせていただいてます」

 ...思った以上に俺のこと調べられている。何より驚いたのが、その対策アイテムを早急に用意出来ていたこと。過去に同じ不死性の魔物にでも遭ったのか?この世界にはアンデッド系魔物もいたのか?

 まぁ、いたから対策としてつくられていたのだろう。ということは同じ屍族としてモンストールにも効くのかコイツは。

 そんなことより、このまま浸かってれば体が溶けて動かなくなる。その隙に捕らえられてはたまらない。その場で思い切り跳ぶ。全力で跳んだので地上からさらに数百mは跳んだ。

 ひとまずは第一の罠を突破した。風と重力の魔法を使って上空に浮かびながら思案する。
 今までに無い戦い方をする敵だ。入念にこちらの対策を練って、罠を敷いて俺を嵌めにくる。単純な武力勝負だと分が悪いと予め予測していたあいつらは、頭をフルに使い、弱点を的確に突きにくる。
 力任せに殴りにくるモンストールや魔物、殺したクズども(元クラスメイト)と違って頭脳戦で俺を狩ろうとしてくる。この世界にきて初めて戦うタイプだ。面白い。次も罠を仕掛けていることだろう。主に俺対策で。

 アレンはどこかと下をみる...いた。たくさんいる兵士の中でひと際レベルが高い兵士数人と相手している。アレンはやや苦戦している。回避寄りの行動をとっているな。というかアレンにかなりの手練れ兵士を割いている。これも奴らの作戦か。
 俺は罠で、アレンは強い兵士でそれぞれ追い詰めて潰すつもりのようだ。徹底してやがる...!

 このままだとアレンがピンチなので、あいつらの一人か二人狩るとするか。そう決めた俺は空中を蹴って急降下する。
 アレンを攻撃している兵士目がけて突撃して、激突する寸前、狙った兵士がギリギリのところで爆発魔法を斜め下に叩きつけて躱した。
 着地の衝撃でアレンがダメージ負わないよう重力で体を浮かせる。アレンは無事だが代わりに俺の骨が何本か折れた。猛スピードで突っ込み、急に止まるものだから当然だ。

 「コウガ!私は問題無い。こいつらになら倒されない。ここから本気出すから!」
 
 援護しにきた俺にアレンは心配するなと言ってくれる。表情からして無理してるわけじゃないな。彼女の言葉に俺は頷き、この場から離れる。とりあえず俺は雑魚兵士どもを消す作業に入るか。

 そう思って後ろ振り返ると、頭上から無数の矢が降り注いでくる。こんなものいくら放ったって効果が無い表示しか出ねーっての。そう思いながら矢の雨を平然と歩いて弓兵のもとへ行こうとすると、体からまたも煙が上がった。

 「...まさかこの矢にも!?」
 この矢全てに聖水を塗っているようだな。今も降り続けている矢にも全部聖水付きのようだ。流石の徹底ぶり!次から次へと初めてされる攻撃ばかりだよ。
 矢を抜いて、急いで矢の雨から避難する。が...
 
 「ッ!また落とし穴ぁ!?」

 矢の包囲網から抜けた先にはまた落とし穴が。これは...前もって作ったやつじゃないな。ついさっき即席でつくったみたいだ。じゃなきゃ味方が落ちるだろうからな。
 俺が穴に落ちたと同時に、雑魚兵士どもが水や土魔法で大量の水や土砂を落としてきた。生き埋めにするつもりらしい。そして降り注いでくる水と土砂にも...やっぱり聖水付きだったー。体がシュウシュウと鳴って煙が出ている。
 地中に潜ったまま、土を思い切り蹴って真横に跳んで、そこから真上に浮上。二回目の落とし穴トラップを破る。

 と、俺の目の前に手榴弾が飛んできて直後爆発。破片とともにこれまた聖水が出てきて全身にヒット!立て続けに聖水を浴びたせいで俺の体はもうぐちゃぐちゃだ。まぁ「自動高速再生」で元に戻るのだが...って普段より再生が遅い?
 脳のリミッターを外し過ぎると反動で再生に時間がかかることは知ってるが、今日はまだ一度も使っていない。あれ以外で再生が遅くされる要素ってあったのか?

 ...ああ、そうか。これも聖水の仕業か。まさか俺の固有技能にまで干渉してくるとは。完全に意表を突かれたよ。
 上空に視線を感じ、見上げるとそこに召喚獣に乗ってこちらを見下ろすカミラの姿が。ここで仕留められたと思っていたのか、若干焦りが見えた気がする。

 「ここまでやってまだ倒れませんか...再生機能もあるようで、本当に厄介で困難ですね」

 カミラは驚嘆のこもった声で俺に言葉をかける。だがまだ万策尽きたってわけではないようだ。それよりも気になってることがある。上空のカミラに問う。

 「さっきの突撃といい、矢の雨の先にあった落とし穴といい、そこから脱出した直後の手榴弾。俺の行動に合わせてことごとく仕掛けてやがった。まるで俺の動きを予め予測していたようだった。そこのところどうなんだ?」

 俺の問いにカミラは簡単な答えです、と答えを述べる。

 「私の固有技能『未来完全予測』。対象の未来の行動を数秒単位から分・時間それぞれに亘って予測できるものです。対象の人数とその行動時間帯が少なく短いほど予測できるものが増えるのです。
 例えば行動の他に、対象の思考や心理さえも予測できるといった具合に。今はあなた一人に発現させているので、今言ったことが可能になっています。」

 おいおーい。それめっちゃヤバい固有技能じゃないか?こんなん作戦立てる意味全く無いじゃん。全部筒抜けになるんだから。だから的確に落とし穴や爆弾を仕掛けられたのか。
 しかもあの女にはずば抜けた策謀をも展開してくると...これほど恐ろしいことは無い。こんな奴がいれば、大した武力差が無ければどんな戦争にでも勝てる。敵にするとヤバい奴だ。幸い今の敵どもは、あの程度のものだからまだ余裕あるけど。
 もし魔人族にあんな奴がいれば...負け確だ...!

 そう思ったからか、次の言葉が口から勝手に出てきた。

 「スゲェよテメーは。恐ろしく策謀に長けた女だ、カミラ・グレッド!こんな雑魚兵士を上手く動かして俺をこうやって追い詰めているのだから。
 戦えない身でありながら、たくさん努力してそうとう場数踏んでそこまで上ってきたんだろ?認めるよ。テメーは世界トップの軍略家だって!」

 素直に、敵を評価していた。言わずにはいられなかった。

 「...!!」

 俺の唐突な高評価発言にカミラは少し戸惑いの反応を見せる。戦いの最中でこう見降ろされてたら普通、ふざけるな!だの、降りてこい!だの、見下してんじゃねぇ!だのと怨嗟の言葉がかけられるのだろうから、俺みたいに評価する言葉をかけられることに慣れていないのだろう。まぁどうでもいいが。

 すぐに気を取り直したカミラはまたわざとらしい咳をして、俺にある情報を提供してきた。

 「......因みに、あなたへの攻撃手段として使っている聖水ですが。この道具は、あなたと同じ異世界人フジワラミワさんの発案でつくられたものです。
 彼女曰く、邪悪な魔物や不死性の化け物に効く聖なる性質を秘めた水だそうで。彼女の天職である回復魔法を駆使して完成したものをサンプルとしていくつか頂戴して増産しました」

 あの女ァ!俺にメタったアイテムなんか作りやがってぇ!昔からあったアイテムかと思えば、つい最近につくられたものだったのか。

 ちくしょう!学校での雑談時、あいつにラノベ知識なんか教えるんじゃなかった!絶対ファンタジー要素を思い出して作っただろアイツ!

 つーかマジでラノベとか読んでたのか?俺の影響で...?くそっ、気になるが今はそれどころじゃない。カミラの話によると、今後は俺やモンストールども対策としてさらに多くの聖水が作られることになるだろう。あれって魔人族にも有効なのかな?

 色々気になるが全て後回しだ。このままで行くと足元掬われる羽目になる。ならここいらで接待プレイは終わりといこうか...。こいつらは手強い。生前の俺だったら簡単に詰んでた。
 
 「さっきお前の言った通り、確かに普通の人間だったら、この辺りで倒されていただろう...普通なら、な」

 だが今テメーらが相手しているのは、世界そのものを滅ぼせる力を持ったチートゾンビ!どれだけ策を張り巡らせても、超圧倒的武力でそれらをぶっ潰す!
 テメーらにとって最悪に相性が悪いもの、それは“理不尽な力”だ。それを、今から見せてやろう。
 どんなに頭のキレが良くこちらの行動思考心理が読めても、埋めることが出来ないどうしようもないチート能力を!

 「脳のリミッター2000%解除」