アレンが気持ち悪くならない加減のスピード(それでも普通の高速船の数倍速い)で海原を進む。その間、海棲のモンストールが何体か出てきたので全て殺した。
時々普通の魔物も混じっていたが構わず殺した。
ザイートはじめとする魔人族は、魔物を使役する能力を持っているらしいから、魔物どももいずれはあいつらの配下と化す可能性が高い。今のうちに減らしておくのも無駄にはならないだろう。
ただし、殺すならきちんと死体残さずに消さなければならない。魔物の死骸から、モンストールが誕生するからな。
アルマー大陸からは、どの大陸からも離れたところに位置するため、イード王国から渡った時と同じくらいの時間をかけて、オリバー大陸に着いた。
船着き場に着いて目にしたのは、アルマー大陸の時と似た光景だった。人族と魔族の共用地となっていて、宿も営業していた。
適当なところでこの大陸の地図を購入して地理を確認する。
人族の領地であるハーベスタン王国、亜人族の領地である「パルケ王国」は、後者の方が領地が広い。モンストールの侵攻で人族の領地が無くなっているのが理由なのだろう。
地図を見て目を見張ったのは、モンストールが侵略した部分がこの大陸の半割くらい占めているということだ。全大陸の中でいちばん侵攻が進んでいるみたいだ。
このまま進めばハーベスタン王国が滅び、やがてパルケ王国も甚大な被害がもたらされるだろう。それだけ、モンストールの勢力が大きいということだ。
「これは、良いレベル上げ稼ぎになりそうだ」
地図を眺めながら俺は不敵な笑みを浮かべる。まずは、モンストールの領地に向かう。あいつらを徹底的に殺しまくって俺とアレンのレベルを上げるとする。
今日のところは宿に泊まり、俺の心とアレンの体を休ませることにした。
体は疲れてはいないが、色々あり過ぎて少し何もしない時間が欲しい。アレンも、修行とここまで来た中での戦闘で疲れているはずだし、今日は休もう。
アレンも了承してくれたので、高い宿に泊まってリフレッシュを図る。魔族向けの料理を堪能してご満足したアレンは、部屋(流れで?相部屋で取った)にある大きなベッドで、体を伸ばしている。俺は、これまた大きなソファーに腰かけて天井をボーっと見つめている。
クィンを眠らせてドラグニア王国へ向かい、元クラスメイト18名をこの手で殺した。
王宮内に侵入して、老害国王カドゥラとクズ王子マルス、ドラグニア王国の要人たちも殺した。
後宮で王女のミーシャと王妃と会ってそこで異世界召喚の真相とミーシャの本音を聞いて、殺そうと思ったところでモンストールが乱入。さらには俺を上回る力を持ったモンストール――魔人族のトップまで現れて、そいつと死闘を繰り広げた末に、何とか撃退した。
国跡地を出るところで藤原美羽と再会して...殺さず去った。
そして今新たな地に足を踏み入れて休憩中...今ココ、である。
これだけたくさんの出来事を、たった一日のうちに全て消化したのかと思うと信じられないなぁと思ってしまう。
クィンは、俺のやること・考えを否定して、最後は俺を見限って別れた...。
ミーシャ・ドラグニアは、家族と国を殺した俺に対してなおも罪悪感を抱いていて、助けたこと(と思っている)に礼を言って、憧れを抱いていると言った。
藤原美羽は、生徒をたくさん殺した俺をまだ大切な生徒だと言い、見限ることはしなかった。
藤原曰く、高園縁佳は見捨てられて落とされた俺を捜して助けるべく訓練と実戦に励んで色々奔走していたそう。
この世界に来て、俺の人間関係がこれでもかって程に複雑となって、歪みまくっている。今一番悩んでいるのが人間関係であり、その原因となってるのが藤原美羽とミーシャ王女、そしてまだ再会いていない高園縁佳だ。
正直困惑している。あいつらにとって、俺はただの害と言って良いだろう。俺を罵倒したクィンの方が、よっぽど信用できるくらいだ。
元の世界だったら、殺人を犯した息子(娘)に愛想を尽かす親なんて普通だろうし、というか勘当するだろうな普通。身内に殺人犯がいるなんて誰でも厭だろうし。
俺のところの家族だったら、きっと縁を切られてただろうなぁ...。
なのに、そんな俺をあいつらはまだ気にかけてくるのだから、もう理解不能である。
親でもないただの他人が、どうして厭にならないでいられる?親でも厭に思うかもしれないのに。
「.........」
あーあ。何もしないをしていると、延々と考えごとをさせられるはめになる。全くリラックスできないでいる。
ため息をついて、大の字になって目を閉じる。これだけで人はたいてい休めるのだ。眠れなくてもきちんと脳も体も休まってはいる...俺死んでるけど。
と、無理やりリラックスを図っていると、左隣に誰か座る気配が...アレンだ。俺の体にぴったりくっついたアレンは、俺の頬に手を当ててきた。体温が少し高く感じられる...酔ってるな?そういやさっきの食事で飲んでたな...。あと胸の感触が何とも言えない心地よさだこと。
酒気を帯びてるからなのか、頬を朱色に染めたアレンが優しく頬を撫でて、続いて頭も撫でてきた。その手からは、慈しみが感じられる。
狸寝入りするのも癪なので目を開いてアレンを見ると、アレンはどこか心配そうな目で微笑みながら尋ねてきた。
「コウガ...ドラグニアを出てからどこか思いつめたような様子でいる。さっきもあまり食べてなかったし...やっぱりクィンのこと気にしてる?」
「まぁ、あいつのこともあるが、あのお姫さんや...俺の先生(副担任だが)だった人のこと、まだ再会していないが元クラスメイトのうち一人のことも...
とにかく、人間関係のことで頭が少し、な...」
クィンとの会話内容は、船で移動している間で聞かせている。俺がサント兵たちを殺したことに少し憎悪の念を向けられたことも。
「クィンはまだ分かる。それなりに知り合った仲間をああも無惨に殺した奴を憎むのは当たり前だ。今後は、敵として俺たちの前に現れるかもしれない...。あいつが殺す気でかかってくるなら、こっちも容赦する気は無い。アレン、その時は覚悟しておいてほしい」
「......うん」
少し間があったが、一応了承したことは確かだった。
「で、だ...残りの彼女なんだけど、これが分からない奴ばかりでさー。普通さ、あれだけやったら見限るだろ?知人や身内を大量殺戮した超ヤバい奴なんか、一生関わらないようにするか抹殺するかのどっちかだろ?
なのにあいつらは……。理解に苦し―――
(ギュ...)ぅえ?」
アレンが俺の両頬を摘まんできた。まともに喋れない状態に。
「コウガ、その言い方だと、私が変な女っていうことと同じ意味...。私は、理解できない女なの?頭おかしい女...?」
私怒ってるよと言わんばかりの顔で俺を責めるアレン(でも可愛い)はジッと見つめて俺の返事を待っている。
「あー。いや、アレンを変な女だなんて思ってねーよ?うん、言い方悪かったな。スマン。アレンは俺の復讐、思想を肯定してくれていたから、別枠で考えていたから...今のは失言だったが決してアレンはおかしな奴だなって思ってねーから...」
早口で弁解する俺を見て、アレンはくすっと笑って抱き着いた。どうやら俺はからかわれたらしい。
「なぁアレン。お前は今後も、さらに人でなしで残虐な面を出すだろう俺を、仲間として接してくれるか?離れないって言いきれるか?」
真剣なトーンで言っ俺の問いにアレンは...顔を上げて俺の目を真っすぐに見つめながら答えた。
「コウガはこれからも、私の仲間だし、コウガから離れたりしないし、あと...私の伴侶候補、だよ」
「...言い切ったなぁ」
「私、家族と里がなくなってからは独りで...遭うものはみんな敵で、心が荒んでいた。それでもいつかは、仲間と呼べる人が現れるって信じ続けてきた。
そんな時に...コウガと逢えた」
ホールドを解除したアレンは、俺の両手を自分の前に持っていき、それを優しく握る。
「私の前に現れたあの時のコウガは、私にとって救いの神様に見えた。私の復讐のこと話しても否定せずにむしろ共感してくれて、しかも一緒に行こうって誘ってくれて。コウガも酷い目に遭わされて復讐するって聞いて、同志ができたって嬉しく思って...
コウガは、もう私にとっては仲間...家族って言って良い存在。だから今後は見限らないし離れない。絶対...!」
頬を染めて見つめたまま想いを伝えてくれたアレン。そんな彼女に、俺は...
(やっべ、惚れた...)
そう思わずにはいられなかった。アレンの今の言葉に、嘘は無かったと、アイテムを使わずとも確信した。彼女の目を見ると、そう思えたのだ。
「俺、アレンに出会えて良かったよ...今はそれ以外の言葉浮かばない」
「私も、コウガと出会えて嬉しく思ってる...ふふ」
甘える仕草で俺の膝に寝転んで幸せそうににやけるアレン。
俺は死人。だけど人としての感情は全く枯れていない。こんな風に、愛着が湧いて、惚れてしまっているのだから。憎悪や殺意、怒りといった暗く黒い感情ばかりではなかった。
俺は死んだが生きている。そう実感した。
この夜、俺はアレンを抱き、アレンも俺をたくさん求めた...。
翌朝心身ともに回復したアレンを確認した俺は、アレンとともにモンストールの住処へと足を運んだ。
昨夜は、お楽しんだ。ゾンビでもあそこは反応したし、興奮もしたし、アレも出た。血が出るくらいだし、それ以外の体液もやっぱり出るようだ。
それにしても、死んでいるのに性行為すら可能とは...つくづく理解に苦しむなぁ。ますます自分の体のこと分からなくなったわ...。
アレン?それはもう、凄かったよ。詳細は省く。以上!
アレンのお陰で俺もリフレッシュできた。色々考えさせられたが、もういいや、と割り切ることにした。あいつらがどう想っていようがあいつらの勝手。それに俺がどう思うのも、俺の勝手。当たり前のことだが、結局はそこに行きつくものだろう。
今は、ザイートとの再戦・復讐(殺す予定だった元クラスメイト3人を奪い、俺をズタボロにした罪)に向けてレベル上げに努めよう。
アレンも、やる気満々だ。
「じゃあ、行くか。お互いの、復讐の為に!」
「うん!」
レベル上げタイム突入――