美羽視点 

 私は1週間程前にカドゥラ国王の命で、オリバー大陸にあるハーベスタン王国に派遣された。

 ドラグニア王国の方針によって、現時点で戦闘慣れしていて災害レベルのモンストールとも互角かそれ以上で戦えるレベルに達した人たちが、別の国に短期間あるいは数年滞在させるということになった。
 戦力を分散させることで、同盟各国がモンストールに対抗できるようにする為らしい。

 ハーベスタン王国は、同盟国の中では戦力が最も劣る国であり、モンストールの侵攻によって領地も縮小しつつある傾向に陥っている。至急戦力の増強を図っているとのことで、現在ドラグニア王国でいちばん戦力があるとされている私が、一人派遣された。あと魔族である亜人族も住んでいるのもこの国の特徴である。人族と魔族間で唯一交流が深い国でも有名だ。

 派遣されたその翌日からモンストールが侵攻してきたので、私筆頭とした兵士たちでこれを撃退した。そのまた翌日に、近隣にモンストールの住処があるとのことで、遠征討伐に向かい、これも成功した。
 私が驚かされたことは、戦力以外にも、討伐に大きく貢献したものがあることだった。それは……「軍略」だ。

 討伐任務が出る度に、討伐隊には軍略が毎回伝えられており、その通りに動くことで全て成功に導かれていた。
 王国に直接仕えている一人の軍略家が練った策が上手くいったらしい。その人は軍略家として非常に優れていて、世界中の軍略家の中でもその人の右に出る者はいないらしい。

 そんな優秀な軍略家がいながら衰退の一途をたどっているのは、単純な話、武力が足らなさ過ぎることに限る。どんなに優秀で卓越した策を練れても、それを可能にする力が無ければ意味が無い。だから私があの国に来た時、とても優遇された。
 さらには魔族である亜人族も時々戦力を貸しているので、最弱国というレッテルが剥がれる日はそう遠くないそうだ。

 そして任期が終わり、ドラグニア王国に戻ることになった私は、ハーベスタンの人々に惜しまれながら海に出た。結局、私の前に軍略家の方が現れてはくれなかったのが心残りだった。警戒心が強い方なのだろう。
 
 ドラグニア王国に向かっている途中、私の連絡用端末から緊急の通信が入ったので慌てて応じる。



 「先生...た、すけ.........」



 その声は、生徒である青木君の声だった。非常に切迫した様子...恐怖で震えた声で私に助けを求めた直後、通信が途絶えた...!

 「青木君!?どうしたの!?そっちで、何が起こってるの?ねぇ!!青木君!!」

 何度もこちらからかけ直したが応答が無かった。悪い予感がした私は魔法を使って大至急ドラグニア王国へ帰った。

 そこで私を待っていたのは、再会の歓喜、そして……信じたくない悲惨な凶報だった。
 
 残りの生徒たちも殺しに行くと言った甲斐田君を、私は必死に説得して、止めるよう懇願した。生徒に私の想い・欲求をぶつけたのはこれが初めてだった。

 私の言葉が甲斐田君に届いたのか、結局は分からない。けれど私はまだ彼には止められる余地があるように思えた。
 彼の顔にはまだ人の感情が残っているように見えた。

 去り際に彼は“仲間”と合流すると言っていた。彼にも、この世界で仲間と呼べる人に逢えたのだと、私は安心していた。
 私にとって大切な生徒たちを沢山殺して、国をも滅ぼした甲斐田君だけど、そんなかれでも、私にとっては大切な生徒であることに変わりない。
 いずれは、罪を償って、仲間になって欲しいとさえ、思ってもいる...。

 しばらくすると、こちらに向かって来る2人の女性が見えた。近づくにつれて、一人は見覚えのあるお方だったので声をかけた。

 「ミーシャ様!」

 ドラグニア王国王女ミーシャ様とこの国の兵士ではない女性兵士のもとへ合流する。

 甲斐田君、私はもっと強くなる!君を止められるくらいに。君が言う通り、力ずくで止めなければならないならそうする。
 私は、私が望む展開になってくれるように動くから―!!




 藤原美羽と別れてサラマンドラ王国方面の道を歩いていると、アレンがやって来たので合流して来た道を戻っている最中だ。
 竜人族の族長エルザレスには、ドラグニア王国で何が起きたのかをかいつまんで説明してくれたそうだ。
 鬼族の生き残りであるセンたちにまた別れを告げて、戦士たちにも稽古の礼を述べて出て行ったそうだ。

 「センたちは、何て言ってた?」
 「自分たちも修行するって。モンストールや鬼族排斥派の獣人や亜人と対抗するためにって。あと他の鬼族の生き残りを捜しに行くとも言ってた。
 それで...恋人と上手くやりなさいって、言われもした♪」

 頬をややピンク色に染めながらこちらを照れながら見て言ったアレンに、苦笑する。頑張っているアレンを見て、あいつらもやる気になったみたいだな。次会う時はかなりの戦力になってるかもしれないな。

 「コウガ、これからどこに行くの?」
 「ああ、それならもう行き先は決めている」

 先程、藤原と再会したことを簡潔に話して、ここから南東方面に海を渡ってオリバー大陸へ向かう。そのついでにハーベスタン王国にも行ってみる。
 藤原と情報交換した際に、あの国にはとても頭がキレる軍略家がいるらしい。そいつの活躍もあって今まで国が滅ぶのを食い止めてきたそうだ。優秀な奴がいるのに最弱の国とは皮肉なものだ。だがその軍略家には少し興味があるので、会えるなら会ってみたい。

 それに、あの大陸はモンストールの領地の比率が高いらしい。人族の領地を侵略しまくっているせいだから。あいつらを片っ端から食い殺しまくれるボーナスステージだ。
 なぜモンストールどもを積極的に殺しに行くのか。それはまず俺自身の強化の為。今回モンストールおよび魔人族の親玉でラスボスでもあるあの男にズタボロにされて、実力不足を痛感した。だからもっと強くする。

 もう一つは...単に奴に対する嫌がらせ、戦力を減らす為ってところかな。

 それにあの大陸には、亜人族がいる。エルザレス曰く、鬼族を狩ったり隷従させているかもしれないとのこと。その真偽を確かめるいい機会だ。
 もし本当なら、アレンの復讐及び仲間を助けることになれるしな。

 そういうことをアレンに伝えると、アレンはいきなり抱き着いてきた。

 「嬉しい...私の復讐のことも考えてくれて。行こう、ハーベスタンに。仲間が、いるかもしれない」

 ギュッと服を掴んで嬉しそうに顔を胸にうずめるアレンの頭を撫でながら俺は今後のことを想像する。

 クラスメイトへの復讐。
 アレンの復讐及び仲間の救出。
 ザイートとの再戦。

 今主な目的は、これらに絞られる。どれくらいかかるかは分からない。すぐかもしれないし、何年もかかっての達成になるかもしれない。
 全て終われば...今度は元の世界に帰る術を探す旅にでようか...?

 漠然と考えながら、船着き場に停泊していた船を動かして、海へ出た。

 アルマー大陸。次来るときはサラマンドラ王国に寄ると思うが、ドラグニア王国跡地にはもう寄ることはたぶん、無い。
 同行していたクィンがいなくなり再び二人になった俺とアレンは、オリバー大陸へ向かう―—