これは…召喚魔法。初めて見る魔法が、よりにもよってこのクズ国王によるものとなるなんて。
 しばらくして、部屋の最奥あたりの空間がぐにゃりとしたかと思うと、そこから灰色生地に赤の刺繍が入った法衣を纏い、フードも被った魔術師っぽいのが4人出てきて、そのまま力なく倒れた。「気配感知」の応用で生命反応を確かめてみたが、全員死んでいる。

 「この巨人、その魔術師どもの命を使って召喚したものか。しかも、そいつらって俺たちを召喚した奴らじゃないのか…?」
 「はぁ、はぁ...そうだ、我だけの魔力ではこの神獣『デイダラボッチ』を使うのは不可能。一流の魔術師数人を使い捨てにしなければこいつを使役できない...!だが、これで貴様を殺せる!!」
 「こんな奴を召喚するのに、自分の部下の命を惜しむことなく捨て駒にするか...。どこまでも他人は自分の駒としか思っていない、国王失格野郎だな」
 「なんとでも言え!部下や民が我の為に犠牲になるのは当然だ!我の死はこの国の死も同然なのだ!!」

 クズ国王がクズな発言をした直後、巨人が拳を振り下ろす。その拳には光魔法が付与されている。おそらく光属性の眷属だろう。その拳をひらりとかわす。拳が地面に激突した直後、周囲が眩しく輝いて何か放射線的なものが放出した。
 「魔力障壁」を発現してこれも防いだ。拳が当たった地面は消滅して、放射線が当たった壁とかも消えていた。当たれば俺のこの体もただでは済まなかっただろう。

 「他人は駒かゴミとしか見てねーと言わんばかりの発言だな。身内だけは別...でもないんだっけ?」

 俺の発言に、クズ国王は眉を顰める。

 「テメー、さっき俺が姫さんと王妃さんのことを言ったら、妻は殺させないと叫んでたが、姫さんのことは...何も言わなかったな?殺させないとか守るとか、自分の娘に関してはスルーだったな。クソ王子のことにはあれほど激昂したのにな...?」

 クズ国王はしばらく黙って、ゆっくりと返事をする。その間、巨人の攻撃も続く。

 「ミーシャ。あ奴はかつての貴様と同じ、才能に恵まれないハズレだ。あ奴が貴様に殺されようが、別に心は痛まん。だが、優れた頭脳がある分、軍師としての利用価値はあるかもしれないがな」

 うっはー。ここまでクズ発言するとは。
 ...あの姫さん、他の王族とは違う何かを感じてはいた。だがそんな事情があったとは。ま、だから何だってんだ。

 さて、この巨人とのじゃれ合いも飽きた。少し本気を出そう。この復讐でリミッター解除を使うとは思わなかったが。まぁいい、さっさと片付けるか。

 「リミッター600%解除」

 さらに全身を「硬化」。左手を鉤爪状に「武装化」その左手に魔法を纏う。この技を「全属性武装爪(マルチ・ガロン)」と名付けよう。
 今回纏う魔法は暗黒魔法。光には...闇だ。
 黒い鉤爪には漆黒のオーラを纏っている。
 巨人は俺を見据えて口を大きく開けてそこに膨大なエネルギーを溜める。そして、俺目がけて極太の光線を発射した。

 俺は鉤爪を構えて突進―するわけない。あれをくらったら、再生するのに時間がかかる。「瞬足」で真上に跳んで躱し、空中を蹴って、そこから一気に巨人に接近。
 そして、600%のパワーでその巨体をめり込ませ、抉る!

 ぞぶ...と肉を思い切り抉る音がして、その巨体黒い何かが侵食していく。光を飲み込む闇。命を捨てて召喚した神獣は、そのまま闇に飲まれ、消滅した。

 「な...そんな、あの神獣を...」

 クズ国王は呆然とさっきまで立っていた巨人の場所を見つめている。その目はもう戦意喪失している。国王のくせにこいつも精神が脆いな。

 「今まででいちばん手間取った相手だったな。腐っても国王になれるだけの力はあったってことか。ま、それも捨て駒の命で得た力だったが」

 静かに言いながら、クズ国王に近づく。その様子にヒッと息を詰まらせ、ここから逃げようとする。
 逃がさないよう、重力魔法で地面にめり込ませる。その際、手足や肋骨、脚の骨を砕いた。

 「ぎゃああああああああ!!」
 「この程度で国の長がみっともなく叫ぶなっての。こんなの、今まで犠牲にしてきた奴らの痛みに比べれば、屁でもないだろ?」

 重力に押しつぶされているクズ国王のもとまで来てそのゴミが詰まってそうな脳みそが入った頭を踏みつける。少しでも力むと果物みたいに簡単に潰してしまうので、慎重に踏みつける。それでも頭蓋がミシミシといっている。

 「あがががが!!」

 今のこいつの顔はかなり滑稽で笑える。千人に聞いたら全員がブサイクと答えるくらいに。


 「テメーは、初めから俺たち異世界人をずっと見下した様子だったな。そして俺が平均以下のステータスでショボい職業だと知ってからは、俺を特に蔑視していたなぁ?
 実戦訓練に行く前の謁見の時も、わざとらしく俺を貶すようなことも言ったなぁ?」

 頭をぐりぐりと踏みまわす。

 「俺はな?テメーみたいなクソ老害がゲロ出るくらい嫌悪しているんだよ。例えば、街中や禁煙区域、いろんなところで、周囲への配慮ガン無視でタバコを吸うヤニカスや、古い時代のしきたりに拘り、今の世代の人間に迷惑ばかりかける頑固老害、金持ちになって自分は偉いと思い込み、何やってもいいとまで思い調子に乗り出す勘違い老害などなど!
 ホント!死ぬべき奴ばかりだよ!テメーらのような老害どもはさぁ!?」


 こいつにとっては、俺が何言っているのかがほとんど分からないだろうな。だって悪いとか微塵も思っていないタイプの人間だそうだし。
 けど、今の俺が自分に対して尋常ではない憎悪を抱いていることは理解しているらしく、先程から冷や汗がだだ洩れだ。

 「だから...殺す。ぶっ殺してやるよ」

 と俺は爽やかな笑顔で爽やかに死刑宣告を下した。

 「ま、待ってくれ!貴様に対する数々の非礼と侮辱。ここで誠心誠意謝罪する!本当にすまなかった!そしてよく考えてほしい!我は、貴様を捨てることを命じたわけじゃない!今は亡き我が息子マルスがやったこと。我は確かに侮蔑はしたが、殺したことにはならないはずだ!
 それに、カイダよ!この国の新たな兵団長にならぬか?ただの団長ではない。貴様が望むものを何でも与える!金も地位も思いのままだ!それだけの力があれば、同盟国全てを支配して世界を我らのものにできるだろう!
 だから、赦してはもらえないか?我はここで終わるわけにはいかないのだ...!人族を脅かすモンストールから世界を守るためにも、この命はとっておかねば―」

『カチッ(ボタン押す音)』


 “この世界をこのドラグニアのものに、我らが牛耳るために、何としてでもこの男を言いくるめて、ここを逃れて、そして油断したところを狙って殺して、全て我の思うがままの世界をつくるのだ!!!”


 聞くに堪えないクソ老害の言い逃れ戯言を遮って、女鈴木に使った真偽を判定するアイテム「真実の口」を使用した。
 案の定、腐った老害の腐りきった本音が出てきた。

 「今のは!我ではない!我が喋ったものでは―—」
 「あーもういいよ。それ以上下らない嘘をさえずるな。イライラするだけだから
 まったく、何が兵団長にならないかだ?何が世界支配だ?知るかボケ。
 テメーの利己的な野望のためだけに、俺の未来の大学ライフやその先の幸せな時間が奪われ、しかも命まで失った。テメーが異世界召喚を命じたことでッ!俺の人生めちゃくちゃになったんだよぉ!!ゴミの分際で、俺の人生うばいやがってよぉ!!」

 これまで殺してきたクラスメイトへの憎悪を再燃させ、その感情を全てこの醜い腐った老害にぶつける!

 「暗黒魔法・重力魔法二重使用。『暗闇の廃棄場(ブラックダストボックス)』!」

 唱えた瞬間、対象を取り囲むように、「闇」が広がっていく。ドーム状に変形していく様を絶望的な顔で、クズ国王は俺に縋りつくように叫ぶ。



 「違う!貴様は勘違いしている!我が異世界召喚を提案したわけではない!我はその案を採用しただけに過ぎない!!異世界召喚を企てた真の黒幕は―—」



 言い終える前に、「闇」が完全にクズ国王を囲う。その際、奴の喚き声はぱったりと聞こえなくなった。
 あの中は、音も光も遮断する。そして、中では「闇」と加減無しの重力攻撃によるカオス空間が生成される。簡単に言うと、ブラックホールみたいなもの。ただの人間がそんなところに行けば、理科を勉強してきた奴らは分かってるだろ?

 すぐにドームが開かれ、その中身があらわになる。
 そこには、醜い死体はおろか、血の一滴すら残っていなかった。

 「国王は殺した。この国も、終わったな...」

 誰もいなくなった広間で、ポツリと独り言をぼやく。
 王族の中で絶対復讐すると決めていたゴミクズ王子ことマルスと、クズ国王ことカドゥラの殺害はこれで完了だ。
 
 「ふうぅ...」

 喜びの声ではなくため息がこぼれた。達成感からきたため息だ。内心ではとっても爽快感と満足感で躍っている。
 王宮内での殺戮は、これで終了だ。

 最後は、王宮の渡り廊下を通った先にぽつんと建っている……後宮というところだ。

 この王国にいる俺の最後の復讐対象は、あそこにいる...。