ドラグニア王国の各所にて、救世団…皇雅の元クラスメイトたちがゾンビ兵士と応戦していた。単純な戦力だけならクラスメイトたちが上となってるが、殺しても死なないゾンビ相手となると時間経過ごとに徐々に疲弊してしまう。
やがて泥沼状態に陥った彼らだったが、戦況が突如として変わることになる。戦いの最中でゾンビ兵士たちが一斉に、王宮方面へ走りだしたのだ。
わけがわからないと、クラスメイトたちはそう思いながらもゾンビ兵士たちを追って、王宮前まで移動させられる。
王宮前には大きな庭があり、中央には王宮へ続くアスファルト舗装の通路が敷かれてある。
そのだだっ広い庭にて、クラスメイトたちとゾンビ兵士たちが再び激突する…クラスメイトの誰もがそう思っていた。
ところがゾンビ兵士側は戦闘態勢を完全に解いて、脱力状態となってしまう
「何なんだこいつら...!?街中で暴れていたのに突然走り出して。ここでようやく止まったかと思ったら、何だか戦う気ゼロって感じだし……」
ゾンビたちの様子に戸惑いの声を上げたのは、クラスの男子学級委員の鈴木貞三郎である。
彼は大西たちのように、皇雅には直接的にも間接的にも害を与えてはいなかった。とはいえ他のクラスメイトたちと同じく皇雅を腫れもの扱いする側であることには変わりない。
そんな鈴木を含む18名のクラスメイトたちは、全員どうすべきかと棒立ち状態になっていたが……
―パンッ―
両手を合わせて叩く音が、後方から突如響いた。するとその直後―—
「「「「「ドオオオオオオオオオオ――――――」」」」」
脱力していたゾンビたちの体が突然不自然に膨らんだかと思えば、小規模な爆発が起こった。
「うわぁ!?」「何!?何なのよぉ!!」「ぎゃあああ!!熱いっ」「おい、爆発に巻き込まれた奴がいるぞ!すぐに治療を―」
突然の爆発に狼狽する者、爆発に巻き込まれて大怪我を負う者、そんな彼らを見て治療を試みようとする者など、クラスメイトたちはややパニックに陥る。
そんな中で鈴木だけがただ一人、爆発が起こる直前に聞いた音の鳴った方を凝視していた。その方向から、誰かが悠々と歩いてくるのを目撃する。
やがてその正体が明らかになると同時に、鈴木は目を見開いて、他のクラスメイトたちとは種類の違った狼狽を見せた。
「あ、あいつは...!?」
そんな鈴木の様子を不審に思ったクラスメイトの何人かも後方を見る。そして同様に驚愕した。
無理もない。王宮前に突然現れた人物は、死んだと思われていた元クラスメイトだったのだから。
*
手を叩いた直後、ゾンビ兵士どもが自爆した。それに巻き込まれて重傷を負った元クラスメイトが何人かいた。
あれしきの爆発で負傷するとか弱過ぎるだろ…と嘲笑しながら歩いて行くと、俺に気付いた男が一人、狼狽にしながら何か呟いた。
確かあの額縁眼鏡のキモイ奴は、俺の次に学校の成績が良かった、男の方の鈴木か。大西どもほどではないが、俺にとっての害虫だな。よし、たくさん苦しめて殺すぞぉ!
鈴木の狼狽につられて、残りの奴らも俺に注目した。
「え...あれって甲斐田!?」「嘘!?ホントに甲斐田?」「先月の実戦訓練でいなくなったんじゃ!?」「ねぇ、なんかおかしくない?雰囲気が別人で...」「あの状況で生還できたのか?」
例のごとく俺が現れたことにあれこれほざいている。いちいちあいつらの疑問に答える気はないので、俺の用件を簡潔に述べて、さっさとコトに移ろう。ごちゃごちゃ喚いているあいつらにさっきみたいに手をたたいて注目させる。
「はいはーい、テメーら約1ヵ月ぶりですねー。覚えているかなー?甲斐田皇雅でーす。テメーらに見捨てられ、嗤われながら地獄に落とされて、死んでしまった男でしたー。奇跡的に復活した今は、ゾンビとして活動している。そんな俺が、お前らに要求することはただ一つ。
――死ね」
一息に喋った後すぐに、俺は駆けた。全力疾走じゃないこの速度でも、あいつらには俺が一切見えていないようだった。
あいつらが慌てふためいてるうちに、俺は一人の男子生徒の誰かに手をかける。
駆けた勢いのまま、手を広げて力いっぱい首から上を《《掴んで引っこ抜いてやった》》...!
今俺が掴んでいる頭を回して顔を見てみると、その顔は、間抜けに呆けていたからだ。
「え...あれ?俺の体が、何であんなところ...に.........」
首を引き千切られたことすら気付いていない首だけの男子生徒は呆然と自分の体を見つめて、血を吐いて事切れた。俺は無造作に物言わぬ死体首を投げ捨てる。未だに呆然としているカスどもに向けて。
「え...?う、わああああああああああ!!?」
誰かがその首を見て情けない悲鳴を上げる。それにつられて他も喚きだす。
「森川が!森川の首がぁ!?」
ああ、今殺した奴、森川っつったっけ?たしか森川巧だったっけ?まぁどうでもいいや。全員殺すし。もう思い出す価値すらない。ただのモブどもだ。
かといってモブを見逃してやることも、絶対無い。こいつらも同罪だからだ。当然だろうが。大西どもに肩入れして、同調して俺を孤立に追いやったのだから。
大西どもと一緒になって俺を蔑んで嗤って見捨てて落としたのだから。
事情なんて知るか。俺は自分の感情に従う。欲望のままに、こいつらをぶち殺す。温情など一欠けらすら与えない。
「いや、自分の心配してろよ?数舜後か数秒後かにはテメーらも同じ目に遭うんだって」
そう呟きながら、次の元クラスメイトの首を刎ねた。今度は恐怖が張り付いたような顔が見られた。イイね。とてもそそられます!
「の、野口が...!」
ああ、こいつ野球部の野口か。野口……将輝だったか?
「ま、待ってくれよ!殺すことなのか!?俺たちに見捨てられて、死んじまって、そりゃ憎い気持ちになるだろうけどさ!仕方なかったんだって!ああでもしないと、俺たちがあのモンストールに殺されていたかもしれなかったんだぞ!?お、俺たちも申し訳ないとは思ってたよ。本当だ。甲斐田は嫌な奴だったけど、死ねとまでは思ってなかったし!」
鈴木が俺を宥めようと必死に説得にかかる。俺は無表情。それを見た鈴木はさらに口を動かす。
「そうだ!藤原先生が嘆いていたぞ?甲斐田を助けられなかったって!高園もしばらく誰とも話せないくらいに落ち込んでいたし!お前が死んで、喜んでた奴は、大西とかだったぞ!山本とか、片上や須藤、里中、安藤だってそうだ!こ...ろすなら、あいつらだけにしないか...?」
死にたくないとばかりに必死に弁明する鈴木をよそに、俺は一人考え込む。
「先生はともかく、高園が、ねぇ?俺が死んだと落ち込んでいたと?」
「あ、ああそうだ。俺も、本当にすまないと思っている!だから、この通り―――――くたばれぇ甲斐田ぁ!!」
突然、鈴木が声を荒げて大きく手を振り上げる。直後、俺の胸から剣が生えた。後ろを見ると、してやったと言いたそうに不敵に笑みを浮かべる男子生徒が俺を刺し貫いていた。
こいつは早川。早川たかしだ。須藤と仲が良く、俺を貶めるような発言をしていたこと、忘れてはいない。害虫野郎だ。そしてヤニカスでもある。
そういや、須藤が俺の下駄箱にタバコの吸い殻を大量投棄したのって、あれにこいつも加担していたとか何とか。ならここで十分に地獄を見せてぶっ殺すとするか!
武器からして、こいつは剣士か。この一撃で俺を仕留めたと思っているようで、ざまぁと言いそうなキモい顔してやがる。
痛みなんて全く無いけど、こいつの顔見てると腹立ってきて、不快感も湧いてくる。決めたわ。こいつには元の世界での分も合わせて、絶望と恐怖を味わわせてぶち殺す。
剣の切っ先を掴んで適当にへし折ってやる。そして柄部分も引き抜いて投げ捨てる。ついでに柄を握ってた早川の右手も引き千切った。
「あぎゃああああああ!?手が!手がぁ!甲斐田が!?何で生きてぇ!?」
激痛と疑問でパニックになって転げまわる無様ヤニカス野郎。
「は?は??早川...?甲斐田はなんで平気なんだ...!?」
鈴木は理解が追いつかない様子で俺を見ている。その顔には絶望が張り付いている。
「話聞いてなかったのか?俺はゾンビだ。剣でぶっ刺そうが、首を刎ねようが、死ぬことはない。だって死んでいるんだし、な!」
そう言いながら、倒れ込んでいる早川の頭を掴み上げて、鉤状の手でその腹を抉る。
「あああああああ!?痛い痛い痛いいいいぃ!!」
無様に悲鳴を上げる早川を見て、鈴木と他のカスどもは恐怖のどん底に陥っていた。涙を浮かべて震えている者、嘔吐する者、腰を抜かしている者様々だ。
「ああ、鈴木。言っておくが、さっきお前が挙げた名前の奴らな?とっくに俺が全員殺したぞ」
「え...!?」
「それにしても、高園のことは予想外だったわ。わざわざ情報どうもな。というわけで、ぶっ殺すな?」
淡々と言いたいこと言って、俺は早川を虐殺しにかかる。腹に突っ込んだままの手をデタラメに掻き回して、内臓を掴みで潰していく。
胃、肝臓、腸全て、肺、腎臓と、一つ潰す度にこのヤニカス野郎がくっそウケるほどに断末魔の叫び声を上げるものだから、思わず吹き出す。
「ぎゃああああああ、ごぷっ!!あ、あああ、い、や、だ、ぁぁぁ」
「うははは!あー面白れぇ。ねぇどんな気持ち?背後から一突きして仕留めたと思ったら、全く効いてなくて、今度は自分の内臓が潰されていることについて、どんな気持ちぃ!?」(ぐりぐりぐりぐりぐりぃ―)
「ごっぷぁ!!ごめ、なさ...も、ゆる、し...」
「はい、聞こえません。死ね」
冷淡に返事して、腕を振り上げて、ヤニカスを一気に地面に叩きつける。マッハ数十の速度で。
パァン!と破裂音がして、さっきまで早川たかしだったものが、ただの汚らしい燃える粗大ごみへと変貌した!
「ひ...ひぃ...」
さっきまで人間だったクラスメイトがグロテスクに殺されるところを目の前で見たカスどもは、悲鳴すら上げることができず、掠れた声しか出せず、絶望しきった顔で見ていた。
「ま、こいつには結構不快な想いをさせられてきたから、こうやって思う存分に苦しめて殺した。けど安心しろ。残りのテメーらはそんなに苦痛を与えないで比較的マシにぶっ殺してあげるから。んじゃ...」
日本刀化した左腕を振るいながら、俺はこの状況に相応しくないくらい優しい笑みを浮かべて、この惨劇に相応しくないくらい爽やかで明るい声音で、続きを述べた―
「さよーなら!みーんなっ☆」
数分後、王宮前の庭に、真っ赤で鉄臭い花がたくさん咲いた。