竜人族の国サラマンドラ王国に戻ってきた頃にはもう夜になっていた。俺の顔を見た衛兵たちが普通に通してくれて、そのまま街中を進む。
族長エルザレスの屋敷に着いた時、中から打突音が聞こえた。誰かが戦っているようだ。
インターホンなど無いので、そのまま玄関に入り、廊下を進んで音がする方へ行く。
道場みたいな部屋からもの凄い音がする。音源はここのようだ。若干警戒しつつ扉を開けて中へ入ると―――
体がひと回り大きくなったアレンと、巨大な蛇の竜が戦闘していた。
*
「! コウガ!おかえり」
俺にいちばんに気付いたアレンが、額に汗びっしょり浮かばせながら声をかける。
アレンの今の姿は、以前モンストールの群れ討伐の時に見たやつだ。「限定進化」っていったっけ。
「む...?奴が人族の雄か」
アレンにつられて蛇みたいな竜も俺に目を向けてくる。元の世界の普通のアパートよりも高さがある胴体で、ゲームに出てきそうな竜の顔だ。胴体を覆うのは、蛇にはついていないだろうと思われる硬そうな鱗。今にも射殺してきそうなくらいに鋭い眼。口からは鋭く尖った牙が見えた。
二人の言葉に、舞台の外にいた竜人たちも俺に注目する。全員俺より一回りゴツくてデカい。
何よりも、ただ立っているだけなのに、ただ者じゃないと思わされるオーラが凄い。一人一人が歴戦の猛者のようだ。
「帰ったか」
異様な雰囲気に少し引いてる俺にエルザレスが声をかけてきた。
「この状況何...?」
舞台を指さして彼に問う。
「稽古だ。あの鬼娘のな」
舞台を見ながらそう答える。稽古というより、ひと昔の奴隷と猛獣が戦わされているアレみたいだが...。
元のサイズに戻ったアレンが俺のもとへやってくる。
「“探検”は楽しかった?」
「探検」をやや強調して問いかけてきた。どうやら、分かってたんだろう。俺が本当は何をしてきたのかを。
「ああ、楽しかったよ。すごくな」
声は爽やかボイスだったが、顔がとっても悪人のソレになってる気がした。
人を殺した。それも何十人も。あれだけ殺しまくったせいか、今の俺の顔からは、無邪気とか、爽やかとかの要素が抜け落ちてしまってるようだ。
今もきっと邪悪な形相してるんだろうな俺。
俺の表情を見て何か色々察したアレンは、そっかと納得して微笑んだ。
「ところでアレン、どうしてここで修練とやらを?」
先程の状況を今度はアレンにも聞いてみる。
よく見ると、
アレンは全身汗びっしょりで、肌が見える部分にはところどころ打撃痕がみられる。かなり激しい打ち合い?をしていたようだ。
「私、こないだの討伐戦で、まだまだ力不足だと感じた。私の家族と村を滅ぼしたモンストールの強さは、あんなのよりももっと上だった。今のままじゃ復讐は遠過ぎる。
だから、この国の戦士たちと戦って強くすることにしたの」
アレンにとっては、自分の復讐相手がはるか格上の存在だから、ああやって鍛えなければならない。
何だか、訓練していた俺を見ているみたいで、感心してしまった。
「アレンはとても努力家だな。 ところで、ここにいる戦士たち、どれもただモンじゃないな。そんな奴らと今まで模擬戦してたのか」
「強いよ、全員。特に、さっき戦った人は凄く強い」
アレンが舞台の方を見やる。そこには俺の身長ほぼ2つ分の大男がいた。
おそらくさっきの蛇だった奴だろう。擬人化してもあんな大きさとか、やっぱり魔族ってデカいな。
「あいつは俺の息子のカブリアス。俺と同じ“蛇”種だ」
そばにいる族長が舞台にいる男を紹介する。
「“蛇”種...?」
俺が聞き返すとエルザレスがさらに解説する。
「竜人族には、種類があってな。
恐竜種、蜥蜴種、翼竜種、鰐種、そして蛇種だ。
中でも蛇種は希少で非常に高い戦闘能力を誇る種だ。この国の長は代々蛇の種の者が踏襲することになっている。時期族長も、蛇の種であるあいつになるというわけだ」
爬虫類のラインナップだ。いちばん強いのが恐竜ではなく蛇ってのが意外だったが、蛇って確かに竜みたいなフォルムに見えなくもない。あいつらの先祖も竜だったのかもな。
「俺たちは、人型体型でもそれなりの力に自信があるが、本領を発揮する時には、身体を変化させる。『限定進化』といえば分かるか?とにかく種類特有の姿へ変貌遂げた俺たちは異次元に強い、と言っておこう」
自慢げに自分たちの生態を解説してくれた族長。鬼族にも種類があると聞いたし、「限定進化」もみたことがある。あの固有技能は、魔族共通に存在するみたいだな。それも熟練の、修羅場をくぐってきた猛者にしか発現されないのだろう。
「どんなのがいるんだ?竜人族の、あいつらみたいな猛者には。全員凄い姿になりそうだ」
「試しに目にしてみるか。 ドリュウ!」
族長の呼びかけに返事をしたドリュウが舞台に上がって早速進化する。
「限定進化」
身体がメキメキと音を立てて変形し、発光した。
そしてあっという間に、ドリュウは全く別の生物に変わっていた。
尻尾が大きく長く鋭く発達した、肉食恐竜の姿だった。某ハンティングゲームに出てくる、尻尾を刀みたいに振るって攻撃してくるモンスターとそっくりだ。
「鑑定」で彼のステータスを見る。
ドリュウ 50才 竜人族(恐竜種) レベル90
職業 戦士
体力 6000
攻撃 6000
防御 6000
魔力 6000
魔防 6000
速さ 6000
固有技能 竜人斬術皆伝 炎熱魔法レベル8 大地魔法レベル8
光魔法レベル8 気配察知 魔力光線(炎熱 光) 限定進化
普通の戦士水準から見ると凄まじいステータスだ。Sランク相当の実力者と見た。ちょっと前にクエストで戦ったエーレを単独で倒せそうだな。
「ドリュウはこの国の戦士の中じゃあどれくらい強いんだ?」
圧倒的存在感を放つドリュウを見ながら、族長に話を振る。
「……俺を含む全戦士の中では、十位だ。因みに一位は族長のこの俺で、二位がカブリアスだ」
...あれで十番目に強い、あと9人も強い奴がいるのか。うち二人はこの族長とその息子だが。
因みに竜人族の戦士で特に強い戦士たちには「序列」が与えられるらしい。何人いるのかは知らないが。
「...私、ドリュウにも勝てなかった。しかも彼より強いのがあと9人も...。みんな凄い戦気だし、むぅー先は長い...」
アレンが拗ねるように呟く。
さすが「竜」ってところだな。この国が総力あげて攻めにいったら、災害レベルのモンストール群にも勝てるかもなぁ。
特にあのカブリアスって奴。進化していない今の段階で、進化したドリュウと同じ強さだ。本気出したらどれ程強化されるのやら。名前も某モンスターゲームの六世代での対戦使用ランキングがトップのモンスターとそっくりだしよ...関係無いか。
そんなことを考えながら、道場を出た。