「水爆」の爆発音で、歓楽街周囲の村とかから「何事!?」って誰かが様子見に出てくるかなーと思ったが、中々誰もやって来ない。もしかしたら、避難しているかもしれない。
 そうなると、この辺に来る奴らは兵士か元クラスメイトどもしか来ねーはずだな。
 だが、そいつらも来ないってことは、王国で招集がかかっているのかな。
 だとしたら、もうここに用は無い。そろそろ戻ろうか。
 けど念の為、近くの村にも様子を見て行こう。そこで出動準備している可能性もあることだし。



                    *

 歓楽街にいちばん近い村「ゾルバ村」。
 この村には歓楽街ほどではないが、アルマー大陸内では穴場とされているレベル高い娼婦をそろえた店がある。さらにドラグニア王国の兵士の駐屯地も設けられている。村の治安を保障する代わりに、税金を割高で納めさせている。それで良い思いしている兵士どもの柄は、比較的に悪い。村民たちは不満を募らせているが、安全のためと仕方なく割り切っている。
 兵士たちのほとんどが、その娼館目当てで滞在している。

 そして救世団の「彼ら」もまた、それ目当てでここに滞在している。

 里中優斗《さとなかゆうと》、小林大記《こばやしだいき》。二人は現在兵の駐屯地で戦闘準備に入っている。
 その理由は、先程出陣した兵士約50名と、学校のクラスメイトで救世団メンバーでもある須藤と連絡がつかなくなったから。また、ついさっき歓楽街の方向で爆発音がしたというのもある。不審に思った兵士たちが、手柄目当てで歓楽街へ行こうと戦闘準備をしている。二人も流れ的にそうすることになった。

 「須藤の奴、俺も歓楽街へ行ってみるって行ったきりだな。連絡もつかねーし」
 「どうせ、あそこの娼館で女に夢中になってる間に携帯端末を落としたんじゃねーの?」
 と、さして彼の心配はせず、簡単に準備を終えて、出発しに行く。
  既に準備を終えた兵士が二人に声をかける。

 「お二人とも我らと同行していただけませんか?お二人がいるだけで、みんなの戦意を上げられるので」

 そういうことならと、二人は全員揃うまで外で待機した。
 しばらく経って全員が揃った時、こちらに一人の少年が向かってくるのに気付いた。だんだん近づくにつれて兵士たちが不審に彼を見やる中、里中と小林だけは違った反応をしていた。
 二人とも、ありえないものを見たような顔をしていた。
 無理もない。「彼」はここにいるはずがない人物なのだから。

 「嘘だろ...!?あいつは...」
 「間違いない......甲斐田だ」


                   *

 やっぱり予想通りだ。兵団の駐屯地がこの村にはあった。都合よく、近くに民家が無い。だだっ広い運動場があるくらいだ。訓練するための場所なのだろう。
 俺にとっては丁度いい処刑場だ。「あいつら二人」のな...。
 目の前にいる今回の復讐相手は、里中と小林だ。こいつらも絶対に殺すと決めていたので、大当たりだ。
 これで4連続の当たりだ。ここまでくると、俺は本当についてるなぁと思う。
 ただ今回は、少々邪魔がいるな。周囲に兵士がけっこういる。さっきの50人くらいより少し多いか。
 まあいい。こいつらも復讐対象としよう。
 ―—復讐と殺戮の続きを始めよう。


                   *

 「お前...ホントに甲斐田なのか!?」
 「マジなのか?あの時落ちて死んだだろ!?」

 里中と小林2人とも同じ驚愕の声を上げる。
 
 「あー。俺の元クラスメイトはどいつも同じリアクションばかりだなー。つまらないわー」
 対する俺は完全に冷め切った態度だ。
 
 「同じリアクションだと?他のクラスメイトに会ったのか!?」

 小林が俺の発言に反応して聞き返す。意外に耳ざといな。須藤と同じ不良グループにいた奴のくせに。

 「ああ、会ったぜ。今のところ6人だったかな。全員復讐してぶっ殺したが」
 嫌味たっぷりと言ってやる。その言葉に二人は血相変える。

 「殺した?お前が?できるわけないだろ?どうせみんなから逃げてきたんだろうが。お前のステータスでは誰も殺せないはずだ!」

 里中がもっともらしいことを言う。

 「まぁ確かにあの頃ならそうだったかもな。ただ、今の俺は、いわゆるチート主人公って奴でね。お前ら程度じゃ、もう鼻くそ以下のゴミレベルにしか見えないんだわ」
 と、侮蔑たっぷりに見下した発言をする。

 「あ?何言ってんのお前?廃墟から地下へ落ちて頭打っておかしくなったのか?俺らが鼻くそ以下だと?またあの時みたいにリンチしてやろか?ここにいる兵士たちも入れてなぁ」
 「あの状況から運よく生き抜いたことは褒めてやるが、また俺たちのサンドバッグにでもなっとけやぁ!!」

 俺の挑発に簡単に乗った二人は、俺をいたぶろうと同時に走ってきた。里中は蹴り技を得意とする格闘家、小林は魔術師だ。
 まず里中が勢いよく蹴り技を繰り出す。膝部分に鉄鋼を埋めた膝蹴りをかましてきた。力の差を思い知らせてあげたいから、受け止める態勢をとる。

 「馬鹿が!甲斐田ごときが止められる蹴りじゃないわぁ!両手を砕かれろ!」

 小林が俺の行為を無謀だと言わんばかりに叫ぶ。兵士たちも俺はやられるだろうと確信した様子で、里中も俺の行為を見てほくそ笑んでいる。そのまま奴の膝が俺の掌に激突する。
 だがしかし。当然というか、あいつらにとっては予想外というか。衝撃音は全く訪れず、ポスッという間抜けな音を立てて、里中の蹴り技は俺に止められた。
 あまりに予想外の展開で、里中がびっくり顔をしている。小林と兵士たちも啞然としている。

 「俺は加減はしてないぞ?なんで止められてるんだよ?」
 すぐさま俺から距離をとり、もう一度蹴りにくる。

 「『剛力』!『加速』!」

 脚に「剛力」をかけ、「加速」でスピードを上げて蹴る威力をさらに上げにくる。
 今度は、受け止める仕草すらしないで、両腕を広げて、来いよとばかりに挑発する。

 「舐めてんじゃねーぞおぉぉ!?Cランクの魔物を殺したこの蹴りで全身の骨を砕いてやるよぉ!!」

 俺との距離が1~2歩くらい離れたところで、軸足を踏み込み、利き足で俺の胴体に足刀蹴りを入れにくる。
 蹴りが当たる感触。だが、俺の体は微動だにしない。大地魔法で、俺の身体は岩石と同等の堅さと化している。
 アレンくらいの攻撃力がなけりゃ、ビクともしないくらいの防御を誇る。
 Cランクの敵を倒した程度ではしゃぐカス野郎の蹴りなど、蚊が刺した程度だ。それどころか、攻撃した里中の方がダメージを食らっている。あのクソ雑魚の右脚は、完全に折れていた。

 「ぎゃあああああ!?何でだ!?なんで俺の脚が折れてるんだぁ!?あいつの身体どうなってるんだよぉ!?おかしいだろうが!あんな奴が...!ありえない!」

 この予想外の結果に完全にパニックを起こしていた。周りの兵士たちは、そんな里中を見て動揺している。
 小林が、慌てて里中のところに行って、治癒魔法をかけようとする。放っといてもいいのだが、さっさと復讐タイムにしたいので、妨害する。

 「隙だらけっと」

 小林の顎を蹴り上げ砕いた。何が起きたか分からないといった様子で、派手にのけ反って仰向けに倒れる。

 「は...あ?何だ今の動きは?」

 唖然とする里中を無視して、そのまま小林に追撃をかける。まず奴の武器となる魔法杖を割りばしのようにへし折ってやる。これで魔法は撃てない。まぁ俺にはこんな雑魚ごときの魔法は効かないが。
 そして、小林の胸倉をつかむ。こいつには、小学生時代の時に不快な思いをさせられたなぁ。
 今も、あの頃の出来事が脳裏に浮かぶ。

 以下、回想に移る。