須藤。
 こいつは山本や片上ほどじゃないが、大西とけっこうつるんでた奴だ。学校の時も、制服を不良っぽく着崩してたな。今も、胸元はだけた服を着てやがる。気持ち悪い。

 そんな須藤も大西たちと同じ、学校でもこの異世界でも俺を害することをして不快感を与え続けてきたゴミクズ、殺すべき害悪だ。

 「ああ?何でお前がここにいるんだよ、ていうか何で生きてんだよ?雑魚でハズレ者のお前が、こんな惨状の中でよく生きていられてんな?w」

 この状況でもなお、俺をディスってくるか。こっちは今からテメーを殺そうとしてるのに。そんな爆発寸前の爆弾も同然であるこの俺に、まだそうやって刺激してくるとか、実に復讐のしがいがあるクソゴミ野郎だよ、ホント。

 「テメーも俺を害し、不快感をずっと与え続けてた、最低のゴミクズ野郎だ。だから、あの5人と同じくらいの痛み・苦しみ・絶望・恐怖、そして地獄を与えて殺してやるよ!クソ須藤」
 「あ?何が害だよ害虫が!誰に向かってクソつった?ハズレ者のカスが、何俺に対して調子乗って――」

 俺は短気を起こし、気が付けばもう動いていて、手も出してしまってた。
 須藤のクソキモいおしゃべりなその口目掛けて、死なない程度の威力で拳を振るった。
 直後、須藤が面白いくらい後ろへ吹っ飛んでいった。バキボキといった音と殴った時の感触からして、前歯が折れたな。ツーバウンドしてから無様にうつ伏せに倒れる須藤。
 もちろん休ませる間も与えることなく、その髪を乱暴に掴んで無理やり立たせる。顔を見ると、前歯だけじゃなく、下の歯もへし折れていた。初めて見たよ。上下とも折れてるのは。

 「あっという間にブサイクに変貌したな。歯茎真っ黒のクソヤニカス野郎」
 侮蔑たっぷりに罵ってやる。須藤の目はまだ怒りに染まっている。そうこなくては面白くない。まだ始まったばかりだからな。

 「うるせぇんだよ!よくも俺の顔面に傷入れやがって!ぶっ殺――(ドゴッ!)お...あ...!?」

 まだクソ生意気な口が利けるようなので、容赦ない腹パンを入れてやる。元の世界だったら鳩尾に衝撃が走って呻く程度で済んだだろうが、チート化した俺のパンチが加減しているとはいえただで済むはずがない。どうなったかというと、それはかなりショッキングな絵面になっていて……

 「う...ぐ......うぉ、え......え、げ」

 内臓が破裂しまくっていたこれでも全力を抑えている方だ。加減無しだとこいつの腹に風穴が空いてただろう。口から血の塊をごぼりと吐いて、早くも瀕死状態となってしまった。

 「あ…?ええ?何だよこれ......あり得ねぇよ。おかしいだろ。なんでお前なんかが、こんな力を...」
 「そりゃテメー、簡単な話だよ。あの地獄の場所で一度死んだ後奇跡的に復活して、強くなるべく頑張ってモンストールを倒しまくって、ここまで強くなれたんだ。これはそう、努力の賜物だ。テメーらみたいな、ままごとみたいな訓練なんかとは違う、文字通り修羅場をいくつも乗り越えてきたんだよ俺は。
 っと、解説はもういいよな?もう我慢の限界なんだよ。お前を苦しめて、痛めつけて、屈辱と絶望を味わわせてぶち殺したくて、しょうがねぇんだよぉ!」

 言ってる途中で感情的に叫び、顔も般若みたいな形相になってる気がした。
 事実、俺を見ている須藤の顔は、怯えや恐怖で歪んでいた。

 「その前に、振り返ってみようか。テメーが俺にどんな害を与えたかを。テメーがどれだけ俺を不快な気分にさせたかを」
 血が混じった咳をする須藤を睨みながら、丁寧に回想を語る。




 高校1年の春、俺が住んでいたマンションに、隣部屋に引っ越してきた家族らしき入居者たちがいた。それが、須藤賢也を含んだ須藤一家だ。
 挨拶しにくる様子はなかったので、俺も無視を決め込んだ。このまま一切干渉することはないと思っていた。

 ところが数か月後、就寝時間の時に隣から音が漏れてきた。明らかに大音量で音楽を流しているなと思い、その犯人も最近引っ越してきた須藤だとすぐ確信した。ベランダに出て、すぐに止めろと言ったが、聞こえてなかったのか、反応無し。しばらくすると音が止み、静かになったが、俺の不快指数はこの時から高められてていた。
 その翌日の夜もまた音が漏れていた。流石に堪忍ならず、ベランダに出て止めさせようとすると、須藤本人もベランダに出ていた。―—タバコをふかして。

 「おい、昨日から音がお前の部屋から漏れてんだ。今すぐ止めろ。あと、俺の前でタバコを吸うな。受動喫煙させるな。迷惑するんだよこっちは」

 俺の抗議に対し、このゴミクズは逆ギレして、そのまま吸い続け、音もそのままにしやがった。
 キレた俺は、部屋にあった飲みかけの水ペットボトルをタバコにぶっかけて無理やり消してやった。それに対してまたも逆ギレした須藤は、部屋を出て、俺の玄関ドアに蹴りを入れやがった。
 その後、両親と向こうの親を交えての話し合いが行われ(当事者の俺らは顔合わせたらマズイとのことで、お互い蚊帳の外にされた)た。
 結果は須藤が起こした騒音と禁煙指定のマンションにも関わらず喫煙したことのダブルペナルティによる相手の慰謝料支払いと部屋退去で、この件は終わりになった―かと思った。

 ところが須藤との因縁はこれで終わりにはならなかった。マンション騒動から数日後、高校の俺が使っていた下駄箱に、タバコの吸い殻が大量に詰められていた。
 あの騒動のことを思い返して、須藤がやったとすぐ気付いた俺は、放課後に校門から少し離れたところで奴を待ち伏せして、出てきたところを捕らえて、詰問した。
 すると奴はすぐ自白したが、逆上して俺に殴りかかってきたのだ。

 俺もブチ切れて、今までの鬱憤も込めて、俺は須藤をボコボコに返り討ちにしてやった。
 足腰立たなくなるまで痛めつけて、喧嘩に勝利はしたのだが、それだけやっても俺の気が晴れることはなかった。

 ―—どうせこいつはまた、俺に悪意と害意を向けてくるに違いない。不快な気持ちにさせてくるに違いない。殺しておきたい…。

 この頃から俺は既に、自分に害にしかならない人間は殺してしまいたい、といった考えを抱くようになっていた…。


 2年に進級して、大西どもと同クラスになった須藤は、大西に近づいて友達になった。同時に大西とグルになって、俺を孤立させたり陰湿な虐めをしたりするようになった。

 喧嘩暴力で勝てないと知ると、今度は陰湿な手段で俺を攻撃するという、つくづく腐りきった野郎だった。
 オマケに受動喫煙もさせて人の健康まで害するという、ある意味大西よりも質が悪い害悪をふりまいてくる、最低最悪のクズ野郎だ…。

 いつか物理的にも社会的にも制裁してやろうと、俺は須藤への復讐を考えながら学校生活を送るのだった…。