ドラグニア王国管轄の歓楽街「ハラムーン」。
 王国にも娯楽施設はあるが、せいぜい娼館があるくらいだ。
 ここには、日本でいうキャバクラやホスト、さらにカラオケまでもある。異世界でカラオケがあるとは思いもよらなかったため、休暇の日はたいていこの歓楽街に入り浸ることになる。
 異世界召喚されて、救世団の中でもかなりの戦力として有名な大西雄介《おおにしゆうすけ》もまた、いつもつるんでいるメンバーとともに現在エロな行為ありのキャバクラらしき施設で羽を伸ばしている。
 
 羽を伸ばすと言っても、ここ最近の彼はロクに訓練もせずに、ここにしょっちゅう通っている。
 しかも、手当たり次第に店の女に言い寄っては別室でいかがわしい行為に及んでいる。酷い時は、他の客の女にまで手を出して寝取りにくる。文句を言う客には、力を見せつけて黙らせる。
 
 とても世界を救う者とは思えない蛮行だが、モンストールを討伐している実績があるため、兵士や王族でさえも彼らに強く出ることができないでいる。
 もっとも、国王も王子も、この案件に関して全く触れないでいる。
 そのせいもあって、救世団の好き勝手さが日に日に増していっている。

 今日も、一緒にいるクラスメイト、山本純一《やまもとじゅんいち》と片上敦基《かたかみあつき》と店で非常識に騒いでいる。
 ここに来ている救世団メンバーは、他にも、女子の安藤久美《あんどうくみ》と鈴木保子《すずきやすこ》がいるが、大西たちとは別行動している。
 
 「元居た世界にもこういうところあるけどさぁ、金がかかるから行き辛かったじゃん?でもこの異世界では、王国からいっぱい支給金貰ってるからほぼ毎日ここで遊べるよなぁ~!
 人生勝ち組になった気分だわ!ww」 
 「それな~。あ、そうそう。須藤が最近別の地域で穴場の良い店見つけたって自慢してたぜー。今度案内させてもらおうぜ―」
 「まじかよ!行こうぜ!モンストールと戦うための英気を養うぞ~ってな!」

 ゲラゲラと酒を飲んで娯楽に浸っている。周りの客が不快げに彼らのテーブルを見るが、誰も文句を言いに行く様子はない。

 と、店の扉をものすごい勢いで開けて、ものすごい顔色悪い様子の男が、ものすごく息を切らして入ってくる。
 周りがなんだなんだと注目する中、その男は店全体に聞こえるくらいの音量で叫んだ。

 「街に、モンストールが1体暴れ回ってる!大きさからして、上位レベルだ!早くこの街から離れろぉ!!!」

 彼が言い終えるのと同時に、外から建物を破壊するような音が響いた。彼が言ったことが本当であると理解した店中の人々は、悲鳴を上げながら一目散に店を出て行く。

 「...モンストールが出た…?こんなところに?」

 人々が逃げ惑う中、救世団の3人は未だその場で座ったままだ。彼らは、最近Bランクを倒した経験があり、上位クラスが出たと知っても大して動揺はしなかった。
 
 「討伐任務以外であいつら相手すんのたりーんだけどなぁ」
 「けどさーここでモンストール討伐すりゃ、臨時報酬とかでまたいっぱい金くれるんじゃね?いや、くれるでしょ!」
 「だったら行こうかー。世界を救うお仕事っとー」

 余裕ありありの様子で軽口をたたき合いながら、三人とも店を出てモンストールを討伐しに行く。
 店を出ると、安藤と鈴木がいた。二人も状況を把握している様子だった。
 「あーもう、せっかく良い男見つけたのに最悪ー。早くモンストール狩ろうよー」
 
 安藤が愚痴垂れながら討伐を促す。それに同意した彼らは、暴れているモンストールのもとへ向かった。


                    *

 「『迷彩』解除だ。街中で暴れろ」

 ゾンビモンストールにそう命令すると、言葉通りに従い、行動を起こす。煌びやかな建物を次々に破壊しまくり、奇声を上げながら暴れ回る。やがて人々が街から逃げていく。突然の事態にパニックになっているのがほとんどだ。
 無関係な奴らの生死は別にどうでもいいから、あいつの好きにさせる。
 そろそろ俺も動こう。今度は俺が「迷彩」で姿と気配を消して、成り行きを見ていく。
そして、ゾンビモンストールに立ち向かう奴らが見られた。

 「5人か。しかも...まさか、いきなり大当たりのが釣れたとは...!」

 山本純一、片上敦基、安藤久美、鈴木保子。
 そして、大西雄介...。

 全員、真っ先に殺したい奴らが集結していた!
 といっても、こいつら5人は、学校とプライベートで普段一緒に行動していることがほとんどだった。一人がそこにいれば、ほぼ必然的に残りの4人もいることは決まっていた。

 「いずれにしろ、ついてるぜぇ。最初に殺せる奴らがテメーらだもんなぁ。もう少し、待つか...。もう少しで、邪魔なモブどもが捌けるしな」
 ある程度、人が街から消えるのを待ちながら、あいつらとモンストールとの戦闘を観戦する。

 「さて、恵まれた救世団(笑)の皆さんが、約1か月でどれだけ成長したのか、拝見致しますかぁ」
 
 数秒睨み合った後、大西と山本が飛び出して、同時に攻撃を仕掛ける。
 両手剣とグローブっぽいものが、ゾンビの腹に叩き込まれる。
 グェッと声を出すも、すぐに牙で反撃にかかる。

 だがその反撃は、後方から飛び出した長い槍によって失敗に終わる。槍の持ち主は片上だ。職業はおそらく槍使いか何かか。
 怯んだゾンビの隙を突いて、魔法攻撃が放たれる。安藤の魔法だ。ゾンビの弱点属性(火属性)で攻めている。 あ、俺は弱点違うぞ?
 
 ロクに訓練も勉強もしていないだろうと思っていたが、連携の良さとか弱点を理解しているとか、それなりに心得ているみたいだ。
 それを可能にしているのが、後方にいる鈴木の存在だ。あのクソ女の職業は「軍略家」。様々な戦闘形態を戦況に応じて瞬時に導き出し、どんな敵にも即座に弱点を把握する能力がある。かなり万能なサポート職業であるが、頭のキレが良くない奴には不向きだ。
 その点、あのクソ女には天職だろうな。もちろん、悪い意味で...。
 
 クソ軍略家の指示に従い、4人が次第にゾンビを追い詰め、ついに倒す。
 戦闘が終わったと確信して、ハイタッチを交わすゴミども。

 確かに、普段ならここでゲームクリアだっただろう。だが、目の前にいるそいつは、普通じゃない。殺しても死なないゾンビだ。

 しばらくして、ゾンビの破損した箇所に塵が集まり、身体が再生していく。やがて、戦闘前の状態に戻った。俺と同じだ。

 そのあり得ない光景に5人は口あんぐりと呆然している。なんて馬鹿面してやがるんだ、ウケる。
 その後も戦闘再開するが、同じ戦法の繰り返しだ。
 つーか、何だよこれ。1ヵ月経って、その程度って。これまでの訓練はお遊戯会でもしていたのか?
 こんなゴミカスどもにかつて痛めつけられたんだと思うと、無性に殺意が湧き上がってくる。憎悪の炎が激しく燃え盛ってくる。

 「もういいか。人もだいぶ捌けたし。あとは俺が全てもらう―」

 茶番は終わりだ。選手交代だ。屋根から飛び降りて、奴らのもとへ駆ける。
 「迷彩」を解除して、意志を込めて手をパンと鳴らす。これで、ゾンビ化は解けて死体へと還る。 この技能便利だねぇ。

 突然ただの死体に戻ったモンストールに戸惑う5人のもとに俺は現れた。
 さぁ、待ちに待ったこの時。存分に味わって食い尽くすぞ!!そして全員地獄の苦しみを与えて殺す!!