門番にアレンからもらった許可証を見せて、難なく入国する。
イード王国。ここも大きな通りに屋台がいくつか並び、いろんな人がいる。サントと違う点を挙げるなら、独特な料理があるところとか、だ。元の世界にもあったカレーやラーメン、ケバブのようなものが見られた。
「イード王国は、世界で初めて作られた珍しい料理がたくさんあることで有名なんです。食文化がいちばん発達した国ですね」
クィンの説明を聞きながら、いろいろ屋台を物色して回る。一回りしたところで、そろそろ俺とアレンの旅の目的の手がかりを探すことにした。
「この国の冒険者ギルドへ行ってみよう。そこで何か知れればいいが。例えば鬼族の生き残りを見たとか」
二人とも賛成してくれたので、ギルドへ向かう。
ここのギルドの外装も以前見たのと似たものだ。ただ、建物は2階立てだった。
中は、1階に受付とクエストのパーティ同士の話し合いの場の広場がある。2階にレストランがあり、そこで食事ができるようになっている。
情報を得るには、酒場で、ってのが鉄則だ。早速2階へ行こうとすると、受付嬢に呼び止められる。
「すみません!お二人は、以前エーレの討伐クエストを成功なさった冒険者ではないでしょうか!?」
と大声で呼び止めるから、広場にいた冒険者たちがギョッとした顔で俺たちに注目する。
半目で受付嬢を睨むと、彼女はハッとバツが悪そうにして、頭を下げる。
「ご、ごめんなさい…!大声で言うことではございませんでしたね。Aランク冒険者のオウガさんと赤鬼さんですね?サント王国のギルドからお二人のことは聞いております!
申し遅れました。私はギルド受付嬢兼ギルド副マスターのレイと申します!」
なんか声がデカくてテンションも高めで胸もデカい。そんなレイさんとやらにやや気圧されながら、会話に応じる。
「レイさんとやら。俺たちを呼び止めてまで一体何の用件で?つーかギルド側から話しかけるなんて珍しいな」
「2日前このギルドに、Gランクの討伐クエストが出たのです。討伐対象はモンストール。それも群れの討伐です。しかもどの個体も上位レベルだという情報も届いております。
この世界はご存知の通り、モンストールが私たちの暮らしを脅かす時代で、この国にも奴らの侵攻がいつ来るかも分かりません。そんなモンストールが、群れをなして人里に現れたとの報告をうけました。甚大な被害報告はまだ出ていませんが、早急に討伐しなければなりません。
そこで、あのエーレを討伐したオウガさんと赤鬼さんがここに訪れて下さったので、これは討伐依頼するチャンスだと思い、こうして声をかけさせて頂きました!」
と一息に詳細を話して、最後に机にバンッと手を乗せる。
モンストールが人里に現れるのは、いつかはあるんじゃないか、と思っていた。いずれ世界を侵食する奴らのことだ。人族を滅ぼすべく、本格的に動き出したってところか。モンストールの討伐は、何よりも優先すべきである緊急クエストとされている。一緒に聴いていたクィンは険しい表情になっていた。
「モンストールがついに人里に...。もう戦争は近いのでしょうか…?」
深刻に考えている彼女をよそに、レイさんに質問する。
「この国の兵団はどうした?いちばんに出張る奴らだろうに」
「それが、別の方でもモンストールが出現して、それに対応しているのと、討伐に行った兵団はいましたが、まだ帰ってきていないらしく、おそらく…」
「なるほど、てこずっているわけか」
ところで、冒険者たちが遠巻きに俺たちを見て何か言っている。
「あいつがあのエーレを討伐した冒険者たちだと!?」「たった3人でか!?」「いや、一人はサント王国の兵士だぞ。なんでここにいるのかは知らんが。」「じゃあ二人で行ったのか!?ありえねー」「あんまり強そうじゃないよね。Aランクって本当?」
などと、俺たちをについていろいろ言っている。後から聞いた話によると、冒険者の情報は、全世界のギルド間で共有される。そこからさらに王国にも報告されることになっているから、ギルドと王族に俺のことは伝わっているらしい。
「それで、オウガさん、赤鬼さん。このクエストを受けていただけないでしょうか?」
「……」
黙って考える俺にクィンが頼みにくる。
「コ…オウガさん。行きませんか?兵士の私としては、見過ごせない案件です。人々をンストールから守るのが私のすべきことなので。勝手なのは承知です!ですが、お願いです!」
アレンを見やると、彼女もやる気だった。家族を死に追いやったモンストールを倒したいようだ。モンストールへの復讐が目的だったな。
クィンの勝手だけなら頼みを蹴っていたが、アレンがやる気なら、まぁやらないこともない。ここは付き合おうか。
「分かったよ。引き受けるよそのクエスト」
「オウガさん…!ありがとうございます!」
クィンは嬉しそうに俺の手を握る。彼女は、どうも正義に燃えているキャラなんだよなぁ。正直、重くて苦手だ。慣れるだろうか?
「よかったぁ。受けてくれて安心しました!では、すぐに他のパーティも募集して、集まらないなら、国王様に兵団を派遣させていただけるよう…」
「あーそれは要らん。俺たち3人で行く。他の奴らいても邪魔だから」
仲間の募集を拒否して俺たちだけで行くと宣言する。その言葉にギルド内がざわっとする。驚きと馬鹿にされたと思い憤りの声と3人で行くことにたいする嘲笑など。まだ俺のことを知らない奴らがほとんどだ。無理もないが、不快だ。戸惑うレイに目を向け言葉を足す。
「それが受けいられないって言うなら、このクエストは降りる。俺個人としては別に受けなくていいと思っているんで」
「オウガさん…!?」
少し非難を込めた目で俺を見る。だが、譲らない。初めて顔を合わせる奴ら…それも人を見かけでしか判断出来ないカスどもなんかと同行などやってられるか。
「…わかりました。あなたの実力を信じて、ここは任せます。では、クエスト受注証を発行しますので、少々お待ちください!」
そう言って作業に入る。待っている間、クィンが疑わし気に俺に話しかける。
「さっきのは本気で言っていたのですか?同行者を追加したら受注を拒否するというのは」
「ああ、そうだ。全くの他人と仲良しこよしをする気はない。俺は基本協力はしたくねぇんだ。
それに、俺の実力はもう分かっているだろ?」
「…そうですか。ええ、そうですね。オウガさんなら、大丈夫ですよね…」
そして、手続きを終えて、早速クエストに出発だ。指名依頼されるのは初めてだ。
(コウガさん…さっきの反応。誰かと一緒に戦うことを忌み嫌ってる感じがした…。
他人を危険から守る為とかじゃなくて、本心から同行することを嫌がってる…そんな態度だった)
ギルドを出て移動する途中、クィンは後ろから皇雅の姿をジッと見つめながら彼の気持ちを推測する。
(……あなたは過去に何があったのですか?いつかは私にそれを教えてくれますか?
私はコウガさんの傍にいて良い人になれてますか…?)
「クィン?何だ?」
「あ…いえ、何でもありません」
「そうか?じゃあこのまま目的地へ行くぞ」
三人は王国を出て村へと向かった―――