(あの男は、余だけではなくお前や父上にも不敬な態度をとっていた。そのくせに貧弱な職業とステータスときた…。そんな奴を助けて我らになんの得がある?ここで切り捨てることが、ドラグニア王国の負担を減らすことになれるのだ!)
(価値無きグズに構うほど、今のこの世界は甘くないのだぞ?)
(貴様らも…死んだあの“ハズレ者”のようにはなりたくないであろう?ならば一層励め)
「………っ」
ミーシャ王女は、自分の部屋で一人悩んでいた。
異世界から召喚した若い男女の集団…今は救世団と言われている彼らの最初の実戦訓練が終わってからの数日間、ミーシャはずっと“あの事”を引きずっていた。
甲斐田皇雅の消失。そのことに対してミーシャはずっと悔やんでいた。
ミーシャにとって皇雅は異世界の人間の中で何故だかいちばん話しかけやすい男だった。
最初は何故彼に興味が惹かれたのかは分からなかった。けど今ならその理由は分かっている。
だからミーシャにとって皇雅は大切な仲間同然の存在だった。
しかし皇雅をそう思っていた者は自分を含めてもほんの少ししかいなかった。
自分の父と兄は皇雅の不遜な態度を不愉快に受け止め、その後に彼のステータスが他より優れておらず平均以下だと知ると、彼をいない者として扱った。
他の王族と一緒になって皇雅を使えない駒だとか色々貶して、最後は彼が消えてしまったことに対してもどうでもいいといった反応しか示さなかった。
“ハズレ者”に価値など無い、いなくなったことでお荷物が消えた…。王族からは皇雅に対してそんな侮蔑発言しか聞こえなかった。
(そんな、ことはない…!)
自分のステータスが分かった時、皇雅は確かに絶望していた。
しかしそこから彼は折れることなく己を鍛えることに尽力していた。
誰からも相手にされず一人で訓練に励んでいた。
ミーシャはそんな皇雅に惹かれていた。
彼女が彼に引き込まれた理由…それは二人はどこか似ているところがあったのだ。
ドラグニア家の血を引いた人間は、代々戦闘に秀でた者が生まれ出ると決まっていた。現国王のカドゥラも王子のマルスも、それぞれ魔法に秀でた才を持っていた。
しかしミーシャには、武術にも魔法にも才能が無かった。幼少からマルスと同じく訓練に励んでみたが成果が出ることは全くなかった。
それにより彼女は王族から冷たい目で見られるようになった。実の父や兄からもだ。母だけはそんな目で見ることなく優しく接してはいたが。
唯一政治や軍略に秀でた才があったお陰で、彼女はいない者として扱われずに済んだ。
ミーシャも周りと比べて才に恵まれていない者であった。そんな自分の負の部分と皇雅の境遇とでどこか共通点を見出したのだろう。
どこか似ている…そういった想いからミーシャは皇雅によく話しかけた。
そして次第にミーシャにとって皇雅は親しい人となった。同時に憧れにもなった。
恵まれないながらもずっと前を見て強くなろうとしている。色々工夫して成長しようとしている。皇雅のそんな姿に目が離せなかった。
彼を見ているとミーシャも頑張れる気持ちになれた。元気になれた。
自分に戦いの才能は無いけど、違うやり方でこの世界に必要とされる人間になろうと思わされた…!
(もう……彼の頑張っている姿を見ることは、できない……帰っては来ない)
憧れとなった皇雅はもういない。モンストールとともに闇の底へ消えてしまった。あれはもう助からないと思っていい。美羽や縁佳はきっと生きていると言っていたが、あれは現実から目を逸らしているだけ。本人たちの前では言えないが諦めるべきだろう。
(何度謝罪しても赦されることじゃない…私はそれだけのことをしてしまった)
自分が皇雅を異世界から呼び出さなければ彼が死ぬことはなかった。自分たちの窮地を救わせる為に行ったことが、せっかく親しくなれた者の命を散らす結果を招いてしまった。
「ごめんなさい…ごめんなさい……」
今日もミーシャは、もう会うことが出来なくなった少年に謝罪の言葉を口にしていた。
数日経ってから、ミーシャは新たな提案を国王に出した。
救世団のメンバーを数人他の大国へ派遣して戦力を補充させるという方針だ。
一人一人が兵士数十人分の戦力を持つ戦士が30人以上も同じ国にいると、世界各国の軍事バランスを大きく揺るがしてしまう。それによる他国との親交が途絶えるのを防ぐため、同盟国全てに召喚人を均等に派遣する。これがミーシャが考えた最善の政策だ。
彼女にできることは、こうやってモンストールに勝利する戦略を練り続けることだ。体がひ弱な分、頭脳でカバーすることしかない。
それを分かっているミーシャは、より一層頭を働かせて人族がモンストールに勝利する為の政策と軍略を導き出すのだった。
しかしミーシャが提案した他国への派遣案は、美羽と縁佳を絶望させるものとなってしまった。
(国王様!私たちを他国へ派遣させるのを、延期させていただけませんか!?)
(私たちはもう少ししたら最初の実戦訓練でいなくなってしまった甲斐田君を捜索および救助する為に瘴気の地底へ探索に行くつもりなんです!)
二人はこの国に残って、皇雅を救出しに行こうとしていた。しかしカドゥラとマルスによってその意見は却下された。
救世団の誰を派遣させるかは国王たちに決めさせることを約束させられたことが、こんな結果を招いてしまった。
「ごめんなさい…。私が考えた政策のせいで、お二人の邪魔をしてしまって…」
美羽と縁佳が他国へ出発する日、王宮を出る前にミーシャは二人に謝罪した。
「ミーシャ様…謝らないで下さい。私はあの日までずっと現実から目を背けていただけでしたから。甲斐田君があの状況から助かるなんて、奇跡が起こっても可能性は絶望的だと、本当は分かってたんです」
「私にとっては、諦めるきっかけをくれたというか…。後は彼が生きていることを祈って信じるしかないと、思ってます」
「お二人、とも…」
言葉とは裏腹に、二人はまだ皇雅のことを気にしている様子だった。それを見たミーシャは、どこか安心した気持ちになった。
「私…安心しました。私以外にもカイダさんのことを大切な仲間だと思っている人がいたことを」
「ミーシャ様も…甲斐田君を?」
「はい。彼はステータスに恵まれないながらも懸命に努力していました。私にとってあの姿は憧れでした。
カイダさんはあんなところで消えるべき人では、なかったんです…!」
二人はミーシャの言葉を黙って聞いていた。やがて美羽がミーシャに礼を言う。
「こちらこそ、甲斐田君のことを理解してくれてありがとうございます。甲斐田君は…強い子です!」
別れの言葉を交わして、美羽と縁佳、他4名はそれぞれ他国へ出発した。
美羽はハーベスタン王国へ、縁佳たち5名のクラスメイトはラインハルツ王国へと向かった。
「皆さん、勝手で申し訳ありませんが、この世界を救ってください…!」
出航して行った船を見つめたミーシャは一人そう言った。
その後、部屋に戻って次の政策と軍略の案を考えている最中、休憩がてらに新聞に目を通していると、冒険者の記事に気になる内容が書かれていた。
「無名だった冒険者二人。幻獣≪エーレ≫を討伐したことで、FランクからAランクへと異例の飛び級昇進。
コードネーム………… “オウガ”と“赤鬼”」
新聞を読み終えたミーシャは、休憩を終えて再び政務に戻った。