エーレ討伐の時と同様、北口から出て、地図に従い東へ進む。因みに、ロンソー村は、真っすぐ北の方にある。
人が整備したであろう道を歩いている間は、魔物が出ることはなかった。ああいうのが出てこないところにこうやって道を開拓したのだろう。
1時間程進むと、道が無くなり、荒れ地が続いていた。荒れ地を進んでいると、魔物や普通の猛獣が現れるようになった。この辺りが、こいつらの縄張り・住処だったりするみたいだ。レベルは5から20を超えるのがちらほら。洞窟にいたのとあんまり変わらないくらいだ。
敵が襲ってきたら基本アレンに倒させていった。彼女のレベル上げの為に。魔物の中で食えそうな奴は肉を剝ぎ取って、休憩の時に調理して食べたりもした。
荒れ地を進むこと数時間。湖畔に着いた。日が暮れてきたので、ここで野宿することに。サント王国で買っておいた野営セットを取り出し、テントを立てる。その間にアレンは湖で体を洗いに行った。洗うついでに、鮎っぽい魚を捕まえて食材もゲットしていた。頼もしいが、素っ裸のままこちらに戻ってきたので、慌てて上着を放る。
「せめて、何か羽織ってくれ...」
「?......あ。ゴメン...(赤面)」
少し恥ずかしげにしていたが、動揺している俺を見てニヨニヨしていた。俺は死んだ身だが、生前と同じく欲情はしてしまうらしいな。ただ、性欲の方は我慢できるみたいだ。性行為とかできるのか?アレンを見やるが、さすがに彼女で実験するのは気が引けるので、またいつか試すか。
「アレンは、俺に裸を見られて平気なのか?」
さっきのアレンの反応を思い出し、つい聞いてしまっていた。
「あまりにじっと見られるとちょっと恥ずかしい...。けど、段々慣れてきてる。私たちの村では、お互い裸見られても全く気にしてなかったなー。私は恥ずかしかったけど」
「...それが普通の感性だぞ?アレンはそれで良いんだ」
「んー。でも、いつか誰かと子づくりして鬼族を再繁栄させなければいけない...。仲間が見つからなかったら、コウガにお願いしたい...」
体を少しくねらせながらそんなことを言う。
「...死んだ俺とか?ゾンビが子づくりなんてできるのかぁ?」
さっき疑問に思ったことを口に出してしまう。
「...試してみる?できるんなら、コウガとの子どもも良いと思ってる」
「おお...そうか。...いや、今はいいや。全て終わったら、その時に考えようぜ」
「...うん!約束」
まさかの相手からのお誘いだった。けど、今ヤッてもしも子どもができたら、彼女の復讐に支障をきたすから、終わった後に色々試そう。
できれば、アレンとはそういった関係になれたらいいな、と、この時俺はそう考えていた。
その後、俺も水浴びしに行く。宿でも自分の体は見てみたが、生前とは少し変わっていた。体脂肪率5%を切った細身の筋肉質の体に加え、なんか灰色の線がところどころ入っていた。モンストールを捕食した影響かもな。捕食することで、モンストールや魔物の身体的特徴まで遺伝する可能性があるみたいだ。どんどん人間から離れていくなぁ俺。
そんなことを思いながら洗っていると、割と近いところで、アレンが俺の裸をじーっと眺めていることに気付く。何してるんだと聞くと、さっき裸を見られた分、私も俺の裸を見るとのこと。若干興奮した様子でしっかり見てくる。...好きに見せるか...。
*
それから、湖畔を発ち、雑木林を進み、荒野を進み、2日程歩き進んで、昼休憩をとっていると、こちらに近づく気配がした。アレンも匂いで気付いたようで、俺に頷きかける。この速度からすると、馬で移動しているな。それに...1人で来ているな。
...誰が来るのか大体察しがついた。俺たちに追いつくための馬移動か。
「一体何しに来たのかね...」
アレンに警戒を解かせ、“彼女”が来るのを待つこと約5分。
「良かった、ここで追いつけました...!」
約3日前、サント王国の宿で世話になって別れたクィンが来た。
「何で俺たちのところに?それも1人で。馬を走らせるってことは、急ぎの用みたいだが?」
素朴な質問にクィンが言いにくそうに答える。
「あの時、宿でお別れした後、兵士団をまとめているコザさんから呼び出されて、彼と国王様による極秘任務を任されました。その内容は...コウガさん、アレンさんお二人の監視せよ、とのことです」
...まぁ、上層部からすれば、部下を救ったとはいえ俺たちは突然冒険者として現れ、Gランクの魔物を圧倒した未知で強大な力を持った得体の知れない人物だ。そんな奴らを野放しにするのは、世界規模ではあまり安心できない案件になってくる。そこで、世界の脅威になり得るかどうかを判断するための処置を施しにきた、ということなんだろうな。
「何で監視しにきたのかは、大体察しがついたよ。大変だな、兵士というのは」
少し同情するように言う。クィンは申し訳なさげに話を続ける。
「それに、以前お伝えした首無し事件の犯人を捜すべく、国境外での捜索任務も兼任で来ています。お二人の監視と犯人の捜索。これが私に下された任務です。
今回、お二人のいちばんの顔見知りである私がお役目として遣わされることになりました。まるでお二人を要注意人物と見なし、事件の容疑者としてまで見られているようで、申し訳ない気持ちです...。
けれど、サント王国を悪く思わないでください!モンストールの侵攻もあって、国王様もあまり穏やではいられないご様子でして...。すみませんが、ご理解とご協力をお願いします...!」
長々と説明し、最後に、以前もみたあの丁寧な辞儀をしてみせる。王国は、間違いなく俺たちを犯人と疑っているな...。どこまで疑っているかは分からんが、良くは思っていないだろう。クィンは俺を犯人だとは今のところ思っていないみたいだが。
「...もし、クィンがこの先魔物やモンストールの手によって命を落とした場合、たとえ俺が殺してなくても、上の奴らは俺が消したと判断して、俺を世界規模で指名手配するだろうな。つまりこれは、サント王国が、俺が信用に足る存在かを試していることとも捉えられる」
この手の展開は、いろんな漫画やラノベで見たことあるから、簡単に予想がつく。もちろん、10割本当ではないと思うが。クィンを見ると、大変驚いた様子でいた。
「...まさか、そんな裏もあったなんて...。コウガさんは凄いですね!私には全く考えてなかったことです!」
「コウガ、頭良い。そんなことまで分かるなんて...!」
二人とも俺の推理に感嘆の声を上げる。前例がある分、簡単に分かることだが。
「...だとしても、王国が勝手にやったことで...国王様に代わって謝罪します。ですが気を悪くしないでください...。国王様に悪気は無いと私が保障します」
...悪気は無い。ただもしもの時えの備え、だろう。一度も顔を合わせたこと無いし、信用されないのも当然だ。というか、気になることもある。
「サント王国に悪意がないことは分かった。それで、何でここに俺たちがいるって分かったんだ?次行くところは教えていなかったよな?」
「...以前渡した入国許可証に、発信機が付いていたようです。私も知りませんでした。発行した際に仕込まれてたんだと思います」
そういうことか。用意周到だな、あの国王は。どんな奴か、機会あれば面を拝んでみたいぜ。
「事情は分かった。ま、相手がクィンで気が楽だよ。それに、俺もアレンも他の国のこと全然知らないから、案内人としても頼らせてもらいたい。だから、しばらくの間よろしくな」
「よろしく、クィン。一緒に旅しよ?」
「...!はいっ、よろしくお願いします!!色々案内させていただきますよ!」
俺とアレンに歓迎されて、さっきまでの陰りが吹き飛び、明るい笑顔で挨拶したクィン。
こうして、クィンが新たに同行した。
第2章 完