衝撃的だった。まさか、俺以外に敵を殺した後食らう奴がいたとは。捕食行為をするということは、こいつ同職か?

 「そのままでいいから質問に答えてくれ。お前は、ゾンビなのか?」

 とりあえず敵意が無いことを伝えつつ、目の前にいる女がゾンビかどうか尋ねる。

 「ゾ...ンビ...?私は、(オルゴ)族」

 と、彼女はきょとんとした表情で答えてくれた。「鬼族」か。またもファンタジー世界によくある種族が出てきたな。それに、人間の俺と言葉や意思疎通もできるようだ。敵意が無いことが伝わったのか、向こうは身構えることなくリラックスしたままだ。

 つーか、口を動かしているのだが、あの口の中には、あいつの足元にある生物どもの肉があるんだよな。生で食ってんのかなー。

 「あー、食事中に悪かったな。つーか、それ、この洞窟に棲んでいる獣とか蟲とかだよな?食べて平気なのか?」

 鬼女の手にある肉片っぽいのを指しながら聞いてみる。

 「うん。今食べているのは狐の獣種の肉。獣種の肉は生でも食べられる。でも、蟲はダメ。食べられない」

 またも律義に答えてくれた。そしておもむろに立ち上がって、こちらに歩み寄ってきた。うへぇ、鉄臭さと生臭さがきつい。顔を顰めないようにしつつ彼女の全体像を見る。175㎝はある俺と同じくらいの身長、側頭部には左右に人差し指サイズの金色角が生えていて、スラっとして引き締まった脚、スレンダーで筋肉質なアスリート級の体をしている。鬼にしては細身だ。メスだからか?その体にはあちこちに傷がついてる。この洞窟で戦闘を何度かしたのだろう。

 と、目の前の鬼女を分析していると、彼女が手にしている肉を差し出して、
 「あなたも食べる?」と言ってきたので、丁重に断った。

 「ところで、また質問だが、この洞窟のあちこちに人族の死体があって、松明の消された痕もあったのだが、あれはお前がやったのか?」

 と、流れに任せていちばん気になることを尋ねると、鬼女は険しい表情で俺から距離を取り、睨んでくる。

 「それ、全部私がやった。みんな、私を襲うから...この角見て、鬼は魔物と一緒だからって。みんな、返り討ちにした。そしたらみんな死んじゃった。火も私が消した」

 自分の頭に生えている角を指さして俺を警戒しながら自白してくれた。
 金色の角を生やした鬼はどうやら希少種のようだ。いや、鬼族自体が希少なのだろうか。そんな彼女の角で大金を得ようと冒険者や賞金稼ぎなどが洞窟の魔物を狩るつもりで襲い掛かったが、全員彼女に返り討ち、そんなところか。

 自分で勝手に事の顛末をまとめていると、鬼女がおそるおそる俺に近づき、鼻をくんくんと臭いを嗅いでくる。何やってんだこいつと不審な目を向ける俺に向き直り変なものを見たような目を向けられた。なんでだよ。

 「あなた、変。今まで遭ってきた人族と違う臭いがする。襲い掛かってきた者はみんな生きている臭いがしてた。けど、あなたからは...死体と同じ臭いがする。普通に会話しているのに、死んだ生き物が放つ臭いと同じ。...あなたは、何者?」

 死んだ臭い、か。他の生物も俺をおかしなものと思っていたのか。自分の臭いには鈍くなるものだが、俺はくさいのか?カルス村では、くさいだのなんだの言われなかったから、少なくとも人族には臭わないようだが。

 「お前が思っている通り、俺は死んでいる。元人族といったところだ。原因はよく分からないんだが、今はゾンビとして活動している。生きているとは言えない体だが」
 「ゾンビ...。知らない種族。人から魔物になったの?」
 「仕組みとしては似たようなものだ。ゾンビは種族というより、死体そのもの。死んだ生物が動くものはみんなゾンビと呼ばれるんだ」
 「そう...。変わっているのね」

 俺から見て彼女も変なのだが、言われたな。

 「それで、あなたも、角を狙うの?敵になるの?」

 再び身構えて警戒態勢に。確かにこいつを狩って大金を得られるかもしれない。だが、俺から意思疎通できる奴を害することは基本しない。こいつにはまだ攻撃されていないしな。

 「狙わない。お前が襲ってこない限りは敵にならない。無意味に殺す趣味は無い」

 敵意は無いとばかりに、その場でどかっと胡坐をかいて座る。それを見た鬼女は警戒を解き、元のところに座り、食事を再開する。

 「ここで会ったのも何かの縁。お互い自己紹介しないか?俺は皇雅、甲斐田皇雅だ。元人族で職業は片手剣士からゾンビになった」

 鬼族について興味もあるし、こいつがどういう理由でこんなとこにいるのか知りたいし、ここは腹割って話そうではないか。
 その意気が伝わったのか、彼女はこちらを向き、口の中を飲み込んで自己紹介を始めた。

 「私、アレン。鬼族の中でも希少種である金角鬼(きんかくおに)の生き残り」

 ―そして、彼女自身の生い立ちの話に入る。