ところが俺の後ろから、待てよと声がかかる。振り向くと人相が悪い男冒険者二人が俺を蔑んだ目で睨みつけている。

 「お前、ソロで冒険者をやっているそうだな。それも…ランクもEかFってところだろう」
 「そんな奴がこの先の洞窟を抜けられるとは思えねぇ。
 そこでだ。Ⅾランク…それも直に昇格する予定の上位候補である俺たちのパーティに入れてやるよ」

 相手はよくあるパーティ編成をした冒険者のようだ。冒険者は基本二人以上で編成するものらしい。ソロで活動している者は余程の実力者かその逆であぶれた者かのどちらかがほとんどらしい。
 で、俺がソロ冒険者だと見抜いたこの二人は俺をこのパーティに入れてやると話を持ち掛けられたのだが……どう見ても俺を仲間として歓迎する気はないな。悪意しか感じられない。

 「実力が下の下な奴じゃこの先やっていけない。見たところお前、クエストで死にかけたそうじゃねーか?実力が無いくせにソロでやってるからそうなるんだよ」
 「だが俺たちと一緒に行けば少なくとも死ぬことはねーよ。俺らは安全に成功出来るクエストしかやらねーからな」
 「まぁお前には俺らの荷物持ちからやってもらうけどな。丁度そういう奴が欲しいと思ってたところなんだ…くくっ」

 二人は悪意ある笑みを浮かべながら俺に荷物持ちとしてパーティに加われと言ってくる。俺を奴隷扱いにでもしたいのか。先程の一件で俺がかなりの弱者だと思い込んでいるそうだな。アホらしい。

 「断る。俺は一人でやっていける。荷物持ちが欲しいなら他を当たれよ」

 そう言って去ろうとするが、当然のようにそれを許す二人ではなく、前後を塞いで止めてくる。

 「俺らは親切に、お前の為を思って勧誘してやってんだぜ?お前よりランクが上の俺らがよぉ」
 「何が不慮の事故だ。事故に対処出来てない時点で実力が無い雑魚だろうが」

 後ろの短髪男は武器である剣をこちらに向け、前を塞いでいる坊主の男は魔法具らしき道具を向けて脅してくる。そんなに俺を荷物持ちにさせたいのか。

 「下位の中でも雑魚な奴は俺らみたいな有望な冒険者の荷物持ちでもやってりゃいいんだよ!どうせ誰も期待なんかしてねーよ、モンストールどころか下位の魔物に手こずってるだろうカスが、冒険者名乗ってんじゃねぇ!」
 「まだ断るってんなら、今後冒険者をやれない程度に痛めつけてやるぜ…!」

 脅しながら二人は距離を詰めてくる。見た目だけで俺を弱者だと決めつけるこいつらには心底呆れさせられる。
 こういう奴らはウェブ小説の異世界作品の序盤で何度も見てきた。弱い者にしか相手しない、しかも自分らの奴隷にしようとするクズだ。
 それにこいつら見てると、元クラスメイトの大西とかああいうクソな連中を思い出してしまいイラついてくる。
 
 なので、遠慮無く殺すことにした。
 
 「お前らみたいなクソ野郎こそ――」

 後ろを振り返って剣を構えている男の頭を一瞬で掴んで――

 「冒険者やってんじゃねぇこの、冒険者の汚れどもが!!」

 地面にドカァンと叩き潰した。

 「あ”……あ………」
 「………え?」

 地面にめり込んで物言わなくなった剣男を見た坊主男は、何が起こったのか理解が追いついていないといった様子だ。呆然と仲間の変わり果てた姿を見ている。

 「ゴミは……」

 めり込んでいる男を掘り出して掴んでその首を思い切り――

 「消えろ」

 曲げちゃいけない方向へ曲げた。男は血の泡を吹いて、息絶えた。

 「……………」

 空を呆然と見つめているもう一人の冒険者の胸倉を掴んで締め上げる。

 「がっ!?あがががが……っ」
 「見た目でしか実力を測れない小物のクズが。死ねよ」

 そのまま首を絞めていき、さらに力を入れると首の骨が折れて、縊り殺してしまった。
 周りに誰もいないことを確認すると、殺した二人をその場に捨ててすぐに遠くへ走っていく。

 現実にも、ああいうクズは存在するんだな。異世界は……俺が思っていた以上に現代と変わらないつまらないところなのだろうか。
 今の一件で異世界に対して失望をし始めた俺は溜息をつき、気持ちを改めてサント王国を目指していった。



 しばらく進んでいくと、店で聞いた通りの洞窟が見えてきた。ここを避けてサント王国へ行くのは無理そうなので、洞窟に入ることにした。

 以前落とされてしまったあの瘴気にまみれた闇の地底と違い、割と明るくて空気も普通だ。その理由は、冒険者か王国の兵士かの誰かが作ったのか、あちこちに松明が設置されている。ここにいる生物たちは火が怖いのか、松明の近くに痕跡はない。洞窟内はけっこう人の手が加えられていて進みやすくはなっている。サント王国を行き来するからだろうな。

 しばらく進むと狼っぽい獣族が群れをなしてやってくる。洞窟に棲む魔物とかはどうにも出来なかったらしく、松明が近くにないとこうして魔物と遭遇する。
 「鑑定」でステータスを見る。と、一匹の平均レベルは5。それが7体か匹いる。異世界に召喚されたばかりのあいつらでは敵わないレベルだ。
 固有技能は特に珍しいものは無いな、なら軽くひねるか。そう思い、戦闘態勢に入る。

 「脳のリミッター30%解除」

 この程度の奴らなら、ほんの少しの解除でいい。地面を蹴り、接近した狼どもに足刀蹴りを放つ。蹴りをまともにくらった狼は声もなく落ち、蹴りの衝撃波で周りの狼も吹き飛んで壁に叩きつけられる。残りの狼たちは低く唸りながら俺から逃げていった。俺に立ち向かってくる獣や魔物は基本こうやって相手するが、逃げてくれるなら放っとこう。いちいち殺すのめんどいし。

 その後、巨大ヤスデや蝙蝠、ネズミなど様々な種の生物が出てきて、いずれも適当に倒したり無視したりした。
 時間的に、今洞窟内をうろついている人って俺しかいないみたいだ。洞窟入った時も、その後しばらく進んでも全く人と遭遇しない。完全に貸し切り気分だ。
 だから、松明に照らされた先に人骨が転がっていたことに軽く驚いた。さっきから人がいないのはそういうことなのだろうか。
 その先を進むと、死体がいくつか転がっていた。中には強そうな防具を着た男の死体もあり、レベル20以上はありそうな奴らの死体をちらほら見かけた。
 どれも鋭利な刃物で抉られたような傷跡が見られる。モンストールが紛れているのか?と推測するが、犯人は全く分からない。いずれにせよレベル30以上の魔物かモンストールがうろついていそうだ。

 さらに奥へ進むと、先程までの明るさが無くなった。壁を見ると、松明が消されたような痕が見られた。故意に消したっぽいな。相手は暗闇でも目が利くタイプか。
 「夜目」を発動して、周りを注意深く見て進んでいると、同時に発動していた「気配感知」に何かが引っかかった。30m以内だ、近いぞ。
 相手に敢えて聞こえるよう足音を立てながら、気配がする方へ。徐々に姿があらわになる。


 「っ...!...誰!?」

 と女の声がする。件の殺人犯は女だったのか。そしてようやく姿がはっきりと見えた。
 肩に届くくらいの長さの赤い髪をし、身に着けているものは薄汚れた布服の女は、振り返りこちらを見据える。
 そして彼女の足元には―洞窟に生息する生物たちの死体がたくさん転がっている。どれもレベル10はありそうな奴らだ。だが、俺は彼女の口元に注目していた。
 彼女の口周りは血で真っ赤だった。さらに彼女の両手には肉片らしきものがあった。この格好と状況を見るからにして分かることは……

 「まさか、ここの魔物どもを食ってたのか...!?」