「俺の本音は全部吐き出したぞ。今のが、 “全て”だ。《《高園》》。敢えて苗字で呼ぶぞ?次はお前の番だ。お前は俺に何を望む?何を知りたい?何を聞きたい?これからどうする気でいる?俺を捕らえるか?
俺を......殺すか?」
「……っっ」
テメーの答え次第では、テメーを殺すことも厭わないつもりだ。
さぁ正直に全て出せ。はっきりするまで今のお前は...俺の“敵”だ...。
「まずはっきりさせておくけど......私は皇雅君を殺したりはしない。捕らえることもしない。弓も銃も、もう使わない……」
そう言った直後、高園は弓矢と狙撃銃と弾を全て投げ捨てた。さっきの発言からしてやりそうなことだと思い、特に驚きはしない。
「次に、私がしようと思っていること、皇雅君に望んでいることを話すね。
クィンさんに謝罪してほしい。これが一つ」
「謝罪...?」
「半年前、サント王国の兵士たちを殺したんだよね?クィンさんはそれを引きずっていたみたい。そして今回の戦争で、さらに多くの兵士の方たちを殺してしまった。クィンさんにとって彼らは、皇雅君にとっての大切な人達と同じような存在だったはずだから。皇雅君は彼らのことを恨んでなかったんだよね?
だったら、クィンさんに謝罪するべきだと、思う。ううん、して欲しい、必ず...!!」
返す言葉も無い程のド正論だ。確かにあの兵士どもには何の恨みも復讐心も抱いていなかった。俺の敵として立ち塞がったから殺した。それだけだ。
俺にとってどうでもいい有象無象どもだったが、クィンにとっては、高園の言う通り大切な仲間だったのだろう。今もあいつは俺のこと殺したいと思っても不思議ではないよな。
とはいえ、ここまできてまさかの他人への謝罪要求とか......やっぱり高園は、“高園縁佳”だ。今も昔も何も変わっていない...。
「それに関しては、あとで彼女の方にも行くつもりだから、その時に謝ろうと思う。受けれてくれるかどうかは別だけど」
「うん……よかった」
俺の返事に高園は満足そうに明るい表情を見せる。だがそれも一瞬のことで、すぐに真剣な表情に戻り、話に戻っていく。
「それで......私がしたいことなんだけど。これは、2年生のあの時からずっと思いいていたことで............。皇雅君――
クラスのみんなと“和解”して欲しい!!」
「.........!!」
それはいつか聞いたことあるセリフだった。
“仲直りしよう” “クラスの輪に入ろう”などと、そんな言葉を彼女から何度もかけられてきた。
あの時は、彼女自身の都合しか含まれていない言葉で、俺の意思など全く考慮していない、ただの一文に過ぎない空っぽの言葉としか捉えていなかった。
だが今は違う。
俺の本音を理解した上で、彼女はそれでもそのセリフを発したのだ。
「もう......私たちのクラスは3人しかいないけど、まだ「3年7組」はまだ終わってなんかいない。今からでも私たちは、同級生としてやり直せるはずだから。もう皇雅君の和を乱したりしないから。害なんて与えないから。また「3年7組」としてやっていきたいの...!
私も美羽先生の時みたいに皇雅とお話したいから...!皇雅君が許容する範囲で良いから、私たちの輪に皇雅君も加わって欲しい!!」
「お前......まだそんなことを......!」
29名ものクラスメイトを殺した殺人鬼を、まだクラスメイト扱いして、輪に加わって欲しいと言ったのだ。少し呆気に取られてしまった。
「今言ったことなんだけどね、このことを話したのは美羽先生と......美紀ちゃんと小夜ちゃんだけだったの。
美羽先生は喜んで肯定してくれた、小夜ちゃんは......受け入れてはくれなかった。でも、美紀ちゃんは...私の望みを肯定してくれた!美紀ちゃんも本当は皇雅君と和解したいって言ってて、戦争で皇雅君を必ず足止めしてみせるって、出陣する前、私と美羽先生に強い意志を見せてくれた!」
「あいつが...そんなこと、を.........」
信じられなかった。だけど...“事実”だ。嘘はついていない。
「美紀ちゃん一年生の頃は皇雅君のこと好きでいて、告白もしたん...だよね?けどあなたにフラれて以降距離をとって、あの日を境にさらに話しかけなくなって...。美紀ちゃんは皇雅君のこと害したりはしなかったよ?それも、美紀ちゃん本心では......皇雅君とは友達でも良いから仲良くしたいって思っていたから...」
「――――」
(お、ぼえて、る?私が、甲斐田に...告白した時...のことを...)
(ん?.........ああ、あったなそんなこと――)
ふと脳裏にあの時...曽根美紀と最後に交わした会話が浮かんだ――
(ば...か、だよ......あんた、は............あの時、あんたを見限った私が間違ってた...。見捨ててしまって......ごめん、なさい――――)
―――好き、でした
聞き違いだということにして心に蓋をして、彼女の最後の言葉を流してしまった。今にして思えばあの言葉は......曽根美紀の嘘偽り無い本音だったのか。
「あいつ......」
「美紀ちゃんも皇雅君のことを軽蔑したり避けたりしたけど...最後は皇雅君と和解するつもりでいた。これだけは分かってほしい!美紀ちゃんも皇雅君のこと仲間として迎えようとしていたってことを...!」
「そう、か......」
高園の切実な言葉を俺は素直に聞き入れた。同時にもうこの世にいない曽根に対する心象も考えさせられた。
あいつはこれまで殺してきた元クラスメイトどもとは違っていた。高園や藤原先生と似た考えのもと、行動していたと。
そして俺はそんな彼女を復讐対象として、殺した...。
「これで私のしたいこと、皇雅君に望んでいることは話したよ。最後に、聞きたいこと、確かめたいことなんだけど.........。
私と小夜ちゃんを殺したいって、今も思ってる?」
「.........」
これがゲームだったら、目の前にこんな選択肢が表示されてるんだろうな。
“殺さない。和解する”
“殺す。全て消し去る”
最後の二人を復讐対象として見るか否か。
二人を殺すか殺さないか。
「皇雅君.........」
よく見れば縁佳は小さく震えている。俺がなんて言うのかが不安に思っている。人の気持ちが全く分からない俺でも、今の奴の気持ちは何となく分かった。
俺は、今も二人を殺したいと思っているか?
学校のこと、実戦訓練のことを思い出す。あの時抱いた敵意・憎悪・恨み・殺意・復讐心。全て本物だ。高園と米田にも抱いたそれらの感情に嘘は無い。
見捨てられて落ちていく時、クラスメイト全員等しくそれらの感情を抱いた(大西など一部は特に)のも本当だ。
だが―――
(なら、縁佳ちゃんと残りの生徒たちも、殺す以外の方法で復讐することはできないかな?私は...これ以上死んでほしくないって思ってる。生徒...クラスメイト同士でそんなところ、見たくないし、してほしくない!)
(あなたが殺そうと思っている残りのクラスメイトの中には、タカゾノヨリカさんもいます。あの人は、コウガさんを捜索する為にずっと懸命に鍛錬を積んで地下にも潜ってました。あなたがまだ生きていると信じて、助ける為に。
そんな彼女も、復讐対象なのですか...?)
復活して地上から出てから、再会した先生やお姫さん、元クラスメイトから、主に高園の俺に対する事情を聞いて、知らずうちに気持ちが変わっていた。正確には迷ってしまっていた。
俺をハブったのは事実だ。どうにかしようとしなかったのは事実だ。見捨てたのも事実だ。
だけど……嘘偽り無い彼女の心情を聞いてしまってから、本当は揺らいでいた。お姫さんと違ってあいつらは俺を意図的に排除したんだ、と自分に言い聞かせて俺は復讐を完遂すべきだと捻じ曲げてきた。
そして......本人を前にして、認めざるを得なくなってしまった。自分に嘘はつけない。
彼女からは、敵意や悪意など一切感じない。
(それに―)
魔人族どもと最後の戦いの前、最後に約束したんだっけ――
(もう一つ最後にお願いして良いかな...?この戦争が終わったら、縁佳ちゃんたちと和解すること。君ならきっとできる。お願いね...)
あの時の俺は確か...
“前向きに検討するよ”
って言ったっけ。なら......前向きにならなきゃだよな、先生...!
そして――
「俺は――」
彼女の顔をまっすぐ見つめ――
「もう殺したいなんて思っていない。お前ら二人に復讐したいって思っていない」
―――和解しよう 縁佳―――
ラノベの復讐系の作品って、どれも未完結のやつばかりで、最後はどういう終末を迎えるのかずっと分からないでいた。
復讐で人を散々殺し続けた主人公は、誰かと幸せになってハッピーエンドを迎えるのか。誰かに殺されて終わるか、復讐後まったく幸せになれず腐っていく結末のバッドエンドになるのか。どちらかは分からないでいた。分からないまま、いつの間にか俺自身が、そんな主人公と同じ道を辿っていた。
ならあの続きを、結末を...自分で決めて書くとしよう。
(今回は――)
(――ハッピーエンドで締めよう!)
「うん......うん!こちらこそ、皇雅君と和解させて下さい!!
皇雅君......皇雅、君.........ッ!!」
こっちに走り出して、そのまま俺の胸に体当たりするように飛び込んで、わあああと泣き続ける縁佳の頭を、俺は撫で続けた......彼女が無き止むまでずっと―――
150話 「和解」