まさか、こいつらがまだここに居座っていたとは。野生動物と違ってモンストールどもに縄張り意識は特にないようだ。
 いずれにしろラッキーだ。ハリネズミには両脚を、ゴリラには自暴自棄とはいえ思い切りブン殴られた。その仕返しができるのはありがたいぜ。

 「グルアァ?」

 どうやら全員、俺のことが分かっていないようだ。モンストールの肉を食い過ぎたせいで、外見が若干変わったのか、死んだせいで変色してしまっているのか。訝し気にこっちを見ている。

 「どうでもいい。一方的にこっちの鬱憤晴らさせてもらうぜ。」

 「硬化」を纏い、拳を固め、さらに「身体武装化」で肘にブースト装置を生やす。

 (この技能は頭でイメージしたものを瞬時に具現化できるようだ)。
 
 そして、「瞬足」で一気に距離を詰めて対象のモンストールをぶん殴る。狙ったのは...

 「あの時は思い切りやってくれたな。こんな風にっ!」

 ゴリラ型に渾身の右ストレートを叩き込む。ゴリラ型は危機察知していたようで咄嗟にガード体勢に入るが、クロスした両腕はボンッと破裂した。
 悲鳴っぽい声を上げるゴリラ型に追い討ちをかけるように、着地ざまに、右足を軸に回転蹴りを胴体に入れる。反応することができなかったゴリラ型は俺の蹴りをもろにくらい、上半身が消し飛んだ。

 「『硬化』を纏っているとGランクのこいつらでもこれか...。あいつら
には本気を出さないで痛めつけなきゃならんのか。...めんどいなぁ」

 ゴリラ型の下半身が力なくくずおれる様を眺めながら、今後の力の使い方に思案する。ゴリラ型がなすすべもなく殺される様を見て、残りのモンストールどもが、俺が危険な敵と認識し殺気立つ。
 そのうち3体が俺を囲むように一斉にとびかかってくる。俺は両手を横に広げ、その場で一回転する。その一瞬で、魔力光線を放った。

 「属性は光。消滅しろ。」

 極太の光線が一回転しながら3体のモンストールを侵攻する。光線が消えた頃には、3体は跡形もなく消えた。

 「複数を相手にする時は、こいつは本当に便利だな。」

 最後に残ったハリネズミ型は、敵わないと悟ったのか、あの棘を数本こちらに飛ばすと、背を向けて逃走した。
 俺は飛んでくる棘のうち2本を掴んだ。残りは適当に避けた。

 「そういや、あの時も同じだったなぁ。必死に逃げる俺にめがけてこんなもの投げつけて俺の脚刺してくれたっけ?」

 そう言いながら、俺は棘を2本同時に槍投げの構えを取り、軽く助走して同時にハリネズミ型の後ろ脚めがけてぶん投げた。
 軽快な音を立てて、脚にぶっ刺さり、ハリネズミ型はその場で倒れ込む。

 「あの時とは立場が逆だなぁ?いい気味だ。そのまま這いつくばったまま死ねぇ!」

 倒れたままのハリネズミ型に止めを刺すべく、走り幅跳びの要領で飛び上がり、ハリネズミ型の真上の空中でライダーキックの姿勢で急降下する。「硬化」を纏った足でハリネズミ型の頭を踏みつけた。
 失敗したスイカ割みたいに中身をぶちまけてしまった。グロい。

 こうして、俺ははじめの復讐を完遂した。気分爽快だ。

 「まぁ、お前らが俺を崖から落としてくれたのもあって今の俺がいるようなものだ。礼くらいは言っておくよ。じゃあな。」




 その後も上へ上へと登り続け、いつの間にか瘴気がほとんどなくなり、出てくるモンストールも上位クラス以下ばかりだった。食うことはせず、適当にあしらった。そしてついに...

 「...!光が見えてきた!!」

 あの日ここに入ってから何日経ったか分からない。随分と長い間、暗闇の中、瘴気と悪臭だらけの人が住めるわけがないとこで不眠不休ずっとさまよい続け、戦いつづけた。

 そんな日々が、今やっと終わると思うと感動してきた。
 しかしここは、以前実戦訓練で訪れた廃墟とは様相が違っていた。
 もしかすると、闇雲に上っていくうちに、あの廃墟があったところと全く違うところに来てしまったのかもしれない。

 「地上に出てもドラグニア王国にはすぐ行けないかもな...。まあいい、それは後回しだ!」

 まずは、地上へ戻るのを優先すべく、光の方へ走る。
 光のところに着くと風も感じられる瘴気に混じったものではなく、自然を感じられる風だ。外は今、朝か昼の時間なのだろう。辺りは崖のようになっていて、ここを登れば地上だ。「制限解除」で脳のリミッターを外して、その場で思い切り跳んで一気に登り、この暗闇から脱出する。

 同時に、陽の光を全身に浴びる。久しぶりの感覚だ。感動しながら軽く伸びをする。五感を戻してみると、悪臭もすっかりなくなっていた。瘴気の濃度も辺りに見えないくらい薄まっていた。
 そのことが、地上へ帰ってこれたとより強く実感する。帰ってこれたことを嬉しく思うのと同時に、クラスメイトと王族への復讐に対するワクワク感もあふれてきた。

 「帰って来たぞ、ふふふ...。死んででも俺はここへ帰ってこれたぞ...!ハズレ者と罵られ、虐げられ、最後は嗤われながら捨てられたが、今度はお前らが虐げられる番だ...!ああ、楽しみだ、楽しみだ...!」

 俺は指を曲げながら、数えるようにこれから復讐する名前を呟いていった。
 「大西雄介、片上敦基、山本純一、里中優斗、安藤久美、鈴木保子、須藤賢也、小林大記、高園、縁佳...(以下略)...そして、ブラット・フレイザー、マルス・ドラグニア、カドゥラ・ドラグニア!あと...ミーシャ・ドラグニア...!」

 「何も知らずに待っていろ。テメーらの前に戻ってきたらすぐに、目いっぱい苦しめて痛めつけて、辱めて、ぶち殺してやるよ!!!」


 誰もいない瓦礫の山で俺の狂気と怨嗟が混じった哄笑が響いていった。



第1章 完

*最後に呟きで出てきたクラスメイトは、学校で特に皇雅を害した奴ら、訓練でリンチに加わった奴らです(縁佳は除く)。初めて出てくる名前もあります。