《ふはははははははははは!?そうか!お前も“それ”が使える人材だったか!!前回はその力に敗れてしまったが、今度はそうはいかんぞ!小僧がっ!!》


 地面のはるか下へ突き落してから僅か数秒後、バルガは哄笑しながら戻ってくる。内臓いくつかと脊髄を破壊したつもりだが、その割には元気そうだ。血を吐いているところ一応効いてるみたいだが。
 「超高速再生」…ザイートと同じ、一瞬で全快するようだな。また面倒な……まぁついさっきまでの俺もそうだったから何とも言えないか。

 「同じ結末だ。テメーはこの力に敗北し、死んで消えるんだよ。この運命は絶対に覆らねー。だからさっさと死ね」
 《つれないなぁお前は。少しは戦いを愉しむ矜持は無いのか、お前ら人族どもは?それに、お前程度の力では俺を消すことなど不可能だ。絶対にな!》


 「「オラァ!!!」」

 ギィン!!ガィンガキン.........!!

 再び魔剣と武装でつくりあげた聖なる黒剣での斬り合い。
 黒拳・黒脚と魔槍での激突。
 聖魔法と滅魔法での魔法合戦。

それらはまるで世界の終末が訪れることを予感させる程の死闘だ。そしてその死闘を、この手で終わらせてやる!

 (ゾンビの体じゃなくとも、何度も使い続けてきた“連繋稼働”は使える!半年間の修行で、身体が自壊することなく正確にパスできるようになった!だから思い切り全て放てる!俺の全力を!!)

“飽和拳脚打突《ガトリング》”

 ズッドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!

 正拳突き、フック、振り下ろし、肘撃ち、ローキック、ハイキック、ミドルキック、サイドキック…。両拳両足(脚)へ全身同時パスによる、拳と蹴り同時に放つ究極の連続打撃技。常に「連繋稼働」を発動し続けているから攻撃は途切れない。
 その様はまさにタコ殴り、あるいは掘削機。繰り出される拳と蹴りはガトリング銃から放たれる弾丸のように途切れることがない。それらの速度は光、パワーは核爆弾を凌ぐ。
 俺が今出せる最強の攻撃だ!!

 ドドドドドドドドドドがガガガガガガガガガガガガ!!!

 《こ、これ程と、は…!こんな攻撃は、初めてだ...!
 は、はは...やはり異世界人との戦い、それも強さを極めた者との戦いは...飽きな...い......》

 ズガガガガガガガガガガガガ!!
 ゴドドドドドドドドドドドド!!

 「お...らああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 ドッガガガガガガガガガガガガ!!!

 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!死・ね・ええええええええええ!!!」

 そして、連打が終わり、同時に両者は地に伏した。

 「はぁっ、はぁっ!がはっ!ぜぇ、ぜぇ...!!」

 全身から汗と血が噴き出し、腕と脚の筋肉が千切れて、手足の骨が砕けた俺は、過呼吸に陥り血を吐いてうつ伏せに倒れた。今にも意識が落ちそうだ...。


 《やって......くれた、な...!!》
 「っ!!」

 声がした方に顔を向けると、全身余すところ無く傷がついて、体が歪んでいて、内出血が無い箇所が無い状態で、頭の形が変形していて、虫の息状態だが……それでもバルガはまだ両の足で立っていた……。

 《ク、ククククク……!俺が立っていて、お前が地に伏している………勝者は、この俺だ!!》

 勝利を確信して俺を見下ろして嗤うバルガは、当然俺しか見ていない。

 「……………」

 だから、


 ――スパ……ッ《―――あ...?》

 
 自分の首筋が、鋭利なモノで斬りつけられて……

 ――ブシイイイイイイイイイイィ...!!

 頸動脈部分から血が勢いよく噴き出てくるまで、気付くことが出来ずにいた。

 《な、あ”あ”が……?そんな”、お前は……そこに倒れ伏してい”るでは…………っ!?ま、まさか―――≫

 血を吐きながらこの謎に対する答えに辿り着いた様子のバルガを、地面で倒れている俺はニヤリと笑う。

 ≪ザイートの、“分裂”!?≫


 「正解」
 
 ――ドス...!《ぐ...がぁ!!》


 バルガの背後から首筋を斬りつけたもう一人の俺は、「迷彩」を解いて姿を見せた直後、聖属性を纏っている小さな「片手剣」で、奴の心臓を突き刺した!!

 「この武器はこうやって相手の懐に入ることで、ある意味最強の凶器となる。ほら...こうやって人体の急所を確実に斬って、突き刺すことができる...。
 俺の本来の職業は、“片手剣士”なんでね。止めはこいつで決めさせてもらうぜ。
 じゃあな魔人族の王、魔神バルガ―――」


 片手剣術――“暗殺”

 
 剣をグリっと回しながら引き抜く。夥しい血を流しながら、バルガは糸が切れた人形のように力無く倒れた。

 そして、もう立ち上がることは二度となかった。
 体力は……0。確実に死んだ。

 殺すべきクソ野郎を殺すことに成功した。

 俺の勝ちだ――!!





 「禍々しい戦気が消えた...!コウガが勝ったんだ!!」

 センとスーロンが魔神バルガの戦気が感知できない、消失したことを確信して、歓喜の声を上げた。それにつられて他の鬼たちも人族の民たちも喜びの声を上げた。

 「あ、あぁ...!!」
 「サヤ...?」

 「あ、あぁ……っ」
 「サヤ…?大丈夫!?」

 しかしただ一人……皆とは全く違う反応をしている者がいる……米田小夜だ。
 彼女は突如顔を青ざめさせ、その場で膝を着いてガタガタ震え出す。そのただならぬ様子に気付いたルマンドが駆け寄って小夜を宥めながらどうしたのか問いかける。

 「私...“死霊魔術”を会得したからなのか、霊感が強くなったみたいで、特に死んで蘇った生物...モンストールや甲斐田君みたいな人間が放つ“霊気”を感知出来るようになったんです。
 それで……今この瞬間、今まで感じたことのない強い霊気が……!それも凄く邪悪な霊気が感じられます!場所は、甲斐田君たちがいるところに………っ」
 「それって、まさか……!?」

 小夜の言葉に、ルマンドは小夜が恐れている者の正体に気付く。そして同時に冷や汗を流した。小夜は震えながらこう告げた――

 「最後の戦いは、まだ終わっていません………!!」


  


 俺の勝ちだ――!

 そう、思い込んだ...まさにその直後――


 《何も...終わってなどいないぞ!》


 脳内に直接あの声が響いてきた...!そんな感覚がして、咄嗟に奴いた場所を確認すると、そこにはバルガ本体と、奴に取り込まれていたヴェルドが倒れている。
 ヴェルド体の損傷具合はバルガが受けてきたものを引き継いでいるらしく、首と心臓部分からは血が大量に出ていて全身滅多打ち状態となっている。あれならもう死ぬだろう。

 というより、バルガはちゃんと死んでいる。心臓は破壊されて脳も機能していない。なのにこの声は……どういうことだ!?


 《肉体は確かに終わったが、“俺そのもの”を終わらせることなど、たかが人間どもには不可能だ!フフフ、ファーハハハハハハハハハハハ!!!》

 瘴気とともに、霊体状態のバルガが、俺を見下しながら哄笑していた。嗤いながら滅魔法を放ってくるのに対して、聖魔法を纏わせた拳で弾き飛ばした。威力がだいぶ劣っている。

 《ふむ...霊体では滅魔法ですらこの程度にまで低下するか。物理的干渉も不可能である以上、武器も振るえない。だが、お前からの攻撃は全てすり抜けて躱すことが出来る。お前ら人間も魔族も誰一人!今の俺を殺すことなど不可能だ!
 さて……この後の俺は、この世界の闇の底にて次の“器”が現れるのをまた待つとしようか。その間は誰も俺の存在を認識できない、感知できない、俺の元に辿り着くことなど、出来やしない!
 俺が完全に消えることなど、未来永劫に訪れはしないのだっ!!》

 「......」

 《ショックのあまりに声も出ないか?まったく残念だよ、お前は俺の器に相応しい男だったのに、魔人族ではない故に不適格だというのだから。そうだ、闇へ戻る前に誰にも話したことが無い俺の真実について、特別に教えてやろう。
 百数年前に俺は初代の異世界人どもに殺されているわけだが……実は俺が死んだのは《《あの時が初めてではない》》。さっきまで生きていたあの器は、かなり昔にいた部下の同胞のものを乗っ取ったものであり本当の俺の体ではないのだ。
 ≪数百年前……いや数千年前からずっと、俺は“魔神バルガ”という存在をこの世界に留まらせていたのだよ!肉体が死んだ後“霊体”となって世界に現出して、器に相応しい同胞の体に“憑依”することで俺は本当の意味で不滅の存在となったのだ!
 大昔から敵に敗れて殺される度に、霊体化して世界の闇に潜んでは新たな器を手に入れてきた。そしてまた新しい魔神バルガとして甦《よみがえ》り、魔人族を統率していたというわけだ!≫

 「......」

 ≪今回も同じだ!俺はまた闇の底へ戻り新しい器の誕生を待つ。今度は同胞以外の種族であろうと俺の力が十分に引き出せるようにしてみせよう!それでいつかは俺がこの世界を全て支配するのさ!!≫

 再び哄笑を上げて自分の勝利を確信した様子でいるバルガ。それに対する俺は、ゆっくり息を吐いて...


 「そういうわけね」


 大して動揺することもなく冷えた声を発した。

 《...?お前、絶望しないのか?悔しさに悶えはしないのか?お前がどう足掻こうが俺を消すことはできないのだぞ?》
 「何となく、テメーの肉体を滅ぼしたところでテメーそのものは完全に消滅しねーんじゃないかって、そう予感していた。やっぱりその通りだったか。テメーが数千年間も生き続けていたって聞いて、呆れてきたぜ……」

 どこまでもドライな態度と平坦な声でに返す俺に、バルガの表情に怒りが感じられた。が、構うことなく俺は続けて...


 「とんだクソ老害だな、テメーはマジで」



 そう毒を吐いて――


 ガシィ...!《っ!?ぐっ...!?》

 霊体状態のバルガの頭を、左手で思い切り鷲掴みにした。 

 《馬鹿な...霊体の俺に物理的干渉などあり得――っ!?
 お前...その手は!?》
 「ああ。その通り、まずは聖属性の魔力だ。それを纏った手に、“聖水”でびしょびしょに濡らしてんだよ!
 どうやら、テメーみたいな超絶邪悪な存在に対して、ここまでやれば干渉できるようだな?お陰で掴めたぜ...!」

 獰猛に嗤う俺を見て、先程までの余裕を失くしたバルガはまだ吠える。

 《だが、お前がこれ以上何かをする前に俺は闇へと消えて行く!残念だったな!?結局俺を消すことなど不可能――》

 「そうか?というより、こうやって掴めれば十分だ。後は...
 《《コレ》》で何もかも終わらせるから」


 というわけだ。
 最後の最後に、あなたの切り札を使わせてもらうぜ...


―――藤原先生!!!



 「“時間回復《リバース・ヒール》”!!!」