故ハーベスタン王国。
 アレンたちがネルギガルドを討伐してから数分後、もう一つの戦いにも決着がつこうとしていた。

 “死霊操術《ネクロマンシー》”

 小夜の魔術によりベロニカが率いたモンストールは彼女の支配下に置き、ベロニカが召喚した魔獣と戦わせている。
 「限定強化」で敵勢力を縛る力をさらに強めることには成功しているが、全てを支配するには魔力と容量不足であり、また操る時間にも限りがあった。


 (キツい、苦しい...。でもこれが私にできること、すべきことだから!絶対に諦めない!!縁佳ちゃんも、倭さんも、そして......甲斐田君も必死に戦っているはずだから、私も...!!)


 魔力残量が半分を下回り、鼻血と血涙を流しながらも、小夜は魔術を発動し続けた。

 「サヤ!あともうちょっとだから!!私たちが全部狩り尽くすまであと少しだけ耐えて!!」

 小夜の頑張りに応えるように、センとガーデルが奮起して操られていないモンストールや魔獣を狩りまくっていた。
 しかし一人で相手するのは負担が大きく、徐々に追い詰められていった。

 その近くではルマンドがベロニカと死闘を繰り広げていた。
 ベロニカの幻術を全て打ち破り、それ以降は超高火力の魔法の撃ち合い、やがては超能力《サイコキネシス》による応戦も繰り広げられた。

 「はあああああああああ!!!」
 
 
 ルマンドの特殊技能である“神通力”――神鬼《かみき》種のみが使える超能力。ずば抜けた念動力を扱うその力は、ベロニカの超能力と拮抗していた。

 「この私が、鬼族如きの超能力と互角...いや劣ってるですって!?認める、かあああああああっ!!」

 連れてきたモンストール・魔物の軍勢が使えなくされて、数分前にネルギガルドの気配が消失したことを知って余裕を失ったベロニカは、ほぼヤケになりながら魔法と超能力を放ちまくるようになった。

 (ネルギガルドが討たれた...序列は下だけど、実力と戦闘経験においては実質序列3位のあの男が、鬼族どもに敗れたっていうの...!?)

 「私の“神通力”はこの時の為にあった!ここで勝たなきゃ意味が無い!!」

 空間を捻じ切る念力を最大放出しながら、ルマンドが叫ぶ。

 (アレン...やったんだね!だったら私も、勝たなきゃいけないよね!絶対に倒してみせるから!!)

 彼女の強い気持ちが、ベロニカを追い詰めていた。ベロニカはもはや防御態勢しかとれていないまでいた。

 そして―

 「ギイイイイイ!?」
 「グギャアア!!」

 「待たせてすまないガーデル、サヤ。そしてセンとルマンドも!」
 「こいつらを狩り尽くして終いだ!!」

 ネルギガルド討伐班のキシリトとギルスが駆けつけて、瞬く間にモンストールと魔獣を殲滅した。

 「ここに来て増援、か......魔力が尽きてロクに超能力が出せない私も、もうここまでのようね...」

 戦意を喪失したベロニカは、ついに障壁を解いてしまい、ルマンドの念力をくらって、力無く墜ちていった。

 「やっ...た...!倒した、勝った...!!」
 「うん、私たちの勝ちだよ。みんなの仇を...討てたよ!!」

 センとルマンドが抱き合って涙流しながら歓喜の声を上げる。増援二人に支えられながら歩く小夜もガーデルも、勝利にほっとしていた。


 数十分後、アレンたち全員が合流して死骸処理と治療、そして八俣倭の亡骸を手厚く葬り、供養した。
 彼が肌身離さず差していた二本の刀は、とある二人に託してほしいという彼の遺言に従い、アレンが預かった。
 倭の活躍無くしてこの戦いに勝利することはなかった。そのことを実感しているアレンたちは全員彼に感謝の意を示した。
 

 「あなたたちのお陰で、俺たちは救われた...本当にありがとう!!」


 しばらくして、鬼族たちと共存していた人族たちが感謝の言葉を言ってきた。皆、恐怖から解放されたことに感涙しながら歓喜していた。
 彼らは率先してアレンたちの治療を行なった。迅速な行動のお陰で倭以外の犠牲者は一人も出ることはなかった。


 「行かなきゃ...コウガのところに。私の復讐は終わったけど、私たちの戦いは、まだ終わっていない...!」
 「でもアレン、まだふらふらしてるじゃない。一人で行くのは危険だよ。それにそんな状態じゃ、ロクに戦闘も...」
 「大丈夫、コウガの“回復”があるから――っ!?」
 

 途中アレンは驚愕に目を見開いた。彼女だけじゃない、止めようとしたセンや他の鬼たちも異変を感知した。


 「これが...コウガの戦気!?でも何で感知できるようになったの!?」
 「あの人...異次元過ぎる。私たちが束になっても勝てる気がしないね」
 「そんなコウガと戦っている魔人も...何だよコレ。ヤバいって!」

 皇雅とバルガの戦気に全員萎縮してしまった。小夜もそんな彼らを見て不安に駆られている。

 「コウガ...!」

 居ても立っても居られない様子で、アレンはサント王国へ向かって行った。





 「...!!」

 《ほう?俺に勘付かれることなく狙撃したか。それにこの威力...この狙撃手も異世界人か》


 俺に魔剣が振り下ろされる寸前、バルガの体を無数の弾丸が貫いた。

 “見えざる弾―多重連狙撃《マルチスナイプ》”
 (皇雅君は死なせない!!)


 俺に被弾することなく獲物にだけ全弾命中とか、さすが「千発千中」だな。とにかく今の狙撃にはマジで助けられた...。といっても、あと数秒このままでいたら死ぬんだけどな俺は!!

 “回復”

 瞬時に全身の傷と脳を修復。あとほんの少し制限を解除していたら脳が一瞬で弾けて即死していた。マジでギリギリだった。「超生命体力」のお陰で死を回避できた……。
 とりあえず、即座にバルガから距離をとっ
て、今の自分の状態を分析する。

 やっぱり……種族が“人族”に戻っていた。体力が正常表記で満タン状態。
 固有技能については、「五感遮断」 「自動高速再生」 「過剰略奪」が消滅していた。
 バルガが言った通り、ゾンビに関する固有技能は消えてしまっていた。

 「制限完全解除」は残っているが、生きている人間に戻ってしまった以上、100%のリミッター解除でさえ頭が壊れてしまうだろう。
 人は自らの意思で脳の力を全て引き出すことができない。もし100%全て引き出しそうものなら体が崩壊して死ぬと、現代の医学はそう表明しているし、実際その通りだった。さっき死にかけたし。

 そういうわけで、脳のリミッター解除はほとんど使えない。もはやバルガに対する勝機は無くなった…と絶望が過ぎった、そんな時だった。

俺はプレートに刻まれているある固有技能を目にした―――


 「.........っははは!!」


 それは、自分が今までゾンビだったが故に発現していなかった固有技能だ。
 失った物(ゾンビ)はあったけど、同時に得た物(最強の切り札)があった!


 《勝機が無くなり、笑うことしか出来なくなったか?大した回復力だが、有限の体力と魔力が枯れればそれまで。無理に強化すれば脳が壊れて自滅する以上、これ以上は強化できない。圧倒的力の前に諦めて沈む気にな――》

 「誰が諦めたって?」

 バルガの嘲笑に俺は不敵な笑みを返して答える。そんな俺の態度にバルガは訝し気に眉を顰める。

 「テメーのわけ分からん魔術で俺は人間に戻った。ゾンビとしての力が失った代わりに、俺はたった今とっておきの切り札を手に入れた...テメーのお陰でな」
 《何だと...?》


 その場で軽く準備運動している俺の体から、神々しい光が溢れ出てきた。その光景を見たバルガの驚愕した顔を見て笑いながら続きを話す。


 「俺は人間だ。だがこの世界の人間じゃない。テメーらが言う異世界人って奴だ。
 今度は俺が問題出すぞ?

 異世界召喚された者のみにつく特典の固有技能...発動後、自身の能力値が大幅上昇、生命力も高くなる。
 数々の試練を超えてレベルを上げることで発現される、能力値の上げ幅は、レベル上げ・修羅場の数によって増えていく、特殊な異世界人限定の固有技能をさらに超える、超特殊技能...な~んだ?」


 《お前...まさか―――!?》



 “限定超強化”



 ―――ゴウッッッッッッッッッ!!!

 “それ”を発動した瞬間、纏っていた神々しい光がさらに濃密に激しく噴き出て、今まで感じたことない力が全身を駆け巡り充満した!


 「今の状態...脳のリミッター解除率10万%...いや、
 100万%に相当する強さだなぁ。
 全然敗ける気がしねぇ!!!」


 ドン!《な...!?ゴハァ!!》

 “聖超絶拳”

 一瞬でバルガの懐に入り、光速の“絶拳”を叩き込んで、バルガを地面と平行にどこまでも吹き飛ばした。


 「俺を人間にしてくれてありがとうな。お礼に...死ね」

 
 シュビッ!
 ガツンンンンンンン!!!《ガァ...!?》

 “聖絶鋼脚《せいぜつこうきゃく》”

 吹っ飛んでいるバルガの真上に追いつき、黒色の鋼を纏った左踵落としを脊髄にブチ当てて、バルガを地中深くへ沈めた。


 「これは戦争でもテメーの道楽でも何でもない...
 俺の、復讐だっ!!」


 最後の復讐を成すべく、俺は最後の力を発動して再び拳と蹴りを振るう!
 この戦いの決着はもうすぐつくと、この時俺はそう確信していた...!





*甲斐田皇雅の「限定超強化」による恩恵:能力値1000倍上昇。聖属性強化。