アレン視点

 「ワタル...!」
 「「「「...!」」」」

 ワタルが最後の斬撃を放った直後、彼の全身から噴水と見紛う規模の血が噴き出て、魔人とすれ違った直後に力無く倒れ伏した。そして、そのまま動かなくなった。

 (あなたは本当に命を懸けて...私たちの為に!絶対に無駄にしない!!)
 「みんな!さっき説明した通り、今から短期決戦であいつを完全に殺す!!行くよ!!」
 「「「「おう!!!」」」」

 私の合図と同時に全員が粉末状にした魔石を摂取した。量は原石のおよそ半分。持続時間は僅か1~2分。絶対に決める!!


 「こ、のぉ...!!クソ異世界人があああああ!!俺の体にここまで深手を負わせるとはな!!だがここまでのようだな、当然だ。人族の分際で魔石を使うなど不相応なんだよ!俺の拳で完全に潰れて死ねえええええ!!」

 左腕が失い、胴体の一部が深く割かれている状態にも拘わらず、魔人は怒り心頭の様子でワタルに止めを刺そうとしている。ダメだ間に合わない...!



 「“半月斬り”」
 ガキイィン!「ぬぐおぉ!?」

 拳がワタルに振り下ろされる直前、突如地面から現れた大剣によって防がれて、拳を弾いた。否...大剣ではなくあれは剣のように発達した尻尾だ!そしてそんな戦い方が出来る人は、彼だ...!


 「ドリュウ!!」
 「すまない。傷を癒していて遅れた。どうにか決戦に間に合ったようだ。相手は先日とは違うが、相手に不足無しだろう」

 魔人より一回り大きい、恐竜形態になったドリュウが、強靭で威圧感を放つ尻尾を構えて私たちのもとへ来る。

 「竜人族のドリュウ、これ程とは...!」

 皆がドリュウの戦気を感じ取って感心している中、私はドリュウに魔石の粉末を渡した。

 「それを適量摂取すれば一時的にさらに強くなれる。これで魔人にも互角以上に戦える!」
 「なるほど......確かに、力が増した。今なら奴を断てるやもしれん」

 魔石を摂取したドリュウの尻尾がさらに熱を帯びて禍々しいオーラを放っているように見える。心強い。今こそあいつを...ネルギガルドを殺す時!!

 「みんな、ワタルがつくったチャンス...絶対に無駄にさせないよ!!」
 ゴウッ!!直後、私の体に変化が。角が大きくなり、体は少し細くなったがその分力が強化・凝縮されていく感覚がした。

 「その姿...かつての金角鬼の女と同じだ。先代をついに、超える時が来たみたいだな...!」
 「...お母さん」

 ドリュウの言葉に、ふとお母さんが戦っていた時のことを思い出す。いつか私もあんな風に...って思ってたっけ。

 (お母さん、私もなれたよ...この力で、お母さんとお父さん、皆の仇を必ずとってみせる!!)

 「“羅刹撃”」
 ドォン!!バリバリバリ!!「ぎはぁ!!な...に!?」

 3歩で魔人に接近して3歩目で鉤爪状に立てた右手で、 “雷電鎧”纏ったまま掌底を胸に叩き込んだ。打つ際、コウガに習った体のパス動作を体内で送り続け、威力増加と加速を成功させた。
 ただ胸に当てただけじゃない。魔人の体内にある血・水分に攻撃した。爪を立てることで皮膚を破り、そこから雷を流し込む!結果、魔人に体内から大ダメージをくらわせることに成功。

 (ハーベスタンで戦った時と同じ、外が固いなら内側から破壊すれば良い!そしてコウガの技でさらに威力を上げる!!)

 「次は俺たちだ!!傷口に魔法を当てれば少しは効くだろう!?クソ魔人野郎!! “獄炎砲《ごくえんほう》” 」
 「今度はお前が私たちに滅ぼされる番だ!! “隕石斧撃《メテオアックス》” 」

 ギルスが左腕の切断面に向けて闇色の炎の爆砲を放ち、ソーンが鋼を纏った右足を、ぱっくり開いた腹目がけて踵落としの要領で振り下ろした。

 ドガァン!ズドォン!「ぐぎゃああああああ!!う、っとうしんだよゴミがああああ!」
 ガッ!ズガァン!「「うああああ!!」」

 痛みに絶叫しながらも魔人が反撃してくる。それぞれ拳と蹴りが入り二人が遠くに吹っ飛ばされる。二人は吸血鬼、即死じゃなければ死なない。

 「まだまだぁ!! “五月雨篠突《さみだれしのづ》き”」

 再び私の攻撃。魔人の全身に余すことなく、突き・クロー・突き蹴りを浴びせまくる。まるで災害すら思わせる大雨を体現するかのように!

 (こいつにはたくさん苦しむ必要がある!タフさが売りみたいだけど却って好都合!時間が許される限り、精一杯苦痛を与える!!)

 コウガには、感謝してもしきれない恩がある。洞窟で彼と出会い、私の復讐心を肯定してくれて、一緒に連れて行ってくれて、その先で強敵と戦わせてくれて私を強くしてくれて...今こんなことが出来るようになっている。

 コウガは全部私が頑張った成果だって言っていたけど、そもそも彼と出会っていなければ、今の私はいなかった。
 コウガが仲間になってくれたから、コウガが私を受け入れてくれたから、コウガが、私を好きになってくれたから!!

 (この力は私だけの物じゃない、お母さんお父さん、コウガがいてくれたから得られたもの!だから...ありがとう。私に力をくれてありがとう!!)

 「ああああああああああああ!!!」

 ドッガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

 さらにパワーが増した気がした。今ならこんな奴雑魚にすら感じられる――

 「いつまでも殴られてるだけだと思うなああああああ!!」

 ...ことはなかった。これだけやってもまだ抵抗できるこの魔人、どこまで頑丈なんだ。
 直後、「伏せろ」と後ろから声がしたので、咄嗟にしゃがみ込む。すると頭上をブォンと音を立てて通過し、魔人に命中した。
  
 「ああああああ!! “魔人撃”」

 だが攻撃を読んでいたらしく、鋼を纏った右拳に止められる。ギギギと暫く拮抗した後、ドリュウの尻尾の先端が折れた。

 「ぐ、ぬうううううう...!!」
 「竜人まで出張りやがって!!テメェもぶち殺す!!」
 
 突如口から漆黒の魔力光線を放ってきた。こいつ、魔力光線も使えたの!?完全にキレているようでかなり冷静だ。意表を突くタイミングが上手い!

 「ぐおあああああああ...!!」

 光線をモロにくらったドリュウが苦悶の声を上げて倒れる。左の横腹が吹き飛んでいる。重傷だ...!

 「か、まうな...!お前たちは奴を討ち取ることだけを考えろ!!」
 「ドリュウ...ありがとう」

 ドリュウの檄に私は小さく礼を言って、構わず追撃にかかる。

 「もうお前は動くなクソ野郎...今までの罪、ここで全て裁かれろ!!
夜叉の地獄門(ダーク・ア・ゲート)” 」
 「あんたになら、躊躇無く使えるわ。鬼族禁忌の裏拳闘武術を!! “滅人武《めじんぶ》” 」

 キシリトが以前放った時よりも大きく禍々しい凶悪な鬼の口腔を召喚、魔人を縛り付けて嚙み砕きにかかる。全身鋼の鎧で覆われた魔人の体躯を砕くことには失敗したが、完全に動きを封じていた。
 その隙にスーロンが、使うことを禁止されてきた技を繰り出す。狙いは頭...の中。頭蓋の継ぎ目を手刀で正確に切断して、脳を頭蓋から隔離させる。中でむき出しになった脳目がけて、拳突き・刺突・クロー・肘撃ちをひたすら音速で打ち続ける。大脳・小脳・間脳・中脳・脳幹に殺人拳を浴びせ続けるその技は、数秒で生物を死に至らしめる殺人武術故、使用は禁止にされた。

 けど今なら問題無い。あんな奴なら禁忌だろうと構わない。全て使えば良い!

 「っ!?くそ...なんて硬くて頑丈な頭蓋なの!?仕方ない、頭蓋越しにでもお前の脳を破壊してやる!!」

 ザシュ、ドス、ズガシュ...!「か......か...!」

 魔人が痙攣する。脳に深刻なダメージをくらわせることに成功。だが同時にスーロンの体から血が噴き出して、彼女は離脱する。

 「はぁ、はぁ...思ったより限界が早いわ...。私の体が壊れそう。アレン...後はお願い」
 「俺も意識が飛びそうだ...アレン、託すぞ...!!」

 魔石の副作用で両手と体の至る所から血まみれのスーロンと目が霞んで倒れそうなキシリトが私に後を託してくれた。彼らの言葉に強く頷き、魔人の真上に立って拳を構える。右腕に全ての魔力・力を集中させる。瞬時に全身をパスさせて、左腕を引くと同時に右拳を振り下ろす―


 「復讐してやる――死ね」
 「テメーら如きに、俺が殺されるかああああああああ!!!」


 魔人殺し... “羅刹金剛鬼《らせつこんごうき》”
 “極大魔力光線”


 黄金の濃密なオーラを纏った拳と、漆黒の極太い光線が同時に放たれる。
 お互いゼロ距離で、己が持つ全てを放ち合った。拮抗した時間はほんの僅か。

 私の拳が光線を断ちそして――



 「ぎゃあああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”......!!」

 魔人ネルギガルドの半身を穿ち消滅させた...!


 「みんな......長い間待たせてごめんなさい。やっと、仇討てたよ...」


 肘から先が消失した右腕を軽く上げて、私は静かに呟いた...。





 「あ、はは、は...。あたしが、あんたら魔族ども、に...敗けるなんて、ね...」

 進化が解けて元のサイズに戻ったネルギガルドを静かに見下ろす。これだけやってまだ息があるなんて、本当にこの魔人は頑丈だ。いや、生命力があると言うべきか。

 「ごめんねぇ...あたし、進化すると言葉が汚く...なる性分のようで、ぇ...散々罵倒...しまくった、ようねぇ...」
 「謝るところそこなの?まぁどうせ、家族と里を滅ぼしたことで今さら謝ったところで絶対に赦さないけど...ね!」

 グリィ!「あ”っ...!あんた、本当に酷ねぇ...?死にかけの体に、普通そんなこと、するぅ...?」
 「私はお前が憎い。お前が十分に苦しんでから殺すのが私の望み。だから死ぬまで、最期までいっぱい苦しめばいい...!」


 しばらく私はネルギガルドを蹴り続けた。雷を傷口や口に流し込んだりもして、私が今できる限りのことをこいつにやってみせた。スーロンたちはそんな私たちをただ黙って見ているだけだった。

 私たちの方は、奇跡的にも誰も死んでいない。ドリュウも臓器が無事だったお陰でどうにか生きている。私自身も、ギルスの氷で傷口を凍らせるという荒療治で済ませている。早く治さなければならないことに変わりないが、今はこいつをたくさん苦しめて苦しめて、地獄へ落とすのが先だ...!


 「お前のせいで家族が死んだ。お前のせいで多くの友達が死んだ。お前のせいで里が滅んだ。お前のせいで種族が絶滅に瀕した。お前に弱らされたせいで亜人や獣人に攻撃された。
 全部お前のせい。もうすぐお前は死ぬからこの程度の苦痛しか与えられないけど、続きは地獄でとことん苦痛をくらい続けろ...!」

 「...!まったく...な、んて顔をしてるの、よ...。本当、に鬼そのもの、ね...ふん。せっかくだし、最期に情報をくれて、あげるわ...」

 私の言葉に気圧されるも、ネルギガルドはまたあの憎い笑みを浮かべてそんなことを言い出す。

 「?まだそんな口が...」
 「いいから聞きな、さい...。今のあたしたちの長...ヴェルド様だけど...今の彼は...《《彼であって彼でない》》、わ...。あたしも、ついさっき気付いた、の...。思えば、ザイートちゃん、も...中身はほとんど...彼じゃなかった、のかもしれない...。あの中には、懐かしくて恐ろしい... “《《あの人》》”が...いるのかも、ね...」
 「何を、言ってるの?何がいるっていうの...?」
 「それ、は...............」
 

 それきり、ネルギガルドは喋らなかった。もう死んだようだ。
 
 「コウガ……」

 私の復讐は完全に終わった。だけどコウガは...まだだよね?

 (あなたのところにも行きたいけど、先にもう一人の魔人と戦ってる...センたちの方へ、向かわない、と......)



 動こうとした直後、足をもつれさせて倒れてしまい、そのまま眠るように意識を沈めてしまった――






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ネルギガルド(追加詳細)

ステータス

魔人族 レベル500
職業 ―
体力 10080000 *限定進化時:380010000
攻撃 10315000 *限定進化時:153100000
防御 9105000 *限定進化時:100030000
魔力 3090000
魔防 2080000
速さ 3108990
固有技能 怪力 絶牢 瞬神速 気配感知 夜目 瘴気耐性 魔人武術皆伝 
武芸百般 超生命体力 暗黒魔法レベル9 魔力光線(闇) 限定進化

追加情報:魔人族の中でも無尽蔵の体力と突出した物理面での攻防力を誇る。限定進化することでより凶悪な人相・5m近くの体躯・怒髪天を思わせる程逆立った髪をした姿になる。人格も変わり荒々しい性格と口調に変わる。さらに体力と攻撃と防御が10倍以上も上昇する。残りの能力値の低さは圧倒的体力・物理面の高さでカバーしている。序列は5位だが戦闘経験の豊富さは先代の魔人族の長とザイートに次ぐ程あって、総合的な戦力としては本当はクロックやベロニカより強いとされており、実質魔人族ナンバー3(ザイート存命時)の男だった。