「その時」が訪れたのは突然だった。
 見たことも無い魔物…否、化け物の大群が里を襲った。みんなが傷つき、殺された人もいた。
 ほんの少し前まではいつもみたいに友達と遊んだり稽古したりしていて、お母さんと今日一日の楽しかったことや明日何しようかって話して笑い合って、そんな日々が続いていたのに……

 ――あの未知の化け物どもが、そんな楽しい日常を壊しにきた……!

 (アレン!私たちの傍から離れちゃダメよ...!)
 (父さんたちが絶対にアレンたちを守るからな!)

 お母さんとお父さんを中心とした戦士たちはそんな侵略者どもを迎え撃ち、倒していった。特にお母さんの活躍は凄まじかった。彼女がいちばん多く化け物どもを屠っていた。しかもほぼ無傷で。

 鬼族の中で特に強いとされている金角鬼種、その中でも歴代最強と謳われる人だと大人たちはそう言っていたことを、この時になって理解できた。
 けれど……そんな最強戦士であったお母さんとお父さんの前に、異次元の化け物が現れた―――


 (あらァ~?災害レベルの屍族をも簡単に殺せる鬼がいたなんてビックリねぇ?中々やるじゃなーい☆)
 (((―――っ!!?)))

 私たちと似た人の形をした化け物。そいつの戦気に当てられた私は、一瞬で戦意を喪失してしまった。
 この化け物には絶対に勝てない、私は本能で察した。今すぐみんなでこいつから逃げるべきだ、そう言おうとしたのだが、お母さんとお父さんは戦意を失うことなく化け物と対面したままでいた。

 (アレン......少しでも多くの仲間たちを連れてここから逃げなさい...。私とお父さんで、コイツを倒すから...)
 (お、母さん......ダメだよ...!一緒に逃げようよ!あんなのと戦って、勝てるわけ――)
 (大丈夫よ。何たって私は歴代最強の戦士だからね!どんな敵が来ようと敗けないわ!!)
 (それに...一緒に逃げたとしても奴からは逃げられない...そんな気がするんだ。だからここで奴を食い止めなければならない。アレン、お前は同世代の子たちの中でもいちばん強い子だ。そして将来は父さんも、母さん...エレナをも超える戦士になれるって、信じてる!ここで死なせるわけにはいかない...!)
 (この世にたった一人しかいない私たちの可愛くて愛しい娘のアナタには、もっと世界の色んなことを知ってほしい...。恋もしてほしい......。生きて、ほしい...!!私たちは必ずまたアレンたちと会いに戻ってくるって約束するから...信じてここから逃げなさい!)
 (......お母さん、お父さん...!!)

 (お喋りはもう終わりにしてもらえるかしら~?もう暴れたくてしょうがないんだけどぉ?)
 (...ええ、そうね。存分に暴れようじゃない。まぁ、あなたがのたうち回って暴れるだけになるのでしょうけど。行くわよ......タイラン!!)
 (ああ!これより我らは修羅と化す...!!)

 そして化け物に立ち向かって行った二人。そのすぐ後に私は背を向けて、近くにいた仲間たちと一緒に里から脱出して、遠く遠く...逃げた。逃げ続けた...。
 里を出てしばらく経った頃――


 (あ......あぁ...!?お母さんとお父さんの、戦気が...感じられなくなった...!そんな...二人とも、私たちのところに戻ってくるって、約束したのに...!!)
 (っ!!アレン......逃げなきゃ!族長たちに助けられた命をここで潰えさせちゃいけない...!)
 (う、ああああああああああ...!!お母さん、お父さん...!!あああああああああああ...!!)
 (アレン...)

 私が二人と同じくらいに強ければ一緒に戦って、二人とも死なずに済んだかもしれなかった。
 私にあの化け物どもと戦える力があったなら、こんなことにならなかったかもしれなかった。
 私が......弱かったせいで、お母さんとお父さんは私を逃がすことしか出来なかった...!!

 逃走してから数日後、亜人族や獣人族に襲われたせいで仲間たちとはぐれてしまい一人になった私は、人族の村で里を襲った化け物どもについての情報を耳にした。

 (モンストール、世界中に突如出現した未知の化け物……)

 強くならなきゃ......あの化け物どもを屠るくらいに...。

 そして復讐してやる...。お母さんとお父さんを奪ったあの人型の化け物をこの手で殺してやる……!

 必ず―――!!



アレン視点

 「あの魔人は昔と同じ、肉弾戦タイプのよう。だから近接戦闘に強く魔法もある程度撃てる戦士が適任だ...ってカミラが言ってた」
 「なら戦うのはアレンと私、キシリトとソーン、そしてギルスが適任だね」

 私の言葉にスーロンが即座にメンバーを決めた。以前獣の王と戦った4人に加え、吸血鬼同士絆が深いギルス。文句無しの布陣だ。

 「そしてもう一人の女魔人は幻術使いで、魔力も高い。ここは私が出るべきね」
 「お姉ちゃんと同じ、私も出る!幻術なら任せて!」
 「高い魔力にはそれに対抗できる魔防と魔力を。私も相手するわ」

 センとガーデル、ルマンドがベロニカと呼ばれる魔人を睨む。

 「で、そこにいる異世界の人...コウガのドウキュウセイ?が、サヤっていう子」

 ちゃんと名前を聞いてなかったから曖昧だけどそんな名前だった気がする。そのサヤがセンたちにお辞儀をする。

 「よ、米田小夜です...い、一緒に戦って勝ちましょう!!」
 「サヤちゃん、私たちのところに来てくれてありがとう!よろしくね!」

 センが小夜の手を握って笑顔を向ける。ガーデルもルマンドも友好的に小夜に話しかけてくれている。

 「セン、お願いね...」
 「うん、あの女は私たちが何とかする。アレン、あなたはあなたの為に戦いなさい。それが私たちの為になるから!」
 「うん...!!」

 センは本当に頼りになるお姉ちゃんだ。昔も今も変わらず。安心して任せられる。
 だから、私は私の戦い(復讐)に集中する!!

 「限定進化」

 「神速」で駆けて跳びあがり、余裕ぶって構えているあの憎い魔人に全力の連撃を叩き込んだ!

 “驟雨”
 ドガガガガガガガ...!!

 激しい雨の如く一撃一撃に雷電属性と強い殺意を乗せた拳をくらわせる。

 「あ~もう、痺れてきたっ、痛いわねっ!“絶牢壁”」

 途中アイツの堅い防御に途中全て弾かれる。というより防御状態じゃなくてもあまり効いていなかった。見た目通り相当打たれ強くできている。

 「あたしを打撃技で殺そうだなんて思わないことね~」

 「――じゃあ斬撃はどうだ?」
 “閃光斬”

 突如私の真後ろから声がしたかと思うと、一瞬で私を通り過ぎて、魔人の胴を一閃した。

 ズパァン!「ぎゃっ!?斬撃ぃ!?」

 今の一撃は、魔人が防御を解いた直後の隙を突いた
ものだった。そんな小さな隙を正確に突くなんて、この人やっぱり凄い...!

 「ヤマタ...!速いね」 
 「ああ、助太刀するぞ、鬼娘...アレン」


 強力な助っ人だ。勝てる気しかしない!!