~回想~

 (どうやら魔人族どもは二手に分かれて来るそうだ。うち二人が故ハーベスタン王国...今は鬼族が暮らしている里に侵攻しようとしてやがる。だから、アレン)
 (うん、あっちに私の家族と里を滅ぼした魔人...ネルギガルドが行ってると思う。あいつは、私が絶対に...!)
 (そうだな。アレンにはこれからハーベスタンに行ってもらう。感知したところ、ネルギガルドともう一人...ベロニカっていう幻術や召喚術に長けた魔人がいる。奴の魔法攻撃に拮抗できて面倒な魔術にも耐性がある戦力がほしいな。カミラ、鬼族にそういう奴は...)
 (はい...センさん、ガーデルさん、ルマンドさんが彼女の魔術に対抗できるかと。彼女たちは超一流の戦士ですが、それでも魔人を討伐できるかどうか...)


 出陣前、俺たちはそれぞれどの戦場へ向かうかの方針を考えていた。まぁ簡単な軍略会議ってところか。時間が惜しいことで色々率直で決めて行った。今はハーベスタンに誰を向かわせるかについてだが、幻術に耐性があり且つその類に詳しい戦士を行かせようという話になっている。
 で、アレンとともにハーベスタンに行ってもらう戦士が...


 (ヨネダサヤさん、あなたに行ってもらいたい)
 (私...ですか!?)

 カミラに指名された米田は驚いて思わず聞き返す。だがそれほど意外ではないはずだ。むしろ彼女ほど相応しい者はいない。

 (確かに、呪術師である米田なら適任だな。幻術に対する心得は十分だろうし、奴の攻撃に対処しやすい。何よりあの“死霊魔術”でモンストールどもを完全に無効化できるはずだ。魔人族どもはモンストールや魔物も率いてくるみたいだしな。この俺を一時的に縛ることが出来たあの魔術は、モンストール対策には必要だ。
 というわけだ......頼めるか?)
 (甲斐田、君...)

 俺に呼ばれて米田は萎縮する。まだ俺に対して怯えと警戒が残っているらしい。まぁ当然だな。数時間前は互いに敵対して殺そうとまでしたからな。信用されないのは仕方ない...。だが今回は、利害一致ということで協力してくれないとな...。

 (小夜ちゃん...今の皇雅君なら大丈夫。信じて...は難しいかもしれないけど、今は二人の提案にのってあげて?それに私も小夜ちゃんが適任だと思う。近くで小夜ちゃんの頼りになる魔術いっぱい見てきた私が保障する!)
 (縁佳ちゃん.........分かりました。私がハーベスタンに向かいます)
 (よし、頼む。お前の魔術と幻術耐性が頼みの綱だ、アレンら鬼族とともに戦ってくれ)
 (え?あ、う、うん!)

 俺の言葉に多少うろたえていたが、とりあえず米田は承諾してくれた。これでハーベスタン組は決定。残りは必然ヴェルドがいるところへ行くがことになるが、正直ヴェルドとまともに戦えるのは俺くらいしかいない。が、俺も万能じゃない。あいつが使っていたあの剣、俺の不死性を無効化できるらしい。あれで斬られたら俺は本当に死ぬだろうな...。


 (お姫さん、魔剣って呼べばいいのか...あの武器に対抗できる属性は何だと思う?)
 (おそらく...ミワさんが最後に発動したあの聖なる属性...“聖魔法”でしょうか?あの魔法または属性を付与した武器なら対抗できるかと。そして魔人本体にもかなり有効かと考えられます)

 さすがは軍略姫、優れた考察だ。聖属性の武器か...ゲームあるある要素だな。ここにきて聖魔法が出てくるとは。
 
 (コウガさん、貴方は他の人の武器に属性付与が出来ますか?)
 (ん?できるぞ。ついでに他の固有技能もある程度付与できる)
 (クィンさんとヨリカさんの武器にも付与ができるということですね。
 それならばお二人にも現魔人族のトップと戦えると思います!)
 
 ミーシャの発言に俺は思わず眉を顰めた。

 (有効属性を付与させるだけで、奴とまともに戦うのは無理があるんじゃないのか?戦力があり過ぎる)
 (その為の“魔石強化”です。ただしこれには危険な、命にさえ関わるリスクがつきます。ですが、今のコウガさんならそのリスクを解決できるのではないですか?)
 (...この半年間で本当に頭のキレが増したな、お姫さん。まぁその通りだが...お前らはいけるのか?あのラスボス相手に、超危険ドーピング込みで戦えるか?)

 黙ったままでいる高園とクィンに確認する。二人は臆することなく自信満々に答えてくれた。

 (コウガさんと一緒に戦わせて下さい!あなたの支援くらいはできるはずです!)
 (皇雅君。私はあなたが避けられなかった狙撃ができる。そんな私が美羽先生の時と同じ有効属性が付与された狙撃ができれば...絶対に勝てるよ。だから一緒に戦わせて!!)
 (......時間が惜しい。お前らの意思を尊重する。俺と来てくれ...二人とも)

 俺の返答に二人はたいそう満足し、喜んでくれた。何で死地に行けることが嬉しいんだよ...自殺願望か?まぁいいや。これで方針は大体決まった。あとはこの世界最高クラスの軍略家二人に適宜助言をもらおう。

 (まずは俺一人で先に、今も足止めして戦っている3人のところへ行く。あいつらそろそろヤバいみたいだ。お前らは後から来てくれ。今から全速力で行く。抱えては走れないしな)

 そう言ってからアレンを見る。彼女もちょうど俺を見ていた。お互い笑い合い手を叩き合う。

 (行ってくるねコウガ)
 (おう...って言ってもハーベスタンまでは分裂体の俺が一緒だけどな)

 そう言って分裂俺2体とともにアレンと米田(俺に担がれる際、彼女はずっと萎縮したままだった...)は城を発った。

 (カイダコウガ...。お前がしたことを赦すつもりはない。だが今はそんなお前の力が必要だ。今この時だけは全てを忘れて、お前に託す。頼む、魔人族を全員討伐してくれ!
 とはいえ、この戦争が終わったら、その時は改めてお前の罪について沙汰を決めさせてもらうぞ)
 (ああ、それで十分だ。それについては後日たっぷり話し合おう)

 ガビル国王にひらひらと手を振る。ミーシャの父…ドラグニアの老害国王と違って有能だよこの王は。
 最後にカミラとミーシャを見る。ミーシャから水晶玉を預かった。これを通してカミラの「未来完全予測」を発動させる。これで奴の行動は全て筒抜けだ。といっても、俺のところに付きっきりってわけにはいかない。アレンのところにも対処してもらうつもりだ。

 (お前らの力も借りるぞ。カミラ、お姫さん)
 (ええ、コウガ!一緒に戦いましょう!)
 (.........)

 カミラは返事してくれたが、ミーシャからは返答がなかった。

 (?何か気になることがあるのか?もう本当に早く行かねーとなんだが)
 (はいあります...こんな時にですが、コウガさん...。
 私のことは“お姫さん”ではなくミーシャと呼んで下さい!)

 (............え?そんなこと?何言ってんのお姫―)
 (ミーシャとっ!)

 ......時間がマジで惜しい。こいつそれを計算してこのタイミングを狙ったな。ああもう!呼べば良いんだろその名で!!

 (............サポート頼むな、《《ミーシャ》》)
 (はいっ!!)

 スゲー嬉しそうに、可愛らしい笑顔で返事しやがった。名前呼びくらいで何をそんなに...。
 と思っていると、袖を掴まれてることに気付き、振り向くと高園が赤面しながら体をもじらせている。

 (何だよ?)
 (あの...私も、名前で―)
 (後で追いついて来いよクィン、《《縁佳》》!!)
 
 半ばヤケになって叫んで俺は移動を始めた。

 (!皇雅君...!)

 緊張感あるのか無いのか...シリアスなのかふざけてるのか...全く!!

 (あはは...)

 クィンの呆れ混じった笑い声が聞こえた気がした。



 ――そして役者が全員揃い、戦争は再開する...