(う...!俺は、気を失っていて.........国王様!?)

 巨漢の魔人に圧倒されて、止めを刺されると思ったところで、俺は思い切り吹き飛ばされた。そこからは何が起こったのか分からなかった。気が付くと目の前に全身取り返しがつかないくらいに深い傷を負った国王様......俺の父さんが倒れていた。

 (ディウル様!!気を確かに!すぐに治療を...!)
 (......アンスリール、か?無事、のようだな......体を張った甲斐があった......はは、は......)
 (そんな、俺を庇って...!あなたは国王様で、こんなところでその身を危険に晒すなど――
 (今こそが、命を懸ける時だったんだ......結局奮闘虚しく国を守ることは、できなんだ......)
 (ディウル、様...)
 (今は、父さんと呼びなさい......アンスリール、仲間はまだ全滅していない。どういうわけか、あの魔人は撤退した。今すぐは、奴に報復しようなどと考えるな?相応の力を付けて、この国の......私の無念を晴らしてくれ。亜人族の未来を......頼、む............)
 (っ...!必ず、全て成してみせます、父さん...!!)





 「―――そう、言われてたのになァ、俺は堪えられなかった。だけど、ああやって魔人族に勇敢に立ち向かっている者がいて、俺も立ち向かえることができた。
 あの鬼族娘への贖罪にはならないだろうが、彼女の仲間の窮地を救う役目くらいは果たさせてもらう...!」

 かつて俺たち亜人族は、魔人族から逃げてきた鬼族たちを攻撃してしまって、彼らには酷いことをしてしまった。心無い同胞がしてしまったこととはいえ、国を統べる者としては償いをさせてほしい。だから、彼女の戦気が弱まったことを感知してこうしてここに来たわけだ...。

 ――しかし...

 「...ネルギガルドに遠く及ばない亜人が、俺を止めるだと?」

 ズバァア...!
 「かっ......!がふっ」

 奴は、強過ぎる...!以前強襲してきた巨漢の魔人以上に強い。何かが...違う。魔人族からさえも逸脱した感じがするこの男は...異常だ!

 「くそっ...!」
 「まだ生きているが、あれはマズいな...」

 共に戦っている二人が俺の方を見る。気にするな、目の前の敵に集中しろ、と言いたいのだが声が出てこない...。また、窮地に陥ってしまった...。

 あの巨漢魔人はどこかに行ってしまった。奴は俺が来たことに驚きはしたがそれだけだった。俺に対して何の脅威も抱きはしなかった...。それ程までに、魔人族どもの実力はずば抜けているということか。

 (ちく、しょう...!)

 俺は、仇を討つこともできずに終わってしまうのか...?






 アンスリールとかいった亜人戦士がマズい状況だ...。俺と、ワタルでどうにか庇いつつ魔人族と応戦する...かなりしんどい状況だ。
 女の魔人はともかく、数日前竜人族の国に強襲してきた黒髪男の魔人相手に仲間を庇いながらの戦闘は厳しいな...。
 というか奴の戦気の変わりようは何だ...?より強力に、より禍々しくなってやがる...。

 「...お前は以前にも奴と相見えたことがあったそうだな?最初からああだったのか?」
 「いや...俺の国に来た時は今程のレベルじゃなかった。最後に見た時の奴は、何故か戦意を失くして瀕死だった俺らを放って離脱していった...。今はあんな要素など微塵も無いようだが」
 
 ワタルの問いかけに俺は困惑しながらも答える。

 「ところで...よくこの窮地に駆けつけてくれたな?」
 「ああ...それは――」



 ――魔人族との敗戦後、魔人族との戦いから生き残るには他種族との共闘が必要だと痛感した俺は、いちばん交流が深い種族の鬼族のところに、魔人族と戦う間は協調しようという話を持ちかけに行った。だが鬼族の娘たちから思いがけない情報を掴んだ。

 (コウガが人族らと戦争を...!?)
 (うん...復讐だって。アレンもコウガに加勢しに行ってるところよ。
 (それよか、魔人族と戦う為の協調関係......良いぜ、乗った!あんたら竜人族が味方になってくれるのは心強いしな!)
 (そうか、感謝する。では次に魔人族が――っ!?)
 (?どうしたの?)
 (ここからだと微かだが禍々しい戦気を感知した。何か......嫌な予感がする。それに......ここへ大きな力を持った存在が二人、向かって来るぞ...!)
 (......それって...!?)
 (ああ、魔人族だ...!迎撃の準備をしておけ。俺らのところも今は壊滅的だが少しでもそちらに戦士を送るつもりだ。俺は今からあの嫌な戦気がするところへ向かう。悪いが暫くは耐えてくれ!)
 (分かったわ。気を付けてね...カブリアスさん)


 「なる、ほど...な」
 「...予想通り、こんな化け物が......いたわけ、だが」

 二人で粘るも、次第に奴...ヴェルドに追い詰められてしまっている。

 「龍を怒らせると......何だったか?」
 「ぐ......見てろ...! “限定進化”」


 進化して超高火力の魔力光線を二人の魔人に放つ。
 だが直後、漆黒の斬撃が飛んできた――





 駆ける...全速力で。まずは俺一人、先に戦場へ行くことに。現在魔人族と戦っているあの3人への救援が最優先だ。俺がこうして元に戻れたのは、彼らの足止めがあったお陰だ。敵は...今は二人だ。残りの二人は...感知した通りあそこへ向かったみたいだ。
 だが...彼女たちがいる限りは大丈夫だ。信じよう。今は、自分のことが先だ。

 “聖なる槍”

 魔人族の姿を捉えた俺は即座に聖魔法を唱えて、神々しい光を放つ槍を奴...ヴェルド目がけて投げつける。 
 光でできている槍は、俺の手から放れた途端、光の速さで飛んでいき、投げてから1秒も経たずして刺突音と、奴の呻き声が聞こえた。速度を落とさずそのまま駆けて、3人のもとに辿り着く。俺の到着に気付いた八俣が、どこか嬉しそうにして俺に話しかける。


 「......ちょっと目を離した隙に随分見違えたな?憑き物が落ちて強い目になってるぞ...甲斐田」

 体のあちこちに傷があり血もだいぶ流しているが、俺を見るなりあの飄々とした笑みを向けてくる。

 「あんたらと、俺たちの先生のお陰だ。彼女の命で俺はまた戻ってこられたんだこんな俺に、全て託したんだ」
 「......そうか。藤原は、お前の中で共に戦うことを望んだようだな」

 俺の中で...そういう解釈もあるのか。悪くないな。

 「ところで...残る二人は...」
 「ああ...竜人は無事だ。今は意識を失っているが命に別状は無い。だがもう一人の方は...」
 「...そうか、あんただったのか。3人目の助っ人は」

 気絶しているカブリアスの隣で夥しい血を流して、もう手遅れ状態の亜人の王子、アンスリールに声をかける。

 「お前は......半年振りだな、カイダコウガ」
 「ああ......先にあいつぶっ飛ばしとくか。少し待ってろ」

 そう言ってから一瞬でヴェルドのもとに着く。さっき投げた槍が肩に深く突き刺さって痛そうに藻掻いている。俺の姿を認識したヴェルドが顔を一層険しくした。


 「貴、様はぁ―――――!?」
 「テメーは後で絶対ぶっ殺す。覚悟してろ」

 重力魔法魔法で斥力が付与された渾身の跳び蹴りをくらわして、ヴェルドを別の大陸くらいまで遠く、遠くへ吹っ飛ばした。これで、この勇敢な戦士たちの態勢を整えられることができるな。

 「何だ今の蹴りは!?ヴェルド様が吹っ飛ばされた!?」

 ああ、もう一人いたか。雑魚だしほっとこう、向こうから攻撃するなら即殺するが。
 すぐにさっきの位置に戻って、3人同時に“回復”を施す。

 「傷が治るだけじゃない、体力と魔力まで全快とは...藤原の時と同じだ」
 「ぐ...う?コウガ、か?俺はどうやらやられていたようだな...」
 「は、はは...さっきまで死にかけていたとは思えないくらいの回復っぷりだ。とりあえず礼を言う。命を救ってくれてありがとう」

 礼を言うアンスリールに対し俺はいやと言って軽く頭を下げる。

 「礼を言うのは俺の方だ。あんたらが命懸けで魔人どもを足止めしてくれたお陰だ。ありがとう」

 「...少し変わったか?何か今まで以上に強い意志を感じられる」

 カブリアスが意外そうに問いてきた。それに苦笑で返してから表情を引き締める。

 「残り二人の魔人族だが...二人とも同じところへ向かっている。既に手は打ってるが、戦力差は厳しい。そこで、この中で誰か残りの二人の討伐に向かって―」
 「そういうことなら、俺が行こう。案内できるか?」
 「八俣...よし、任せる。俺の分裂体に案内させる」

 俺の頼みに八俣が即立候補してくれた。俺の言葉に八俣はフッと笑い、
 「倭でいい。お前の仲間たちは任せろ。死なせない。そうだなぁ...お前には言っておこうか。信頼できる部下一人には全て話したが、お前になら話しておいていいかもしれない。いいか――」

 倭の続く言葉に、俺は何とも言えない気持ちになった。
 
 「......もう、覚悟は決めてたんだな?」
 「ああ。俺はこの時の為に今日まで生きてきたんだって、何となく思ってる。とは言っても、死ぬつもりはない。あいつらはきっちり斬るさ」
 「分かった。みんなを頼んだ...先輩」
 「ああ、お前も成し遂げろよ...後輩」

 最後に短く笑い合ってから、分裂体とともに倭は行った...彼の行くべき戦場へ。
 そして入れ替わるように、今から俺と共に戦う戦士が二人到着した。



 「じゃあ行くか、クィン......《《縁佳》》。それと......《《ミーシャ》》、カミラ」
 
 「はい、コウガさん!」
 「うん、皇雅君!」
 『精一杯サポートします!』
 『今度こそあなたを勝利へ導いてみせます!』

 心強い味方4人が加わり、盤石の布陣が完成した。もう勝てる気しかしない!!





 「ハーベスタン王国...ここが今の鬼族の住処となっている地...ねぇ?随分土地が広くなってるじゃない?何よぉ、割と良い暮らししてるじゃなぁい。嫉妬しちゃうわ。よし、滅ぼそう☆」
 「ふうん、よく見れば人族も暮らしているようね?この国で元々暮らしている人族かしら。まぁどっちでもいいわ」

 故ハーベスタン王国および鬼族の生き残りが集う住処に、ネルギガルドとベロニカが襲撃した。後ろにはランクがバラバラで大中小様々なモンストール・魔物の軍勢もいる。彼らの姿を見た住民たちは大騒ぎしながら逃げていった。が、大半は二人が連れてきた化け物たちに襲われ殺されていった。

 「あいつは...私たちの里を滅ぼした...!!」
 
 センやスーロンたちがネルギガルドの姿を視認するなり険しい顔をする。ギルスやキシリトなど戦える鬼族たちがモンストールと魔物の軍勢と戦い始めている。だが数が多過ぎるため取りこぼしてしまい、人族や戦えない鬼族たちに被害が及んでしまっていた。

 「くそ!またこいつらに俺たちの家が...里が...!!」
 「いや、もう滅ぼさせはしない、絶対に!!」

 威勢は衰えずという状態だが、敵の数の多さに苦戦している。その様子を見ていたネルギガルドが、飽き飽きした様子で彼らのもとへ立った。
 
 「お、まえ...!!」
 「ふぅ...見てるだけじゃ退屈だから、もうあたしが相手してあげる。今度は、完全に滅ぼしてあげるわよ、鬼ども...!」
 「滅ぶのは、お前らだあああああ!!」

 いきり立って殴りかかるキシリトに対して不敵な笑みを浮かべたままのネルギガルドがゆっくり拳を構える。
 互いがぶつかる直前、ネルギガルドの頭上から誰かが急降下してきた。


 「 “雷剛閃《らいごうせん》” 」
 「ぬうぅ!?」

 咄嗟に腕を交差したせいでネルギガルドにダメージは特に与えられなかったが、両腕にかなりのダメージを与えることに成功した。

 「あらぁん、またあなた...?わざわざ死にに追って来たわけぇ?」
 「違う。今度こそお前を完全に殺して消しに来た」
 「...ふう~~~ん?言うわねぇ、殺したくなってきちゃった...」

 奇襲攻撃をして威嚇するアレンに不愉快そうに睨むネルギガルド。両者がついに対峙しようとしていた。
 
 「アレン...!来てくれたのか」
 「ううん、私だけじゃないよ。他にも来てくれてる」

 
 「ここで良いか?」
 「うん。ありがとう運んでくれて」
 「ああ、じゃあ後は頼む。この里を守ってくれ」
 「うん、必ず魔人族たちを倒してみせるから...!」

 「この先か...」
 「ああ。じゃあ俺は消える...勝てよ」
 「もちろんだ」

 「!!まだいたのね...それにあの男は!?」

 「アレンだったな?ここからは俺も参戦する!共に魔人族を討伐するぞ!」
 「私も精一杯戦うから!か、勝とうね...!!」
 「うん、二人ともよろしく!!」
 「アレン...!よし、みんなであの憎い憎い魔人をぶっ殺すわよ!!」
 「「「「「おうっ!!」」」」」



 アレンたち鬼族と異世界最強の戦士……八俣倭と米田小夜が、共に魔人族二人を迎え撃ちに出た――